表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/199

95 クエントはどこだ!

-数時間後

@カナルティアの街 西門


 あれから、南、東、北と門を周ったが、クエントに関する情報は得られなかった。得られないなら、それはそれで、街から出ていないということなので、良い事なのだが、そう都合良くはいかないみたいだ。


「あっ、ヴィクターさんじゃないですか!?」

「ええと…誰だっけ?」

「自分は、スラム襲撃の際にお世話になった者です! あの時はご協力、ありがとうございました!」

「ああ、あの時いた奴か。だったら話が早いな。」

「えっ?」

「あの時一緒にいたレンジャー…クエントを探してるんだが、何か心当たりはないか?」

「クエントさんですか? そういえば昨日、この門を通りましたよ。」

「何ッ!? その話、詳しく教えてくれ!」

「ええと、何やら暗い雰囲気で、話しかけても無反応でしたね…。遠出をするには小さなバイクに乗ってたので、依頼か何かですかね?」

「バイクか…。ミシェル、クエントってバイクなんて持ってたのか?」

「い、いえ…持ってないです。乗り物なんて買うお金が無いですよ。……いや、でも最近は結構稼いでたので…まさか!?」

「…次に行く場所が決まったな。」


 どうも、クエントはバイクで街を出て行ったらしい。しかも、奴はバイクを持ってなかった。という事は、この街でバイクを調達しているはずだ。


 調達した店で、バイクのスペックを聞き出す。そうすれば、クエントの行動半径が割り出せる筈だ。無闇に追いかけるより、ここは慎重に追跡した方がいい…。



 * * *



-数十分後

@北部地区 自動車屋


 街の北部地区は、工場街だ。小さな町工場や、工場、倉庫が集中しており、街の製造業を担っている。

 そして現在、俺達はギルド系列店の自動車屋を訪れていた。


 クエントは、銃などの自分の身の安全に直結する物は、ギルド製の信頼性の高い物を選んでいた。旅に出る時のバイクも、おそらくギルド製の物を使っているはずだ。

 そう考えたのだが、ドンピシャだったらしい…。


「ええ、確かにそのお客様なら、ウチでバイクを購入していかれましたね。ほら、ちょうどコレと同じモデルです。」

「カタログとかあるか? スペックが知りたいんだが…。」

「ええ、もちろんです! そのお客様も、昨日即金で買われていったんですよ! …人気なんですかね?」


 店員から、バイクのスペックを聞く。意外なことに、かなり燃費が良い。聞いた通りのスペックだと、街の外に出て他の村や町で燃料を補給すれば、かなりの距離を移動できてしまう。

 バイクの航続距離内には、いくつも村があり、もう何処に移動したか分かったものではない。すでに1日経っているし、追うのは困難だろう。


「それで、如何ですお客様? 今ならエンジンオイルをお付けして、お安くできますよ?」

「いや、バイクを買いに来た訳じゃないんだ。」

「そ、そうなのですか…。では、自動車なんかは如何ですか?」


 店員が指差す方を見れば、懐かしい物があった。ガラルドが乗っていたものと、同モデルの車だ。だが、それならノア6で組み直せば、手に入れることができるし、今の車より性能が落ちてしまう。

