26 再びの世紀末へ
ノア側の密封ドアが閉まり、外への気密ドアと何重もの耐爆ドアが開けられ、外の光が差し込んで来る。
≪それじゃ、行ってくる。≫
≪無事をお祈りしています。お気をつけて。≫
-ヴロロロロ…。
外に出るのも久しぶりだ。外はまだ肌寒いが、雪は残っていない。外は、緑が芽を出し、春を迎えようとしていた。
俺は今死都…旧カナルティア新市街地に向けて車で走っている。最初の目的地は、ガラルドの秘密基地だ。ガラルドに挨拶と、置いていた荷物を回収する必要がある。
* * *
道中、警戒しながら進んでいたがミュータントや野盗の襲撃無く、無事に秘密基地へと辿り着くことができた。
車を降り、ガラルドの墓へ向かう。
「ようおっちゃん、帰ってきたぞ。」
ノア6の付近に生えていた花を適当に摘んできていたので、それらをガラルドの遺骨が入った箱に置く。
「こんなもんかな。テキトーだな!って笑われそうだが、俺にそんなセンスは無い。悪いが諦めてくれな。」
ガラルドに挨拶を済ませると、放置していた荷台を車に連結する。そして、地下駐車場の管理人室にあったドッグタグの入った箱を回収し、秘密基地を後にする。
1時間ほど走ると、市街地を抜けて平野が広がってくる。崩壊前は世界的に環境保護が進められ、都市部と自然部が分けられて、人口の多くは都市部に集中していた。俺が知る旧カナルティア周辺は、郊外にショッピングモールとニュータウンなどが存在していた他は、のどかな平原が広がっており、場所によっては地平線を臨むことができた。
だが、昔と違う点がある。
「…あれが街、なのか?」
車を停めて、平原の奥…ちょうどショッピングモールとニュータウンがあった方角を双眼鏡で覗くと、コンクリートの壁の様なものが広がっていた。
≪ロゼッタ、街の方向はこっちで大丈夫そうか?≫
≪はい。衛星で確認したところ、その方角に人工物が多数確認できます。≫
≪わかった。≫
一応、ロゼッタに確認したが、やはりあの壁の向こうが『カナルティアの街』なのだろう。
≪ヴィクター様!≫
≪どうした?≫
≪2時の方角、約2km先にサイ?のような生物を発見しました。人間と戦っているようですが…。≫
≪わかった、ありがとう。≫
あれか、確かアーマードホーンって奴か。
双眼鏡を覗くと、確かにサイの様な生物と、横転したトラックの傍で6人程の集団が対峙しているように見える。
「…あっ。」
アーマードホーンが突進し、人らしき影が空中を舞う。
「何やってんだよ、アイツら。」
恐らく戦っているのだろうが、苦戦しているようだ。対峙していた集団はしばらくすると、散り散りに逃げだしていく。
さて、どうするか。俺には今、2つの選択肢がある。連中を助けるか、見捨てるかだ。
助けに入った場合、俺も無事かはわからない。一度倒したことはあるが、あれは廃墟の中での話だ。遮蔽物の無い平野で、勝てるかは分からない。
見捨てた場合、連中が全員くたばった後、アーマードホーンがこちらに突っ込んでくるかもしれない。丁度、俺の進行方向付近にいるので、その可能性は高い。
「……どちらにせよ、あのサイをどうにかしなきゃならねえな。」
* * *
-ダダダダダダッ!
「ひぃぃぃ!!来るな、来るなよぉ!!
わぁぁぁぁあッ!!グボぉはぁ…。」
恐怖に駆られて銃を乱射した男が、アーマードホーンに突き上げられ、鮮血をまき散らしながら空に舞う。そんな光景に、僕の脚は言うことを聞かなくなり、その場に立ち尽くしてしまう。
「だめだぁ!逃げろォ!!」
「うわぁぁッ!!」
「死にたくないッ!!」
「ヒぃぃぃぃ!!」
「おい待て!急に動くんじゃないッ!!」
このパーティーのリーダーである、クエントさんの警告を無視して皆は散り散りに逃げだした。
アーマードホーンは、逃げだした人を追いかけ、一人、また一人とその命を奪っていく。
「クソっ!…ミシェル、いいか。倒れたトラックの荷台に隠れるぞ、ついてこい。静かにな!」
「は、はい…。」
クエントさんについて行こうとするが、脚が動かない。
「あ、あれ…。脚が、うごかない。」
「ミシェル!何やってんだ、早くこっちに来いッ!!」
「は、はい…。動いてッ!動いてよォ、このままじゃ死んじゃうよ!!」
脚を叩くが動かない。何とか脚を前に出そうとしても、もつれて転びそうになる。あれ、歩くってどうやるんだっけ?
