86 二つ名
「貴方達に渡すものがあります」
王城にある勇者パーティー専用の談話室。
そこにはシフル、メルト、ブルガーの三人の姿があった。
「まずはメルトね。貴方には……これを」
賢者シフルが自らの《次元収納》から取り出したのは一挺の〔大弓〕であった。
「シフルさん。それって……」
「以前一度見せたものね。〔覇弓〕……エルフ族の秘宝であり、勇者の聖剣にも劣らない宝具の弓よ」
シフルが取り出したのは【覇弓 サントラ/神域宝具(三番)】。
紛う事無き神域宝具の大弓であった。
「そして……ブルガーにはコレね」
「……またとんでもない物を」
ブルガーに手渡されたの〔古代龍の魔石〕。
中身も完全に補充済みである。
「本当はもっと早くに渡したかったのだけど、依頼に出して補充したもらったらか時間が掛かったわ」
「依頼…もしかして」
「〔龍人族の里〕。龍絡みの事案はあそこに任せるのが手っ取り早いもの」
ブルガーの両親の故郷である龍人族の里。
ブルガー自身は里の外で生まれたため一度も訪れたことは無いが、確かに〔古代龍の魔石〕などという代物を扱わせるなら、その里の龍人族が適任であろう。
「……古代龍か」
「その魔石は、奥の手として持っておきなさい」
「そもそも奥の手にしか使えませんよ。こんなの乱用してたら俺が保ちません」
ブルガーだからこそ扱える、この魔石の特殊な使用方法。
ものがものだけに、確かに奥の手・切り札の一手となるだろう。
「シフルさん、私はまだこれは……」
「腕が足らないとか心が未熟とか、そういう理由で返品するのは無しね。それらを全部ひっくるめて渡すべきとして渡してるんだから。足らないと思うなら頑張って埋めなさい」
先の戦いの経験。
そして今後本格化するであろう戦いに際して、現状からの個々の強化は必須課題であった。
当然基礎能力の向上にも務めて行くが、手っ取り早い強化も必要。
勿論ただ無茶を手渡している訳ではない。
少なくともそれを扱って鍛錬を行える、スタートに立つ事が出来るからこそ渡している。
「ブルガーの方はともかく、メルトの方は弓の慣らしと鍛錬メニューを並行していくから無茶し過ぎない程度に頑張りなさいよ?」
「はい!」
強くなるためには無茶も必要な時がある。
かと言って無茶をし過ぎて自滅しては元も子も無いため、あらかじめやんわり戒めておく。
後はもう本人次第だ。
「さて話はこのぐらいね。それじゃあ私は行くわ」
「お仕事ですか?」
「まぁ仕事ではないけど、訓練場の結界強化と維持を頼まれたから、ちょっと訓練場にね」
「訓練場……私も同行しても良いですか?」
メルトが名乗りを上げる。
「貸し切りだから弓の慣らしは出来ないわよ?」
「分かってます。シフルさんが直々に補佐に付くって事は、タケルさんが何かを試すんですよね?見学したいです」
「うーん、まぁ付いてくるのは良いんじゃない?本人たちがダメって言ったら帰って貰うけど。ブルガーはどうする?」
「遠慮しておきます」
メルトと違い辞退するブルガー。
どうもロクでも無い光景が披露されるような予感がした。
「そう、なら私たちだけで……行きましょうメルト」
「はい」
そしてブルガーだけを残し、二人は部屋を後にして訓練場へと向かった。
「――ここが訓練場か?」
「あぁ」
「何か学校の体育館見たいな場所だな。懐かしい」
「なつ……あぁそうか。俺は現役だったから懐かしいって感情にはならなかったな」
ヤマトとタケル、そしてティアがやって来たのは、王城の敷地内にある訓練場であった。
「この感じは……なるほど《王都結界》の切れ端っぽいな」
この訓練場に貼られた結界から《王都結界》に似た波長を感じ取った。
恐らく多少なりとも応用なり転用なりされたものなのだろう。
「だけど、勇者の訓練ってこの結界で間に合うのか?」
「……俺が訓練場で結界壊す程の無茶をすると思ってるのか?」
「そこそこ」
「確かに、一度だけ制御しきれないで壊しかけたな。未遂で済んだが」
「駄目じゃねぇか」
そんな相手とこれから模擬戦をするかと思うと、若干不安になってくる。
「そんな不安そうな表情をしなくとも、ちゃんと助っ人をお願いしてるから大丈夫だよ」
