表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
79/276

76 暗躍する者の誤算



 「――"憤怒"の名を与えられた魔人。その力が〔種〕と上手く馴染み増幅され……確かに強大だ」


 勇者のもとへと憤怒の魔人を送り出した張本人。

 彼は魔王城のとある一室にて、再び頭を抱えていた。


 「強者としての典型的な慢心はありましたが、それもまた憤怒の力を高める為に一役担っていた。そしてその"憤怒"の力は戦力として手元に置いておきたいものでありました」


 トントントン。

 思考を動かしながら、指で机を叩き続ける。


 「だからこそ〔種〕を分け与えた。そこまでは良かった。上手く根付き、そして噛み合い溶け込み……憤怒の力を安定した形で更に引き上げる事も出来た。ですが――」


 暗躍者の誤算は相性が良すぎた事。

 染まり過ぎている。

 高まり過ぎている。


 「行き過ぎですやり過ぎです!まさか魂の変質にまで至るとは…!本来そこまで至れば器が保てず自壊するはずなのに、相性の良さと強度が裏目に……このままではフェンリルに代わり最悪(・・)に辿り着きアレ(・・)を呼び起こしてしまう……それでは意味がない!!」


 椅子を、机を蹴り、家具に八つ当たりしていく。


 「既に"憤怒"はサルタン自身にも制御出来ない。となればもう捨てるしかない……」

 

 折角手に入れた使える戦力ではあったが、背に腹は代えられない。

 全て(・・)を台無しにしてしまっては元も子もない。

 

 「処分……勇者は…確かに劣勢の状況でこそ真価を発揮する存在ですが、そんな万に一つを頼る訳にも行きません。となれば確実なのは――」


 暗躍者は部屋の隅に無言で立ち続けるソレ(・・)を見つめる。


 「――あなたの出番です。とても不本意な使い方ですが、正に自分で撒いてしまった種なので仕方ありません。〔二〕と〔七〕の使用を許可、目標は"憤怒"の悪魔(・・)。まだその一歩手前ですが、完全に成ってしまえば天使(・・)が出ます。その前に目標を消滅させてください」


 人形のように瞬き一つも無かったその人物(・・)が動き出した。

 

 「それと手段は問いませんが、側に居るであろう周りの()を深追いする事は禁止します。悪魔の処分を確認したらすぐに戻ってきなさい。あなたを勇者の〔万が一〕で失う訳には行かないのです。やる事だけやってすぐに戻ってきなさい。余計な事は禁じます。良いですね?」


 命じられた人物は無言無表情で頷く。


 「では行きなさい」


 無言の人物はその場から姿を消した。


 「こんなことで切り札の一つを晒すことになるとは……だがそれでも〔悪魔の汚染〕と〔天使の浄化〕は防がねば……どちらもここまでやった全てを台無しにする。〔蝶〕や〔種〕の扱いはもう少し慎重に行かねばなりませんね」







 「「「《氷界永獄(アイスエンド)》!!!」」」


 ヤマト・シフル・アリアの合同魔法。

 永劫氷結。

 文句なく相手を殺すための魔法であったが、それすらも憤怒の魔人はものともしない。


 「ズレた!?」

 「いいえバッチリ。初めてとは思えないくらい完璧だったわ。相手に効いていないだけ」

 「氷の中でも最上のものだったはずなんだけど……それでこれってアレは本当に生物なの?」

 

 数瞬足止めは出来ても、大したダメージにはなっていない。


 「「《双刃・閃光斬》!!」」


 勇者タケルと聖騎士レインハルトの合わせ技。

 二人の剣は憤怒の魔人に傷を付ける事には成功した。

 だが……


 「もう治って……」

 「止まるな勇者様!」


 更に休む暇も与えずに斬り続けるが、付けた傷は全てすぐさま癒えていく。


 「《八・六塵雷》」


 分身ピピ達による雷撃。


 「ガ――!」


 禍々しい羽根の一羽ばたき。

 ただそれだけの動作で発生した《風斬乱舞(カマイタチ)》に霧散させられる。

 そしてそのまま空へ……


 「飛ばせはしない」

 「グエッ!!」


 ルナの剣とレドの爪が両翼を切り裂く。

 

 「こっちもか!」

 「グゥ……」


 その両翼もすぐさま癒える。

 元々が堅く、何とか傷を付けてもすぐさま癒えてしまう。

 これではキリがない。


 「攻撃力と魔法耐性、そして再生能力に特化って所かしら?速度はそこまででもなく、防御も傷はつけられるけど一撃で仕留められるほど柔らかいわけでもない。仕留め損なえば即座に再生」

