77 黒い神域宝具
地に降り立った謎の人物■■■。
そして〔悪魔〕に成りかけている憤怒の魔人。
対峙する両者が互いを見合う。
「君はだ――」
「下がりなさい馬鹿!!」
勇者タケルの言葉は、賢者シフルに引っ張られた事で遮られた。
直後、突風が吹く。
「■■■■」
「―――!」
聞き取る事の出来ない言葉。
声にならない声。
会話、叫び……周囲の人々はその内容を理解する事が出来なかった。
そもそも当の両者も、相手の意志を認識できているかすら怪しい。
ただ分かるのは、視界に映る光景。
憤怒の魔人の右腕二本が斬り落とされた。
乱入者の右手には、黒い刃の直剣が握られていた。
「あれは……〔聖剣〕なのか?」
あれも《鑑定眼》で読み取ることは出来なかった。
だが聖剣の担い手である勇者タケルはその剣を〔聖剣〕と同等のものであると認識した。
そしてその意見に、シフルとヤマトも賛同する。
「内包された力……確かに〔聖剣〕級の剣ね」
シフルはその知識・経験、そして賢者としての目で黒剣の秘めし力を身抜いた。
それに対してヤマトはただの経験による直感。
複数の〔神域宝具〕を視て来たからこそ感じ取れたもの。
だが――
「(……でも、七つの〔神域宝具〕はそれぞれ形状の異なる武具。その二番がタケルの持つ聖剣。剣の宝具はそれ一つだけで、それと同等のものがもう一本あるなんてあり得るのか?女神様の生み出した最高最強の一振りと同等。ティア、あれは……)」
【聖剣 ツゥヴァイ/神域宝具(二番)】。
勇者タケルの持つこの剣こそが、この世界の剣の頂点。
人には生み出せない領域の剣が、確かに目の前にもう一本存在している。
「(あり得ないはずですが、あれは正真正銘〔聖剣〕と同等の力を持つ剣のようです。一体どうやって生み出されたのかは分かりませんが……)」
女神も知らぬ、出自の分からない剣。
その姿が変化する。
「割れた!?」
一振りの剣が割れた。
刃が黒いこと以外は、左右対称の典型的なデザインの直剣だったその剣は、中心から綺麗に二つに別れ、右手に一振り、左手に一振りの二刀一対の剣となっていた。
「(〔ライト〕と〔レフト〕。半分お遊びで組み込んだ聖剣の隠し機能……まさかあれは)」
その姿を見て、ティアには心当たりが出て来たようだ。
「―――!」
二刀の聖剣が憤怒の魔人を切り裂いていく。
再生していた右腕も、再び切り落とされ、そして再生。
体の各部位を次々と斬られ、再生し、また斬られ……それを繰り返していく。
憤怒の魔人も防御や回避行動を取ろうとはしているようだが、乱入者には殆ど通じずにただ一方的に斬られてゆく。
ヤマトと勇者一行が苦労した相手を、草刈りでもしているかのように一方的に刈り取ってゆく。
「……剣は同等だとしても、力も技量も違い過ぎる」
聖剣の担い手であるタケルが、その差を明確に認識してしまった。
今の自分ではあの乱入者には絶対に敵わないと。
「あれでも仕留めきれぬのか」
だがそんな一方的な剣技でも、憤怒の魔人は生き延びている。
与えた傷はすぐに癒え、致命傷になりそうな部位だけは一度も決めさせずにいる。
完全に一方的な戦いに見えたその中でも、急所だけは守り切っていた。
一対一では絶対に敵わない。
悪魔に堕ちようとしている憤怒の魔人の相手は、一対多でようやく可能性が出てくる。
そんな相手をたった一人で圧倒していく乱入者。
アレには束でも敵わない。
この場の面々は、憤怒の魔人がいつどのようにして仕留められるかを見ている観客にしかなれていない。
「あそこは……でもそれだと……それなら……そうなると……」
賢者シフルが何かを呟き続けている。
瞬き一つすることなく、両者の戦いを瞳に捕え続ける。
何か策でも練っているのだろうか?
「止まった……?」
両者の動きが止まった。
というよりも、乱入者が剣を振るうをの辞めたのだ。
その間に憤怒の魔人の傷は完全に癒える。
「手数で押すものだと思っていたが……別の策を練っているのか、それとも諦めたのか――」
その時、二刀の聖剣が消えていった。
その反応はヤマトも良く知る《次元収納》のようだ。
そして聖剣の代わりに、乱入者は一本の〔黒い杖〕を取り出した。
「……おい待って……それは――!」
動揺するヤマト。
新たに取り出された〔黒い杖〕。
例によって《鑑定眼》では読み取ることは出来ない。
だが、そこから感じるのはヤマトが散々お世話になっているあの杖と同等のもの。
〔黒い剣〕が〔聖剣〕と同等の品であるなら、この〔黒い杖〕は〔神杖〕。
【神杖 セイブン/神域宝具(七番)】
今はヤマト用のアレンジを加えられているが、その〔黒い杖〕にはヤマトが手にし、そして現在は《神降ろし》の依代としてティアの身に内蔵されている、セイブンと同等の力を感じ取った。
「ヤマト?」
「……あの杖、俺の持ってた杖と同等の力がある」
「ヤマトの杖って、そういや今は何も持ってないみたいだが……まさか宝具の杖の事を言ってるのか?」
「……ああ」
今更手ぶらで魔法を行使していたヤマトに気付きつつも、そんな事よりも目の前の人物の持つ杖に意識がゆくタケル。
それも当然だ。
〔聖剣〕に次いで〔神杖〕。
〔神域宝具〕という括りの性能と希少性を知るものであれば、驚かないはずがない。
「(ヤマト君……)」
ティアがゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「(あれは……あの剣と杖は……他の世界の〔神域宝具〕です)」