「助っ人?」
「お待たせー」
ちょうどそこに、噂の助っ人がやって来た。
賢者シフル。
そして何故か弓使いのメルトも共に居た。
「この子は見学。見せたくないのなら帰すけど」
「俺は大丈夫ですよ。ヤマトは?」
「んーまぁ勇者パーティーの人なら良いのかな?ティアとしてはどうなの?」
「勇者と戦うだけなら特に隠すことも無いんじゃないですか?」
「上司が大丈夫なら問題ないです」
メルトの見学も認められた。
そして本命のシフルは、タケルがやり過ぎない為の抑止力として呼ばれたようだ。
「……え?むしろシフルさんに手助けを頼まないとならないような暴れ方するのか?」
「暴れ方言うなよ。仮にも聖剣の試し切りだから、一応念のためにお願いしただけだよ」
これから行う〔勇者〕対〔使い魔〕の模擬戦。
その一番の目的は、新しくなる聖剣の慣らしである。
「《二刀解放》」
白い光を放つ〔聖剣ツゥヴァイ〕。
タケルの言葉で、聖剣は二本に分かたれた。
〔ツゥヴァイ・レフト〕と〔ツゥヴァイ・ライト〕。
聖剣に備え付けられていた、例の隠し機能だ。
「ちょうど良いんでここで渡します」
タケルの二本の内の一本、〔レフト〕をティアに手渡した。
ティアの求めた、女神を救うための〔四つの鍵〕。
その一つが聖剣。
ヤマトは当初、〔聖域〕へ勇者を同行させるものだと思っていたが、それでは勇者の本業が疎かになる。
レフトもライトも、どちらも聖剣としての機能を有している。
つまりは二刀の内の一本があれば、〔四つの鍵〕として問題はないらしい。
「ありがとうございます。――問題なさそうですね」
受け取ったレフトの様子を確認するティア。
見た目は子供の為、こうして軽々と剣を振り回す姿は、少々違和感を感じずにはいられない。
「……なんだろうな、このミスマッチ感」
タケルも似たような感想を抱いたようだ。
とは言え見た目が噛み合わないだけで、聖剣そのものには問題は無いようだ。
「ところで……ティア様もその聖剣で戦うんですか?」
「緊急時はそうなると思いますけど、基本的には皆さんにお任せするしかないですね。この体は戦いに向きませんし、私が戦えばそれだけ《神降ろし》を行使しているヤマト君に負担が掛かりますから、本題での使用以外はあくまでも護身用です」
ティアが魔法を行使すれば、それはそのままヤマトの出費になる。
ヤマトの魔力量なら多少の消費は痛手にはならないだろうが、一度に大量消費をすると完全補充までに時間の差が生じ、その間は《神降ろし》自体が不安定になってしまう。
戦わないに越したことはない為、ティア自身が戦うのは本当の緊急時のみになる。
「――私の準備は出来たわよ。それで一応確認したいんだけど、ヤマトは休まなくて大丈夫なの?」
「王城へ来る時の馬車の中で仮眠も取りましたし、確かに全快では無いですが、模擬戦なら大丈夫です」
仮にもワイバーン便で魔力を消費した後にも関わらず、少しの仮眠で問題ないと言うヤマト。
その言葉にタケルは呆れた様子で、衝撃の事実を告げる。
「うん……確かに"魔力馬鹿"だな。登録される訳だ」
「登録?何を……まさか!?」
ヤマトは自分自身に対して《鑑定眼》を使用する。
そこに映し出されたのは【ヤマト(人族:女神の使い魔/魔法使い:"魔力馬鹿")】
今までは存在しなかった二つ名が表記されていた。
「おおう……要らねぇ……」
「二つ名は周囲の認識で決まるものなので、本人の意志は関係ありませんから」
「こういう脳筋の亜種みたいな単語にはして欲しくなかったなぁ……」
個人的に不名誉な名付けが行われたヤマトは、模擬戦前に若干テンチョンが下がってしまった。
「ヤマトさん…でしたよね?大丈夫です。二つ名を授かる事は名誉な事ですから!」
見学者のメルトから力強いフォローが入った。
……ただ「二つ名を授かる事」は名誉だと言っているが、授かった二つ名自体には何も言及しないところを見ると、彼女も少なからず残念な名であるという認識を抱いているのだろう。
("鷹の目"か……羨ましい)
まともでカッコイイ二つ名を持つ相手に、ヤマトは若干嫉妬していた。




