表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/199

45 服を買いに

-襲撃作戦より翌朝(街に来て4日目)

@レンジャーズギルド前


「ふわぁ~、ねむ…」


 大きな欠伸(あくび)をして、ギルドへと歩みを進める。そしてギルドの前にたどり着くと、いつもの2人が目に入った。


「ん、クエントとミシェルか?」

「あ、ヴィクター!!」

「ヴィクターさん!」

「よっ、二人共おはよう!」

「おはよう…じゃねぇよ!昨日は大変だったんだぞ!!」

「昨日ギルドに帰ったら、フェイさんにヴィクターさんのこと色々聞かれて…僕たち、中々帰してもらえなくて…。」

「あら、そいつはご愁傷様で…。」

「ったく、人事(ひとごと)じゃないだろうが…。で、昨日は突然任務を受ける事になっちまったが、今日はどうする?」

「ああ、その事なんだが…悪いけど、今日はパスで頼む。ほら、新しい服が欲しくてな。」

「げ…ヴィクター、お前昨日の服のままじゃねぇか!?」

「そ、その格好でここまで来たんですか!?」

「ああ。お陰で、道中変な目で見られてさ…何とかしないとなんだよ。」


 俺が二人に背中を向けて、昨日撃たれた箇所を指差す。穴が空き、その周囲は焦げているので、見る人が見れば弾痕だと分かってしまうのだろう。実際、宿の従業員や通行人に変な目で見られてしまった。

 そう、何を隠そう俺が持っている服は、下着を除いて、ノア6から着てきた服以外持っていなかったのだ。あまり服に頓着しない性格が、ここに来て災いしてしまった。……ロゼッタの服には(うるさ)いのに。


「って事で、今日は仕事休ませて貰うわ!じゃあな!」

「あっ、ちょっと!……行っちゃいましたね。」

「…そうだな。」

「…フェイさんから、ヴィクターさんを連れて来るように言われてましたよね?」

「…そうだな。」

「ど、どうしましょう!?」

「…俺達も休むか?昨日の報酬で、たんまり稼げたしな…。」

「えっ!?だ、大丈夫なんですか?」

「別に今日連れて来いって言われてない…明日連れてこうが、来週連れてこうが構わない筈だ。いや、構わない!!」

「そ、そんな屁理屈な…。」


 後ろで何やら揉めているが、俺には関係ない。それに、今ギルドに顔を出すと面倒な事になりそうだ。とりあえず、今日は2人に仕事を休むことを伝えたかっただけなので、俺はギルドを後にした。

 しかし、まだ早朝である。レンジャーの朝は早い。その為、早すぎて通常の商店はまだ営業していないことが多いのだ。

 時間を潰すために、ギルド前の広場へと向かう。ギルドの前には大きな広場があり、そこにはレンジャー用の出店が出ている。レンジャーによっては、素泊まりの宿もあるのだろう。何人か、広場で出店で買った物を食べている。俺の宿は朝食は出るのだが、あまり美味しくない。…というよりマズい。大抵はお湯をかけただけのオートミールなので、食べた気がしない。

 俺は、出店で売っていたホットドッグやパンを頬張り、時間を潰した。



 * * *



-2時間後

@街中央地区 ローザ服飾店


 俺は、ウサギの件で来たことのあった、ローザ服飾店へと足を運んでいた。…というより、ここ以外の服屋を知らなかったのだ。


-カララン♪

 店のドアを開けると、ドアに付いているベルが鳴り響き、店の奥から、この間ミシン台で作業していた女の子が出てくる。


「あ、いらっしゃいませ。あれ、貴方は確かこの間ウサギを持ってきてくれた…。」

「ああ、そうだ。今日は、俺の服が欲しくてな。」

「あ、そうなんですね! 良かったらオーダーメイドもやっていますよ!」

「オーダーメイド…そういえば、バニースーツは完成したのか?」

「バニースーツ?…ああ!ローザさんが作ってた衣装ですね。はい、昨日には完成したんですけど……新聞を見た奥様(マダム)達が押し寄せてしまって…。」

「ああ、確かにそんな記事があったな。で、そのローザはどうしたんだ?」

「早朝にローザさんが衣装を持って、コッソリと依頼主に届けに行ってしまったので、今は留守にしています。」

「ああ、そうなのか。大変だったな。」


 意外と、新聞にも影響力があったんだな。……いや、崩壊前はテレビやら電脳、ネットなどがあった。思えばこれらのニュースという物は、社会の情報という物に留まらず、一種の娯楽として機能していたのではないだろうか?

