7 初報酬と女神の奇跡
『それでは今度は私のお時間ですね。まずは、お疲れさまでした』
どうやら今度は女神様のターンのようだ。
騒動のその後も聞きたいのでちょうど良い。
ただその前に……
「俺が気を失った後の事とかも聞きたいですけど……まずは収納に入ってるコレの説明をお願いします」
《次元収納》からコレを取り出す。
【神杖 セイブン ver.YAMATO/神域宝具(七番)改】
『今回の報酬です』
「要らない。チェンジで。返品で。クーリングオフで」
何でわざわざ回収したばかりのものを報酬にしているのだろうか。
しかも変な改造までされている。
「こんな物騒で騒動を起こしそうな物を持っていたくないです」
『あ、これは上司としての判断も兼ねてるので拒否は……まぁ本当に嫌なのでしたら受け付けますが、今回のように今後も手に負えない状況に遭遇する可能性も無くはないですし、戦力強化できるのであればそれに越したことはないと思いますよ?』
――そう言われると確かにそうなのだが。
今回だってこの杖と魔石があったからこそ大惨事は防げたが、それが無ければ逃げ一択で町の被害は見捨てる事になっていただろう。
そう考えると確かに欲しいとは思うのだが……
「こんな超兵器持ってたら絶対目立つ。〔にいちゃん良い杖持ってんじゃねぇか寄越せよ〕とか〔その杖を売って欲しい、そら大金だぞ〕とか、絶対にめんどくさい連中に絡まれる」
『ヤマト君は創作物を読み過ぎなのでは?あと言い回しが若干古いような』
言ってから自分でも古い感じはしたが、そういう面倒な連中に関わりたくないのは本音だ。
『その辺は大丈夫だと思います。その杖、通常時は偽装が働きますので外見には普通の杖ですし、その状態で看破できるのは《鑑定眼》持ちを含めて一桁人数程度ですし。ちなみにセキュリティ面でも色々加えてありますので、無くしたり奪われる心配はないと思います。正式な譲渡は別ですが。あ、ヤマト君が死んだ場合は自動で私の手元に一度返ってきますのでそこもご心配なく』
いや死後の心配まではしてない。
女神様としては仕方ないんだけど、その備えは個人的に不服だ。
「……分かりました。今回の報酬はこれで受け取ります。なので次の話を、あの後どうなったかをお願いします」
『はい。まずヤマト君自身のことですが…こっちはご存知の通り、あの後力尽きてその場で気を失いました。さすがにそのまま放置する訳にもいかなかったのでたまたま近くにいたタケル君に手伝って貰い、この宿まで運んでもらいました』
《短距離転移》数回分は、恐らくそんなに近い場所ではなかったのではないだろうか?
『それで、その他の方々の視点からのお話なのですが……あの太陽のような炎の玉が光に包まれ消失…その後、雪が降りました』
雪。
これは…やらかした予感がする。
『真っ白な光の粒が雪のように町中に降り注ぎ、触れた者の傷を癒しました。さしずめ《癒しの雪》と言ったところでしょうか。ちなみにそれは《本来の治癒魔法》でした』
ヤマト含め、一般に広まっている治癒魔法は、本来の治癒魔法の簡易化劣化版だ。
元々聖属性持ちでしか成し得ない治癒魔法を、長い研究の末にその他の属性でも再現できるようになった。
「……つまり、使い手が限られる聖属性の治癒魔法が降り注いだって事?俺は聖属性持ってませんよね?」
『あーそれはですね、私の名を使う《神名詠唱》だと適性に関係なく聖属性になってしまうんですよ。だからあの時の盾も聖属性で、その残滓も聖属性として降り注ぎました』
ヤマトの使った《女神の盾》は、文字通り女神様の名前と力を借りた魔法だ。
女神様との繋がりがあり、その上で女神様の許可が無ければ使えない。
だからこそ、ヤマトの持たない聖属性になっていた点は分かるのだが……
「けれど、それで何で治癒魔法に…」
『ヤマト君、《範囲治癒》を使った時に威力が弱くて応急処置程度にしか効いていなかったのを気にしてましたよね?多分それが作用したんだと思うのですが……こればかりはきちんと調べてみないとハッキリとは』
どっちにしろ面倒な事になってるのは確かだ。
「……当事者が俺だってのはばれてないですよね?」
『今のところは大丈夫そうですね。そもそも町中では神の奇跡として扱われていますので、人がやった事とは思われていないと思います。思っていても証拠が出て来なければ探しようもないですから心配する必要はないと思います』
それがフラグでない事を祈りつつ、ひとまず今はその言葉を信じよう。
現状はどうしようもない事だ。
「騒動といい宝具といい奇跡といい、どうして初日からこんなことになったんだろうか……」
『ですからそれは私の台詞なのですが…ひとまず現状の連絡事項はこれくらいですかね。いくつか調べている事もありますが、今日の所はゆっくりしていてください』
ゆっくりと言われても何をするか。
「――とりあえずお腹が空いたからご飯に……する前にシャワー浴びよう。なんか嫌な汗かいた」
この世界にシャワーの仕組みは存在しないが、お湯を出す際に魔法を上手く調整すれば可能だろう。
今日はもう一話分上がります。
11/06
文章を一部修正。