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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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101/199

96 湖に潜むモノ

-1週間後 夜

@ガラルドガレージ


「おおーッ! これ良い、凄く良い!!」

「中々似合ってるぞ、カティア。」

「初めてのことでしたが、上手くいって良かったです!」


 現在、ガレージでは、カティアの新装備お披露目会を行っていた。モニカ作のレザーアーマーだ。最近、ようやく注文していた革が手に入り、真っ先に作ったのがカティアの防具だった。どうも、以前から予約していたらしい。

 何でも、女性用の防具と言うのは、あまり出回っていないそうで、数少ない高ランク女性レンジャーが、オーダーメイドで作ることがある程度らしい。

 もっともその場合でも、大抵の場合は男の職人が作ることになり、色々と使い勝手が悪かったり、見た目も好みでは無かったりして、難儀するそうだ。


 その点、ウチのモニカは同じ女性として、その点色々と分かっている。なので女性にとって、機能性だけではなく、デザイン性にも優れた物を作ることが出来るみたいだ。

 カティアもレザーアーマーに袖を通して直ぐに、気に入ったのか、姿見の前でクルクルと回っている。


「うんざりした顔で採寸受けてたけど、気に入ってくれたみたいだな、モニカ?」

「ええ、上手く出来たと思います! それに、ヴィクターさんがくれた【塗料】も、違和感なくて助かりました。」

「…カティアには黙っててくれよ?」


 カティアの防具は、コルセットやビスチェのような形をしたものだ。胸部は、硬化処理を施した厚手の革を、カティアの胸のカップの形に合わせて成形したものを裏地にした、二重構造になっている。

 カティアは動きやすさを重視して、身体全体を覆うのでは無く、腹や胸、背中といった主要部をカバーするだけの構成だ。


 だが、レザーアーマーが役に立つかと言えば、その効果は限定的だ…。ミュータント相手には、多少の効果があるだろうが、人間相手なら銃弾は当然防げないので、せいぜい接近戦時の相手の拳や、ナイフの刃を止めることが出来るくらいだろう。

 しかし、それでもあるのと無いのとでは大違いなのか、レンジャーでも装備している者は多い。


 だが、万一カティアが被弾して、命を落としたら目覚めが悪い。そこで、俺は車の整備用に持っていた特殊な塗料を、カティアの防具に塗り、防御力を高めてやることにした。これを塗れば、多少の銃弾くらいは防げるようになるはずだ。

