表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
87/276

84 設計図と滅びた世界



 「おーふかふか……」

 「お兄ちゃん、行儀が悪いですよ」


 ワイバーンの空旅も終わり、無事に王都、王城へと辿り着いたヤマト達。

 以前は宿暮らしであったが、今回は王城の一室で過ごすことになった。

 対外的には妹扱いのティア、ヤマトの中で眠るアリアも同室だ。

 特に何かが起こる事もない、いつも通りの組み合わせ。

 そして部屋に着いて早々に今までで一番質の良いベットを目の当たりにしてそのまま寝転がった。


 「それでは失礼します」

 「あ、はい。ありがとうございます」


 案内してくれた使用人はそのまま部屋を後にした。

 残るはいつもの三人だ。


 「あー……このまま寝れそう」

 「寝ても良いと思いますけど。飛んでる間ずっと気を張って、魔力も消耗してるんですから休んでも良いと思いますよ?」


 実際、疲れがあるのは事実なのだが、それよりも気にするべきことがある。


 「いや大丈夫。この後約束(・・)もあるし、先に話しときたい事がありますし、そっちが大事です」

 「話……そうですね。とは言っても本題は夜に皆さん集まってからですし、それならこちら(・・・)のお話をしましょう。アリアさん、すいませんが――」

 「ちょっと待って……はいそれじゃあちょっと町中を散歩してくるわね」


 部屋に置かれたお菓子に手を出していたアリアが慌てて押し込む。

 

 「ほい財布」

 「ありがと、行ってきまーす」

 

 ヤマトから小遣いの入った財布を受け取り、アリアは部屋から出ていった。


 「アリアには話せない内容?」

 「はい。他の世界(・・・・)の事ですから」


 そう言えばその話もあった。

 黒い神域宝具にまつわる、他世界の話。

 

 「それなら……あれ?」

 「大丈夫ですよ、もうしてますから」


 魔法で盗み聞きを防ぐための《結界》でも張ろうとしたのだが、ティアが既に実行済みだったようだ。


 「それで……あの乱入者の持っていた剣と杖が〔他の世界の神域宝具〕だって話でしたよね?」

 「はい、その通りです。補足するのなら、あれは滅びた(・・・)世界の神域宝具です」


 滅びた世界。

 そこも気になるが、何故他の世界のものがこの世界に存在しているのだろう。

 そしてそれを持つ乱入者は一体何者なのだろうか。


 「まず最初にハッキリと言いますが、あの乱入者の正体は私にも分かりません。何故あの者が他世界の宝具を持っているのかもです。憶測予測をしてはいますが今はまだハッキリと話せる事はありません。これから話すのはあくまでもあの宝具にまつわる話のみです」


 ひとまずの前置き。

 正体不明は正体不明のままと。

 そしてティアは、黒い神域宝具に付いて話を始める。


 「……まず、あの〔黒い神域宝具〕の設計図(・・・)は、女神(わたし)が生み出したこの世界の神域宝具と同じ物です」

 「ん?つまりあっちの宝具も女神様が造ったんですか?」

 「いえ、残して置いた設計図を、他の世界の神に請われて譲り渡したのです。受け取った神が設計図を基にして生み出したのがあの黒い神域宝具なのだと思います」


 なるほど、そういう事か。

 だが……。


 「見た目は似てる部分もあったけど、違った部分も多かった気がしましたけど?」

 「そこは単純に好みやらのアレンジだと思います。外装自体は比較的自由に弄れる設計でしたから……ヤマト君は見ていましたよね。あの聖剣が分かれる(・・・・)ところを」


 一本の直剣が中心で割れ、左右二本の片手長剣に変化した。


 「あれと同じ機能が勇者タケルの持つ〔聖剣ツゥヴァイ〕にも備わっています。〔ツゥヴァイ・ライト〕と〔ツゥヴァイ・レフト〕と名付けているのですが……ちなみにタケル君には騒動後、つい先日まで伝えていなかった隠し機能です」

 「それ伝えない事に意味はあったんですか?」


 ネーミングは相変わらず安直な気もするがこの際置いておこう。

 それよりも、勇者の持つ聖剣が二本に分裂するのなら、きちんと伝えて鍛錬を重ね、戦いの選択肢を増やしておいたほうが良かったのではないだろうか?


