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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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131/199

126 モルデミール

-翌朝

@モルデミール近郊


「……200年以上経つと、この辺も変わるもんだな。」

「ヴィクターは崩壊前に来た事あったんだっけ?」

「ああ、軍の学校がこの辺りにあってな。……ああ、思い出したくもない!」

「あ、そう……何かごめん。」


 思わず、ブートキャンプの時を思い出してしまった。今思えば、よく脱走しなかったよな、俺。まあ、そのお陰で崩壊後の世界で好き放題出来てる訳だが……。


 俺達は現在、モルデミールへと接近していた。遠目には、崩壊前に建てられたスタジアムが見える。天井が落ちてしまったのか、ボロボロになりながらも未だにその存在を周囲に示していた。


「おーいミシェル、そろそろチャッピーを隠してくれ!」

「はい!」


 窓を開けて、ミシェルにチャッピーを隠し、車に乗るよう呼びかける。そろそろ、街に入る為の準備をしなくてはならない……。


「いいかカティア、お前は何も喋るなよ? 演技がバレたらパァなんだからな?」

「わ、分かってるわよ!」

「僕も、荷台に隠れてますね。」



 * * *



-数分後

@モルデミールの検問所


 モルデミールは、カナルティアの街のように街を壁で覆っていたりはしていない。その代わりに、鉄条網やフェンス、塹壕などが掘られており、最低限ミュータントを防ぐための守りはあるらしい。


 そんな光景を眺めながら、街中へ入る為に検問所へ向かうと、兵士に囲まれて尋問が始まった。


「おい、何だこの車は!? 貴様何者だ!?」

「何者だと…? 言葉には気をつけたまえ。」

「な、何だとこの若造が!?」

「君より階級は高いと言っているんだ。それが上官に対する態度か?」

「なっ!? そ、それでしたら所属を教えて頂きたい。」

「特務につき答えられない。」

「何だと、いい加減にしろ! やっぱり怪しいぞ!」

「…ほら、クランプ准将の通行手形だ。至急、参謀本部に用がある、通してくれ。」

「クランプ准将!? カナルティア侵攻で戦死されたのでは!?」

「特務につき答えられないと言っているだろ? 懲罰部隊で前線勤務になりたいなら、話は別だが……。」

「こ、これは失礼しましたッ! 確認致しますので、少々お待ちくださいッ!」


 今回、俺達はモルデミール軍の振りをして、検問を突破する予定だった。モルデミール軍は、全ての兵士が制服などを着ている訳ではない。現に、カナルティア侵攻軍がそうだった。

 だから、偉そうにしていれば、俺の事を将校かもしれないと錯覚し、下っ端はビビると思ったのだが、そう上手くはいかないようだ。……まあ、そりゃそうか。


 仕方なく、クランプ准将が書いてくれた手形を出した。やはり、証拠があると嘘は通しやすい。検問の兵士達は、手形を見た途端に姿勢を正して敬礼してきた。

 正直、クランプ准将の手形は、俺達の侵入が発覚するかもしれないので出したくなかったが、仕方ない。だが、釘は刺しておくとしよう……。


「手形は間違いなく本物でした。どうぞ、お通り下さい!」

「ご苦労…。ああ、それから君達が今私と関わった事は他言無用だ、むしろ忘れた方が身の為だな。下手をすると、即刻銃殺刑となるからそのつもりで……。」

「「「 …ゴクリ。 」」」

「それから…ほら、取っておきたまえ。」


 俺は、昨日村で手に入れた軍票を幾らか代表の兵士に握らせる。秘密を守るには、相手を共犯にする事が効果的な事もある。これで、彼らはバレたらヤバい事に関わって、さらにその事で甘い汁を吸った事になる。口外する確率は低くなるはずだ。