 それに、俺が求めているのは4人とか5人乗りの車だし、自分で乗る物は、ノア6で作った物の方が良い。悪いが却下だな…。


 さて、フェイの仕事が終わるまで、まだ時間がある。もう少し、調べるとしよう…。



 * * *



-夜

@ガラルドガレージ


 結局、自動車屋を出た後も、継続して調査したのだが、クエントらしき人物が、食糧と弾薬等の旅で必要になる物を買い込んでいた、という事くらいしか分からなかった。

 もし、その人物がクエントだったとしたら、購入した食糧の量からして、かなりの遠出を想定しているようだった。


 だがやはり、俺達だけでは限界があった。何処へ行ったかまるで検討がつかないのだ。ここは、フェイに期待するしか無いな…。



「ただいま、ヴィーくん! …んちゅ♡」

「ん…お帰りフェイ。」

「全く、人の家だってのに……。」

「あ、あわわ…!?」

「わー、ダメです! ミシェルにはまだ早いですッ! 見ちゃダメですッ!!」

「モニカ、ミシェルの目を塞いでも今更じゃない?」


 フェイがお帰りのキスをせがんできたので、答えてやる。……確かに、ミシェルにはまだ早そうに見える。

 だが、15歳ならあと1年で成人(崩壊前の成人は16歳)だし、ミシェルの1こ上のノーラだって、この間女になったばかりだ。いい加減に、慣れてもいいだろう。

 ミシェルはイケメンだし、今後女子から言い寄られる事も多そうだしな。


「で、フェイ…何か分かったか?」

「ええ。…というか、当事者を連れて来たわ。」

「当事者?」

「ほら、入って来なさい!」


 フェイが入り口に向けて声を掛けると、タンクトップにホットパンツという、露出度の高い女性がトボトボと入って来た。あのギャル受付嬢の、ブレアだ。


「ど、ども…。」

「ほらブレア、ヴィーくん達に説明しなさいッ!」

「はい…。」


 ブレアは、ポツリポツリとこの事態の真相を語り始めた。



 * * *



「…要するに、クエントはブレアに愛の告白をしたが、ブレアはそれを断った。で、クエントは自棄(やけ)になって、何処かに消えたと…。」

「何それ、馬鹿じゃないの?」

「……。」


 クエントが姿を消した理由……それは、失恋だった。そういえば、前からブレアに告白するしないで優柔不断だったが、遂に決行したのか。……結果は残念だったようだが。

 周りを見れば、皆呆れている。ミシェルに至っては、死んだ魚のような目をして俯いている。


「そういやブレア、何で断ったんだ? あいつも最近、稼ぎがいいだろうに。」

「そ、そうだけど…。その…今まで色んな奴に媚びってたけど、マジになられたのって初めてで…。」

「は?」

「その…胸がドキドキして……耐えられなくなって、それでつい…。」

「はぁ!?」


 何だ、コイツ? こんなん、俺の知ってるブレアじゃないぞ!? 何、顔赤らめてモジモジしてるんだよ。まさか、こんなに初心(ウブ)だとは思わなかったわ…。


「ヴィーくん、ブレアは後悔してるらしいの…。クエントに謝りたいって、本当はOKだって伝えたいらしいの。」

「ちょっ! フェイ姐さん、恥ずかしいんですけど!」

「本当、青春って感じね〜♪ あのブレアに春が来るなんて、先輩として応援してるから!」

「姐さん…!」


 何が先輩だよ、フェイ…。お前もついこの間までは、堅物の処女だったろうが。

 流石に突っ込まなかったが、俺はある違和感に気がついた。


「あれ、そういえばフェイ。クエントの足取りとか分かったのか?」

「いいえ? どこかの支部とか、出張所で依頼を受けたり、ギルド管理の街に入ったりしたら、履歴が残るけど、そんなの無かったわ。ってことは、まだ街中にいるんじゃないの?」

「いや、それが…。あいつ、この街を出て行ったらしい。目撃証言もある…。」

「えっ…それ本当なのヴィーくん!?」

「残念だが、マジだ。」


 はっとしてブレアを見ると、先程のノロケた態度から一変、顔を青くして絶望の表情を浮かべていた。


「えっ……嘘…でしょ…? あたしの、せい?」

「ぶ、ブレア…大丈夫よ、貴女のせいじゃないわ…。」

「そ、そうだよ…なぁ、カティア?」

「うぇ!? そ、そうよそうよ! 全部、クエントがナヨナヨしいのが悪いのよ! ねぇ、ミシェル?」

「おま…ばっか…!」


 カティアめ…よりにもよって、何故ミシェルに振るんだ! 傷を抉るんじゃない!