 「追々伝えるつもりだったんですよ。素人がいきなりニ本の剣を扱えなどと言われても無理でしょう?まずはしっかりと剣の扱いを学び、十分な経験を積んだうえで解禁しようとしていたのですが、女神(わたし)がこんな事になってしまいましたから……」


 確かに、そう言われると納得出来なくもない。

 実剣など握った事の無い者が、いきなり二本も扱える訳がない。

 想定外の事態で邪魔はされたが、タイミングを見極めてからというのは理解出来るだろう。


 「元が同じ物……だけど向こうの杖の方が性能は高いように見えたけど……」

 「担い手の実力・経験・練度の差だと思います。もちろんあの杖自体が設計図の性能から手が加えられている可能性もあります…セイブンをヤマト君用に調整したように。ですがその差以前に、あの担い手が杖や剣の力を十全に引き出せていた事がそう見えた要因だと思います」


 つまりはヤマトもタケルもまだまだ未熟だから、宝具の力をまだまだ完全には引き出しきれずにいるという事らしい。

 ヤマトの場合、こればかりは単純に杖にも魔法にも触れている時間が少ない事もある。

 ヤマトが異世界へと転生してから未だ半年も経っていない。

 むしろ成長速度としてはとても早い方だ。

 だが現時点での差は、この程度で埋められるような簡単な物ではないようだ。

 そもそも生涯を掛けても追いつけるかどうかも分からない。


 「――まぁ根幹が同じもので、あれも神域宝具であり、そう判断した理由も分かったけど……その世界が滅びた(・・・)ってどういう事なんですか?」

 「そのままの意味です」


 文字通り、世界が一つ死んだと言う事か。 


 「原因は?」

 「それが……女神(わたし)や他の世界の神々にも分からないのです。時間としては数年前、僅かですが前触れのような異変はあったのですが、管理者の神に連絡を取ろうに繋がらず、情報を集めようにも大したものは集まらず、結局誰もがほとんど何も出来ないまま…何も分からないままにその世界は滅びました」

 

 つまりは神々ですらお手上げだったという事だ。

 

 「その原因の調査も行われていますが結果は未だに不明。世界は死に、その世界の神も死に、そして本来は残るはずの〔世界の核(コア)〕すらも消え去っていました」


 世界の核(コア)は世界や女神の命とは繋がっておらず、世界の核(コア)さえ残ればそれを再利用して新たな世界が生み出せるという話であったが、この件に関してはその世界の核(コア)すら残っていない。

 神々にとっては正に異常事態。

 ゆえに調査を重ねたはずなのに、原因は不明のままだったと。


 「……こう言っては何だけど、神様の割に〔不明〕や〔分からない〕って事が多すぎませんか?」

 「言わないでください……もう、十年ぐらい(ちょっと)前までは何事も無く安定していたはずなのに、どうしてこうなってしまったのか…はぁ……」


 嘆くティア。

 一つの世界の滅亡、ナデシコも巻き込まれた転移事件。

 女神(ユースティリア)の危機、悪魔誕生未遂。

 更に持ち込まれた他世界の神域宝具に、この世界では到達していない魔法を行使できる存在の出現。

 これだけイレギュラーが続けば、流石の女神も愚痴の一つぐらい零したくはなるだろう。

 

 「えっと……頑張れ?」

 「ヤマト君も女神(わたし)の使い魔なので完全に他人事と言う訳ではないんですけどね」

 「女神様が分かっていない事は俺にはどうしようもないので、まずは女神様が頑張ってください。手伝うにしてもそれからの話です」


 他世界の問題に使い魔とはいえ人であるヤマトが関わる事は出来ない。

 何かしらで関わるにしても、上司である女神様の指示が無ければどうにも出来ない。


 「……結局、今すぐどうこう出来る話でもないか」


 情報があるに越した事は無いが、これはあったとしても何が出来る訳でもない。

 他世界の事は神様の領分で、黒い神域宝具に関しては「凄い武器だから注意しろ」程度にしかならない。

 そして注意するにしろ、アレが本当に殺しに来れば、注意したところでどうしようもない。


 「……まぁ今は、やれる事をやっておくしかないな」


 ヤマトは立ち上がり、部屋の扉へと向かう。

 

 「どちらへ……あぁ、本当にやるんですか?」

 「受けちゃったからねぇ……」


 そこへちょうどタイミング良く、勇者タケルはやってくる。


 「ヤマト、準備が出来たぞ」

 「お前…ノックぐらいはしろよ。俺の惨事(・・)を忘れたのか?」

 

 合図も何も無しにいきなり扉を開けてくるタケル。

 ノックも確認も無しに起きた悲しい事件を、タケルも知っているはずなのだが。


 「男の部屋に何を……あぁすまん。ティア様も同室だったのか……お前、手を出したりしないだろうな?」

 「殴っていいか?一足先に始めていいか?」

 「向こうでなら殴る機会はいくらでも出来るから始めてからにしてくれ。さぁ行くぞ」

 「はい、行きましょう」


 そして三人(・・)は部屋を後にして、ある場所に向かった。


 「――あれ?ティア様も来るのか?」

 「お二人の後見人として、お二人の戦い(・・)には興味がありますから」 


19/4/26

文章を少し変更しました。

内容に変更はありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