「こ、これは…!?」

「特務に協力してくれた特別手当てだ。受け取った事は、他の兵士達には黙っておいた方が良いな?」


 兵士達は、コクコクと首を縦に振ると、敬礼しながら俺達を送り出す。


「「「 モルデミールに勝利を! 」」」

「モルデミールに勝利を!」


 敬礼に答えた俺は、街の中へと車を進ませる。



「……ぷっ、くふふ、あははっ! も、もうダメェ!」

「あはは、ヴィクターさん似合わないです!」

「……うるせぇな。俺だってやりたく無かったんだよ!」


 カティア達には笑われたが、無事にモルデミールへと入る事はできた。



 * * *



-数十分後

@モルデミール 


 モルデミールの街はそこそこの賑わいがあったが、街並みは酷くボロボロだった。例えるなら、廃墟となったゴーストタウンに無理やり人が住んでるような、そんな感じだ。

 道行く人々の顔も、カナルティアの街と違って活気が無い。それに、街中にあるスピーカーからは、常に軍歌のようなものや、プロパガンダが流れていた。


『〜♫〜♩  モルデミールの民達よ、戦いに備えるのだ! 敵は眠らない!』

「……まるで、大昔の総力戦だな。」

「こんな所で、よく暮らせるわね……。」


 モルデミールは、地理的に農業には向かない土地だ。気候も雨が少なく、セルディアの水源でもある地下水脈から外れてしまっている。崩壊前は、その気候や安定した地盤が好まれて、軍の基地や滑走路、スポーツスタジアムなどが建設され、セルディアの文化の中心として栄えていた。

 ところが当時の栄華は見る影もなく、今ではその環境が人々に貧しい暮らしを強いているようだ。特にこれと言った産業が無い彼らが、崩壊前の兵器を手にして、やる事は一つだったという訳か……。


 そんな街を眺めつつ、俺は車を街の外れへと走らせる。支部長の話では、現地に先行させた連絡員がいるらしいので、これから接触する予定だ。何でも、現地での活動支援をしてくれるという話だが……。


「……ここか?」


 連絡員との合流地点である、街外れのコンクリート製の小さなガレージハウスに到着した。俺達が車を降りると、サングラスを掛けたスキンヘッドの、見覚えのある大男が、ガレージから出て来た。Bar.アナグマの店主、ボリスだ。


「ボリス……だよな? アンタが連絡員だったのか!?」

「……まあな。それより、車をガレージに隠せ。よくそれで街に入れたな?」

「ああ、まあな…。」


 車をガレージに駐車し、チャッピーをガレージの中へと入れると、ボリスはシャッターを閉めた。その後、ガレージの上の階にある居住スペースにて、ボリスと任務の話をする。


「それにしても、よくこんな隠れ家用意できたわね?」

「……昔、ギルド職員の家だったそうだ。」

「ここに住んでた奴もいたんじゃ無いのか?」

「……ああ。だが、消えてもらった。」

「「「 えっ…? 」」」

「……安心しろ、手荒な事はしていない。」

「当たり前だ!」


 聞けば、ちゃんと買い取ったらしい。ボリスは、大量の軍票を用意するのが大変だったと言っていたが、一体何をしたんだか……。


「で、任務についてなんだが……敵情視察と暗殺って、やっぱ敵のど真ん中に潜入するしかないよな?」

「……ああ。だが、敵はここ数日で警戒を強めた。侵入は難しい。街中も兵士が昼夜巡回している状況だ。」

「それじゃあ、下手に出歩くことも出来ないな……。」

「……それで、これだ。」

「何だこりゃ?」


 ボリスは、数枚のポスターをテーブルの上に置いた。それは、モルデミール軍の募兵ポスターだった。どのポスターも、勇ましいキャッチコピーと、偉そうな男がこちらに指を指していたり、AMがガッツポーズしていたりと、好戦的な絵が描かれていた。

 確かに、俺達がモルデミール軍に入れば、モルデミールでの身分も手に入るし、敵の本拠地への潜入もしやすくなる。


「何々……“軍にはあなたが必要だ。今すぐ募兵事務所へ!” “今こそ閣下に忠誠を尽くす時!” “今こそ英雄になるべく立ち上がれ!”……どの時代も、こういうのは変わらないな。」

「それに、これ全部対象が成人男性です。これじゃ、ヴィクターさんしかダメですね……。」

「……こんなのもあるぞ。」

「ええと…“炊事兵募集。年齢は不問。ただし、相応の腕前が条件。”……ですか。これだったら僕にも出来そうですね!」


 ミシェルがボリスから受け取ったポスターは、調理要員募集のポスターだった。ポスターには、兵士達がご馳走を食べている裏で、スタイリッシュに調理をしているコックの絵が描かれている。