 「フィルの《祈り》があってもこれなのか……」

 「…………」


 彼らが戦う中、ただ地に跪き、ひたすらに祈りを捧げるフィル。

 巫女の《祈りの加護》の力。

 味方全員に対する〔特殊強化〕。

 彼女が後ろで祈り支えているからこそ、彼らは何とか戦えている。

 だがそれでも、決定打が出てこない。


 「――回避!」


 憤怒の魔人の四本腕から放たれる別々の魔法。


 「ぐッ……」


 その内の一発が反応の遅れたヤマトの左腕に掠る。

 そして出来た隙を、憤怒の魔人は見逃さない。


 「《不動の盾》」

 「《耐久強化》」


 ヤマトに狙いを付けた憤怒の魔人の前にレインハルトが割り込み、その盾をシフルが強化する。

 そこに右腕二本の拳が叩き込まれる。


 「動…かぬ!!」

 「――《六連/炎槍》!!」


 その拳を正面から盾で受け止めているレインハルト。

 守られたヤマトは、その隙にすぐさま反撃する。

 だがこれも決定打にならない。

 その時――


 「……鐘の音?」


 鐘の音が一つ響く。

 町の鐘は塔ごと崩れ落ち、鳴る事はない。

 では何処から。


 「(ヤマト君!!)」


 唐突に回線を開いてきたティア。


 「(今の音、聞こえましたよね?あれはこの世界そのものの〔非常警報〕です)」 

 

 勇者たちにも聞こえているようだが、状況は彼らにそれを気にしている暇を与えない。


 「(鐘の音は最大で四度鳴ります)」

 「(四度目が鳴ったらどうなるんですか?)」

 「(〔天使〕が降臨します)」


 〔天使〕。

 イメージ通りであれば神様の味方。

 特に慌てるような事は無いように思えるが、ティアの声からは焦りを感じる。


 「(世界の何処かで〔悪魔〕が生まれようとしています。ヤマト君、そちらは今――)」

 「(ちょっと待ってください。視覚を繋ぎます)」


 ヤマトの視覚をティアと繋ぐ。

 そして目の前の状況を見せる。

 するとその時、憤怒の魔人の額に〔第三の眼〕が開眼した。

 ――そして二度目の鐘が鳴る。


 「(……ヤマト君、原因は目の前に居るその魔人です。その魔人が〔悪魔〕に堕ちようとしています)」

 「(堕ちて悪魔になったらどうなるんですか?そもそも悪魔ってのは何なんですか?)」

 「(悪魔は、黒く染まりきった魂が変質(・・)して現れる異質な存在……その魂は存在するだけで世界を汚染する。その汚染を浄化する装置が〔天使〕です。ですが……)」


 ティアは言葉に詰まりながらも話し出す。


 「(天使が降臨すれば、世界が終焉を迎えます)」

 「(どういう……)」

 「(〔世界の核(コア)〕を守るためです)」


 天使は〔世界の核(コア)〕〕を守るために世界に終わりをもたらす。


 「(人の持つ魂、精霊の持つ核や魔物の持つ魔石のように、核となるものが世界にも存在します。〔世界の核(コア)〕。その守護者が〔天使〕。そして〔悪魔〕は……その〔〔世界の核(コア)〕を穢してしまう存在なのです)」


 世界ではなく、あくまでも〔世界の核(コア)〕の守護者。

 それが天使という装置。

 悪魔はその明確な敵。


 「(以前、女神(わたし)と世界は一蓮托生と言う話をしましたが、あくまでも女神と世界の話であり、どうなろうとも〔世界の核(コア)〕は残るのです。世界が滅びようとも、女神が死のうとも、〔世界の核(コア)〕は停止するだけ。そして新しい世界を生み出すために再稼働させる事が可能なのです。ですが〔悪魔による汚染〕はその〔世界の核(コア)〕を機能不全、つまりは完全に壊してしまいます。それを防ぐために天使は世界ごと(・・)汚染要因を消滅させるのです。天使にとって最重要なのは〔世界の核(コア)〕であり、女神や世界は…そこに生きるものは二の次三の次なのです)」


 〔創造神〕や〔創世神〕にとっては、〔世界の核(コア)〕こそが替えの効かない、世界や女神よりも重い、最も大事なものであるらしい。

  

 「(〔四度の鐘の音〕はいわば世界に与えられた最後の猶予です。四度目が鳴れば天使が降臨し世界が終わる……嫌ならそれまでに自分達で何とかしてみせろと。……だからヤマト君。何とかして四の鐘までに目の前の魔人を滅ぼしてください。アレが悪魔に堕ちるのはもはや避けられません。その前に――)」

 「《結界》が消える……」


 誰かの声に反応し、ヤマトはとっさに空を見上げる。 

 ロドムダーナの町を覆っていた《結界》が消滅した。

 シフルが管理を手放したことで徐々に弱まってはいたが、自然消滅では無く完全なる破壊。

 外から何か(・・)がやって来た。


 「誰だ……」


 空の一点には、ゆっくりと舞い降りてくる何者かの姿があった。

 【■■■(■■/■■)】

 《鑑定眼》では何も分からない。

 ティアもその存在を判別できずに居る。

 鐘の音は四度目どころか三度目もまだ。

 ティアの反応からもあれが天使で無い事は読み取れた。


 「笑ってる?」


 遠く、表情など見えない。

 だがヤマトには、その人物が小さく笑っているように見えた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