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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
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74 勇者のもとへ




 「……これって」


 町の結界内に漂う空気や雰囲気と言うべきものが、突如変質した。

 現れたのはとても大きな気配。

 その方角から、冷めたい熱を感じる。

 気温が上がったようにも感じるが、その芯には背筋が凍りそうな程の殺意。

 それをヤマトが……いや、アリアや勇者パーティーの面々も感じ取っていた。


 「この方角って、勇者が居る方向だよな?」


 賢者シフルに見せて貰った地図が脳裏に浮かび上がる。

 靄で方角を見失っていなければ、その方角の先では勇者タケルが戦っていたはずだ。


 「フェンリルではないわね」

 「……魔人」


 ヤマトには、この気配に覚えがあった。

 完全にそれと断定する事は出来ないが、今まで対峙してきた〔魔人〕達に近い気配だ。

 だがこの気配は三者と比べて圧倒的に強く、濃く、大きい。


 「魔人より強い魔人?」

 「その感覚が正しければ、もしかすれば幹部(・・)……〔七大罪〕やもしれん」


 〔七大罪〕。

 前世日本でもゲームや漫画などを通してそれなりに広まっている〔七つの大罪〕。

 〔傲慢〕〔憤怒〕〔嫉妬〕〔怠惰〕〔強欲〕〔暴食〕〔色欲〕

 この世界の魔王軍には、それぞれの名を称号として与えられた〔七人の幹部〕が存在する。

 今までヤマトが体感してきた三人の魔人の気配に近いものを持ちながら、魔人よりも圧倒的な力の気配。

 それが幹部のものであるというのなら、確かに納得出来るだろうが……


 「――間違いない。()は違うけど、この気配は七大罪のもの」


 ヤマトではなくピピが断言した。

 その根拠が気になるところではあるが、今は余所事を気にしている場合ではない。


 「行く」


 ピピが一人で駆けだした。

 その方角、おそらく勇者のもとへと向かったのだろう。


 「待て!一人で……済まないが追わせて貰う。後は頼む、レド!」

 「グェッ!」


 その後をレドに跨ったレインハルトが空から追う。

 本気で駆けるピピは移動速度だけで言えば空を舞うレドよりも速く見えた。

 本来ならあるべき町中の障害物も軒並み崩れているため、後追いで目的地までに追いつく事は難しいかもしれないが、だからと言って一人で行かせる訳には行かない。


 「アリアも追ってくれ」

 「……分かったわ」


 その二人の後を、ヤマトはアリアに追わせた。

 アリアの姿が背景に溶け込む。

 速度はともかく、非実体であれば障害物など関係ない。

 二人は一流とは言え、相手が七大罪となればそれでも足りるか分からない。

 ましてや一戦終えて消耗しているとなればなおの事だ。


 「なら私も――」

 「フィルは行くな」


 更に後を追おうとしているフィルの腕を掴み止まらせる。


 「向こうも大事だけどこっちの負傷者も大事だ。追うなら彼らを届けてから」

 「……分かりました。それなら急ぎましょう!」

 「分かってる。《人形創造(ゴーレムクリエイト)》!」


 ヤマトは十一体目の土ゴーレムを作り出した。

 その姿はゴーレムよりも大きく、デザインもオーガに似ていた。


 「なるほど、確かに勝手が悪いな。安く買い叩かれる訳だなぁ」


 ゴーレム実験用に一つだけ残して置いた〔オーガの魔石〕。

 実際に使ってみて、その使いにくさと魔力の通りの悪さを実感していた。


 「そんじゃ行くぞ」

 「行くって……うわぁ!?」


 オーガゴーレムの右腕左腕にそれぞれ抱えられたヤマトとフィル。

 

