82 魔力馬鹿の使い方
「あ、ヤマトさん。ピピ。こんにちは」
「やっほーナデシコ」
外へ出るとそこにはナデシコの姿があった。
ナデシコに寄って行くピピ。
王城滞在時には面識・交流もあったようなので、年齢も近いためかそれなりに親しそうだ。
「こんにちは、ナデシコ」
「ヤマトさん、今回はちゃんと起きれたんですね」
「……何かそれだと普段がかなりのねぼすけみたいにならないか?」
いつもは事の後、数日眠りっぱなしや起きてもきちんとは動けないという事が連続してたので、もはやそちらが基準になってしまっているようだ。
「ナデシコは……一人か?ティアなりアリアなりレイシャさんは別か」
「ティアちゃんとアリアさんは向こうの建物でお話しをしてます。レイシャさんは今日もお兄さんの所に行ってるはずです」
レイシャのお兄さん。
確か勇者パーティーのレインハルトがそうであったか。
ロドムダーナでの荒事の後でもあり、家族ならばさぞや心配だっただろう。
「二人は向こうか……ナデシコは何処へ行こうと?」
「私は昼食を終えて宿に戻るところです。お店も開いてないので騎士団の方々とご一緒させて貰ってます。ヤマトさん食事は?」
「うーん、まぁ腹は減ってるけど、とりあえず在り物のパンでいいや。先にティア達の所に顔を出しておきたいし」
行儀は悪いが歩きながらパンでもかじろう。
「先輩は昼食は?」
「お見舞いしながら食べてた」
そう聞くと、あの部屋に微かながら果物の匂いがしていたような気もする。
見舞いながら食事とはお見舞いの作法としてはどうなのだろうか。
「ならそろそろ行くかな」
「私は先に宿に戻りますね。宿はあそこの建物をお借りしています。ヤマトさんのお部屋も用意されてますよ」
ナデシコの指さす建物。
「あそこか。分かったありがとう。それじゃ行ってくる」
「はい、お気を付けて」
「ナデシコまたー」
そして二人はナデシコと別れた。
「……ナデシコは後輩扱いしないんですね」
道中パンをかじりながら、ヤマトは素朴な疑問を聞いてみた。
「正式な、じゃないからねー」
ナデシコの肩に乗っかっていた光の玉。
関係者で無くとも、普通の人にも見えてしまう子供精霊の〔シロ〕の存在。
その存在は当然ピピも認識している。
ゆえにてっきりピピはナデシコにも先輩後輩話をするのかと思ったが、その様子は無い。
どうやら正式な精霊術師相手でないとその話にはならないようだ。
「それで……いつまで付いてくるの?」
「とりあえず行ける所までー」
まぁ今の所、邪魔にはなっていないので気にしない事にしよう。
「申し訳ありません。身分証の提示をお願いします」
目的の建物の前では二人の騎士が立ち塞がっていた。
レイダンの町の中でも特に大きいこの建物は、いわゆる騎士団の詰所になっているようで、彼らはその警備のようだ。
「はいどうぞ」
「……ヤマト様ですね、確認しました。申し訳ありません…私は戦地でお顔は拝見していたのですが、確認する規則でして」
流石にヤマトは覚えていないが、あの場に居た一人だったようだ。
「あ、気にしてないんで大丈夫ですよ」
「次私ー」
次いでピピも手渡す。
やはり勇者パーティーですら例外では無いようだ。
王都でのあのザルは何だったのか。
「確認しました。――ヤマト様がお越しの際には二番の部屋に来るように伝えて欲しいと言付かっております」
「はい、ありがとうございます」
二人は建物へと足を踏み入れた。
「あ、お兄ちゃん」
「やっと起きたわね、ヤマト。寝坊するようなら叩き起こすつもりだったのよ?」
そして着いた部屋に、ティアとアリアが居た。
地図を見ながら何かを話していたようだ。
「……とりあえず人前でお兄ちゃんはヤメテ」
「人前だからこそですよ」
それはそうなのだが、別に今は兄妹設定を強調する必要もないと思うのだが。
……いや、もう深く考えるのは止めよう。
「ところで、食事は済ませた?部屋に果物が置いてあったと思うんだけど、ちゃんと食べた?」
「果物……あ」
後ろを振り向くと露骨に視線を逸らすピピの姿があった。
見舞い中に昼食、果物の香り。
「先輩……ちょっとこっちを向いてくれませんか?」
「やだ」
これはもう確定でいいだろうか。
「……果物は気付かなかったけど、パンは食べたんで大丈夫」
「ならまぁ良いかしらね」
ここで問い詰めるのも何であるので、この際気にしない事にしよう。
「それで二人は何を?」
「今後の事を……ひとまずは一度王都へ向かう事になりました」
「王都へ?」
「はい。目的地の方角も向こう側ですし、それに今回、ヤマト君も色々と消費しているようですからきちんとした補充も必要になるでしょう?」
言われてみれば確かにそうだ。
今回、使用頻度や効果の高いポーションはほとんど消費し、残るのはとりあえず程度のもの。
それに手持ちの魔石も全て消えた。
他にも仕入れたいものがあるが、ここレイダンは店も閉まっているため、余所の町に行く必要がある。
「ポーションは〔スピル〕でー」
「そうですね。でも……王都は大丈夫なんですか?」
ロドムダーナ程では無いが、王都も結構な被害が出ていたはずだ。
スピルは勿論、きちんとした補充をするためのお店が開いているかどうかも怪しい気がするのだが。
「そこは人の逞しさと言いますか……国も人材やお金をフル活用しているようなので、既に向こうはヤマト君が気にしているほどの状態では無いようですよ」
なるほどそれは良い話だ。
その辺りの心配が必要ないと言うのならば、ヤマトも特に反対する必要は無い。
そして次の町は、再び王都になった。
「それで、出発はいつになるんですか?」
「それなのですが、王都までの移動手段についてヤマト君に協力して頂きたい事があります」
「えぇ、もちろん良いですけど……何をするんですか?」
「それについては……ちょうど来ましたね」
そこへちょうどタイミング良くやって来たのは、賢者シフルと一人の男であった。
(ブルガー……勇者パーティーの人か)
その男は【ブルガー(龍人族/召喚従魔士)】。
フェンリルからの精神干渉で倒れてしまった、三人の勇者パーティーメンバーの一人だった。
ぱっと見は人族とあまり差はないが、角と尻尾という特徴は確かに龍人のものだ。
「ピピに、ヤマトも……呼び出す手間が省けて良かったわ。ヤマトも、ブルガーも、話があるからそこに座って」
シフルの指示で、ヤマトとブルガーは並んで座る事になった。
「初対面の挨拶は後でゆっくりして貰うとして、今はこっちね。――まずはブルガー!今の調子で翼龍は最大何体呼べる?」
「召喚時間を気にしないのであれば個人的な上限の八体まで行けますよ。とは言え俺の魔力では精々数十分程度ですが」
龍種の中でも下位な翼龍。
下位とはいえ、紛れもないドラゴンである以上はそこらの魔物よりも強い。
だが使い魔や従魔としては気性が荒い分扱いにくいため、それを八体同時に扱えるブルガーは、確かに召喚士としては良い腕をしているのだろう。
「そこの心配は要らないわ。ブルガーにはそのワイバーン八体を呼んで貰って、人や荷物を運んでくれればいいだけだから。今回は魔力は気にしなくていいわよ」
そう言いながらシフルがヤマトに視線を移した時点で、ヤマトが呼ばれた理由をほぼ察した。
「……必要ならやりますけど、人を燃料扱いするのは出来るだけ控えて貰えませんか?」




