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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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43 第3作戦

 実際に、海外にはカーボンナノチューブやケブラーを利用した、薄手の防弾ビジネススーツがあったりします。将来は、薄くてもNIJ-0101.06-レベルⅣ(ライフルの徹甲弾を防護できる)クラスの防弾繊維が誕生するかもしれないですね。

-数分後

@狼旅団の拠点 B1F


「こ、降参だ!」

「撃たないでくれ!!」


 地下に降り、牢屋に突入していくと、奥の部屋の門番が武器を捨て、両手を挙げていた。


「どうする、ヴィクター?」

「無抵抗の人間を撃つ訳にはいかんだろ、クエント……。」

「だな…。」

「じゃあ、弟子。俺達に任せてもらっていいな?」

「ああ、頼む。」


 警備隊が二人を縛り、床に寝かせていく。……今、思いっきり銃床で頭殴ってたけど、大丈夫か!?

 そのまま、奥の部屋に突入するが、中はもぬけの殻だった。


「くそ、逃げられたか…。」

「明らかに偉そうな奴の部屋だろうな、ここ。」

「おっさん、奥に抜け穴があるぞ。」

「何!? ほ、本当だ! 今すぐ追いかけ……!」

「いや、とりあえず今は囚われた人達を助けた方がいいんじゃないか?」

「……クソッ! それもそうだな。よし、今すぐに囚われた人を開放するぞ!!」


 クエントが牢屋のカギをピッキングして開けていく。ちなみに、ミシェルも同じことができるらしい。こんなことならミシェルも連れて来て良かったかもしれない。

 ちなみにミシェルには警備隊と共に、あの裏口……抜け穴の先の小屋の前を見張らせている。

 

 だがしかし、降伏した男達の懐をまさぐると、牢屋のものと思われる鍵が出てきた。


「おっさん!これ、牢屋の鍵じゃないか?」

「何!? よし、これで救出が(はかど)るな!! それから俺はおっさんじゃねぇ!!」

「ええッ! ここまでやらせといて、俺は用済みかよ!?」

「はっはっは、お前が全部の牢屋の開錠やってたら日が暮れちまうよ!」

「まあまあ。クエントの仕込んでくれた手榴弾のお陰で、作戦は上手くいったんだ。そう(ひが)むなよ。」


 手に入れた鍵を使い、俺とクエントで鍵を開けていく。警備隊の連中は、囚われていた人達を誘導していく。このまま解放……という訳にはいかない。事情聴取や、身元確認などをしなくてはならないらしい。

 捕まっていたのは、子供から大人まで実に様々だった……。特に若い人間が多いように感じる。


「……しっかし、女子供が多いな。」

「そりゃそうだろヴィクター。闇奴隷にするなら、女子供がいいに決まってるだろ?」


 奴隷と一言で言っても、その内情は異なる。奴隷は犯罪奴隷、借金奴隷、そして闇奴隷の3つがある。

 犯罪奴隷は、捕まった犯罪者がなる奴隷で人権は無く、基本的に死ぬまで強制労働に従事させられる。借金奴隷は、借金を返せなくなった人間が強制的にタダ働きするような物だ。といっても、ちゃんと借金分働けば解放されるし、最低限の人権は保障される。

 闇奴隷は、野盗などに誘拐された人間が表向き犯罪奴隷として扱われて、男は鉱山や危険な現場へ、女は金持ちのベッドや娼館へと……その運命は真っ暗らしい。女子供が多いのは、抵抗されても大したことがないのと、高く売れるからだそうだ。


「よし、次開けるぞ。……ん?」

「どうした、ヴィクター?」

「いや、女子供だけかと思ったら、ちゃんと男もいるんだなって。」

「そりゃ、いない事はないだろうよ。」


 俺が牢屋の鍵を開けて、中を(うかが)うと一人の男が立っていた。


「…ありがとう! 妻が待ってるんだ!!」

「そりゃ良かったな。さあ、外に出てこいよ。」

「…ヴィクター、なんか妙だ。嫌な予感がする。」


 クエントがそういうや否や、牢屋の中の男がリボルバーを取り出した。俺はその光景に既視感(デジャブ)を覚える。……そう、ガラルドが俺を野盗から助けてくれた時……あの瞬間だ!


「なにッ!」

「クエント! …クソッ!」

「うおっ!」


 俺は、加速装置を発動してクエントを突き飛ばす。その瞬間、男が発砲する。俺はその瞬間を目にして、銃弾が迫るのが見えるのだが、どうすることもできない。すでに加速装置の限界で身体を動かしているが、避けることは出来なさそうだ……。


-ズダァン!ズダァン!ズダァン!ズダァン!