 「駆け出せ!!」


 ゴーレム十一体の集団が、創造主の命に従い一斉に駆け出した。


 「ゆ…揺れがッ……」

 「巫女なら我慢して」

 「それ巫女関係ありますか!?」

 「やらかす巫女は見たくない」

 「巫女じゃなくともやらかすところは見たくないでしょ!?」


 レドのアクロバット飛行に酔いそうになっていたフィルは、この小刻みで胃を揺さぶるような振動も少々来るものがあるようだ。


 「ゴク…ゴク…ふうッ」

 「随分余裕ありますね!」


 抱えられた状態からポーションを飲み干すヤマト。

 今の内に出来る準備はしておく。


 「ほら、もうすぐだから頑張れ……ってマズイな。停止!」


 ゴーレム集団が一斉にブレーキをかける。

 賢者シフルの居る合流地点を目前にしていたが、視界の先で迎え撃とうと構えている騎士たちの姿を見て、ヤマトは慌てて止めた。

 そして自身はオーガゴーレムから離れ、集団の前へと出る。


 『敵じゃないッ!冒険者のヤマトです!!負傷者を運ぶためにゴーレムを作って使ってるだけなので敵意はないです、剣を降ろしてください!!!』


 《拡声》と大手を振って存在をアピールするヤマト。

 構えていたのはヤマトの姿を知る騎士団第一隊の面々であったため、何とか味方同士の誤戦を回避する事が出来た。


 「危なかった……そうだよな、見た目的にはゴレムと大差ないもんな。そりゃ警戒するよな」


 アリアに「人攫いのよう」と指摘された時点でこういう事故の可能性を考慮しておくべきだったと反省点が出来てしまった。

 次があるなら、何かしらの目印みたいなものを用意しておく必要があるだろうか。


 「とりあえず歩行っと」

 「あの、出来れば私は先に降ろして貰えませんか?」


 ヤマトの目の前を、フィルを抱えたオーガゴーレムがゆっくり通って行った。

 

 「そうだな。それじゃあ降ろして……解除っと」


 騎士たちに順番に負傷者を受け渡していくゴーレム達。

 その後ろで一足先にオーガゴーレムを解除し砂に戻した。


 「……魔力だけじゃなく魔石自体がダメになってるか」


 オーガの魔石が限界を迎えていた。

 これでは再利用は不可能であろう。

 やはり買い取り価格が安いのには相応な理由があったようだ。

 用途が少ないという事は、これでも何かしらの用途はあるようだが。


 「フィル、大丈夫か?」

 「……四十秒だけ待ってください。すぐに復活しますので」


 らしいのでひとまずフィルは放置する事にした。


 「――すいません、シフルさんは何処に?」

 「賢者様ならルナ団長と共に勇者様のもとへ向かいました」


 どうやらヤマト達同様に魔人と思しき存在に気付き、ピピ達と近いタイミングでシフル達も出向いたようだ。

 

 「《結界》は?」

 「もう間もなく自然消滅するそうです。元々フェンリル用の檻として展開したものでその用は済み、尚且つ勇者様の相手は《結界》をすり抜けて来たらしく、なおの事もはや必要ないとの事でした」


 確かにフェンリルは消え、残るは結界の効かない相手となれば維持し続けても無駄かも知れない。

 役に立たない檻を維持するよりも賢者自ら出陣するほうがずっと良いだろう。


 「念のため無事な者の中から数名をここに残して行きますが、我々は指示に従い負傷者を連れて外へ、レイダンに向かいます」


 騎士団本隊は負傷者と共に撤退。

 魔人の相手は勇者パーティープラス団長のみで行うという事らしい。

 

 「俺らへの指示は?」

 「ありません」


 何もない。

 撤退も待機も指示が無いと言う事は、ヤマト達は好きにしろという事なのだろう。

 そうなると、向かえば何かしらやれる事はあるのかもしれない。

 ヤマトも、フィルも。


 「分かりました。ありがとうございます。俺達は向かいたいと思います」

 「そうですか……ご武運を」


 そして騎士は自身の役目へと戻って行った。


 「フィル」

 「……はい、大丈夫です。行きましょう」

 「それじゃあゴーレム――」

 「ゴーレムは無しで」


 確かに戦いの場で酔われていても困る。

 となると徒歩しか無くなるが……。


 「グェ!」


 そこにレドが舞い降りて来た。

 慌てた様子もなく、レドがこちらに来たと言うのなら、あの二人は既に無事に勇者と合流できたのだろう。


 「グゥエッ!!」

 「……乗れって事か?」

 

 どうやらレドは、ヤマトとフィルを乗せて行ってくれるようだ。

 そのためにこちらに来たとなれば、主である賢者シフルの指示なのかもしれない。

 ヤマトはともかく、フィルが向かいたがるのは予想通りだったようだ。


 「……よろしく頼む、レド」

 「グェッ!」


 レドに跨るヤマト。

 そしてフィルに手を差し伸べる。


 「行こう」

 「はい」


 ヤマトの後ろにフィルも跨る。

 そしてレドは舞い上がった。 


 

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