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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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45/199

40 任務は突然に…

-翌朝(街に来て3日目)

@レンジャーズギルド ロビー


「おはよう。」

「お、ヴィクターおはよう。」

「ヴィクターさん、おはようございます。」

「やっぱり、朝は少し混んでるんだな。少し待つか、クエント?」

「ああ、そうするつもりだ。」


 ロビーのソファに腰かけて、新聞を読む。……崩壊後の世界でも、新聞はあるのだ。崩壊前も、電子書籍ではなく、紙媒体の新聞には一定のニーズがあったが、紙をめくり文字を読むことで、情報を記憶に定着させることができるような感覚がある。紙の新聞というのも良い物だな。

 ところで、この新聞…ギルドが発行している世界規模の世界版という物と、街の記者が書いている街ごとのニュースを集めた地域版という物があるようだ。……ちなみに、それぞれ50Ⓜ︎だ。

 今、俺が読んでいるのは地域版……カナルティアの街を中心とした記事が書かれている。


「……スラムで消える孤児たち…スカドール家お家騒動…狼旅団の大規模襲撃の予感ねえ…。どれも物騒な内容ばっかりだな。」

「なんだヴィクター、新聞なんて読んでるのか? しかも地域版かよ……あまりあてにしない方がいいぞ? 殆どが噂とか根拠のない情報が多いからな。」

「新聞なんて、そんな物だろ? そこからどう解釈するか、何を信じるかは本人次第さ。」

「ほう、例えば?」

「ほれ、この記事なんてどうだ?」

「どれどれ…ローザ服飾店の新作疑惑……中央地区のマダムやベテランレンジャー、お金持ちを中心に人気のあるローザ服飾店だが、オーナーのローザ氏が現在新作を作製しているらしい。なんでも、どんな男性をも魅了できると言われている魔法のドレスらしく、どこかの商会が発注したそうだ……って昨日のヤツかよ、どっから聞いたんだかな。」

「ってな具合に案外馬鹿にできないかもしれないだろ?」

「なるほどねぇ…。」


 確かに突拍子もない話だったり、噂のような記事が多かったが、話の種にはなるだろう。また、この街の住人の関心や、街の情報を得る事もできた。例えば、街の北東部にスラムがある事とか、そこに孤児がいるとか……そして失踪しているとかな。


「二人とも、そろそろ空いてきましたよ。」

「お、ミシェルすまんな。そろそろ行くか、ヴィクター。」

「そうだな。」


 持っていた新聞を閉じてソファーから立ち上がると、バンッ!っと勢いよくギルドの入り口が開けられる。入り口に目を向けると、青地のシャツの警備隊の制服を着た男が息を切らして立っていた。

 嫌な予感がする…。


「ハァ…ハァ…け、警備隊…北部地区の者だ!動けるレンジャーはいるか!!」

「あの…どうされましたか?」


 俺のレンジャー登録をしてくれた受付嬢…アレッタが警備隊の男に近寄り、話を聞く。


「奴らの…狼旅団の拠点を特定した! これから襲撃をかける、動ける奴は大至急協力してくれ!!」

「で、ですが今は殆どの方が出払ってしまっておりまして…。」

「クソッ…もう少し早ければッ!」


 気がつくと、ギルドのロビーには俺達しか残っていなかった。皆、今しがた依頼を受けて外に出てしまっていたり、面倒事を察知して逃げたようだ。…あれ、これ俺ら行かなきゃいけない感じになるんじゃ…。クエントも何やらソワソワしている。


「どうしました、アレッタ?」

「あ、フェイさん!それが…。」


 3人で話を始めだす。…今しかないッ!


「なあクエント、俺ちょっと朝飯がマズくてさ。食い直したいな~って思ってたんだよ。」

「奇遇だな、ヴィクターもか…実は俺もなんだ。よし!今スグどっか食いに行こうぜ!」

「な…二人とも何言ってるんですか!? 街の一大事ですよ!?」

「何だミシェル、参加したいなら行ってもいいゾ? 俺達はちょっと急用ができてな?」

「そうそう…そういえば、朝コーヒーをカップに淹れっぱなしだったんだわ。いや~冷える前に戻らなきゃ…クエント様もうっかりだ!」

「いや、クエントさんコーヒーとか飲みませんよね!?」

「だ~、もううるさいな!俺は矢面に立つのは向いてないの!!」

「でも、ここは街の為に一肌脱ぐべきなんじゃないですか!?」


 集団での戦いは、基本的には数の多い方が優勢となる。崩壊前では数的優勢の他にも、兵器・兵士の質、兵站などの様々な要因が戦闘での勝利に寄与していたが、崩壊後のこの世界に於いてこれらは無視できると言っても良い。崩壊後の兵器・兵士の質は、皆同じと見ていい上に、今回は他の要因はないと見ていいからだ。

