85 アリアの王都探索
(さて……どう時間を潰そうかしらね?)
ティアとヤマトの密談……と言えば聞こえは悪いが、とにかく余所には話せない内容の話をするのは確かだ。
となればこちらはこちらで久々の自由時間を楽しむことにしよう。
(お城も出たし、まずは実体化して……右と左……あっちね)
直感任せで道を決めるアリア。
特に目的も無いため、自由気ままな散歩である。
(……当たりね。良い匂いがしてきた)
辿り着いたのはいわゆる屋台街。
軽食類が複数並んでいる。
ヤマトの表向きの財布を預かっているため、予算は充分。
勿論空にするのは駄目であろうが、多少の買い物は問題ないだろう。
(――もぐもぐ、次は何を食べようかしら)
着いて早々に気になるものに手を出していく。
串焼きに菓子類。
金額的にはとても安いが、少しずつ確実に金額は積み重なってゆく。
(結構種類が多いわね。この調子だと買い過ぎそうだし、少し壁を高くしましょうか)
流石に使い過ぎで怒られたくは無いので、買い物をより厳選してゆく。
そしてそろそろデザートの時間かも知れない。
(……リンゴ飴?これで終わりにしましょうかね)
買い食いのデザートとして、リンゴ飴で締める事にした。
多少の列が出来ていたので並んでいると、一つ前の男が周囲の注目を集めていた。
(一人で四十個ってどれだけ……あれ?見覚えがあるわね。この男)
何処で会ったか、リンゴ飴を大量買いしている男に見覚えがあったアリア。
何処……何処か……。
(あ、バルトルか)
その男は、バルトルの町の冒険者ギルドで見かけた、"闘技場のチャンピオン"の冒険者だった。
観光か仕事か、それともプライベートかは分からないが、彼も王都へとやって来ていたようだ。
そこでアリアは一つ気付いた事がある。
(……確かこの人って、あの〔鎧〕の中の人じゃなかったかしら?)
〔黒い人型〕相手に、ヤマトと共闘した神域宝具の鎧を纏った義賊。
ヤマトはその正体をチャンピオンであると話してくれた。
「あ…すみませんお待たせして」
「特には急いでないから気にしなくていいわ」
そんなチャンピオンが向こうから話しかけて来た。
「ところで……それは一人で食べるの?」
「まさか!お土産ですよ。久々に顔を出すのに何も用意をしていなかったもので、慌てて現地調達ですよ」
当然と言えば当然。
四十個ものリンゴ飴を一人でという可能性も無くはないが、買い出しお土産であるほうが納得できる。
「四十も……冒険者みたいだし、〔クラン〕か何かへの?」
〔クラン〕とは冒険者の集団。
パーティーが数人から数十人の集まりなのに対して、クランは数十から数百にも及ぶことのある、もはや一つの組織のような集まり。
どちらも共通して、冒険者としての活動を協力・支援し合う目的があるが、冒険者として上位の者が率いるトップクランは、組織として格と権力すら備えている。
王都には騎士団や兵士、貴族の私設団などの多くの武力が存在しているため、王都に拠点を置く大規模クランは存在しないようだが、小中規模のクランであるなら知られていないだけで存在しているかもしれない。
「クランでは無いですね。昔は所属してましたけど、今はクランどころかパーティーすら抜けたソロですから。これは孤児院の子供たちへのお土産です」
孤児院。
噂の義賊はその盗んだ金品を匿名で各地の孤児院に寄付して回っているという。
犯行理由とも言うべき行動の根幹はそこにあるのだろうか。
「ほい、出来たよ」
「ありがとうございます。皆さんお待たせして申し訳ありませんでした!」
目的のお土産を手に入れたチャンピオンは、そのままそそくさと屋台街から去って行った。
(……まぁ、義賊の事は帰ったらヤマト達に報告しておくとして、今は放っておきましょうかね。出来る事も無いし)
今はともかく目の前のリンゴ飴だ。
(うん、悪くない味ね。さて後は何処に……ん?)
買い食いを終えたアリアが次の散策先を模索していると、視界に入って来た謎の造形の存在が目に入って来た。
兵士と共に歩き、周囲の人間も気にしていない事から特に悪い存在ではないようだが。
(……あ、あれが宝具のゴーレムね)
教会の所有する【護隷群 ムックン/神域宝具(六番)】。
その本体から派生した分体ゴーレム。
王都襲撃以降は王都の警備強化にも利用され、兵士の巡回にも一体ずつ供として貸し出されるようになったらしい物体。
あくまでも復興期間限定の協力関係ではあるが、教会の守護が教会以外に貸し出されるのは大変珍しい話だと聞いた。
(まぁ、外敵や有事に対して同族同士が助け合うのは普通と言えば普通かしらね。こんな時に仲違いしている輩よりは良い事ね。ただ……王都に五つ集合か。変な事にならなきゃいいけど)
今この王都には七つの内五つの神域宝具が集まっている。
ヤマトの神杖、ナデシコの爆石、タケルの聖剣、教会のゴーレム、そして義賊が持つ鎧。
特段集まったからと言って何かが起こる訳では無いが、少し前までは行方不明だったものも含めて、ここ最近は宝具の動きが活発になっている気がする。
(…ん?今何か――)
そんな思考の最中に何かが過った。
アリアの中の何かが、少しだけ揺らいだ気がした。
思考していた宝具がどうこうの話は全く関係なく、アリア自身の存在に関わる何かが、少しだけズレたような気がした。
(……何ともないわね。気のせい?)
自らの体を確認してみても、先程の違和感は既に無い。
変わったところも何もない。
(何ともないけど……これも相談案件に加えた方が良いわね)
何もないに越したことはないが、何かあった時に後から「話しておけば良かった」と後悔はしたくない。
些細な事でも気になる事があるならば伝えておくべきだろう。
(となると、そろそろ引き返しましょうかね。最後にせっかくだから私も何か手土産でも買って行こうかしら?ヤマトのお金だけど)
土産を渡す相手のお金で土産を買うのは、若干本末転倒な気もするが、アリアは気にせず見繕って行った。




