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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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28 入国審査

 負傷したトラックのドライバーの手当てを済ませた俺たちは、これからのことを話し合っていた。


「街まで救助を呼んで来て、後から貨物だけ回収しようと思ってたんだがこれじゃ無理だな…。」

「ええ、ドライバーさんをこのまま置いておく訳にも行きませんからね…。」


 そのドライバーは現在、折れた足を整復して固定する際の痛みで、気を失ってしまっている。

 とりあえずの危機は去ったが、他のミュータントの襲撃が無いとも限らない。ミシェルの言う通り、このまま置いて行くのも気が引ける。


「俺が救助を頼みに行くのはどうなんだ?」

「そういえばヴィクター、お前レンジャーなのか?」

「…いや、今のところ一般人だ。」

「なんだそりゃ?アーマードホーンを倒す一般人がいるかよ…。

 まあ、お前じゃ駄目って事は分かった。」

「ん?駄目なのか?」

「当たり前だろ。顔見知りとかならともかく、レンジャーや商人でもない余所者が言う事なんざ、誰も信じないぞ!」

「…ああ、なるほど。」


 ガラルドも、一番怖いのは人間と言ってたことを思い出す。俺の身分を保証出来るものは、この崩壊後の世界には無い。

 クエント達も、アーマードホーンに襲われていた所を助けたから、俺を信用して接してくれている。もしそうでなかったら、トラックに近づいただけで警戒されただろう。俺でもそうする筈だ。


「そこでだ、アーマードホーンから助けて貰っておいて厚かましいとは思うんだが、このミシェルを連れてってくれないか?」

「えぇ!僕ですか!?」

「コイツは、見ての通りの美形だ。門番の連中にも顔が知られているから、話が通しやすい。」

「び、美形って…。」


 ミシェルを見ると、両手で顔を抑えている。ミシェルは、金髪碧眼の美少年だ。きっと将来は相当なイケメンになるだろう。


「あんたの車にミシェルを乗っけてってくれれば、俺らの救助が早く呼べる。それに、ヴィクターもカナルティアの街に行くんだろ?街に入る時の検問も、コイツがいれば楽になる筈だ。」


 今の俺は、パスポートの無い国籍不明の不審者のようなものだ。確かに、街に入る時に現地の知り合いが居ないより、居た方がいい。その方が、圧倒的に信用度が高くなる。

 俺の知らない事もあるだろうし、街の中を案内してくれる人間が欲しい。俺の答えは決まった。


「ああ、ついでだからな。別に構わないぞ。」

「本当か!?助かる!ミシェルもそれでいいな?」

「え…あ!はい!」

「じゃあ、決まりだな!ヴィクター、何から何までホントに済まねぇな。街に着いたら飲もう。奢らせてくれ!」

「ああ、気にすんなよ。じゃあミシェル君、行こうか。」

「わかりました!……あ、ごめんなさいヴィクターさん、ちょっとだけ待って下さい!」

「ん?大丈夫だぞ。」


 そう言うと、ミシェルはクエントの元へ行き、小声で何か話し出す。


(クエントさん!クエントさん!)

(ミシェル、どうしたんだ?)

(あの、何か拭く物って持ってないですか?)

(拭く物?…ああ。)

(クエントさんッ!どこ見てんですかッ!!)

(おっと、悪い悪い。トラックの荷台に、俺のバッグがある。その中に、ボロ切れがあるから使っていいぞ。あ、返さなくていいからな。)

(ッ…ありがとうございます…。)


 何やら二人で会話した後、ミシェルは横転したトラックの荷台の影へと入って行く。


「どうしたんだ?」

「忘れ物だってさー。」



-数分後



(大丈夫かな?乾いてるよね?臭ったりしないかな?)