 試験があるらしいが、ミシェルの腕前なら問題ないだろう。


「ちょっと、私は? 置いてけぼりはゴメンよ?」

「……これだ。」

「何々…“女性士官募集。アットホームな職場で、優雅な日々を……。” ねぇ。悪くないんじゃない?」

「いや、怪しすぎですよ!?」

「絶対嘘だろそれッ!?」


 ボリスがカティアに渡したポスターは、先程までの勇ましいポスター達と打って変わって、制服を着た女性達がテーブルでお茶を飲みながら談笑している絵が描かれていた。……怪しすぎる。


「大体何で女性士官なんだ? これまでの募集、大半が男向けだったぞ? 女性の募集も、事務要員とか看護要員とかだっただろ。」

「……なんでも新設された部隊に、女性だけの隊があるそうだ。確か、親衛隊とか言ったか。」


 親衛隊…という事は、要人の警護部隊か? 確かに、要人の妻子などを日常的に警護する際、女性だけで構成された部隊は威圧感が少ないというのがあるのかもしれない……。

 本来ならこういった部隊は、信頼できる兵士や精鋭で構成されるべきなのだろうが、モルデミール軍は女性士官が少ないので、新たに募集する必要があるのだろう。これは好都合だ。


 実は出発前、クランプ准将と面会した時に、なるべく兵士達を犠牲にしないで欲しいと頼まれていたのだ。実際、崩壊前の兵器で大暴れすればすぐ終わる任務内容なのだが、クランプ准将の事を気に入っていた俺は、彼の頼みを聞く事にした。俺は、虐殺者じゃないしな。

 それに、大暴れすると戦後処理やらが面倒になる事は目に見えているし、俺の自重ポリシーにも反する。


 その為、この任務は長くて数ヶ月くらいかかると思っていた。だが、カティアが親衛隊に入る事ができれば、暗殺対象に接近できる大きな機会を得られる事になる。


「なるほど……よしカティア、絶対にこの部隊に入れ! そうすりゃ、さっさと任務を終わらせられるぞ!」

「ふふん、任せなさい!」

「……俺の役目はここまでだ。この隠れ家は好きにしろ。それと、この家を買う時余ったモルデミールの金は、その棚の中にある。」

「おう、後は任せとけ!」

「助かったわ!」

「色々とありがとうございました!」

「……ちゃんと帰って来い。1杯奢ってやる。」


 そう言うと、ボリスは隠れ家を出て行った。


「さて、俺達も準備だな。特にカティア!」

「な、何よ…?」

「お前には、絶対に親衛隊に入って貰わないと困る。」

「分かってるわよ!」

「その言葉遣い、ちょっとマズいな…。それで落とされるかもしれない。」

「えっ…そこまで見られるの!?」

「親衛隊って言う位だからな、偉い奴の側に配置されるだろ? 面接の時くらい、言葉遣いは直した方が良いな。」

「そ、そんな…!?」

「ほら、まず基本は語尾に“です”、“ます”、“ございます”をつけろ。ロゼッタを思い出せ。」

「デス…マス…ゴザイマス……。」

「ええと…長引きそうですし、お茶でも淹れますか?」


 その後、しばらくカティアの面接対策に付き合う事となった。



 * * *



-数時間後

@モルデミール軍基地 憲兵部


「クソ、まだ見つからないのか!?」


 モルデミール軍の憲兵部では今、史上最悪の強盗事件の犯人を追っていた。


 数日前、サングラスをかけたスキンヘッドの大男が、突如軍の配給所を襲撃し、大量の軍票を強奪していくという事件が発生したのだ。

 その後犯人は、迎撃に向かった兵士達をあっさりと退けると、まんまと逃げおおせてしまったのだ。


 その後、軍内部では閣下のお膝元に狼藉者が現れたと大問題となり、直ちに厳戒態勢が敷かれ、街の検問の強化が行われた。その狼藉者は、ギルドの工作員の可能性もあるのだ……。