 だが現在、こちらの戦力は不足しているのだろう。こうしてレンジャーズギルドに応援を要請するくらいだ…相手はこちらと比べて相当大きな規模と考えてよいだろう。俺は、そんな初めから不利な戦闘を行う程馬鹿ではないし、勇気もない。


「あの、よろしいでしょうか?」

「あ…。」

「はい、何ですか?」


 ミシェルとクエントが口論していると、いつの間にかアレッタがこちらに寄って来ていた。クエントが呆然とし、ミシェルが元気よく答える。

 …そういえば本当にこの娘、ビッチなのだろうか? とてもそんな風には見えないが…。

 アレッタの背後から、フェイも近づいてきた。


「ギルドからの任務です。警備隊の応援に行ってください!」

「はい!」

「…に、逃げ遅れたぁ!」


 クエントとミシェルは、任務を受注する為に受付へと歩いて行く。任務は依頼と違い、断れない。いや厳密には、断ることは出来るが経歴に傷がつく。ほぼ強制のようなものだ。

 ……何だよ。こっちは死地に向かうってのに、この女の「行って当然でしょ」とでも言う様な態度は気に食わなかった。


「あなたも…。」

「俺は不参加でもいいか?」

「えッ!? あ、あなた…ガラルドさんの弟子なんでしょ!?」

「……だから何だよ?」

「だったら、この街の為に……。」

「この街の為に、命を捧げろってか? 俺はそんなのゴメンだね。なんで赤の他人にそこまでしなくちゃならないんだ?」

「なッ!?」

「だいたい、こっちは死ぬかもしれないんだぜ? 少しはそういう奴の気持ち……考えたことあるのかよ、アンタ?

 もう少し、頼み方ってのがあるだろうがッ!?」

「ぁ……。」

「…はぁ、何か言えよ。」

(だんまりかよ、このヒス女。)


 だが、クエントとミシェルの二人は参加するみたいだ。二人には色々と世話になった……俺は恩は忘れない男だ!……多分。

 俺の力で、二人を守ることができるなら、役に立てるのなら協力は惜しまないつもりだ。俺は黙ったフェイを置いて、警備隊の男の方へ歩いていく。任務は受けないが、自由参加させてもらうならいいだろう。


「で、どんな状況なんだ?」

「はい…我々警備隊は、先週から狼旅団の構成員を特定し、マークしていたのですが……どうやらスラムの建物を拠点にしていると分かり、これからそこに襲撃を行うことになりまして……。」

「敵の規模は?」

「申し訳ありません。不明です。」

「じゃあ、襲撃する側(こちら)の人数は?」

「警備隊の4管区から、それぞれ5名が参加します。申し訳ありません、全員投入したいのですが、そうするわけにもいきませんので……。」

「別の日ではダメなのか?」

「それが…今日、奴らの主要メンバーが会合を開くそうでして……。」

「…絶好のチャンス、という訳か。」


 警備隊の男と話していると、任務の受注登録を済ませたクエントとミシェルがやって来た。任務は、依頼と違って団体での受注登録はできないそうで、個人毎に受注登録しなくてはならないらしい。


「ヴィクターも来てくれるのか!?」

「まあ、お前らには世話になったしな…。俺だけ不参加って訳にもいかないだろ?」

「泣かせるねぇ…この色男!」

「ヴィクターさんがいれば心強いです!」

「ではご案内します、こちらにどうぞ。」


 俺達は、警備隊の男に案内されて、外に停めてあった警備隊のトラックの荷台に乗り込んで、ギルドを後にする。



「……。」

「あ、あのフェイさん…。」

「アレッタ、大丈夫だから仕事に戻って。」

「は、はいぃ…。」

(……何でこんな事にッ! 私だって…私だって……!)