 ミシェルを見ると、モニカの膝の上に人形のように乗せられて、モニカに頭を撫でられている。その面持ちは暗い……。


「ミシェル…大丈夫、大丈夫だからね…?」

「…ありがとうございます、モニカさん。でも、ハッキリしました。あんな師匠、こっちから願い下げです! 僕にも、皆んなにも迷惑をかけて…!

 せいぜい頭を冷やしてくればいいんですよッ!! だいたい、あの人はいつもいつも……!」


 あのミシェルが、ついにおかしくなってしまった! クエントに対して、色々溜まっていたのだろうか? 怒り出したと思いきや、急に泣き出したりと、感情が不安定らしい。

 ブレアも、床にへたり込んでシクシク泣いている。


 ミシェルの方は、モニカが話を聞いたり、ハグしたり、頭を撫でたりしながら、ミシェルを宥めていた。……モニカ、ミシェルの事が気に入ったのかな? 何か複雑な気分だ。


 ブレアの方は、フェイとカティアで慰めている。全く、騒々しい一日だな。勘弁してくれ!!



 * * *



-2時間後-


「…メシ買ってきたぞ。もう夜遅いけど、腹減ってたら食ってくれ。」

「あ、お帰りなさいヴィーくん。」

「で、二人はどうした?」

「疲れて眠ってるわ…。」


 正直、修羅場はゴメンだし、ブレアを慰めるなら同じ女性がいいだろうし、ミシェルはモニカが何とかしてくれそうだったので、俺には出る幕が無かった。

 なので俺は外出し、Bar.アナグマにて、人数分の軽食をテイクアウトで貰ってきたのだ。…ついでに、ほとぼりが冷めるまで少し飲んで来た。


 ソファーを見ると、ブレアが寝ており、ミシェルはカティアのベッドに寝かされているようだ。


「で、ヴィクター。ブレアはいいとして、ミシェルはどうするのよ?」

「そうだなぁ…。」

「あの、ヴィクターさん。ウチで預かってはいけませんか?」

「ちょっとモニカ、この家は私のだからね!」

「あっ、そうでした…!」

「何だモニカ、ミシェルの事が気に入ったのか?」

「は、はい…。すごく可愛くて、色んな服が似合いそうだなと…。あっ、ごめんなさい!」


 一瞬モニカから、ローザが俺に試着をせがんで来た時のような、邪悪なオーラを感じた…。ミシェルをここで預かったら、モニカの餌食なってしまうかもしれないな。

 だが、現状ミシェルに居場所は無いのだろう。ミシェルは、崩壊後の世界における俺の少ない知人の一人なので、力になってやりたい思いはある。


 しかし、このガレージで預かるにしても、クエントが帰って来るのがいつになるか分からないし、そもそも帰って来るか分からない。

 精神的に帰って来れないかもしれないし、何処かで野垂れ死んでしまっているかもしれないのだ。


「なあ、フェイ。この場合って、ミシェルの扱いはどうなるんだ? 師匠と離れ離れだが、チームとして登録されたままなのか?」

「いや、一定期間一緒に活動してないと、登録は抹消されちゃうわね。それか、ミシェルも吹っ切れたみたいだし、自分からチームを抜けちゃうかもね。」

「そうなると、フリーなんだよな?」

「ちょっと、ヴィクター…まさか!?」

「まあ、本人次第だな…。」



 * * *



-翌日-


 人間、眠ってしまえば感情が落ち着くものだ。ブレアは、大分回復したようで、フェイとギルドへ出勤して行った。

 だがその一方で、感情が落ち着いた事で、感情が昂ぶっていた時の行動を後悔する者もいる…。


「ご迷惑をおかけして、本当にごめんなさいッ!」

「いいよ、気にすんなミシェル。」

「そうよ、あんな奴ほっときましょ!」


 ミシェルは目を覚ますなり、こうして平身低頭している。何とか宥めて、いつもの調子に戻ってもらってから、俺達のチームに招待した。


「どうだ? 悪い話じゃないだろ?」

「それは…。願ってもない話ですけど、本当に僕なんかがいいんでしょうか? 役に立つとは思えませんが…。」

「ミシェル…自分を卑下するもんじゃない。」

「で、でも…。」

