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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
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71 拳の精霊と忍者と聖騎士とグリフォンの戦い



 「……ふむ」

 「ラウルより合わせやすいー」

 「グェッ!」


 アリアの今の戦闘スタイルは〔魔拳士〕。

 勇者パーティーには〔拳闘士〕のラウル第三王子が居る事もあり、格闘職との連携の心得は見に付いているため、比較的すんなりと纏まった。

 むしろピピからは『アリアのほうが戦いやすい』とまで言われた。


 「力や技はラウルのほうが上だが、あれは流れに乗り出すと一人で突っ走る癖があるからな。ダンジョンでの日々で最初よりもかなりマシにはなったが、連携を前提とするなら今はまだアリア殿の方が戦いやすいな」

 「ラウルは周りへの配慮が雑ー。出来てない訳じゃないけど何か雑ー」

 「グェッ!」 


 グリフォンであるレドまで混ざり、満場一致の意見であった。

 

 「褒めてくれてありがとう……でもちょっと決定打に欠けるかな?もう少し上げるわね」


 ギアが一段上がる。

 周りもそれに合わせる形で力を引き上げる。


 「無理に合わせなくていいわよ?」

 「気にする必要はない。これでも我らは勇者と共に戦う者、国中からかき集められた精鋭だ。むしろこちらの方が本領に近い」

 「そうなの?ならごめん、失礼な事を言ったわね。でもそれなら何で抑えてたの?」

 「私やピピだけでは仕留めきれるか怪しかった。無理をして万が一にも我らが落ちれば、次の標的は後ろに居る負傷者に切り替わる。だから耐え続け、援軍や打開策を待って確実に仕留められる機会を伺っていた。来なければいずれは二人のみで賭けに出る事になっていただろうが、その援軍が揃ったのならこれ以上我慢する必要はない」

 「もういいのー?それじゃあー……《多影》」


 ピピの姿が二人四人と増えて行き、八人となった。


 「いざー」


 ピピは職業上は〔精霊術師〕となっているが、勇者タケル曰くそのイメージは〔忍者〕だそうだ。

 《多影》はいわば分身の術。

 光属性の派生となる影魔法。

 生み出した影に、精霊術師としての技を重ね、ほぼ実体に近い分身を生み出す。

 類似する魔法は他にもあるが、この魔法自体はピピのオリジナルである。


 「《八・八刀陣〔雷〕》」


 八人のピピがフェンリルを取り囲む。

 そしてフェンリルの全方位から無数の短刀が放たれる。

 一体に付き八本。

 八体×八本で六十四本のナイフがフェンリルに襲い掛かる。

 

 (……やっぱり妨害の影響を受けていないのね)


 アリア同様に、ピピ自身そしてピピの放つ技には《妨害領域》による影響が出ていない。

 同じ精霊術師であるヤマトでも、少なからず受けていた妨害の影響。

 その情報はアリアが初対面でピピに抱いた推測を固める要素にもなった。

 

 「痺れろー!」


 ピピの放った短刀は、その一本一本が雷を纏っている。

 そんなナイフがしっかりと刺さり、フェンリルの内側(・・)に雷を解き放つ。

 激痛と痺れでフェンリルの動きが鈍り、身動きが取れなくなった。


 「――良い的ね。はぁあああ……それ!!!」


 今までで一番強力な一撃がアリアから繰り出され、叩き付けられる。

 フェンリルの肉体が振り下ろされた拳と地面に挟まれ、その衝撃から逃げられない。


 「まだまだ!!」


 アリアの攻撃はその一撃に収まらない。

 その後も続く連打。

 相手が動けないのをいい事に、可能な限りの拳を叩き込む。

 その姿に精霊らしさは見当たらない。


 「……アレは本当に上位精霊なのか?」

 「ちょっと自身無くなってきたかもー」

 「グェ」


 一般的な精霊のイメージは、もっと高潔で純粋な存在だったはずだ。

 ほとんどのおとぎ話ではそのように描かれている。

 だが目の前のアリアの姿は、そのイメージから遠かった。

 魔法を自在に操るイメージはあれど、あれ程までにひたすら拳を振るうイメージは全くなかった。

 ぶっちゃけ周りは引いていた。

 精霊について人よりも知るはずのピピも、若干引いている。


 「……だがまぁ客人にこれだけ暴れられて、私が何もしない訳にも行かないな。これだけ叩いたのであればコレも届くであろう。――《光剣》」


 レインハルトの剣が光り輝く。

 防御一辺倒で攻撃を受け流す時にしか振るっていなかったその剣を、とうとう攻撃の為に振るう。

 普段は仲間を守るために盾役に徹する事が多いが、騎士として副団長の地位にまで到達した男が剣を不得手としている訳がない。

 その剣筋は、騎士団長とも遜色は無い。


 「《光斬》」


 その一太刀は確かにフェンリルの魔石に届いた。

 魔石にヒビが入る。

 だが咄嗟に身を捻り、寸での所でフェンリルは自身の死を回避する。


 「ごめんー。動かれたー」

 「いや、相手が動かぬものと鷹を括った私の失敗だ。盾にかまけて鈍ったか。一度こちらも鍛え直さなくてはならないな」

 「グウォオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

 

 二人の会話などフェンリルの眼中にない。

 今感じているのはただひたすらに死の恐怖のみ。

 心臓たる魔石を傷つけられたのだから当然と言えるだろう。

 死を目前にしたフェンリルは叫び、そして足掻き始めた。


 「――これは」

 「キツイー……」


 この場に掛かる靄が濃くなる。

 フェンリルが持てる力を振り絞る。

 命をギリギリまで力に変えてゆく。

 その結果《妨害領域(デバフフィールド)》は強化され、とうとう影響の出ていなかったアリアやピピにまで、少なからず影響が表れてきてしまっている。

 だが――

 

 「……だからと言って、我らが止まると思うのか?」

 「これ気持ち悪いー」

 「向こうも心配だし、次で仕留めさせて貰うわ」

 「グェ」


 この面々は、そんな事で止まる者達ではなかった。

 これでは足りないと理解したフェンリルは、何かを放とうと動き出そうとしているようにも見えたが、とうに手遅れ。

 本気で彼らを止めたいのなら、妨害領域の強化と共に構えるべきであった。


 「《光波斬》」

 「《八・四雷落》」

 「《氷の嵐》」

 「グェエッ(《暴風螺旋》)!!」


 躊躇も容赦も一切ない。

 それぞれが本気で仕留めるために放たれた力が、フェンリルの身を蹂躙する。

 フェンリルが最後の力で放とうとしていた何かは、日の目を見る事は無かった。

 全てをその身に受けたフェンリルの肉体は跡形も無くなり、魔石もいくつかの欠片のみを残し粉々に砕かれた。

 



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