32 レンジャー登録
令和って、予想外でしたね…。
「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「やあ、レンジャー登録をしに来たんだが、こちらで大丈夫かい?」
「え、ええ。まぁ…。」
ちょっと、気取ってみたが、ミシェルがジト目でこちらを見つめている。……なんだろう。やる前はノリノリでやる気に満ち溢れてたのに、やった後に凄く後悔した。受付の娘もなんか引いてるし、やらなきゃよかった…。
「えっと、登録ですね。それでは、あちらの台でこちらの書類を書いてきて下さい。」
「はい。」
書類を受け取り、記入台へ行く。名前、性別、年齢などを記入する。そして、『使用武器』『免除申請』『戦闘経歴』『ポジション』なる自己申告欄を見て、ペンを止める。
「……なんだこれ?使用武器はわかるが、免除申請?戦闘経歴?ポジション?なんだこれ?」
「ええと、戦闘経歴は今まで倒したミュータントだったり、野盗の人数なんかを書いたりする欄です。レンジャーは登録時、Fランクからスタートするんですが、その免除申請にチェックを入れると、戦闘経歴を参考に面接やテストをして、その人に合ったランクからスタートになります。」
「なるほどね。このポジションってのは?」
「戦闘時のポジションですね。ポイントマンとか、マークスマンって言えばわかりますか?」
「ああ、大体分かった。ちなみに、ミシェルのポジションは?」
「僕は、スカウトで申告してます。罠の設置とか、偵察が役割のポジションです。ちなみにクエントさんも同じですよ。」
「それで、申告すると何かあるのか?」
「ポジションを申告しておくと、他の人とパーティーを組む時に便利になるんですよ。よく不足したポジションの人を募集してたりしてますよ。」
「ありがとう、ミシェル。助かった。」
「いえいえ、どういたしまして。」
「あ、それから…。」
「はい?」
「これって自己申告なんだよな?」
* * *
「えっと、これは……。」
「何か、問題でも?」
「い、いえ…。ええと、免除申請なしだとFランクからのスタートになりますが…。」
「知ってますよ?」
「そ、そうですか……。では、このまま登録させて頂きますが、本当によろしいですか?」
「よろしく!」
書類を書き上げ、先ほどの受付嬢に提出する。
(ヴィクターさん、ヴィクターさん!)
(どうしたミシェル、ひそひそと…。)
(何でアレで提出しちゃうんですかぁ!?)
ちなみに先ほどの自己申告欄には、『使用武器:なんでも使うよ!』『免除申請:なし』『戦闘経歴:アーマードホーン2頭、キラーエイプ数頭、鹿、野犬etc』『ポジション:何でもやる気アルよ!』と記入した。間違いはないはずだ。
「そ、それでは登録致しましたので、こちらをどうぞ。」
「……これは?」
「それは、ドッグタグです。レンジャーの身分を証明するものなので、必ず身に着けて下さい。」
「うん、そうなんだろうけどさ…。」
「それからEランクにならないと、再発行は出来ませんので注意してください。それでは、頑張ってくださいね…。」
俺が受け取ったドッグタグは、プラスチック製と思われる小さな板が2枚だった。ぱっと見た所、オモチャである。
「なんだこれ?」
「だから言ったのに…。」
「まさか、これをつけろって言うのか!?」
「自業自得ですよ!?僕もはじめは恥ずかしかったんです、我慢してください!」
しぶしぶ、ドッグタグを首から下げる。
ダメだ、恥ずかしすぎる…。真面目に免除申請しとくべきだったか?とりあえず、さっさとランクをあげて、まともなタグを貰わなければ…。
「これ、ランク上げるのってどうやればいいんだ?」
「活動実績を積んでいけばいいんです。依頼を達成したり、死亡したレンジャーのドッグタグを回収したり、色々あります。高ランクになるには、試験があったりしますけど…。」
「あ、そういえば…。」
ガラルドと回収した、ドッグタグの入った小箱を取り出す。
「なんです、ソレ?」
「回収した、ドッグタグが入ってるんだが、どこに出せばいいんだ?」
「それなら、あそこのカウンターですね。要件によって、受付カウンターが異なるので、上の表札を見てください。ちなみに、さっき登録したカウンターは銀行と郵便も受け付けてます。」
「ほーん。じゃ、ちょっくら行ってくるか。」
小箱を、ミシェルに教えられたカウンターに持って行く。
「あれ~、さっき登録した人じゃん?どしたの?」
「……なんか、さっきと対応が違うんだな。」
「ああ、あっちは銀行の受付もやってるしぃ、お偉いさんの相手もしなきゃだしね~。アタシにゃむりだわ~。で、どったの?さっそく依頼?」
「いや、回収したドッグタグを提出したいんだけど。」
「ああ、な~る。じゃ、ここに出して~。」
ギャルギャルしい受付嬢の前に、小箱の中身を出すと、カウンターの上にジャラジャラとドッグタグの小山ができる。
「……まぢ?これ全部、お兄さんが集めた感じ?」
「いや、俺と連れの二人で集めた。」
「にしてもこの量って…。しかも、結構ランク高めのが多いんですケド…。これどこで集めたん?」
「死都だ。」
「え、まぢ?」
「じゃあ、これでいいか?」
「あ、ちょま!お兄さんのドッグタグみせて!」
「……あれか。」
正直、こういうタイプの娘は苦手だ。昔、俺の初めてを捧げてしまった先輩の事を思い出す。一刻も早く、この場を立ち去りたいのだが、なんとあのオモチャを見せろと言ってきた。
「……どうしても?」
「いいから、早く出して。」
「……はい。」
首から下げた後、決して外に出ないように、下に着た強化服の中へと押し込んでいたのに…。
しぶしぶ、ドッグタグを受付嬢に出すと、受付嬢の目が見開かれる。
「えーマジ、Fラン!?」
カウンター内がざわつき、ギルド内の視線が集中する。人が少なかったのが救いではあるが、大声だすなよ…。ちょっと、苛ついてきた。
「で?」
「えっと、ちょい待ち。」
「チッ!」
受付嬢は、俺のドッグタグを持ってカウンターの奥へ引っ込んでいった。
(ちょっと、アレッタなんなのよアイツ!!)
