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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
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75 VS魔人サルタン



 「――期待外れだな。本領を出す前に私の憤怒は引っ込んでしまったぞ」


 片膝を突き、地に突き刺した聖剣に体重を預ける勇者タケル。

 彼は魔人サルタンを前にして、ただ一方的に攻められ、手も足も出ずにいた。


 「幾ら犬に次いで二戦目とは言え、勇者と言えども怒りの力はこの程度か?」

 「――好き勝手に言ってるようだけど、当たり前じゃない?……勇者の力の本質は勇気やら希望……比較的前向きな思考よ?怒りなんておまけ程度にしか役に立たないわ」

 「ん、お前は」

 「シフルさん……」


 そこに辿り着いたのは賢者シフル。

 勇者の魔法の先生であり、勇者パーティーの仲間であった。


 「獣相手ならそれも十分だと思うけど、本物の強者を相手にしてにわか仕込みな上に適性も大して無い力でまともな勝負になる訳ないじゃない。そんな横着しなくても、あなたなら本来の力だけでもフェンリルぐらい倒せたでしょ。早くて簡単だからってロクでもない戦い方して、しかもそれを格上相手に振るうとか……帰ったら鍛錬メニュー増やさないと駄目かしらね?」

 「別に早くて簡単だから使った訳じゃないんですけど……えっと、お手柔らかにお願いします」


 ひとまず勇者へのお仕置きも確定したところで、一足遅れて騎士団長ルナも合流した。


 「団長。その馬鹿とその子達(・・・・)の手当てをしてあげて」


 気が付くと、サルタンの後方に吹き飛ばされていたはずの三人の冒険者が、こちら側に引き寄せられていた。


 「手際が良いな……ふむ、ではまずは挨拶を――《生命吸収(ドレイン)》」

 「《対抗(アンチ)生命吸収(ドレイン)》」


 展開された《生命吸収》が、シフルの対抗魔法で相殺される。


 「ほう、効かないだけでなく打ち消す……既に対策済みか」

 「ここへ来る直前に完成したばかりのものだけどね。後手の後手、無くした命は戻らないけど、まぁこの三人分ぐらいは守れたから良しとしましょうかね?」

 「ふむ……だが事はそう簡単に行くかな?」


 サルタンが剣を振るう。

 シフルに避ける動作はない。

 にも関わらず、振るった剣は空を斬る。


 「これは?幻術…精神干渉…視覚干渉……いずれにしろやっか――」


 サルタンの背に直撃する魔法。

 被弾するまで一切気付く事が出来なかった。


 「ふむ……確かにそのよう――だッ!」


 再び死角から迫る次弾は綺麗に切り伏せた。

 だが――


 「ちッ!……いつの間に?くッ!次々と……挙動も気配も読めない……何を」

 「何って、攻撃魔法をただ見えなくして(・・・・・・)、ただ察知できない(・・・・・・)ようにしているだけじゃない。ここまで調整が出来る魔法は極一部だけど、こんなのただの技量と設定の問題で、種も仕掛けも無いわよ」


 使っているのはただの《魔力弾》

 《火弾》などはここに〔属性〕を付与する事で出来上がる。

 現状無属性のそれを、ただ威力を強化するような感覚で、透明にして、気配も消して、音も出ない様に設定しているだけに過ぎない。


 「……微かに気配を探知出来るものや、見る事の出来るものも混ぜて……本当にタチが悪い!」


 視界に一瞬映る魔力弾に意識を取られれば完全無色透明な魔法弾に当てられる。

 気配も同様。

 時折混ざる微かな反応に、警戒意識が引きずられる。

 そして出来た隙間を見逃さずに狙われる。


 「なら――」

 「単純防御を堅くするなら、その上から叩き潰せば良い」


 高威力の魔法。

 これは見える。

 見えるが……回避が間に合わない。

 そこまで早いわけでは無いのに、とにかく動きの節目に嫌な所に置かれる。

 直撃し、強化展開した防御が一撃で割れる。

 

