14 崩壊前の機械
次回からはいつも通り、火曜日に更新する予定です。
「ガガピー、不シン者ハッケン…。コノ地域ハ、警戒ク域...ニ指定サレテイ...マス。身分...ヲ提示シテク...ダサイ。」
警備ロボに近づいて見ると、ノア6の物と違い碌なメンテナンスも受けていないのか、ボロボロで塗装が剥げている。そして、壊れているのか音声機能が不安定なまま、俺に身分提示を求めて来た。
「認証しろ。ヴィクター・ライスフィールド、連合軍所属だ。」
「……認証終了シマ…シタ。コノ地域ハ、軍ニ…ヨリ、コノ機体ノ警戒…ク域ニ指定サレテイマス。」
俺は自分が名乗りでて、警備ロボによるスキャンを受けた結果、俺の身分が確認されたようだ。
そして、この警備ロボは、軍による治安維持活動に使用されて、210年以上この近辺を彷徨っていたのだろう。……なんか、哀れに思えて来た。
「ゴメイ令…ハ、ゴザ…イマスカ?」
「ん、何を言ってるんだ?俺にそんな権限はないはず…。」
そして、ノア6のマザーコンピューターの言葉を思い出した。
((昇進の報告でございます。貴方は現在、連合軍総司令官に任官されております。))
(そうだよ、俺…今一番偉い人なんだっけ…。)
「ゴホン。ああー君は、自分の拠点に速やかに帰還。その後、機能を停止し、メンテナンスを受けたまえ。そして、次の命令があるまで待機しろ。」
「……メイ令ヲ…ジュ諾シマシタ。拠点ニ…帰カンシマス。」
ちょっと、偉そうに警備ロボに命令すると、警備ロボは後ろを向き、拠点とやらに帰っていった。
「…お疲れさん。」
ロボに向け、哀愁漂うその背中に向けて、労いの言葉をかけた。
「おい、何があったんだ!肝が冷えっぱなしだったぞ!!」
ロボが帰還してしばらくして、ガラルドが俺の元へ駆け寄って来た。
「ん、何って命令したのさ、家に帰れって。」
「命令って、お前…何言ってんだ!?」
「前にも言ったろ、俺は崩壊前の人間。これでも昔は軍にいた、多分そこら辺の人間より戦闘の筋は良いはずだ。」
「おい…。」
「それから、さっきのロボは軍の警備ロボだ。俺には命令できる力があった。だから奴はここから去った、それだけだ。」
「…。」
「前にガラルド、言ったよな?遺物を使いこなせる人間がいたとしたら、危険だって…。」
「…。」
「…俺は、この時代にいちゃいけないのかもしれない。」
俺は、今まで抱えていた不安が爆発したのか、急に心が痛くなり、ガラルドに自分の不安を言葉にしてぶつけた。
「…ガハハハハ!」
しばしの沈黙の後、ガラルドは笑い出した。
「ッな!何がおかしい!!」
「ーーハハハ!いや、何。こんなガタイの良い男が、小さな事で悩んで、女々しくなっちまってるのがおかしくてよォ!ガハハハハ!!」
「ち、小さな事だと!」
「ああ!小せぇ小せぇ!!もしかして、アソコも小さくて、使い物にならないんじゃないか~?」
「何だと!」
ガラルドはまるで、「しょうがない奴だな」とでも言いたげな顔で俺を叱咤する。
「あのな、お前はお前なんだよ!存在理由を決めるのは時代でもねぇ!環境でもねぇ!ましてや他人でもねぇ!お前自身なんだ、わかるか!!」
「・・・」
「確かに、お前さんは崩壊前の人間かもしれねぇよ。俺は知らねえが、崩壊前はさぞ豊かな生活をしてたんだろ?だがな、今お前が生きているのはこのクソッタレの崩壊後だ!!
周りを見てみろ。ミュータントや野盗、それからレンジャー、力こそが正義の弱肉強食の世界だ!この事実は変えられねぇ!!
そんな時代にどう生きるか何てな、ヴィクター、テメェが自分で考えろ!!存在理由なんて、自分で見つけるモンなんだぜ!」
なんだろう、ガラルドに叱咤されてから、少し元気が出た気がする。
「ガラルド…ありがとう。なんか吹っ切れたよ。あんた、いい奴だな!」
「ガハハ!今さらかよ!!」
「ハハハ!」
「参っちまったらな、酒飲んで、女でも抱くのが一番よ!」
「お…女!?おい、いい話が台無しだろうが!!」
「何だよお前、まさか童貞か!?」
「ど…どどど童貞ちゃうわ!」
実際、経験はあった。大学入学直後に、好色な女の先輩に目をつけられた俺は、ホテルに連れ込まれてしまったのだ。
あの時は、一瞬で果ててしまい、その先輩には侮蔑の眼差しで睨まれ、帰られてしまった。…本当はまだまだ出来たんだ、俺は回数で勝負するタイプなんだよ!!
「まあ、街に帰ったら良い女でも紹介してやるよ!」
「え、マジ!?どんな娘なんだ!?」
「俺の弟子みたいな奴でな、髪は綺麗な栗色で、瞳は緑色だったな。元気でかわいい奴よ!お前さんのレンジャーの先輩って事になるのか。」
「俺、金髪で巨乳な娘が好きなんだけど…。」
「……なんか、わがままな奴だな。
まあ、出るとこは出ててな、いいケツしてるぞ!」
「…なんか、また嵌められそうだな。出るとこ出てるって、ドラム缶とかは勘弁してくれよ!」
「ガハハハ!信用されてないな、じゃあ今度はハメる番になれるといいな!」
そうこうしながら、車に乗り込み、地下駐車場の秘密基地への帰路に着く。
【テトラローダー】
軍用の警備ロボット。クモのような4本の脚を持ち、足先の球体状のローラーで平面移動する駆動方式を採用している。段差は、脚を使用して移動する。
外部電源方式を採用しており、ドラム缶のようなずんぐりとした上半身に、衛星からの電力を受信する受信機が組み込まれている。頭部はセンサーの役割を果たし、胴体から生えた2本の腕には機関銃などの武装が搭載されている他、肩にあたる部分には武装が可能で、通常は暴徒鎮圧用に大口径のグレネードランチャーを装備している。
崩壊前は、連合軍のマスコットキャラ「正義のロボット テトラ君」としてイベントなどで、マントや帽子をかぶせたものが子供たちに好かれていた。因みにアニメ化もされていた。
崩壊後は、マイクロマシンをインプラントしていない人間を身分を認識できない「不審人物」として襲ってくる為、人々から危険視されている。
ギルドによる危険度はA。
全高 約2m(脚の伸展により変動)
速度 最高80km/h(路上)
武装 ・6.8mm口径機関銃×2
・18.4mm小型滑腔砲×2
(12ゲージ用スタン弾を主に使用)
・60mmグレネードランチャー
(最大2つ、通常1つ。主に催涙弾を使用。)