「もちろん、俺達のチームに入る以上、役には立ってもらうぞ?」

「そ、それはもちろんです! 何でもしますッ!」

「ん? 今何でもするって言ったよね?」

「えっ…。」

「ちょっと、ヴィクター! ミシェルに変なことしないでよね!!」

「冗談だよ。そうだな…食事の用意とかを頼もうかな。」

「へ…?」


 ミシェルは、料理ができる。…それも、かなり上手だ。普段、ガレージの食事はモニカとフェイが用意しているのだが、その味は辛口に言えば普通だ。

 二人共、崩壊後の基準なら相当料理上手なのだろうが、俺が崩壊前の出身だからか、二人の料理に感動するような事は無かった。


 だが以前、秘密基地にてミシェルの料理を食べた時は、素直に美味いと思ったのだ。間に合わせの食材しか無く、調味料も限られていた状況で、あの料理を作り出せるのだ……普段は、もっと凄いに違いない!


「食事の準備、家事の手伝い……下っ端の基本だろ? これが出来るなら、ウチに置いてもいい。」

「ヴィクターさん…条件が優し過ぎです。ダメですよ、これじゃあ……。」

「それから俺達のチームに入る以上、お互いに遠慮しない事。このチームでは、家族みたいに接して欲しい……まあ、最低限の限度はあるがな。カティアを見ればわかるだろ? コイツを反面教師にすればいい。」

「ち、ちょっと! 私が遠慮してないみたいじゃない!」

「してないだろ? …借金とか。」

「もう返したでしょ! いつまで引っ張るつもりよ!?」

「…うふふっ。」

「…ミシェル?」

「ふふ……分かりました。はじめのうちは慣れないと思いますが、どうぞよろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくねミシェル!」

「よし、じゃあ早速登録に行くか!」



 その後、ミシェルはクエントのチームから抜け、正式に俺達のチームの一員となった。そして、この出来事が後に、ミシェルの人生を大きく左右する事になるのだった。



 * * *



-1週間後

@どこかの町の食堂


「はいよ、兄さん。…何だい、浮かない顔して。」

「ああ、ちょっとね…。」

「兄さん、表のバイクで旅してんだろ? 旅人ってのは、細かいことは気にしないもんだと思ってたけどねぇ…。」

「まあ、色々とあったのさ…おばちゃん。」


 クエントは、ひたすらにカナルティアの街を離れ、自らの故郷に向かっていた。

 故郷に帰れば、可愛い妹達が待っている。そういえば、もう何年も会っていない。最後に会った時は、小さかったが、大きくなっているのだろう。彼女達に会えば、失恋し傷ついた心も癒えるはず……そう信じて、彼は一人旅を始めたのだ。


「ほら、しゃんとしないか! 飯でも食えば、気も紛れるってもんだろ? それに、ウチの料理はここいらじゃ一番美味いって、評判なんだ。兄さんも食ったらビックリするよ!」

「ああ、元気出たよ。ありがとう、おばちゃん。」

「そりゃ良かった、じゃあ冷めない内におあがりよ!」


 元気な女将さんだな…。そう思いながら、料理に手をつける。


(う〜ん、ミシェルの料理の方が美味いな…。今考えたら、ミシェル…レンジャーじゃなくて、料理人目指した方が良かったんじゃないか?

 …そういや、ミシェル…元気にやってるかな?)


 その後他の街にて、路銀を稼ぐ為にギルドを訪れた際に、彼はミシェルが自分のチームから抜けたのを知った。そして、彼は傷心の中、違う街の受付嬢に一目惚れしてしまい、セクハラをして怒られることになるのだった…。

【クエントのバイク】

 クエントが失踪する際に、即金で購入したバイク。ギルド製。旅に出るには、比較的小型ながら、頑丈さと燃費は折り紙つき。


モデル  ホンダ・CT125


※クロスカブの予定でしたが、ハンターカブの新型コンセプトを見て、こっちの方がいいなと思い、変更しました。(2019.09.29)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