(ブレアさんっ!?そ、それが…。)
(アイツ本当にFランなの!?あのドッグタグの山見てみ?全部、死都で回収したって言ってるんだケドッ!?)
(そんな!?嘘なのでは……。)
(そんなの、持ってきたタグと最後の依頼とか照合すればわかるっしょ!?アタシが聞きたいのは、アイツが何でFランなのかって事なんですケドッ!?死都から帰ってきたとして、Fランなわけね―じゃん!)
(それが…免除申請なしで登録されまして……。)
(ハァ!?何それ、バッカじゃないの?あんた、ちゃんと説明したの!?)
(お連れの方がいましたので…。それに、ちょっと変な方なのかなと…。あまり、関わり合いにならない方が良いかと思って…。)
(な~る…確かに変かもだけど、実は凄腕とかかも?粉かけとかなきゃ!)
(全部聞こえてるんだよなぁ…。)
俺の登録を担当した娘がアレッタで、ギャルがブレアって名前なのは分かった。
しばらく、カウンターの奥で話していたが、話し終えたのかブレアがこちらに向かってくる。
「お待たせしましたぁ~♪」
「は?」
「大変失礼しました、今すぐに清算致しますので、もう少しお時間頂けますか?♡
アレッタさ~ん、清算手伝って下さ~い!!」
「は、はい!ただいまッ!!」
「おい。」
「それでぇ、よろしければお待ちになってる時間、二人でお話ししませんか?♡」
「いや、変な奴とは話したくないんだろ?じゃあ、清算が終わったら教えてくれ。」
「えっ…あ、ちょっと!」
「ミシェル、ちょっと付き合ってくれ。」
「あ、はい。」
ミシェルと共に、受付から離脱する。あのブレアとかいうギャル、やたらとウインクしてきたりと露骨すぎる。こんな所にいたら、疲れちまう……。
(ちょっとアレッタ!!あんたのせいで、会話聞こえてたじゃん!!)
(ええ…私のせいですかぁ!?)
(何?アタシのせいって言いたいの?)
(いや、そんなんじゃ…。うう…。)
(だから、聞こえてるんだよなぁ…。ああ、頭痛い。早く清算終わらせてくれよ…。)
【レンジャーのランク】
レンジャーの登録は14歳から可能だが、この年齢で登録する者は孤児などの経済的に貧しいものが多い。多くは、免除申請でEやDランクから始まる。
F…ドッグタグは樹脂製。主に登録したての孤児が多く、死亡率も高い。主に雑用がなどで生計を立てるが、経済状況はよくない。運がいい者は、ランクの高いレンジャーに師事できるが、師事した者が善良である保証は無い。支部によっては、このランクが存在しない場合もある。
E…Fランクから一定期間の活動実績を積み重ねると、ランクアップできる。このランクから、ドッグタグがスチール製になる。見習い。
D…多くのレンジャーは大抵このランク。依頼だけでは生計を立てられない者も多く、副業している者が多い。中級者。
C…レンジャーの活動だけで、生計を立てられると言われているランク。上級者。
B…Cランクレンジャーの多くが目指すランク。依頼の難易度や、報酬が高くなる。ベテラン。
A…功績が大きいレンジャーがなるランク。ギルドの本部から、認定資格を受けた支部長クラスのギルド幹部の認定が必要な為、Aランク相当の人間でもBランクに留まっている場合が多く、絶対数は少ない。このクラスから、ドッグタグがチタン製になる。
S…もはや生ける伝説。本部のギルドマスターによる承認が必要。
+…依頼達成率の高さ、素行の良さの証。高ランクほど、付きにくくなる。
-…素行不良等で、ギルドからの罰則で付与される。
例)B+…実力と、人格が備わった有能レンジャー。
B-…実力はあるが、素行不良の問題のあり。
といった判断ができる。