 憲兵部も、面子をかけて犯人の捜索をしていたが、未だにその尻尾を掴む事が出来ずにいた。


 捜査に行き詰まっていたその時、憲兵部の通信機が非常事態を受信した。


『……るか!? ……部……だッ!』


「何だ? おい!」

「今、周波数を合わせます!」


『本部、聞こえるか!? 奴だ、奴が現れた!』


「何、場所はどこだ!?」


『検問所だ! 奴め…追い詰めたと思ったら、隠してたバイクで逃げやがった! 至急、応援を回してくれッ!』


「了解だ! おい、憲兵隊…出動だぁ!」

「「「「 おうっ!! 」」」」


 その後、数十台ものウルフパック(モルデミール軍制式車両)が、犯人を追って街の外へと爆走していくのを、住民達は不思議そうに眺めていた……。



 * * *



-昼過ぎ

@モルデミール軍基地 募集所


 しばらく隠れ家にて、カティアと面接の特訓をした後、俺達はモルデミール軍基地の募集所へと足を運んでいた。ミシェルは炊事兵、カティアは親衛隊、そして俺は整備兵に志願する予定だ。

 正直、普通の兵士はゴメンだ。どうせ訓練やら、上官のしごきやらがあるに違いない。そういうのは間に合っている。


 だが、カティアの面接練習をしていた時、ふと目に入ったポスターの一つに、整備兵募集の物があった。整備兵なら、訓練とかは無いだろうし、敵の兵器や技術レベルも偵察できる。

 俺はこれだ!と思い、整備兵に志願する事にしたのだった。


「……整備兵ねぇ。ちゃんと腕前が無いとダメだよ? 整備部の上官、厳しいので有名だからね。」

「はい! 腕前には自信があります!」

「そうか、そりゃ頼もしいね! じゃあ、とりあえずハンガーに行って、その腕前を確かめて貰おうか。おーい、この兄ちゃんをハンガーまで案内してやってくれ!」


(お前達も上手くやれよ?)

(は、はい!)

(ワ…ワカリマシタ…。)

(……カティア、もっと肩の力抜けよ。)


「ほい、じゃあついて来てくれ兄ちゃん!」

「はい、よろしくお願いします!」




 ヴィクターは、募集所の兵士に案内され、ハンガー(兵器の格納庫)に向かって行った。その後、残されたミシェルとカティアも、面談をはじめる。


「おいボウズ、本当に飯作れるのか? 俺もこの基地の食堂使ってるからな、不味かったら承知しないぞ?」

「は、はい!」

「まあ、いいか……。ウチの料理長は、“鉄人”って呼ばれててな。そりゃあ厳しい人だ。試験あるから、頑張れよ?」

「ありがとうございます!」

「おい、このボウズを調理部に案内してくれ! 次!」


 ミシェルが兵士に案内され、カティアの番が回ってきた。


「ヨ、ヨロシクオネガイシマス……。」

「何だ嬢ちゃん、緊張してるのか? 気楽にして大丈夫だぞ?」

「は、ハイ…。」

「で、希望は? 事務課か? それとも救護課か? 生憎、どこも人気でね。残念だけど、もういっぱいなんだよね……。」

「えと…親衛隊……親衛隊に志願します!」

「な、何だって!?」


 募集所の兵士が、驚いて席を立つ。


「じ…嬢ちゃん、悪い事は言わねぇ……親衛隊はやめとけ! どうせポスターに騙されたんだろ? あれはタチの悪い詐欺だ!」

「えっ?」

「これまでも、嬢ちゃんみたいに志願して来た馬鹿な娘は大勢いたよ? けどな、全員がその日の内に追い出されてるんだ。泣きながら出てった娘もいたな。」

「へ、へぇ……。」

「噂じゃ、相当厳しい試験があるらしい。それでもいいってんなら、案内するが……。」

「……上等じゃない。受けてやるわ!」

「マジかよ、忠告はしたぞ……。まあ、実際に体験した方が納得できるか。おーい、この嬢ちゃんも案内してやれ!」



 その後、3人はそれぞれの分野にて、選考を受ける事となった。


ロゼ《そういえば、モルデミール軍の方々の制服……連合軍の物と殆ど一致していますね。》

ヴィ《ああ、若干の違いはあるがな。それに、材質も崩壊前と比べたら安っぽい感じがする。》

ロゼ《しかし、何故連合軍の制服が?》

ヴィ《さあな。大方、軍の生き残りとかが今のモルデミールを興したとか、発掘して出てきた物を参考に作ったとかじゃないか?》

ロゼ《そういえば、ヴィクター様のお部屋に、連合軍の制服がありましたね。》

ヴィ《持ってくればよかったな。》

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― 新着の感想 ―
[良い点] 平民から募集する親衛隊……いやらしい響きしかしないぜ笑 ひと騒動あるのかな?
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