 ギリリ…と歯を食いしばるフェイだったが、すぐに気持ちを切り替えて持ち場へと戻った。



 * * *



-数十分後

@カナルティアの街西部地区 警備隊本部会議室


「また、アンタかよ…おっさん。」

「おっさんじゃねぇっての! まあいい、お前さんが来てくれるならこっちも心強い。

 じゃあ、状況を説明するぞ!」


 あの警備隊長が、作戦の指揮を執るらしい。ブリーフィングが始められる。襲撃するのは街の北東部にあるとされる、スラムの建物だ。

 これからこの建物を強襲し、内部を掃討・制圧する作戦らしいのだが、冗談じゃない。建物にはトラックで乗り込むらしいが、そんなことすればすぐに襲撃がバレて、敵に迎撃されてしまうだろう。俺を除いた連中の戦闘力が同じと考えるなら、攻撃側の俺達が圧倒的に不利になる。


 大昔、攻撃側が戦闘に勝利するには、防御側の3倍以上の兵力が必要だと言われていた。崩壊前は、必ずしもそうでは無いと一部否定されたが、今回はこの法則が成り立つと考えよう……。

 つまり、俺達が勝つにはもっと多くの人員を投入するか、戦闘を避ける、もしくは作戦を修正する必要があるのだ。また、かつ以外にも、こちらの被害を抑える手立てを考える必要はある。


「……作戦は以上だ。何か質問はあるか? ん、何だ弟子?」

「ヴィクターだ…質問良いか? その建物ごと爆破とかできないのか? 相手の戦力が分からない以上、その方が安全じゃないか?」


 俺の質問に、会議室がざわつく。


「おいヴィクター、お前えげつない事考えるんだな…。」

「何だよクエント、敵の中に突入したいなら止めないぞ?」

「ゴホン、静かに!! 確かにその方が安全だが、それはできない。周辺の建物にも被害が出る上に、囚われた人はどうなるんだ?」

「囚われた人? なんだそりゃ?」

「狼旅団はこの街の住人を誘拐して、他の街に違法奴隷として売り払っているそうだ。もしかしたら、その拠点にも囚われている人がいるかもしれない。」


 今朝の新聞にもあったな。スラムで消える孤児たち…だったか? 何か関係あるかもしれないな。だが、これ以上の増援が望めず、戦闘を避ける事ができない以上、やはり作戦を修正するしかないだろう。そして、俺には考えがあった。


「なあおっさん、俺に考えがあるんだが…。」

「だ・か・ら! おっちゃんじゃねぇって!! ……で何だ、考えってのは?」

「爆薬…特に手榴弾ってどの位の在庫があるんだ?」

「…お前、爆破はダメって言っただろ?」

「違う、そうじゃない。俺の作戦はだな……。」


 隊長のおっさんに、俺が考えた作戦を説明する。


「よぉし!それでいくぞ!!」

「「「「おうッ!!」」」」

「…まじかよ、まさか満場一致で採用されるとは思わなかったわ。」

「いや、でも理にかなってるとは思うぞ。」

「凄いです、ヴィクターさん!」

(ゲリラ掃討用としては、結構原始的な作戦なんだがな……。)

「おまえらぁ、ありったけの手榴弾を持ってくぞぉ!」

「いや、そんなに要らねえよ!! じゃあ、準備が整い次第、そちらに合流って事で…。行こうか、ミシェル?」

「はい!」


 俺とミシェルは、俺の車に乗り込むと、警備隊本部を皆より先に出発した……。

【パイプグレネード】

 いわゆるパイプ爆弾。両端にネジを切った金属パイプ内に火薬を詰めた後、両端を固く密封して作られる手製の手榴弾。崩壊後の世界で手榴弾と言えば、コレを指す。導火線に火をつけて爆発させるものが多い。

 中に釘や鉄屑を詰めたり、外周にワイヤーを巻き付けることで、破片効果を高めている物もある。



ロゼ《セラフィムで、軌道上から戦術攻撃もできますが…。》

ヴィ《…例えば?》

ロゼ《戦術レーザーとか?》

ヴィ《建物が熱で溶けて倒壊しそうだな。》

ロゼ《レールガンとか?》

ヴィ《小さなクレーターができるな。》

ロゼ《大気圏突入ミサイルは?》

ヴィ《周辺が更地になるな。》

ロゼ《……。》

ヴィ《心配してくれるのは分かるが、大丈夫だ。その為にお前と訓練してきたんだからな。》

ロゼ《…はい。ご武運を!》

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