 現に、崩壊後のこの世界では、そういった類の娯楽は少ない。崩壊後も、映画館があるにはあるらしいが、ニュースを見るならやはり新聞なのだろう。……情報の正確さを問わなければの話だが。


「あの…それで服ですが、どうしましょうか?」

「ああ、悪いな。とりあえず、店の商品を見せてもらってもいいか?」

「はい!」


 ローザ服飾店は、女性物の商品が多いのだが、男性物が無いわけではない。ちゃんと男性物のコーナーもあった。あったのだが…。


「こ、これは…。」

「ええと…ごめんなさい。今は商品が少なくて…。」


 革鎧(レザーアーマー)やら、金属製のプロテクター、鎖帷子(くさりかたびら)などが陳列されていたが、目的の服…俺が崩壊後の日常生活で目立たないような、普通の服は少なかった。

 見本に至っては、上裸にトゲトゲしい肩パッドと、X字にクロスした革製の極太ベルトを体に巻きつけ、下は革製の真っ黒いズボンを履いて、右手には斧を持ち、左手は中指を立てている、なんともパンク?世紀末?な雰囲気のマネキンがそこにはあった。


「……なにこれ。」

「えっと、そのマネキンはローザさんの趣味で…。ローザさんの理想のレンジャー像をイメージしたらしいです…。」


(…どちらかといえば、野盗に見えるんですけどッ!?)


「えっと…ここ、服屋なんだよね?」

「ええ。でも、それ以外にも靴とか鞄も作ってますし、レンジャー用の防具なんかも作ってますよ。」

「そうなのか。でも俺が着れそうな服、なさそうだな…。」


 服も売っているには売っていたが、俺に合ったサイズが無かった。


「今、こんな状態でさ。どうしても服が欲しいんだよね…。」

「えっ、ええ! こ…これ、弾痕!? 

 う、撃たれたんですか!?」


 俺は背中を見せて、服を切望していることを説明する。


「た、確かに…それだと周囲の目が…。」

「そうなんだよ…何とかならない?」

「えっと…でしたら、これならどうでしょうか!?」


 店員の女の子が、薄手のジャケットを持ってきてくれた。……この娘、結構可愛いな。名前なんて言ったっけ?


「おっ、サイズぴったりだ!」

「ええ、それなら弾痕を隠せますし、ひとまず春の間なら違和感ないでしょう。」


 そういえば、クエントにも「シャツ一枚で寒くないのか?」と言われていた。強化服のお陰で、そんなに寒くは感じないのだが、この際ちょうどいいかもしれない。


「ありがとう、これ買うわ。えっと…。」

「モニカです! それで、服はどうしましょう?

 レンジャーの方ですと、オーダーメイドの服の方が動きやすくなりますが…。」

「俺はヴィクターだ。じゃあオーダーしようかな。何着か頼みたいんだけど、大丈夫?」

「はい、お任せを! それでは採寸しますので、こちらにどうぞ。」


 モニカに連れられて、店の試着室に入る。


「それでは、服を脱いで下さい。」

「えっ、脱がなきゃダメ!?」

「ダメです! 1mmのズレが、動きに影響を及ぼすこともあるんですから。」

「わ、わかった。」


 俺は弾痕が付いたTシャツを脱ぐ。すると、モニカが俺の身体をジッと見つめて黙ってしまった。まさか、俺の肉体に惚れたか?…という冗談はさて置き、俺は気づいた。


(あ、下…強化服だったわ…。)


 Tシャツの下には、崩壊前の技術の粋を集めて作られた、強化服がコンニチワしていた。…崩壊前の人間でも馴染みが無いというのに、崩壊後の人間にとってこれはさぞ異質に見えただろう。


「あ、これは…その…。」

「凄い!これ、遺物ですか!? 私、崩壊前の服とかファッションに興味があるんですよ!!」

「え? あ…ああ、そうなんだよ。たまたま手に入ってさ。」

「あ…ごめんなさい、私ったらつい…。あの、採寸するので脱いで貰えますか?」

(ええっ!まさかの上裸ですかぁ!?)


 強化服に抵抗が無い…どころか、興味津々といった感じで助かったが、まさか採寸で上裸になるとわな…。強化服の上を脱いで、モニカに渡す。

 モニカは強化服を広げて、ジッと眺めている。


「あの…採寸は…。」

「あっ、ごめんなさい! つい…。」


 モニカはメジャーを持って、採寸を始める。


「……次は肩周りを測りますね。…えっと、ごめんなさい。その椅子に座ってもらってもいいですか?」

「はいよ。」


 俺が椅子に腰掛けると、目の前にモニカの胸元が来る。


(……女の子の匂いだ。)


 もうノア6を出て3日か…。さすがにロゼッタが恋しくなる。いや、具体的にはロゼッタとの夜の組手が…。

 ヒトの副睾丸(精巣上体)は空の状態から、約3日間で満タンになると言われている。…つまり、俺は今マックス状態にあり、ちょっとムラムラしていた。


「次は反対測りますね。」

(今、胸が当たった!)


 こうして、採寸しているだけなのだが、悶々とした時間は一瞬で過ぎ去り、運命の時を迎えようとしていた!


「じゃあ、次は立って下さい。」

「えっ!何故に!?」

「腰回りを測ります。肩幅に吊られて、お腹がダボっとしてたら見栄えが悪いでしょう?」

「そ、そだね…。でも腰回りはちょっと、待って欲しいかな…。」

「いや、立って下さいよ。困ります。」

(くっ…ダメか。信じてるぞ、強化服!!)


