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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
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87 勇者対使い魔



 「――はぁッ!」

 「……今更なんだけどさ、試し切りって言うのなら同じ剣士とか武人を相手にしたほうが良かったんじゃないのか?」

 「ホントに今更だな。もう始めてるのに」


 開始された勇者(タケル)使い魔(ヤマト)の模擬戦。

 現状はヤマトが適度に放つ魔法を、タケルが聖剣で一つ一つ切り伏せている。


 「剣士は剣士でレインハルト辺りに今度相手して貰うさ。それに良い機会だし、せっかく何だから魔法使いのヤマト相手にも…あっぶ!質問してるのそっちなんだから話の合間ぐらい手を止めても良いんじゃないのか!」

 「ただの発射装置じゃないんだから不意を突くぐらい普通にするだろ。ほらどんどん行くぞ」

 「やる気満々じゃねぇか!」


 ヤマトも当てるつもりで《魔力弾》を放ち続けているが、タケルはキッチリ斬り伏せて来る。

 今のところ有効打を一つも与えられていない。 


 (一対一の正面からだと、この程度の手数じゃ簡単に捌かれるか。それなら試しに……)


 ヤマトはギアを上げて行く。


 「《四連/炎弾》」

 「数を増やして来たか。だけどこのくらいなら――」

 「《八連/炎弾》」

 「倍になった程度じゃ――」

 「《十六連(イチロク)/炎弾》」

 「更に――」

 「《三十二連(サンニー)/炎弾》」

 「ちょっと待て数が――」

 「《六十四連(ロクヨン)/炎弾》」

 「多い多い多い!!」


 ちょっとした意地の張り合い。

 倍々で増えて行く炎弾を斬って斬って斬りまくるタケルであったが、流石に処理が追いつかなくなってきた。

 ヤマト側も同時展開数のお試しを兼ねているので更に数は増える。

 

 「《百二十八連(イチニーハチ)/炎弾》」

 「熱い!……だけどダメージ自体は大したことないな」


 この数でも迎撃率は八割。

 一度に全てを相手する訳ではないので仕方ないと言えば仕方ない。

 それよりも当たった一発一発が勇者の防御の前では大したダメージにはならないのが問題だ。

 幾ら当ててもダメージ無しでは意味がない。


 「《百二十八連(イチニーハチ)/豪炎弾》」

 「またその数…重い熱い痛い!?」

 

 今度は数はそのままに質を上げる。

 そんな二人の様子を眺める観客が三人居る。


 「あの威力なら確かにそれなりにはダメージになるわね」

 「アレでそれなり(・・・・)なんですね。結構威力あると思うのですけど」

 「大して堅い装備は着けていないのに、それでもパーティー(うち)だと盾持ち騎士(レインハルト)に次ぐ防御力だからね」

 「まぁ勇者ですから。あれぐらいならそれなりで済みますよ」


 驚くメルト、呆れるシフル、当然と言うティア。

 巻き込まれない様に壁際に立ち、二人の様子を観戦する。


 「魔力弾ってあんなに出せるものなんですね」

 「上限数無しの腕と魔力次第だからね。ただ、一人相手だと効率悪いし大群相手ならもっと別の手があるからわざわざここまで数を展開する必要は無いのよね」

 「ヤマト君もお試しを兼ねてるみたいですね。相手が相手なので多少やり過ぎても問題はないでしょうし」

 「聖剣の慣らしがきっかけなのに、タケルの方が丈夫なサンドバッグ扱いされてるわね」

 

 折角勇者が相手の模擬戦なのだ。

 ヤマトも試せる事は試さなければ勿体ない。


 (この数になれば思考停止でも当てられるけど、威力がこのぐらい必要とあると実戦向きではないかな。せめて展開速度がもう少し早いなら――)


 思考の途中、ヤマトはその気配を感じ取り、すぐさま回避に移る。


 「チッ!」

 「チッ…じゃねぇよ!《短距離転移(ショートジャンプ)》で背後奇襲とか容赦ねぇな!?それと全部斬るんじゃなかったのかよ!」

 「峰打ちだから大丈夫!それと勇者にだって限度はあるんだよ!!流石に多いわ!」


 タケルは《短距離転移(ショートジャンプ)》でヤマトの背後に回り、そのまま斬りかかって来た。

 あとほんの一瞬でも反応が遅れてたら回避が間に合わずヒットしていただろう。


 「クッ……」

 「逃がさない!」


 相手は剣士。

 その間合いでの戦いはヤマトには不利。

 何とか距離を取ろうと動くが、タケルに完全に張り付かれて引き剥がせない。

 回避もギリギリ、一瞬でも読み違えば躱しきれない。


 「……よくアレを避けきれますね。魔法使いですよね?」

 「使い魔(ヤマト君)も身体能力自体は高めですから。そこに色々見てきた(・・・・)経験が伴って、ある程度の先読み(・・・)が出来るようになって来たみたいですね」

 「タケルの剣はまだまだ読みやすいでしょうね。技術だけなら騎士団エリートの方がまだ上だし、しばらくはそっちを集中的に鍛えようかしらね」


 タケルの今後の鍛錬が、よりハードなものになる事が決まる中で二人はなおも動き続ける。


 (とにかくどこかで一瞬でも…不意打ち速さ重視なら……ここだなそれ!)