 勝手に塗ったらモニカに悪いと思って相談したが、命大事にとの事で、賛成してくれた。塗料といっても無色透明なので、デザインにも影響はないはずだ。


「今なら誰にも負けない気がする!」

「気がするだけだぞ?」


 ちなみに、カティアに塗料を塗った事は伝えてない。絶対に調子に乗るからだ。


「ねねっ、依頼! 仕事行かない?」

「今日はもう仕事しただろうが。それに今は夜だぞ、いい加減にしろ!」

「あっ、そうだった…!」


 若年性の認知症じゃあるまいし…。まあ、それだけ嬉しかったのだろう。


「皆さん、ご飯ですよ〜!」


 上から、ミシェルの声が聞こえてくる。


「ああ、今行くよミシェル! ほら、カティアも飯の時は外せよ?」

「わ、分かってるわよ!」



 * * *



-翌日 朝

@ガラルドガレージ


 翌朝。夜勤を終えたフェイが、ガレージへと帰って来た。


「ヴィーくんおはよう!」

「夜勤ご苦労様、フェイ。」

「ありがと♡ …それからヴィーくんにお客様よ。」

「客?」

「グラスレイクの人なんだけど…。村にミュータントが出たらしいわ…。」

「何っ!?」

「幸い、村と村人達に被害は出てないらしいんだけど……詳しくは、本人から聞いた方が良いんじゃない? 表に待たせてるわ。」

「そうだな、呼んできてくれ。」



 *  *



「新種だって!?」

「ええ、聞いた話だけだと、該当するミュータントは、ギルドのデータに無かったわ。今までに遭遇が報告されていない、新種の可能性はあるわ。」

「大きく暗い身体に、禍々しい大きな口……そして、水面から覗く二つの眼ねぇ…。」

「そうなのです、マスク…ヴィクターさん!」


 ガレージには現在、グラスレイクヴィレッジの助祭(トラックを運転できる5人の1人。司教の部下。)が来ていた。街に報告のついでに、資材や食料の調達に来たらしい。

 話を聞くと、俺が頼んでおいた湖の魚などの生物や、植生などを調査している時に、村人達がミュータントに襲われたらしい。しかも、新種かもしれないとのことだ。


 視察の時や、村を作ってからも、付近に危険なミュータントは生息していなかったはずだ。衛星から確認した限りではそうだった。

 だが、よく考えれば彼らも生き物だ。縄張りを追い出されたり、食料を求めて移動したりするだろう。それに、水中や湖底の泥に隠れていれば、衛星のスキャンから逃れられるかも知れない。

 衛星に頼って、ちゃんと調べなかったのはマズかったか…。


 グラスレイクヴィレッジは、まだ一般には知られていない村なので、野盗による襲撃もない。しばらくは安全だろうと、防衛よりも村の発展を優先したのは早計だったかもしれない…。



「まさか、あの湖にそんな奴がいたとは…。」

「あまり陸に上がっては来ないようで、ひとまず村人は湖に近づかないようにしておりますが……。」


 あの村は、まだ水道関係の整備が終わっていない。普段使用している生活用水は、湖から得ているのだ。このままだと、村人の生活に影響がある。

 しかも話を聞くに、そのミュータントは水生という訳ではなく、陸にも上がってくるらしい…。このままでは、いつ村人達が襲われてもおかしくない。




「という訳で、ミュータントの討伐に行きまーす!」

「ちょっと。ヴィクター、本気!? 本当に新種だったらどうすんのよ? 危険度も分からないのよ!?」

「そ…そうですよ、ヴィクターさん!」

「…カティア、その防具は飾りか? 昨日、暴れたいって言ってただろうが。」

「そ、それは……そうだけど…。」

「それに、危険度が高い奴がそうそう出てたまるかよ。それに、新種だったらギルドからたんまり貰えるぞ?」

「…行く! それに、ヴィクターがコソコソ何かしてる村も見てみたいしね!」

「え…カ、カティアさん!?」

「…さて、ミシェル。2対1だが、お前はどうする?」

「は…はい……僕も行きます…。」


 さてと、新チーム結成から1週間。初のデカい仕事になりそうだな!



 * * *



-昼前

@グラスレイクヴィレッジ


 あの後、助祭は資材や食料の買い付けに行った。その間に、俺達は先にグラスレイクへと向かう事にした。

 今回は、俺、カティア、ミシェルの3人の他に、新種かもしれないので、確認の為にフェイもついて来る事になった。……夜勤明けなのに、ご苦労なことだ。フェイには、助手席で寝ていて貰おう。


 といっても、今回も死都を通過することにしたので、皆大騒ぎで、寝るどころではなかったのだが。




「「 わぁ〜!! 」」


 グラスレイクヴィレッジに到着すると、荷台のカティアとミシェルが、花畑に目を奪われていた。二人はこの村に来るのは初めてだ、この光景には見惚れてしまうだろう。

 それにしても、ミシェルのようなやんちゃ盛りの男の子でも、花畑には目を奪われるんだな…。ちょっと意外だ。


「…それにしてもヴィーくん、何でいつも死都を通過しても無事でいられるの? 前も疑問に思ったけど…。」

「えっと、ミュータントの少ない道ってのがあるんだよ。……ガラルドに教えてもらってさ。」

「…ふ〜ん。」


 助手席のフェイが、ジトっとした目で俺の顔を見てくる。マズイ、疑われてるな。……ただ夜勤明けで、疲れてるだけかもしれないが。


「そ…そういえば、家のメイドさん達、元気かな? フェイも疲れてるだろうし、とりあえず家に行くか!」

「家……私達の…! そうね、そうしましょう!」

(…私達? まあ、深く考えるのはやめよう。)