 銃声が屋内で反響し、俺は銃弾を回避しようとした勢いで倒れる。


「ヴィクタァァアッ! くっそぉ!!」


-ダダダダダ!


「ぐえ…。」


 クエントが、倒れたまま銃を男に発砲する。銃弾を上半身に受けた男は、膝から崩れ落ちた。その様子を確認したクエントと、銃声を聞いた警備隊長のおっさんが俺の元に駆け寄ってくる。


「どうした!? …おい弟子ッ! 大丈夫かっ!?」

「おい、ヴィクター! しっかりしろ!!」

「……ってぇな、クソッ!! まったく、撃たれるもんじゃないな!」

「お、おい……無事…なのか!?」

「ヴィクター!! ケガは!?」

「…いや、大丈夫だ。(かす)っただけだ。」

「いや、思いっきり服に穴開いてるだろ……。」

「俺、お前が撃たれたところ直視してるんだが……。」

「……(かす)っただけだ。」


 確かに、3発ほど被弾はしている。実際、下に強化服を着こんでなかったら危なかった。強化服なら、拳銃弾程度なら簡単に防ぐことができる。しかし俺の着ている強化服Ⅱ型は、四肢は薄手になっている為に、弾は貫通しなくても、その衝撃は着用者に伝わってしまう。

 俺も、腕に被弾したのだが、その衝撃がクソ痛くて、少し悶絶してしまった。……今後はなるべく撃たれないようにしよう。


 しかし、油断した。まさか救助する対象の中に、敵が紛れていたとはな……。

 いや、当然予想はできたはずだ。油断は禁物……ガラルドに教えてもらっていた筈なのに、この(ざま)とは……。最悪、俺は無事でもクエントが死んでいたかもしれない。


(次からは、もっと慎重にならないとな……。)



 * * *



-第2作戦開始直後

@狼旅団の拠点裏口 抜け穴の先の小屋の前


(…ヴィクターさんの馬鹿ぁ!!)


 ミシェルは(いきどお)っていた。ミシェルはこの街の英雄ガラルドのように、人々を守る活躍がしたいと思い、レンジャーになった。

 そして、その若さゆえの、直接自分も現場で動いて、活躍したいという事しか頭になかったのだ。


 先程まで一緒にいたのに、ヴィクターに突入班から外され、しかも拠点建物の見張りではなく、こんな何の変哲もない小屋を見張れなどという訳の分からない事を言われたミシェルは、せっかくの活躍の機会を奪われたと感じていたのだ。


(そりゃ、僕だってまだEランクの駆け出しだけど……こんなのってないよ!!)

「なんだよ、随分怖い顔してるな?」

「えっ…。ああ、ゴメンなさい。」


 一緒に小屋の見張りに着いた隊員に突然声をかけられて、ミシェルは自分の顔の力を抜く。


「あれだろ? 自分も突入班に入りたかったって、思ってただろ?」

「……はい。」

「やっぱりな。分かるぜ…俺も警備隊に入りたての、まだ若造だった頃はそう思っただろうな。」

「は、はあ…。」

「俺もその時はな……街の為に活動して、野盗やミュータント相手に大活躍するって思ってたんだ。

 だが、警備隊に入隊した俺を待ってたのは、厳しい訓練だった……。」


 一緒にいる、警備隊員が自分の昔話を始める。「人の昔話なんて、どうでもいいわ!」とヴィクターなら嫌がる所だったが、ミシェルは良い子ちゃんだったので、その話を真剣に聞く。……二人とも暇だったのだ。




