8 お買い物と、次なる騒動
「えっと回復薬は……この棚か」
食後のヤマトは、町で買い物をしていた。
昨日の騒動で大事な切り札を一つ消費した。
その穴埋め…には程遠いが、備えをさらに充実させることで今よりは少しでもマシな状況にしようと考えた。
(杖の存在は大きいけど、魔法だけが備えの全てじゃないからな。魔力回復、体力回復、治癒薬。この世界のポーションはあまり効果は高くないみたいだけど、飲むだけで回復出来るなら回復量が微量であろうと役には立つ…はず)
備えあれば憂いなし。
そんな買い物の中、ヤマトはある物を見つける。
【〔???の短剣〕】
何故かアイテムショップに武具である短剣が置いてあった。
武具は武具で職人のお店があるはずのだが。
しかも《鑑定眼》でもきちんとした名称が判明しない。
「(女神様、これって何ですか?)」
声に出さずに頭の中で女神様に質問する。
しかし答えは返ってこない。
女神様がいくらマルチタスクに長けていようと、忙しくて他に構っていられない時もある。
恐らく今はお仕事を頑張っている最中なのだろう。
「――そいつをお求めかい?」
お店のおばあちゃんが声を掛けてきた。
「そいつはねぇ〔ダンジョンアイテム〕だよ」
おばあちゃんが説明してくれた。
〔ダンジョンアイテム〕は文字通り〔ダンジョン〕の宝箱から回収されたアイテムだ。
人が作る物とは違い、変な能力が付いたものが多いらしい。
(ダンジョンか……確かダンジョンの存在自体が世界にとって必要な存在で、そのダンジョン内にどうしても沸いてしまうモンスター達の駆除を率先して行ってもらうための餌…もといお礼みたいなことを言ってた気がするな。細かい説明はしてくれなかったけど)
実際それ目当てで冒険者などの多くの人が集まっているようなので、目論見は大当たりといったところだろうか。
修行の場としても活用されているらしいが。
「何でこれはこんなに安いんですか?」
ダンジョンアイテムの多くは狙って手に入れられるものではないため、それなりに高値になりやすいはずなのだが、目の前の短剣は、ハッキリ言って職人の打ったものよりも安い。
「そいつは元々知り合いの借金の利子代わりに引き取ったもんなんだけどね、《鑑定》しても詳細が分からんもんだからまともに売りに出せるものじゃなくてねぇ…仕方ないからそうやって適当な値段をつけて置いてるんだよ。命を預ける武器が正体不明のままとか、誰も欲しがらんやろ」
安いからと下手に詳細不明な物を買って使って、役に立たなければ命の危険もある。
確かにメインで使うには困る一品だ。
「お客さん、もし買ってくれるのなら、代金はその札の半額でいいよ」
「――買います」
ヤマトは〔???の短剣〕を手に入れた。
(一応呪いの類の判定はないみたいだし、まぁ使うというよりは予備兼お守りだな。得体の知れない部分に関しては…まぁ後で女神様に聞いてみよう)
回復薬と一緒に会計を済ませ、店を後にした。
もっと散策するには中途半端な時間になってしまったので、今回は買い物だけで宿に引き上げることにした。
「さて帰宅っと」
買い物を終えたヤマトは鈴の音亭に戻って来た。
看板娘のリリは接客中だったので、鍵を受け取る最低限のやりとりだけをして真っ直ぐ部屋に来た。
《浄化》後にベットに寝転がるヤマト。
「……さて何をしようか」
まっすぐ帰って来たヤマトであったが、手持ち無沙汰であった。
中途半端に開いた時間を潰す手段がなかった。
「本はあるけど物語系はほとんど童話や神話の類みたいだし、そもそも手持ちにはない。スマホやパソコンはあるわけない。地球に居た頃は何をするにも時間に追われていた気がするが、この持て余す感じはそれはそれでのんびりしてて悪くないか」
のんびりとした時間。
もういっそずっとこのままでも良いのにとも思えた。
ただしヤマトに与えられた役目は、そんなのほほんとした時間を容赦なく潰しにくる。
『――ヤマト君!』
頭の中に響く女神様の声だ。
声の調子から慌てている様子がうかがえた。
正直嫌な予感しかしない。
『緊急のお仕事です。これから指示する場所に今すぐ向かって下さい』
今から……もうすぐ夕方、中途半端な時間だ。
そんな時間に何処へ行けというのか。
『指示する場所に向かい、そこに居る女の子を一人保護してください。ちなみにその子は日本人です』
世界の境界線ってやつは案外緩いのではないかと疑ってしまう。
少なくとも転生二日目で二人目の日本人に会うことになるとは夢にも思わなかった。
ヤマトはすぐさま装備を整え、町の外へと出ていった。
本日の更新分はここまでです。
続きは明日、明後日までには上がります。
当面の間は最新話から二日以内での次話更新が目安になります。
投稿時間は未定です。
今後もよろしくお願いします。
11/06
文章を一部修正。