 「ぐふッ――」


 その隙に複数の透明な攻撃が叩き込まれる。


 「――クソ」


 サルタンは一歩踏み込もうとして、何とか踏み止まりそのままその場から逃れる。

 彼が一秒後にいるはずだった場所、そして一秒前に居た場所に、複数の《魔法槍》が突き刺さっている。


 「なら――」

 「はああああああああ」


 魔人サルタンの体が吹き飛ばされる。

 レインハルトの《盾突撃(シールドタックル)》。

 まるでトラックと人が交通事故を起こした時のように、轟音と共に弾き飛ばされた。


 「――《雷鳴》」


 レインハルトの真後ろから、レインハルトを軽々と越える跳躍で姿を現したピピ。

 彼女の魔法が地に転がったサルタンを目掛けて落ちてくる。


 「チッ」

 「外したー」


 寸での所で体勢を戻し回避する。

 だがそこに――


 「お返しだな」


 いつの間にか回り込んだ勇者による聖剣の斬撃。

 躱しきれずに左肩を斬り裂く。


 「はぁッ!」


 次いでルナの鋭い斬撃が剣を握る右手を奪い取る。

 そこへ更なる追撃。


 「《炸裂(バースト)爆風(ブラスト)乱舞(ダンス)》」


 純粋な魔力の塊が弾け、魔人サルタンを魔力の嵐が呑み込む。


 「くッ!《短距離転移》に《縮地》擬きか……伏兵も上手く隠したものだ」


 タケルのもとへシフルが辿り着く直前に、既にレインハルトとピピとも遭遇していた。

 面倒な相手に不意打ちを仕掛ける為に待機していた。

 ピピのお陰で隠れ身は完璧。

 シフルも上手く相手の意識をそらせた。

 とは言えそれでも、本命であった一撃死、暗殺を実行するには至らなかったようだ。


 「ごめん、上手く狙えなかったからこっちにしたー。でもこっちも外したー」

 「七罪相手に暗殺は流石に現実味が無かったかしらね。それとこれはこれでお陰様でその次が上手く入ってるから大丈夫よ」

 「上手く……か。確かに腕はやられたな。だがこれだけで良い気になられるのは不本意だな。こちらも数を揃えるとしよう」


 魔人サルタンが開くのは《召喚陣》。

 六体の魔物が姿を現す。


 「人の結界を無視して中で好き勝手してくれちゃってまぁ……」

 「これは元々我らの結界だぞ?突破方法ぐらい把握している」

 「みんながフェンリルを相手している間に改造しちゃえば良かったわね」


 空に現れたのは三体の〔スカルワイバーン〕。

 陸に現れたのは三体の〔ランドワーム〕。

 どれも王都を襲撃した個体よりも、更に一回り大きい。

 強化個体とでも言うべきだろうか。


 「確かに少し面倒だけど、でも――」


 彼らはちょうど良いタイミングで追いついた。


 「《氷の世界》」

 「《三連/極・炎弾(改)》」

 

 地を這う巨大ミミズは凍り付き、そのまま魔石ごと拳で砕かれる。

 空飛ぶ骨は魔石ごと瞬間焼失。

 魔人サルタンによって召喚された魔物は、最初から何もなかったかのように跡形も無く消え去った。


 「ヤマト!?なんでここに……あとそっちの精霊さんは……ってフィルも居るし」

 「はいはいそういうのを気にしている場合じゃないでしょ?レドもお疲れさま」

 「グエッ!!」


 若干納得が言っていない様子のタケルであったが、実際状況はそんな事を気にしている余裕では無い。

 勇者タケル・賢者シフル・聖騎士レインハルト・精霊術士ピピ・騎士団長ルナ・使い魔ヤマト・精霊アリア・巫女フィル・霊獣レド。

 七大罪である幹部魔人を相手取るには充分に豪華な面々であるように思えるが、本番はまだこれからである。


 「クソッ」「チッ!」


 タケルとルナ。

 二人の仕留めの斬撃を回避した魔人サルタン。

 彼の纏う力が変質していく。

 

 「こうなる前に仕留めたかったんだけど、流石に相手が幹部ともなれば全部は上手くいかないものね。……ここからが七大罪の本気ってところね」

 「《炎弾》」「《水の弾》」「《雷鳴》」


 ヤマト、アリア、ピピの魔法は、魔人に打ち消される。

 今の彼にはこの程度の威力では話にならないのだろう。


 「《憤怒解放》」

  

 紛いなりにも人型、魔人としての姿を保っていた魔人サルタンの姿が変化する。

 腕は四本、羽根が生え、体も角も大きくなる。

 今まで与えたダメージが残っているかも怪しい。


 「アイツ、コレを俺一人に向けようとしてたのか」

 「良かったわね、手も足も出なくて。相手が本気になれなかったおかげでコレに一人で対峙しなくて済んだじゃない」

 「そうなんですけどッ!その言い方は辞めてくださいよ……」


 相対するは正真正銘、本気で本物の【憤怒の魔人】。

 彼に最早言葉は必要ない。

 その憤怒を、その力を叩き付け、目の前の敵を殲滅し尽くすまで止まる事はない。


 

 

190330

文章を少し修正しました

ストーリーに変更はありません

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