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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
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79 蚊帳の外の耐久戦



 「――《女神(ユースティリア)の盾》」


 意識が現実へと舞い戻ったヤマトは、即座に二歩踏み込み、両手を前方へと掲げて《盾》を展開した。

 そのほんの数秒の差で、ヤマト達を呑み込もうとしていたその凶悪な余波が《盾》にぶつかり遮られた。

 《盾》の向こう側の視界は嵐のような余波のせいで完全に塞がってしまったが、間一髪でひとまず(・・・・)は耐えることが出来ている。

 

 (確かにこのタイミングだと、ティアの手助けが無ければどうしようも無かっただろうな)


 おかげでギリギリ対応は間に合った。

 だが、本番はここからだ。 

 今のこの《盾》では長くは保たない事が、軋む《盾》から伝わってくる。


 (早く次を……!)


 掲げた両手の先の空間に開いたヤマトの《次元収納》から、十個の〔魔石〕が出現する。

 破損したオーガの魔石を除いた、ヤマトの手持ちの魔石全てである。

 既にゴーレムの動力として魔力を幾分か消費していたが、それでも魔石にはまだ魔力が残っている。

 それを全て《盾》に注ぎ込んだ。

 底の底まで絞りだされ、一滴残らず魔力を失い空になった魔石は、掛けた負荷で順に砕けてゆく。

 ヤマトに残っていた魔力は全快時に比べて六割程。

 〔魔力枯渇〕で倒れては元も子も無いため一割分は残し、残りの全てと十の魔石の魔力が《盾》に込められた。

 ……だがティア曰く、これでも〔確実〕ではないため、予定通り手を借りる(・・・・・)。 


 「シフルさ――」

 「もう《魔力供給(つないでる)》から自分の仕事に集中しなさい」


 シフルの持つ魔力が注がれる。

 お願いせずとも自主的に理解し、行動していたようだ。

 流石は賢者というべきか。


 「女神の盾ね……それならありったけ(・・・・・)を込めても問題ないわね。またねレド」

 「グエ」


 〔召喚獣〕のレドも送還され、それにより浮いた魔力も注ぎ込む。


 「最後に……とっておき!」


 シフルが取り出した一つの魔石。

 そこに込められた魔力も次いで《盾》に注ぎ込まれた。

 流石に〔古代龍の魔石〕には届かないが、それでも確かにとっておきと呼べる一級品の魔石だったようだ。

 

 「シフル様!」


 側に居た団長ルナがシフルに駆け寄る。

 よろけてそのまま地面に座り込むシフル。

 ありったけの魔力を込めた事で重度の〔魔力枯渇〕状態に陥っているようだ。

 だがおかげで、かなりの上乗せになった。


 「私のも要る?」

 「要るって……え、アレ(・・)の事?そんな即興で出来るものなの?」

 「出来るわよ。初めてだからもう少し万全を期して使いたかったけど四の五の言う場面じゃないでしょ。だけど自滅しても本末転倒だから念のため三割(・・)で抑えるわよ」

 「分かったよろしく」


 そのヤマトの返事の直後、アリアという存在がヤマトの魂に溶け込んだ(・・・・・)

 《精霊融合》と呼ばれる、お互いが一体化して力を高めるための技。

 とはいえ融合率が十割に近いほどそのまま戻れなくなる(・・・・・・)可能性が高い。

 だからこそあくまでも三割に留め、少しの間に力を借りる程度に留める。

 

 「アリア!これって――」

 「それ以上行くと三割で済まないよー?ちゃんと意識を保つのー」


 そう言いながらピピがヤマトの背中に抱き着いてきた。


 「(……ハッ!?危ない危ない。ちょっと引っ張られ過ぎたわ)」

 「起きたみたい」

 

 融合の影響か、肝心のアリア自身の意識が飛んでいたようだ。

 ピピの行動はそれを引き留め、アリアを起こすためのものだったらしい。

 原理は分からないが。

 どうやらちゃんと意味のある行為だったらしいのだが、正直ヤマトとしてはこの行動はちょっと恥ずかしい。

 

 「ありがとうございます。そして終わったなら離れて。体重預けられると若干重い」

 「女の子に重いは禁句ー」 

 「女の子ならもう少しやり方考えて。終わったならすぐ退いて」

 「ごめんー……それは…ちょっと…むりぃ……」


 ピピはヤマトに抱き着いた状態のまま眠ってしまった。


 「なんで!?」

 「(この子の持ってる魔力を全部私に移した(・・・)からそのまま力尽きたのよ)」

 「(え、倒れたのか。というよりどうやって受け取ったの!?《魔力供給》や《魔力譲渡》の反応無かったよね?)」

 「(そこはこの子に直接聞きなさい。私が言えるのはこの子(ピピ)は特殊な精霊術師だからって事かしらね)」


 また疑問が増えた。

 当然今は気にする問題ではないので後回しだ。

 覚えていたら終わってから聞いてみよう。


 「(せめて離れてから眠って欲しかった……)」


 ヤマトは今は振り払う余裕がないので、仕方なく人を呼ぶ。

 

