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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
精霊界騒動/精霊界の行く末
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92 出発


 「おはよう後輩君、アリア」

 「おはようございます先輩。ちなみにアリアはまだ来てませんよ。朝食にがっついてたんで置いてきました」


 翌朝、出発の時が来た。

 ヤマトとピピは集合場所である城門に集まっていた。


 「お待たせー……と言うよりも何で置いて行くのよ」

 「待ってたらいつまでも食い続けていそうだったから急かす意味を込めて」

 

 ヤマト、ピピのもとに朝食を終えたアリアも合流した。


 「お城の朝食の食べ納めなんだから少しくらい良いじゃない」

 「別に完全な食い納めではないけどな。収納があるから何食分か貰って来てるし」

 「良い判断ね!」 


 《次元収納》に仕舞っておけば腐敗しない。

 その為、調理済みの料理もお願いして補充してある。


 「……あれ?お見送りは無し?」

 「みんなはみんなで忙しいんだよ。ティアとフィルはさっきまで居たけど、待ち合わせ(・・・・・)の時間だからギルドに向かったよ。二人によろしくだってさ」


 ピピとアリアが来る直前までは、ティアとフィルの二人もこの場に見送りに来ていたのだが、冒険者ギルドから依頼(・・)に関する連絡があり、そのままヤマト達よりも先に出かけて行った。

 他の面々もそれぞれの用や準備もあるので、そもそも見送り自体を必要ないと断ってある。


 「という訳で、準備が整ったのなら出発しよう」

 「おー!」

 「まずは歩きで王都の外ね」


 三人は王城を離れて歩きで王都の外を目指した。

 今回も使うのは例の自転車。

 普通の馬車ならば町中でも問題は無いだろうが、いつも通り人目は避ける。

 そして精霊組は、目的地を目指して王都を後にした。



 「――卑怯。これは卑怯。とてもずるい……ずるいと思ってたシフルさんの馬車よりも更にずるい」


 自転車を漕ぎだしてからすぐに、ピピから文句が出てきた。

 漕ぐのはヤマト、アリアはヤマトの中、そしてピピは人力車でまったり。

 ヤマトには慣れた布陣だ。


 「何が卑怯?」

 「まず速度。これは速過ぎる。今までの地道な苦労は何だったのって感じになる」


 真顔で文句を言うピピ。

 ピピは冒険者。

 依頼で町を行き来する事もあるだろうが、その際は徒歩や普通の馬車を使う。

 それと比較しての文句であろう。


 「次に乗り心地。この速度で何故全く揺れない?頑張って耐えていたあの日々は一体……」


 何やら遠い目をするピピ。

 色々と思い出が過っているようだ。


 「寝れる。これはまず間違いなく眠る事が出来る。と言う訳で後はよろしくー……」


 文句を言い終えるとそのまま眠りに付いたピピ。

 まだ出発から三十分も経っていない。

 夜もしっかり寝ているはずなのだが、すんなりと眠りに付いている。


 「……まぁ良いけど」

 「(ヤマトヤマト)」

 「アリア、どうしたの?」

 「(この先で雨の気配がする)」


 水の精霊であるアリアは水の気配には敏感らしく、雨でも予想する事が出来る。

 そのアリアが進行ルートに雨の気配を感じ取った。


 「どのくらい?」

 「(結構強い。すぐ豪雨になると思う)」

 「迂回は出来る?」

 「(範囲が広いから完璧に避けようとすると相当に時間が掛かるわよ)」

 「なら速度を落としてでも真っ直ぐ進むか」


 幸いピピの乗る部分は屋根を全開にすれば雨対策が取れる。

 アリアはヤマトの中なら濡れる事は無いし、そもそも水の精霊なので濡れる心配をする必要も無い。

 濡れるのはヤマトだけで済む。

 そうして進んでいると、進行ルート上の雲と雨がヤマトの肉眼でも見えるようになってきた。

 確かに豪雨と言うに相応しい雨量のようだ。


 「(フードぐらいは被りなさいな)」

 「分かってるよ。後は視覚も強化しておいて…それじゃあ突っ込むぞ」


 そしてヤマト達は豪雨地帯に踏み込んだ。




 「――ようこそ〔スタド〕の町へ。大変だったな」


 豪雨の中で辿り着いたのは〔スタドの町〕。

 ヤマトにとって、異世界人生で最初に訪れた町に戻ってきた。

 