-数十分後-


「それで…どうなったんですか!?」

「結局、そいつの頭を教官…あの警備隊長な? あの人が敵の頭を見事にぶち抜いて、俺は助かったって訳さ。」

「あの隊長さん、昔そんな事してたんですか!?」

「ああ、意外だろ? それでだ、一見何の意味も無いように見える事でも、ちゃんと意味はあったんだって事に気が付いたんだ。

 お前も、あのヴィクターって奴を信じてるんだろ? だったら、奴もお前の事を信じてるはずだ。そんなお前に、ここの見張りを頼んだんだ……きっと何か意味があるはずだ。」

「そ、そうですか? …そうですかね?」

「ああ、きっとそうさ!」

「…はい!」


 隊員の長い昔話を聞いて、ミシェルは機嫌を直した。その時、見張っていた小屋のドアが勢いよく開かれる。小屋の中から、パンパンになったカバンを持ったデブが出てくる。


「クソッ! なんでこの僕が、こんな汚い所を通らないといけないんだ!!」

「おいお前、止まれ!」

「…ッ! 何で警備隊がここに…!?」


 隊員とミシェルが銃を構えて、ドアから出てきたデブを制止する。


「どけッ! 僕はスカドール家が長子、ピート・スカドールだ!!」

「スカドールだぁ? 確かにあの家の連中は、お前みたいにデブだが、てめぇみたな手榴弾が顔面で爆発したみたいなブサイクはいなかった気がするが……?」

「……ギ…ギザマァ!!」


 ミシェルは、一昨日の昼食後、目の前の男の顔をヴィクターがボコボコにしていた事を思い出す。


(こ、この人…本当にスカドール家の人ですよ!)

(ん? そうなのか? でも俺の記憶には、こんなブサイクはいなかったような気がするぞ、坊主?)

(それは…えっと……。)


 ヴィクターは、街の西部地区にある警備隊の本部にピートを連行した。今、ミシェルと共にいる隊員は東部地区の隊員で、ピートはその日のうちに、所属する自治防衛隊からの圧力により、即日釈放されていた為、この隊員は事情を知らなかったのだ。


「さっきからブサイク…ブサイク…ってうるさぁい! 誰の事を言ってるんだ!?」

「……いやお前、鏡見ろよ。10人中10人がブサイクって言う顔してるだろ……。だけど、親は恨んでやるなよ?」

「ギザマァ! ゆるさない!!」


 ピートは拳銃を取り出し、警備隊員へと発砲する。


「なッ!…坊主っ!!」

「うわっ!!」

「死ねぇ!!」


-バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!…カチッカチッ!!


「く…。」

「あ、隊員さんッ!!」

「クソッ、あと少しだったのに!」


 ピートが放った銃弾の1発が隊員の肩を貫き、隊員はその場に膝をつく。その後、ピートは拳銃を投げ捨てて走り出した。

 ミシェルは立ち上がると、持っていた拳銃……先程、ヴィクターから貰ったものを構えると、ピートの腕に向けて発砲した。


(よくも隊員さんをッ!……でも、殺したらマズいよね。スカドール家だし……。むぅ……腕ならいいかな? 当たるか分からないけどッ!)


-バンッ!


「イダぁ! ぼ、僕の腕がぁ!!」

「え、当たった…。」


 ミシェルは牽制目的で発砲したつもりだったが、見事にピートの腕を射抜き、ピートの持っていた鞄を地面に落とした。ピートは鞄を拾う余裕すらないのか、撃たれた腕を抑えながら逃げていく。


「ヒィ…ヒィ…なんで僕がこんな目にぃ…!!」

「ど、どうしよ…。」

「おい坊主……大丈夫か?」

「ああッ! だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫、肩をやられただけだ……。弾も貫通してる、気にするな。

 それより、奴の鞄を回収して、応援を呼んできてくれ……。頼むぞ!」

「は…はい!」


 ミシェルは、言われた通り鞄を回収すると、助けを呼びに狼旅団の拠点へと向かっていった。

【犯罪奴隷】

 捕まった野盗や、重大な罪を犯した者が陥れられる身分。基本的には人権が無い為、強制労働や戦闘時の捨て駒として酷いを受ける。扱いに耐えられずに、逃亡や自殺を図っても、大抵は阻止されたり射殺される為、死ぬまで酷使される運命にある。

 街の治安組織が捕らえた者がなる場合と、レンジャーズギルドを裏切った者がなる場合がある。後者の場合は、「拘束首輪」と呼ばれる崩壊前の拘束具を付けられるので、「首輪付き」と呼ばれる。ギルドは、定期的に首輪付きのオークションを行っている。



【借金奴隷】

 債務不履行に陥った債務者が陥れられる身分。債務者の借金額に応じた労働報酬を先払いで支払われて、それを返済に充てる契約を結び、定められた期間、定められた労働に従事する。一応、人材派遣業としての体裁をとっているので、人権はある程度保証されるが、債務者の借金額と能力により、労働内容と期間は異なる。



【闇奴隷】

 野盗などに誘拐された人間が、人身売買の為に犯罪奴隷として陥れられた姿。若い人間が多く、特に若い女性は性奴隷や、いざとなれば娼館に売り飛ばせるので需要があり、高く売れる。

 売られる際に、身の潔白を訴えても、取り締まる法も人間もいないことがほとんどなので、救いはない。基本的に闇取引されており、ならず者達の収入源となっている。

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