 「フィル。すまんが先輩(これ)をお願い」

 「あ、はい。分かりました……あの、ヤマトさん。それでこれは――」

 「ああ、それはフィルに任せた(・・・)から。いざという時(・・・・・・)は頼んだ」


 そのフィルの右手には《転移結晶》が握られている。


 「……分かりました」


 そう一言返事をして、フィルはピピを剥がして連れて行った。

 自身よりも若干大きいピピをお姫様抱っこで抱えて離れて行くあたりに"殴り巫女"としてのパワーの余裕を感じる。

 

 「(《転移結晶》は保険?いつのまに)」

 「(収納から魔石を取り出した時に向こう側にも開けてひっそりと渡しといたんだけど、即座に使えるように〔待機状態〕になってたから「いざという時はそれで逃げろ」って意図は伝わったみたいだな」


 ティアの提示した選択肢。

 《盾》での〔防衛〕か、《転移》での〔退避〕。

 ヤマトの意識が現実へ帰還した直後、あのタイミングでは確かにどちらかしか使えなかっただろう。

 だが《盾》で耐える事で出来た今の時間で、〔保険〕として逃げの準備をしてはいけないというルールは何処にも存在しない。

 《盾》を維持しながらの準備は流石に無理であるため、〔石〕をフィルに預けて全て任せる事になったが、これで本当の最悪、抵抗したが全滅するという事態は回避できるだろう。

 当然横槍が入らなければの話だが、そこは今も周囲の警戒を続けるタケルとレインハルトに任せるしかない。


 「(あれを使うって事は「仲間を見捨てて逃げる決断をしろ」って事よね?)」

 「(その決断を押し付けなくていいようにここで耐えきる。あれはあくまでも保険。保険のまま使わないほうがいいのは分かってるから)」


 今はとにかくこの《盾》で耐えきるのが本題だ。

 すると…… 


 「ぐッ…!」


 継続的な余波を越えて《盾》に触れた強い衝撃。

 あくまでも数秒のもので《盾》は何とか耐えきれたのだが、それを境にして余波が少しずつ弱くなってきた。


 「これは……あと少し!」


 そして余波は収まり、視界が晴れてくる。

 そこには巨大がクレーターが出来ていた。

 地面が大きく抉れ、隕石でも落下したのではと疑うような爪痕だった。

 その規模も大きく、この町の終焉を意識するには充分であった。


 「……居るのはあいつだけ……魔人の姿はないな」

 

 タケルがいち早くそれを確認し、少し遅れてヤマトも認識した。

 ほぼ透明に近い《盾》を通して見える《盾》の外の景色。

 その先に憤怒の魔人の姿は無かった。

 ティアの言葉と魔人を標的とした魔法が収まったと言う事実を重ねると、恐らく憤怒の魔人は消滅したのだろう。

 最後の衝撃はトドメか、魔人の悪あがきか、消滅の結果か……何にせよあれが終わりの合図だったようだ。

 視界の先にはただ一人、宝具持ちの乱入者のみが抉れた地面の宙に浮き、佇んでいた。


 「――」


 だがその乱入者は無言のまま消えた(・・・)

 それを見たタケルとレインハルトが警戒を強め周囲を気にするが、構えても特に何かが起こる事は無かった。

 やる事を終えて帰ったという事なのだろうか。


 「(……ヤマト、そろそろ)」

 「(そうか、分かった。ありがとう)」


 その中で、ヤマトとアリアの三割融合が解けた。

 余波が収まった今、これ以上の維持は必要なく、先を考え早々に離れた方がいいだろうという判断のようだ。

 すると――


 「あ、まずい――」

 「ヤマト!」

 「ピピはヤマトを頼む!《盾》が消える……俺とレインハルトはこのまま警戒を――」


 アリアとの融合が解除された途端に、ヤマトの視界が暗転する。

 それを見てタケルが指示を飛ばす。


 (これはあれかな……)


 話に聞いていた例の白昼夢のデメリットだろうか。

 融合のおかげで抑えられていたのか、安心して緩んだのかは分からないが、そのツケの支払い時が来たようだ。

 ヤマトの意識に合わせて《女神の盾》は消え、ヤマトは倒れる体をアリアに受け止められながら眠りに付いた。


 「またですか……」

 

 ひとまず命に別状がない事を理解したピピからは、毎度のように事の終わりに倒れるヤマトに若干呆れた言葉が飛んできた。


 「まぁこれもお勤めご苦労様って事で。今回は大怪我してないから早めに復活するわよ」

 「寝坊するようなら叩き起こせばいいんじゃないですか?」

 「本当に遅いようならそうしようかしらね」  


 すでに聞こえていないはずなのだが、微妙に嫌な予感を悟ったのか今回ヤマトはその後二日程で復帰する事が出来る。


 「本当はゆっくり休んでもいいとは思うけど、忙しくなるのはこれから(・・・・)よ」


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