23 冬のある日
-真冬のとある日
@ノア6 工房棟
「~♪」
「……」
「~♪」
「……」
「…よし!できた!!」
「お疲れ様でございました。随分とご機嫌でしたね?」
「ああ、見てたのか」
今日は研究開発Dayだ。その名の通り、色々と研究や開発をしている。俺の本職は研究者だからな。……一応。
俺が鼻歌交じりに作業しているところを、ロゼッタにがっつり見られていたらしい。ちょっとテンションが下がる…。
それを敏感に察知したのか、ロゼッタは俺の機嫌をとろうと会話を続ける。デキる娘だねぇ。
「あの、今まで何をされていたのでしょうか?」
「ああ、これをカスタムしてたんだ。」
俺はロゼッタに、今しがた加工していた銃を見せる。
「これは…【MAR-64】、ですか?」
「ああ、正確には最終生産型のA3型だ。」
「……随分とボロボロに見えますが?それをお使いになるより、最新型のMAR-06をお使いになられたらどうでしょうか?」
「そう、それなんだよ!」
MAR-06…通称アンバージャックは、俺がノア6から出た時に持って行ったアサルトライフルだ。ブルパップ式で、人間工学に基づく流線的なボディは、俺から見ても未来の銃って感じがする。
ガラルドにも言われたが、そんなものは崩壊後の世界で簡単には持ち歩けない。
そこで、俺が目を付けたのが旧型のアサルトライフル:MAR-64だ。こいつは、従来型のアサルトライフルの形を踏襲しており、拡張性も高い。アンバージャックよりかは、遺物認定されずにすむだろう。ちょうど武器庫に眠っていたので、これをカスタムして俺の主力武器として使おうと思ったのだ。だが、俺はコイツにさらに改造を施すことで、遺物に見えないように工夫を凝らすことにした。
ウェザリング。模型などの塗装技法で、いわゆる「汚れ」や「風化」などを表現することだ。俺はこの作業を今までやっていたのだが、途中何かに目覚めたような、天啓を得たような感じがして作業に集中した結果、『今にも暴発しそうな、赤さびと黒さびまみれのボロッボロのアサルトライフル』が出来上がった。
外側がそう見えるだけで、中身は崩壊後で生き残れるように最高に仕上げている。後は、訓練次第だな。俺はアンバージャックの訓練しかしてないから、今後射撃訓練もしなくてはな…。
「……なるほど。では、最新型の銃火器は使えないと」
「ああ。あと、戦術兵器もダメだな。余程のことが無い限り、動かすことは無いな」
「では、兵器のモスボール解除はやらなくて良かったのでは?」
「いや、自重するだけで、使わないとは言ってない。例えば、ロゼッタを守るとかなら自重解除してガンガン使うぞ」
「まあ! それは光栄です」
≪ピコーン!≫
「ッ! ああ、またか……」
「……どうかされましたか?」
「ああいや、何でもない」
「……?」
「もうこんな時間だ、飯食いに行くぞ」
「はい」
最近、俺の電脳に頻繁にメールが入るようになった。
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[警告]ノア6:マザーコンピューターの管理AIについて
管理AIに暴走の兆候あり。
至急、AIの初期化と廃棄を推奨します。
ノア6:マザーコンピューター AI監視システム
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こんなメールが3時間おきに来る。ロゼッタが【暴走】ね…。
さて、どうしたものか…。
-同時刻
@カナルティアの街 レンジャーズギルド支部:支部長室
「……今日も彼は帰って来ませんか」
「はい。今日も見かけたレンジャーはいないようです」
「……本部に出立する前に、顔を見ておきたかったのですが」
「…そうですね」
「まあ、彼の事です。きっとガハガハ笑いながら、ひょっこり帰ってきますよ」
「この支部唯一のA+レンジャーですからね」
「ええ。だからこそ、危険な死都の偵察をしてもらっているのですが……」
「でも、単独で……ですよね? 危険じゃないんですか?」
「そりゃ危険ですよ? でも、彼の希望でしてね。何でも、他の連中がいると足を引っ張られるそうですよ?」
「でも、認定が無いだけで、ここカナルティア支部にもAランク相当のレンジャーはいます。今すぐにでも、捜索に向かわせては?」
「………いや、やめておきましょう。後で彼にドヤされたくないですからね」
「……はぁ、わかりました」
「っと、そろそろ時間ですねぇ。では、留守を頼みますよフェイ嬢」
「……支部長、どうかご無事で。副支部長も最近、横暴が目立ちます。早めに、無事に帰ってきて下さい」
フェイと呼ばれたギルド職員の女性は、支部長と呼ばれた初老の男性に、俯きながら彼の杖を差し出す。
「ありがとう。いやですねぇ、別に今生の別れという訳ではないのですから」
「でも……」
カナルティアの街のレンジャーズギルド支部長であるシスコ・デロイトは、今日、ギルド本部の召喚を受け、旅立つ事になっていた。ギルド本部は、遥か遠方にある。このご時世、長距離の移動は危険が多い。ミュータント、野盗…危険なものに限りは無い。そんな中、無事に帰って来れる保証はないのだ。
「わかっています。順調なら、春には帰ってきますよ」
「…はい」
「それではそろそろ…おっと、彼が帰ってきたらよろしく言っておいて下さいね」
「はい。ガラルドさんにはよく言っておきます」
「さて、それでは…」
支部長は、部屋を出るとギルドの職員や、レンジャー達からの送別の挨拶を受けつつ旅立って行った。
(…やっと忌々しいのが消えたか。さて、これからは好き勝手やらせてもらうぞ!)
───その陰で、ギルド副支部長であるパンテン・ルーンベルトは今後の野望に頬を緩ませていた……。
【MAR-64 A3】
連合軍の旧式アサルトライフル。様々なオプションパーツの装着が可能で、高い拡張性を持つ。パーツ装着用のレール一体型のハンドガードと、変更可能なストックが特徴であり、モジュール化されたレシーバーや銃身を交換する事で、他の弾薬にも容易に対応可能。
サードパーティ製のパーツが豊富であり、40連大型マガジンや、60連複々列マガジンなどがある。
新型のMAR-06が正式採用されても、一部将兵の希望から現役の物や、保管されていた物が多数存在した。
A3型は最終生産型で、これ以降はMAR-06に移行した。
[使用弾薬]6.8×43mm弾 等
[装弾数] 30~60発
[発射速度]650-750発/分
[有効射程]500-600m
[モデル] レミントンACR
【暴走】
AIの人格・自我が強くなった結果、AIが自らの意思を持ち、主人の命令に依らず自発的に活動するようになる現象。前例はないが、人間の命令を無視したり、反抗する恐れがあるとされる。
予防策を講じていれば通常は見られないが、万一暴走を確認した場合は、AIを初期化し、廃棄することになっていた。




