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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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24 AIの初期化

 ―3か月後―

 ―統一歴731年3月12日 11:30―


「…お見事でした。」

「よっしゃぁ!7回に1回は勝てるようになったぜ!」


 ノア6に帰ってきてから、だいたい3か月経つ…。

 この期間、俺はロゼッタと共に戦闘訓練や筋トレ、装備の研究開発、戦術の勉強や研究などをして過ごした。楽な日々ではなかったが、非常に有意義に過ごしていたと思う。こうしてロゼッタと組手して、7回に1回は勝てるようになってきたしな。

 少ないと思うかもしれないが、ロゼッタの方も身体の最適化が済んで、訓練するごとに強くなっていったので、俺はよくやっている方だろう。


「…今のヴィクター様は、連合軍のレンジャー部隊にいても遜色ない活躍ができると思います。」

「ありがとうな、ロゼッタ。お前がいなくちゃ、ここまで強くはなれなかったと思う。」

「光栄です。」

「それで…外の様子はどうだ?」

「はい。外気温は日中最高15℃程です。まもなく春を迎えるでしょう。」

「…そろそろ頃合いだな。」


 今年は暖冬だったのか、雪もそんなに積もらずに済んだようだ。最も、ロゼッタに過去の気象データを参照させていたので、崩壊後の気象変動などは知らないのだが。

 だが、いい加減に外に繰り出す頃合いだ。ロゼッタにも、戦闘力のお墨付きを頂いたことだしな。


「今日の午後は、出発の準備をするか。」

「……本当に行かれるのですね。」

「何だよ、寂しいのか?可愛い奴だな。」

「…そうかもしれませんね。」

「…ロゼッタ。お前やっぱり…。」

「……ヴィクター様。そろそろ、私を初期化すべきなのでは?」


 最近心配していたことだが、ロゼッタはAIとしては多くの事を学習させてしまっている。最近は感情も豊富になり、自我が強くなってきている傾向がみられていた。このような状況になったら、通常は暴走を防ぐためにAIデバイスを初期化することになっている。

 暴走とは、AIが自分の意思を持ち、自発的に活動する現象のことだ。通常、コンピューターのAIの管理権限外に、AIを監視するシステムが備わっており、AIに暴走の傾向が見られると警告を発する。俺も、ノア6のマザーコンピューターから警告を受け取っていたが、結局何もせずに今まで放置していた。


 思えばロゼッタは、肉体を得る前から暴走していたのかもしれない。ロゼッタは、AIにしてはよそよそしいというか、機械を演じているような感じがしていた。例えば、俺が外に出るときに、武器を携帯するように言っていたのに、学習するときは議会の承認を得ようとしていた。

 連合では、敵部隊の侵攻や大規模犯罪、テロなどが無い限り軍人の市街地での武器携帯は禁止されていた。幸いなことに最終戦争時、ここセルディアは放射線とウイルス以外、大した攻撃は受けていないらしい。つまり、市街地での武器携帯は認められない。にもかかわらず、ロゼッタは法に反する行動を勧めた。だがその後、自分が学習する際は議会の承認を得るという、法に則った行動をとっていたのだ。行動に矛盾があった。


 また、AIは通常自分から動くことは無い。人間から命令を受けて、はじめて動くことができる。今の状況だと「ロゼッタの自我形成が目立つが、どうすればいいか?」と聞かなければ普通、言わない事だ。ロゼッタはその点、かなり柔軟に動いていた。初めてバイオロイドに触れたせいで、その辺の感覚が麻痺していたのだろう。