 とりあえず、フェイはチョロいから、都合が悪かったら話を逸らしてやればいい。上手くいったみたいだ。


 村人達に車から挨拶しながら、俺の家へと向かう。


「まさか、こんな場所に村が出来てるなんてね!」

「僕も初めて知りました! お花畑も綺麗で、湖と山も絶景です!」

「カティア、ミシェル、この村の事はまだ黙っててね。ギルドでの手続きが、まだ終わってないから。」

「おい皆、もうすぐ着くぞ!」


 俺の家の前に車を停めて、降車する。……何か、前より綺麗になってる気がする。前は花壇とか、テラスとか無かった筈だが…。

 それに、いつの間にか新たにガレージまで建てられている。ありがたいが、俺としてはその資材を、もっと村の為に使ってほしいな…。


「立派な邸宅ですね、ヴィクターさん。」

「ヴィクター、こんな屋敷に何の用なの?」

「「 ご主人様、お帰りなさいませ! 」」

「「 ……えっ? 」」


 家の玄関から、以前雇ったメイドの2人が飛び出して来た。


「花壇とか、お前達がやったのか? 前より綺麗になってるな。…ガレージはやりすぎだと思うが。」

「「 お褒め頂き、ありがとうございます! 」」

「貴女達、4人分のお茶を用意してもらえるかしら? まだ昼食には早いでしょうし…。」

「「 すぐに準備致します、奥様! 」」

「「 奥様ァ!? 」」


 メイド達は、家の中へと帰って行く。


「ちょ、ちょっとちょっと! 何、どういう事!?」

「ま、まさか…この家って……!?」

「ああ、この家……ヴィーくん(と私)のお家なのよ。」

「「 えぇ〜ッ!! 」」


 カティアとミシェルが驚いて上げた声が、湖を超えて、奥に聳え立つソルトマウンテンの山脈に跳ね返り、山彦となって返ってくる……ような気がする。


「ど、どういうこと!? ちょっと、ヴィクター!?」

「た、確かに…ヴィクターさんが、ご主人様って呼ばれてましたね…。本当に、ヴィクターさんのお家なんですか!?」

「ああ、この家は俺の家だ。成り行きで、貰うことになったんだ。」

「「 ……。 」」

「さあ皆、中に入ってお茶にしましょう。」

「あ、俺…ガレージに車入れてくるから、先に中に入っててくれ。」



 * * *



-30分後

@グラスレイクヴィレッジ ヴィクター邸


 あれから、カティアによる尋問が始まった。そういえばカティアには、この村の事を詳しく話していなかった。というのも、話したところで、カティアから有益な情報が出てくるとは思えなかったからだ。


「……で、気がついたら形だけでも村の村長になってて、この屋敷を貰ったと。」

「そうなるな。」

「……本当、ヴィクターって何者なのよ。普通の人間は、村なんて一から作れないわよ…。」

「運と、縁が良かったんだな。この村の連中は、カティアを狼旅団のアジトから救出した時に、ついでに助けた連中だからな…。だから、カティアがいなかったら、この村は出来てなかった事になる。」

「うぇ…何それ? 人の失敗が語り継がれていくみたいで、何か嫌なんだけど!」


 そもそも、カティアがいなければこの村は出来なかったし、フェイと今の関係にはならなかっただろう。疫病神なのか、キューピッドなのか……。だが、村の連中の顔を見れば、悪くないなという気持ちになる。


「ご主人様…。もうすぐお昼ですが、食事は如何いたしますか?」

「あっ、ヴィクターさん。僕も手伝いますよ!」

「そうだな…。じゃあミシェル、食材を見て適当に何か作って貰おうかな。」

「ご、ご主人様! お客様にそんな…!」

「ああ、いいからいいから。…それに、ミシェルは料理の天才だ…。盗めるもんは、盗んでおけよ?」

「「 ……ゴクリ。 」」

「ヴィクターさん、天才なんてそんな…!」

「それに、この家のキッチンは、ガレージより良いやつだから、期待してるぞ!」


 ミシェルが来てからというもの、ガレージの食事はミシェルに任せている。その結果、ガレージの食事の質は向上した。食費はその分嵩んでしまったが、現状大した問題ではない。

 また、積極的に他の家事も手伝ってくれるので、モニカの家事負担も減り、工房で作業する時間が増えた。俺達が狩ってきた獲物や、購入した革も届き始め、布地なども仕入れて来たので、今後はモニカにもガレージの収入源として、働いてもらえるだろう。


「…ヴィクター、私の顔に何かついてる?」

「いや、別に…。」


 カティアも見習ってほしいね…全く!