 「うわっ!?ゴホ…な…目が…ゴホゴホ……」


 タケルの目の前に小さく開いた《次元収納》の穴から噴き出した〔砂〕が、タケルの顔面に直撃した。 

 《短刀射出》と違い、準備の必要も無く即席速攻で使える目くらましだ。

 模擬戦とは言え勇者相手だからこそ許されるような、良い子は真似しちゃいけないタイプの目くらましだ。 


 「ヤマト君、容赦ないですね」

 「目潰しどころか顔全体にいったわね。鼻に口に…あれは苦しいわよ」

 「あの、けど有効ですよね?」

 「有効ですね」

 「実戦想定なら何だって避けられなかった方が悪いわね。正々堂々の決闘試合なら大ブーイングだけど」


 タケルが怯んだ隙に一気に距離を取るヤマト。

 第一優先を確実に達成したヤマトは、そこからすぐに反撃に移る。


 「《三連/極・炎弾(改)》」

 「見えな…回避を――」


 呼吸は整えたが、目はまだ開けられないタケルに放たれる追い打ち。

 その気配を感じ取り見えないながらに回避行動を取ろうとするタケルだが、肝心の足が動かない。

 《砂の鎧》。

 目潰しに使った砂が地面に散らばり、そのままタケルの足を固めていた。


 「ジャンプしないんですか?それなら位置固定型の拘束は外せますよね?」

 「《短距離転移》って指定が完全に視覚依存なのよね。行き先は見える範囲だけ。つまり目が見えないと使い様がないのよ」

 「けどタケル君なら逃げられずとも――」


 勿論、勇者は目を塞いだ程度で終わるほど甘くない。


 「――《光の牢壁》」


 タケルの周囲全面を囲った光の壁。

 ヤマトの攻撃はその壁に遮られる。


 「……勇者の杖無し(・・・)魔法ってやつか。完全な後出しでもバッチリ間に合うのはずるく思えるなぁ」


 本来であれば、体外へ魔力を放出する魔法は杖などの〔補助媒体〕が無ければ扱う事が出来ない。

 人の体はそもそも〔魔力を意図して外へ出す〕事に〔不得意〕な仕組みをしている。

 杖という〔外部装置〕の助けがあるからこそ〔不得意〕を克服し、魔法として行使が可能なのだ。

 杖無しで行えば以前のヤマト同様に相応のデメリットを負う事になる。

 ――だが勇者にはその〔不得意〕が存在しない。


 「そう言えば、タケルさんってたまに魔法を使いますけど杖を持ったところは一度も見ませんね」

 「勇者の特殊能力って所かしらね。魔法使いでなく、杖すら持たないメルトでも《身体強化》ぐらいは扱えるでしょ?」

 「はい」

 「勇者は、《身体強化》を扱う気軽さで他の魔法も扱えるのよ。杖無しで」


 《身体強化》などの魔法は、身の内で完結する為に〔不得意〕に関係なく行使できる。

 つまり、杖という〔外部装置・補助媒体〕を介さない分だけ展開速度も速くなる。

 勇者はそれを、扱える全ての魔法で行える。


 「《八連/炎弾》!」

 「《八連/光弾》!」


 タケルの展開した《光の牢壁》の殻が解けてゆく。

 ヤマトはそこを狙い撃つが、後出しのタケルの魔法と二人の境界線で正面からぶつかり合う。


 (だから後出しなのに!砂はもう動かない。目も復活して……視線……気配、またか!?)


 前より一瞬早く気付いたヤマトは、今度は回避では無く迎撃でタケルの《短距離転移》を待ち受ける。 

 だがタケルの姿はその背後からも消えた。


 「しまった連続――」

 「貰った!」


 《短距離転移》からの《短距離転移》。

 背後の、更に背後(・・・・)に回られ、とうとう聖剣の一撃を喰らってしまった。

 峰打ちとは言え相当に厳しい一撃だ。


 「堅い。仕留めるつもりだったんだけどな」

 「……身体防御に関しては条件は同じだからな」


 自身への身体強化や防御は、勇者同様に杖を経由せずに扱える。

 〔不得意〕の絡まない、同じ条件ならば魔法使い(本職)が剣士に遅れを取る訳にはいかない。

 何とか防御強化が間に合ったおかげでダウンにまでは至っていない。

 だが痛いものは痛い。


 「――ところで、お二人ともこれが模擬戦…鍛錬訓練だって事を忘れてませんか?」

 「忘れてるんじゃない?連続ジャンプって体に負担が大きいから早々使うなって言ったのにもう……」

 「そろそろ止めましょうか。お互いに自重(・・)できている内に」


 これ以上エスカレートされては困ると、保護者達からストップが掛かり模擬戦は強制終了となった。  


 「――あ、終わったみたいね。ただいま」


 終了と同時に訓練場の端から駆け寄るアリアの姿があった。

 どうやらヤマトは相方の気配すら気付かない程に集中し過ぎていたようだ。


 (途中から視野が狭くなってたなぁ。課題と言うか、目の前だけに集中し過ぎない様に注意しないとな)

 



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