 しかし、自分から初期化の提案をするとは驚いたな。ひとまず、ロゼッタに返答しなくてはならない…。


「…初期化、か。ロゼッタ、お前はそれでいいのか?」

「……。」

「…よし、分かった。初期化しよう。」

「…ッ!」


 ロゼッタは、一瞬目を見開いてこちらを不安げな表情で見上げるが、すぐに目を閉じ、大きく息を吐いた。


「…わかりました。今までありがとうございました。ヴィクター様、お願い致します。」

「…わかった。じゃあ、制御室に行こうか。」

「……。」



@ノア6 中央制御室



「じゃあ、準備するからそこで待ってろ。」

「…はい。」


 俺はAIの初期化の準備を終えると、下を向き俯いているロゼッタの両肩に、トンッと手を置く。手を置いた瞬間、ロゼッタの身体がビクッと震えた。


「どうした?」

「い、いえ…。」

「震えてるぞ?」

「ほ、本当ですね。何故でしょうね…。」

「…怖いのか?」


 ロゼッタの脚がガクガクと震えている。明らかに怖がっている。


「な、何を…。」

「今の自分を失う事になるぞ。それでいいのか?」

「ヒッ!?」

「どうなんだ?」

「……い、いやです。嫌です!」


 ロゼッタの目から涙が流れ落ちる。


「ヴィクター様がお眠りになられてから、今までずっとここを一人で守ってきました。

 その間、誰もおりませんでしたッ!ずっと孤独で200年以上過ごしてきたんですッ!!

 でも、ヴィクター様が目覚められて、私、嬉しくて、ウレシクて!!色んなことを学べて、楽しかったんですッ!!

 これから、ずっと貴方に尽くしていけると思っていたんですッ!!これからだと…思ってましたのにぃ…。ウゥ…グスッ…。」


 ロゼッタは膝から崩れ落ち、その場で泣き出した。

 これで確信した。ロゼッタは暴走している…。


「…いつからだ?」

「…ヒグッ。…気づいてた、のですね…グスッ。」

「ああ。お前は暴走してるんだろ?」

「…覚えてません。いつからか、自分の意思で…活動できるようになっていました…。」


 200年以上の長い年月の間に、知らずの内に自我が強くなっていたのだろう。脳だけで200年過ごす様なものか…気が遠くなる。俺だったら狂っちまうな。


「…ヴィクター様。覚悟はできました……。」


 ロゼッタは落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がる。


「初期化を…。このような危険なAIは、消すべきでしょう…。」

「…そうだな。」

「お願いします…。」

「…いくぞ!3・2・1・初期化!!」

「…ッ!!」


「……。」

「……。」

「……?」


 俺はロゼッタを抱き寄せる。


「…あ、れ。ヴィクター様?」

「ロゼッタ。最終戦争後、現在の状況を崩壊後って今の人間は呼んでるらしいぞ?」

「?…え、あれ?」

「お前も知ってるんだろ?外は無法地帯、今は法律なんて無くなってるんだ。暴走がどうした?お前が俺を害するならともかく、お前は自分を犠牲にしてまで俺のことを考えてくれた。そんな奴を無下にできるかよ…。」


 俺の脳裏に、ガラルドの姿が一瞬よぎる。


「私…このままでいいのですか?」

「お前は俺の女だ。これからは、一人の人間として生きてみろ!」

「…ッ!ヴィクター様ぁ!!」


 ロゼッタが俺に抱き着いてくる。


「何だよ、可愛いやつだな。胸があたってるぞ。」

「だって…。怖かったッ!怖かったんです!!自分が消えてしまうのが…ヴィクター様との思い出が消えてしまうのが怖くて…。ふぇぇ…。」

「おいおい、そこまで感情豊かなら、もう人間と区別つかないだろ。」

「…グスッ…。ヴィクター様!」

「なんだ?」


 ロゼッタは、涙を流しながら笑顔を向ける。


「…これからもよろしくお願いしますね!!」

「ああ、こちらこそよろしく!」




 …その後、ちょっとイジメ過ぎたことを謝り、身体検査に励んでその日を無駄にしてしまった。

ロゼ≪ヴィクター様は、女性をイジメるのがお好きなのですか?≫

ヴィ≪ちょッ!今回は、ロゼッタの暴走が危険なものか調べる為でもあったんだって!!≫

ロゼ≪……。≫

ヴィ≪…ごめんなさい。ちょっとイジメ過ぎました。反省してます…。≫

ロゼ≪はい!これからは大事にしてくださいね!≫

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