 強化服は、銃弾を防ぐくらい頑丈だ。特に男性用は、局部は耐衝撃用のリキッドアーマーとセラミックが覆っている。そして…立ち上がった俺は、強化服の設計者に敬意を表した。

 外からも中からも守ってくれるなんて、作った奴は分かってる。素晴らしい!

 …そんなことを考えていたが、俺には運が無かったらしい。


「じゃあ、腰回りを…。って、コレ!崩壊前のズボンですか!?」

「え、ああ…うん。」

「…脱いで貰えますか?」

「…なぜ?」

「ズボンが邪魔です。」

「……。」


 マズい…。このままだと、下の強化服まで脱がされてしまう。そうなると、バレてしまう…。なんとしても阻止せねば…!!



 * * *



 …と思っていた時期が、私にもありました。無理だよ!だってこの娘、目がガチなんだもん!! 俺には断り切れなかったよ…。

 幸いなことに、ズボンと強化服(下半身)に目が行ってて気付かれずに済んだ…。現在、パンツ一丁で前屈みになっているのだが、いつまで持つか…。と思っていると、突然店の入り口から悲鳴が聞こえてきた。


「モ、モニカちゃん!? 何やってるのぉ!?」


 声がした方を見ると、長髪の線の細い男が立っていた。側から見れば、ほぼ裸の男と年頃の娘が試着室にいるのだ…凄く誤解を招きそうな状況だ。


「あ、ローザさん…こ、これはその…。」

「ん? ローザ?」

「はっ…そこにいるのはヴィクターさん!? いやぁん、ちょっと待ってぇ〜!!」


 その男…ローザは、凄まじい速さで店の奥へと消えると、すぐに()()してきた。

 クエントに、ローザは男だと聞いていたが本当だったんだな…。しかし、言われなければ気付かないレベルで変身出来てる。……化粧ってすごいんだな。


「はぁ…はぁ…お任せ。あら、ヴィクターさん。今日は何のご用?」

「いや、服が欲しくてな…。それより、何でさっきはいつもの格好じゃなかったんだ?」

「え、何のことかしら?」

「いや、さっきの…。」

「や〜ねぇ、ヴィクターさんったら。こんな真昼間から夢でも見てたんじゃない? きっと幻よ、マ・ボ・ロ・シ!」

「…そ、そうか。」


 …多分、これ以上追及しない方がいいな。だが予想はつく。恐らくだが、例のバニースーツを届ける為の変装?(この場合は真の姿だが)だったのだろう。

 だがローザの登場のお陰で、俺の下半身も落ち着いてきた。これは助かった。


「…採寸終わりました。お疲れ様です。」

「ふう。緊張した〜。」

「?…何かありましたか?」

「いえ、何も。」

「服は、何か希望ありますか?」

「ん〜、お任せするわ。俺に似合うのを見繕ってよ。」

「え、任せて貰えるんですか!? じゃあ、張り切って作りますね! 他の予約がないので、2日後位には出来ると思います!!」

「早いなッ!?」

「モニカちゃん、頑張り屋さんだからねぇ…ちゃんと寝るのよ!不眠はお肌の天敵よぉ!!」


 モニカは、店の奥の工房へと消えていく。俺も、服を着ようと、服の入った籠に手を伸ばす。…が、俺の肩と腕を、ローザが掴んだ。


ーガシィ…。


「…おい、何のつもりだ?」

「いやぁん♡ヴィクターさん、いい身体してるわぁ…。」

「ッ! おい、やめろ!触るな!!」

「でね…そんな貴方に似合う、素敵な防具があるの…。」

「おい、話を聞けぇ!! …な!おい、それは!?」

「どう?私の考えた、理想のレンジャーの防具よ!!」

「どこが防具だよ!ほぼ上裸だろぉ!!」

「分かってないわねぇ…。これこそ、男性の肉体美を損なわず、かつ動きやすさを重視した理想的な格好なのに…。」

「……聞こえだけはいいんだな。」

「で、これちょっと着てほしんだけど…。」

「い、いやだ!やめろぉ!! モニカちゃん、助けてくれ〜!!」

「無駄よ! 彼女は一旦作業を始めると、凄い集中するから。さ、諦めてコレ着てちょうだい♡」

「う、うわぁ〜!!」



 こうして、俺はパンクで世紀末な格好をさせられてしまうのだった…。

ヴィ《…ロゼッタ、ごめんな。》

ロゼ《突然どうされたのですかっ!?》

ヴィ《いや、ロゼッタに色々な服を着せたろ?あれ、嫌だったんじゃないかと思って…。》

ロゼ《そんなことありません!!》

ヴィ《…ロゼッタ?》

ロゼ《施設の管理AIに過ぎない私に、このような身体を下さって…私、とても感謝しております。》

ヴィ《…いや、お前はもう俺の家族だ。》

ロゼ《ありがとうございます。…でも、この身体はヴィクター様の物です。全てはヴィクター様の御心のままに…。》

ヴィ(ああ、今すぐ帰りてぇなもう!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