「じゃあ、行ってくるな!」

「ああ、ミシェルをよろしくな!」


 ミシェルを車の助手席に座らせると、目的地であるカナルティアの街へ出発する。


 -ヴロロロロロ……。

 目前に見える壁に向かって、車を走らせる。ミシェルを横目に見ると、車の中を不思議な物を見るようにキョロキョロと見ている。あ、目が合ってしまった。


「ミ…ミシェル君?どうかしたのか?」

「…あの、ヴィクターさん。この車、凄いですね!?」

「何が?」

「いや、音も静かですし、乗り心地もいいです!それに、これガラスですよね!?この車、かなり高いんじゃないですか?」

「フロントガラスが珍しいのか?」

「当たり前ですよ!ガラスの窓がついてる車なんて、レストアできた崩壊前の車位ですよ!それもすごく貴重だし…。」

「……たまたま運よく手に入れられたのさ。」


 さっきのトラックもそうだったが、崩壊後の車にフロントガラスは無い。フロントウィンドーやサイドウィンドーなどのガラスがあるべきところは、金網で覆われていた。ガラスは高級品なのか、加工技術が衰退している為に窓を造れないのだろうか。とにかく、人がいるところではドアとルーフ、フロントウィンドーを外して、ソフトトップモードにした方がいいかもしれないな…。

 

 その後、ミシェルと話していると門が見えてきた。

 ミシェルの話によれば、カナルティアの街は壁で覆われており、南北東西に4つの門があるらしい。門には検問所があり、武装した【警備隊】が詰めていて、通行の際にレンジャーのドッグタグを提示したり、通行手形を発行してもらう必要があるそうだ。 

 門に近づくと、他のトラックや馬車?の様な物が、4組程順番待ちをしている。


「……馬車?なんで馬?」

「……ヴィクターさんって、もしかして世間知らずな感じですか?」

「あ、ああ!そうなんだよ、すっごい田舎から来たんだ!!」


 とりあえず、俺は『世間知らずの田舎者』として通す事に決めた。


「…車は値段も高いし、燃料代も維持費も掛かります。お金のない人や、長距離を移動する人は馬を使いますよ。燃料代もかからないし、水と餌があればいいですから…。

 ……田舎の人ほど馬を使う傾向があるんですけど。」


 なるほど、色々と理由があるのか。それにしても馬車か…随分と前時代的というか何というか。

 あ、マズい。ミシェルが俺を怪しむ目で見ている。いわゆるジト目ってやつだ。何か言わないと…。


「いや~田舎過ぎて、馬とか見たこともなくてさ!珍しくて、つい眺めちゃったよ!ハハハ…。」

「そうなんですね…。あ、順番ですよ。」

 

 前の馬車が、門の中へと進んでいく。俺も車を前に進めると、武装した人間が制止の合図を送ってくる。そして、警備隊の装備をした男が近づいてきて、車から降りるように促してくる。


「なんだ、随分といい車だな…。ん?そこにいるのはミシェルじゃねえか、クエントの奴はどうしたんだ?」

「あ、隊長さんこんにちは!それが…。」


 どうやらミシェルは本当に顔が知られていたようで、隊長と呼ばれた男と話し出す。


「なにッ!?アーマードホーンだと!!」


 ミシェルがアーマードホーンにトラックが襲われた話をすると、隊長は驚き、大声を上げた。周囲の警備隊の隊員も、話を聞いていたようでざわついている。


「そ、それでどうなったんだ!?」

「は、はい。こちらのヴィクターさんがアーマードホーンを倒してくれて、僕とクエントさんは助かりました。」

「「「「アーマードホーンを倒した!?」」」」

「うわっ!何だよ!?」


 全員の鋭い視線が俺を射抜き、思わずたじろいでしまう。


「ほ、本当に倒したのか!?」

「ああ、爆弾でな。」

「し、信じられん…。」

「た、隊長ッ!!こんな物が車の荷台に…。」


 あ、コイツら勝手に人の車調べやがったな!まあ、検問だし仕方ないか…。

 幸い、荷台の仕掛けには気づいてないみたいだしな。


「こ、これは…アーマードホーンの角と装甲ッ!しかも2匹分じゃねえか!!