 「ぐっしょりー」


 乗ってる間は雨に一切濡れなかったピピだが、これもいつも通り町の手前で自転車を降りなければならず、徒歩の間にぐっしょり濡れた。

 この規模になると外套も気休めにしかならなかった。


 「いらっしゃいませ……あ、ヤマト様ですね。お久しぶりです」


 その足でヤマト達がやって来たのは、ヤマトがこの世界に来て初めて泊まった宿である〔鈴の音亭〕であった。

 看板娘のリリは一泊しかしていないヤマトの顔を覚えていたようだ。

 

 「こんばんは。よく覚えてましたね」

 「これでも看板娘ですから。私が直接ご案内した方々でしたら絶対に忘れません……そちらのお客様は初めてですよね?」

 「うん。この町には来た事あるけど、別に泊まったから」


 何という記憶力。

 それも二つ名"看板娘"の由縁なのだろうか。


 「中級に昇格されたのですね。おめでとうございます。ですがそれですと新人向けの割引価格には――」

 「あ、大丈夫です。分かりますから」


 以前あった新人冒険者向けの割引は既に適用外のようだ。

 今は中級、流石に当然だ。


 「ところで、お二人はご一緒で?……この天候のせいか本日はお客様が多く、部屋が少なく出来ればお仲間同士で――」

 「同じで大丈夫ー」


 リリの言葉を遮り答えるピピ。

 どうやらヤマト達同様に、予定外の足止めや雨宿りでこの町に寄った人たちが多かったようだ。


 「分かりました。それでは受付させて頂きます」


 返事を聞き、問題なく受理される。

 この宿自体はそこそこ質の良い宿であるが、客層が平民や冒険者メインな為かアロンの宿と違い特に男女同室に関しては気にしていないようだ。

 そしてピピ側も気にしている様子は無いので、となれば問題はなさそうだ。

 そのまま案内され、以前と違う二人部屋へと通された。


 「お風呂先に借りるー」

 「はいどうぞ」

 「……覗いちゃやーよ?」

 「覗かないので心配しないでください。後その言い方は何ですか?」

 「お先にー」


 部屋に着いて早々、ピピは一足先にお風呂へと向かった。


 「さてまずは乾かして――」

 「ちょっと貸して……はい出来た!」


 アリアがヤマトの衣服に触れると次々とびしょ濡れの服が渇いていった。

 ヤマトも魔法で出来る事ではあるが、やはりアリアがやったほうが格段に速かった。

 流石の水の精霊である。


 「ありがとう。後で先輩の服にも頼む」

 「勿論」


 服も渇き《浄化》も掛けたため、ようやく椅子に座り一息をつく事が出来た。

 雨自体はそこまで苦にならないが、豪雨となればやはりそれなりに体力は消耗する。


 「予定なら〔森〕に着いてたはずなんだけどな」

 「仕方ないわよ。これでもあの自転車移動な分で相当に速い訳だし、過度な焦りは禁物よ?」

 「まぁそうだけど」


 スタドの町は目的地の手前。

 本来なら真っ直ぐ目的地へと向かう予定だったのだが、豪雨のせいで予定が遅れてしまった。

 これでも普通の手段に比べれば格段に速いのだが、それでもやはり遅れは気になる。

 だがこれはこれで、ゆっくり休んでから目的地に踏み込めると考えれば悪くはない。


 「アリアの言う通りー。焦り過ぎると損をする」

 「随分と上がるの早かったで……何をやってるんですか?」

 

 風呂上りのピピは、バスタオルを体に巻き付けただけ(・・)の姿であった。

 この子は何をやっているのだろうか。


 「とりあえず服を着ましょう。覗くな言ってた人がなんて恰好をしてるんですか……」

 「ちゃんと隠れてるよ?後ろも」

 「わざわざ確認させなくていいです。あと尻尾振ると際どくなるのでやめてください」


 どうやらピピは、異性と一緒の部屋に押し込んでは行けない人種だったようだ。

 確かに大事な所は隠れているが、そういう問題ではない。


 「……アリア、頼んだ」

 「はいはいピピは着替えてから出て来ましょうね」

 「袋そっちー」

 「はいはい何で一緒に持って行かなかったのよ?」

 「ついー」


 ピピはそのままアリアに連れられ、部屋に置いて行っていたピピの〔魔法袋〕も拾って脱衣所へと戻って行った。 


 「……疲れた」


 今のやり取りが今日一番疲れる案件になった。



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