「……あ、ミシェル! 忘れてたわ…客がもう一人来るはずだから、一人分多めに用意してくれると助かる!」

「? …はい、分かりました!」



 * * *



-1時間後

@ヴィクター邸


「いやはや、まさかマ…ヴィクター様のお宅でご相伴にあずかれるとは、光栄でございます!」

「悪かったな、司教。まずそっちに挨拶するべきだったな。」

「いえいえ…皆様もお疲れでしょうし、我々は二の次で良いのですよ。」

「そうもいかない。今回は村の危機なんだろ? 不本意ながら、俺は一応村長だし、動かない訳にはいかないだろ。」


 昼食前、司教が訪ねて来た。俺が言っていた客というのはコイツのことで、昼食の後、新種のミュータントの情報を話して貰うことにした。


「…で、どんな奴なんだ?」

「はい、体長は20m程で、身体は暗くゴツゴツしていたそうです。水面に何か浮いていると思っていたら、突然大きな口を開けて、水面から飛び出して襲いかかって来たそうです…。」

「「 あわわわ…。 」」

「と言っても、今のところ湖から離れる気は無いのか、村は平和そのものですが。」

「「 ふぅ…。 」」

「しかし、水汲みに危険が伴うので、村人達も不安がっておりまして…。」


 カティアとミシェルが、抱き合って怯えている。確かに、得体の知れない物に、人間は恐怖を抱くものだ。だが、俺には話を聞いて、相手の正体の予想ができていた。

 恐らく、新種のミュータントというのは、ワニだ。セルディアは本来、ワニが生息している国では無いのだが、何らかの要因があったのだろう。……現状、俺の知識で該当する特徴を持つ生物は、ワニしかいない。


 しかし、20mか…。崩壊前でも、最大種のイリエワニで10mいかない大きさだった筈だ。それでもかなりデカイが、それ以上のサイズになるとどの位の迫力があるのだろうか?

 その様な事を考えていると、家の扉がものすごい勢いで叩かれ、一人の村人が血相を変えて入って来た。


「た、大変だぁ! 奴が、奴が…!!」

「静まりなさい! 村長の御前ですよッ!!」

「ヒィ! お、お許し下さい司教様、村長様ァ!!」

「茶番はそのくらいにしておけ、司教。で、お前……何があったんだ?」

「は、はい村長…。奴が、奴が陸に上がって来たんですッ!!」

「ッ! ヴィクター、窓の外見てッ!!」


 カティアの声につられて、窓の外を見ると、湖岸に超巨大なワニが上陸し、迫力ある姿で佇んでいた。


「な、何てデカイんだッ!! 本当にワニかよ!? まるで怪獣だな!」

「や、ヤバすぎでしょ!? 逃げましょう、ヴィクター!」

「凄く…大きいです…!! あんなの相手になるんですか、ヴィクターさん!?」


 俺は興奮していた。巨大な生物を前にして、恐怖よりも、少年のような好奇心が俺の中で弾けていたのだ。


「とりあえず、近くに行ってみようぜ!」

「あっ、ヴィーくん待って! カメラ持っていくから!」

「「 ご主人様、奥様、お気をつけて…! 」」

「マスク様……ご武運を!!」

「えっ、ちょ……ヴィクター、本気なの!? てか、貴方達も何で二人を送り出してるのよッ!?」

「ヴィクターさん、待って下さいッ! 危ないですよッ!!」

「あっ、ミシェルまで…! くっ……ま、待ってよ! 私も行くから!!」

【塗料】

 特殊な樹脂を主成分とする、高吸着性の塗料。塗布された物に、高強度と耐衝撃性を付与する。例えば、この塗料で塗られた卵は、ハンマーで叩かれたり、拳銃の銃弾が直撃しても割れなくなる程。

 他にも耐爆、耐火、防錆、防食、防水、防塩、防音、耐摩耗、耐薬品性、滑り止めなどに効果を発揮し、適度な柔軟性を持ち耐久性が高く、安全性も高かった事から、自動車や住宅…果ては政府施設や軍にまで、民生品ながら幅広い分野で使用されていた。欠点は、値段が高いこと。

 カティアのレザーアーマーに用いられたのは、無色透明カラー。


モデル  LINE-X

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