 おい、本当にアンタが倒したのか?」

「だからそうだって言ってるだろうが…。」

「僕もクエントさんも見てます…。」

「アンタ、レンジャーじゃねえよな?何者だ?」

「世間知らずの田舎者だ!!」



 * * *



 その後、詳しい話を聞かせろとのことで、検問所の詰所で尋問を受けることになった。しばらく、隊長の男の質問に答え、ミシェルの口利きもあり、俺が怪しい人間でないことを分かってもらえた。


「……つまりアンタは、超ど田舎から来た世間知らずの田舎者…でいいんだな?」

「そうゆうことよ。」

「ハァ…。いい車に乗ってて、車の牽引するトレーラーには武器が満載、そしてアーマードホーンを倒したが怪しい者ではないと。」

「そうそう。」

「…まあいい、アーマードホーンを倒してくれたのは感謝する。正直、今こちらも色々あって手が足りない状況だったんだ。感謝する。だが、所定の手続きはやらせてもらうぞ!」

「もちろんでさぁ…。」


 俺は、隊長が出した書類にサインする。


「さて、それから通過料を払ってもらおうか。」


 やべ、俺金持ってねぇじゃん…。いや、厳密には持っているがガラルドの物や、死都の死体から頂いた物なので、通貨価値の分からない内は使いたくない。どうするか…。

 ミシェル…はだめだ。こんな子供から金を借りるなんて、色々ダメな気がする…。

 ………そういえば、ガラルドが俺のドッグタグを門番に見せろとか言ってたような気がする。俺は懐から、ガラルドのドッグタグを出し机の上に置く。


「そういえばこれを見せろって言われてたの忘れてたわ…。」

「なんだ、レンジャーのドッグタグか?何々…A+ランク…ガラルド・ラヴェイン…。

 ……ガラルド・ラヴェインだとォ!!」


 隊長は、ガラルドのドッグタグを見てその場に立ち上がると、俺に掴み掛る。


「お、おいアンタ!これどうしたんだ!?ガラルドさんはどうしてるんだ!?」

「おい、離せよ!話すから!!」

「あ、ああ済まん…。そ、それでガラルドさんは…。」

「……死んだよ。俺を庇ってな…。」


 そして、俺の身の上話は伏せつつ、俺とガラルドの師弟関係、ガラルドの最期を隊長に話した。

【カナルティアの街】

 崩壊後の都市国家の一つ。セルディア盆地の中央部に位置しており、南部に崩壊前の大規模遺跡群である旧セルディア国首都カナルティア…通称「死都」が広がっている。セルディア盆地は、北西部の一部を除く周囲を山脈に囲まれた低地で、最終戦争によるダメージが比較的少なかった事と、安定した地盤・気候から、崩壊前の遺跡・遺物が数多く残っており、一攫千金を狙う人間がよく訪れるほか、周辺の村や町からの交易品の集積地として栄えている。

 死都からの危険度の高いミュータントの襲撃を警戒し、特に死都に近い南部は高く分厚い壁で覆われている。

 崩壊後の世界に於いて、比較的治安や政治は安定している。選挙により選出された『首長』を中心とした直接民主主義体制を採っている。首長の任期は5年。

 独自の治安維持組織を保有しており、首長の指揮の下に街の中心部を管轄する自治防衛隊と、街の有志の組織する警備隊が組織されている。



【警備隊】

 主に門の検問所や、街の周囲に出没したミュータントや、野盗の対処などを担当している。

 カナルティアの街における、警察のようなもの。街の有志により組織され、ミュータントの駆除などでレンジャーと共闘することもある為、レンジャーズギルドとは仲が良い。街の商工会の後援を受けており、隊員の俸給はそこから出ている。制服は青地のシャツに、所々にセラミックをあしらったレザーアーマーを着用している。

 保有する兵器は、小型トラックを改造した即席戦闘車両や、工業用車両を改造した装甲車など。

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