「ゴボォヴァァッ!!」
アーマードホーンは逃げ出した最後の一人を突き飛ばし、くるりと向きを変えると、僕と目が合ってしまった。
「ヒィッ!!」
僕は腰を抜かしてしまい、その場にへたり込んでしまう。一方のアーマードホーンは、前脚で地面を摺ると、こちらに走り出した。
「あ…あ…。」
「ミシェルっ!!くそ…。」
僕にその角が迫り来るその時、急に風を切る音がしたかと思うと地面に黒い棒が生えた。突然目の前に生まれた突起物に驚いたアーマードホーンは、脚を停め急ブレーキをかける。
「……これは、棒…いや槍!?一体どこから?」
周囲を確認しようとすると、真横のほうから銃声が聞こえる。
-ダダダンッ!ダダダンッ!
「ブモっ!!」
どうやら、弾がアーマードホーンの頭に当たったらしく、怯み出した。
銃声のする方へ眼を向けると、100m位先に車から銃を構えている人が見えた。
「クソ、やっぱり効かねぇか…。」
「ブモォォォッ!!」
「お怒りだな…。付いてこい!このデカブツがっ!!」
どうやら怒ったらしいアーマードホーンが、その車に向けて走り出す。と同時に車も走り出して行く。
「ミシェル!!大丈夫か!?」
「…は、はい。」
クエントさんが、僕の元に駆け寄ってくる。
「助かったな。ほら、手ぇかすぜ。」
「あ、ありがとうございます…。」
「よっと。」
クエントさんに引き上げられた後、肩を支えてもらいながら倒れたトラックの傍まで歩く。
「しかし、物好きな奴もいたもんだな…。自分を犠牲に、見ず知らずの他人を助けるとは。」
「犠牲…?犠牲って、どういうことですかッ!?」
「見てなかったのか?お前を助けた奴の車、トレーラーを牽引してたろ。いくら平地だとしても、不整地でトレーラーを牽引してたら速度はでない。多分、アーマードホーンに追いつかれて死ぬぜ、アイツ。」
「そ、そんな…。」
「ほれ、見てみ。もうじき追いつかれるぜ……。ありゃ?」
「……引き離してませんか、あれ。」
先ほどの車を見ると、アーマードホーンを引き離しながら、草原を爆走していた。
「まあ、なんだ…。今の内に、荷台に隠れよう。ん?ミシェル、腰のあたり濡れてるぞ。」
「ッ!さ、触らないで下さいっ!!」
「ああ、悪い悪い。怖かったもんな、しょうがない。うん。」
「ち、ちがいます!こ、これはその…みずたまり、そう転んだ所に水たまりがあって!!」
「うんうん。分かってる分かってる。」
「絶対、信じてないですよねっ!?僕は、漏らして無いです!!」
「ん?俺、そんな事一言も言ってないぞ?」
「……クエントさんの意地悪。」
「はは、拗ねるなよ。それより、脚動かせるようになったな!」
「…あれ、ホントだ。」
気が付くと、脚が言うことを聞くようになっている。
「じゃあ、早いとこ…」
-ドォォン!!
「おいおい、今度は何だッ!?」
「わぁッ!…あ、また。」
「またチビッたのか?」
「ち、違います!!」
突然車が爆走してた方角から、爆音が聞こえてきた。
二人でそちらを確認すると、僕たちを襲ったアーマードホーンがその動きを止めていて、その傍らには爆走していた車が停まっていた…。
ロゼ≪そういえば、3か月前にノア6に乗ってこられた車は出力が弱かったですね。≫
ヴィ≪ああ、崩壊後は技術力が低下してるらしいからな。性能の良いエンジンは造れないらしいぞ。≫
ロゼ≪ですが、新しく作られたその車でしたら問題ないでしょう。疑問なのですが、1からお造りになるよりも、兵器庫にあった車をお使いになればよろしかったのでは?≫
ヴィ≪……ロゼッタ、いいか。これは作ったんじゃない。前の車をカスタムしたんだ、外観だって前のとそっくりだろ?≫
ロゼ≪…えっと、どの辺りがでしょうか?≫
ヴィ≪……全部?かな?≫
ロゼ≪……申し訳ございません。私、デザインや芸術には疎くて…。≫
ヴィ≪…そ、そうか。とりあえず、これは部品とかパーツは全部新しくしたけど、カスタムなんだ!これは作ったって言わない。だからノア6からは、何も持ち出したことにならないんだ!≫
ロゼ(………カスタムって何なんでしょうか?)




