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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
使い魔人生/始まりと出会い
7/269

6 勇者【タケル】


 「――知らない天井だ」

 「それは狙って言ってるのか?それとも素なのか?」


 聞き覚えの無い声がした。

 ヤマトは数瞬遅れて、ベットから起き上がる。

 この場所はヤマトが宿泊している宿だったが、目の前に居る男には見覚えがなかった。

 なかったのだが……その容姿の特徴から、相手の正体はすぐに見当が付いた。

 そこにダメ押しで()る。


 【タケル=サナダ (人族/勇者)】


 「…もしかして視てるのか?ならもう分かってると思うけど改めて自己紹介をしよう。俺の名前はタケル。君と同じく日本出身の、いわゆる〔召喚勇者〕ってやつだ」


 ヤマトと同様に女神様が選んだ存在でありながら、ヤマトと違い生きたままこの異世界に召喚された存在。

 対価と引き換えに、魔王との戦いを義務付けられた存在。

 そんな勇者タケルが、ヤマトの目の前に居た。


 『あ、警戒しなくて大丈夫ですよ。私がお願いしてヤマト君をこの部屋まで運んでもらったんです。あの後、ヤマト君は気を失って倒れてしまいましたから、この町の近くまで来ていたタケル君に手伝ってもらったのです』


 どうやら勇者タケルがこの場に居るのは、女神様の指示だったようだ。

 窓の外を見ると、陽はすでに上がっている。

 結局気を失っている内に夜が明けたようだ。


 「……ありがとうございます。俺はヤマト。勇者様と違って転生でこの世界に来て、女神様の使い魔をやってます」

 「うん女神様に聞いた。俺が召喚される時にそういう存在も居るってのは聞いてたけど、先代さんとは一切会う機会も無かったからこっちに来て初めて同郷と会う事になるな。ちなみに様付けも勇者呼びも要らないから。折角同世代で同郷の相手と出会えたんだ。正式な場ではともかく、今みたいなプライベートな時間はもっと普通に接して欲しい。流石に初対面で友達とは行かないだろうがもう少し軽く」

 「……分かった。よろしくタケル」

 「よろしくヤマト」


 ヤマトとしても堅苦しいのはあまり好かない。

 一応ヤマトの方が前世的に年上なのだが、それを指摘するのも無粋な気がした。

 元々年齢で威張るつもりもないので、気にしないでいこう。


 「ところで……この町の近くまで来てたって事だけど、何か用事があったんじゃないのか?」

 「あぁ、ここじゃなくて隣町にだけどな。昨日のうちに辿り着く予定だったんだけど、予定が遅れてこの町から少し離れたところでテントを張って野営してたんだ。そしたら女神様から連絡が来て、仲間と別行動とって一人で《短距離転移(ショートジャンプ)》を数回使ってこの町に飛んで来て、ヤマトを拾ってこの宿まで連れてきた。宿の人がギリギリ残っていてくれたおかげで部屋に不法侵入せずに済んで良かった」


 《短距離転移(ショートジャンプ)

 この世界の魔法において、転移系の魔法はどれも伝説の代物だ。

 女神の使い魔であるヤマトも、適性自体はあるが扱いがとても難しく、どれだけ短距離であろうと発動出来たことが一度も無かった。

 それをあっさりと使えるタケルは、確かに勇者の実力を備えていそうだ。


 「…だけど、俺が気を失っている状態で良く部屋に通して貰えたな。この宿のセキュリティってどうなってんだ?」

 「あぁいや、宿は悪くない。ちょっとズルいけどこれを出したからな」


 そう言ってタケルが見せてきたものは、貴族用の身分証(カード)だった。

 通常の物と違い、見た目の装飾がやたらと豪華だった。


 「勇者かつ貴族なのか?」

 「あぁそうだ。といってもほとんど押し付けられた身分だけどな。それでも活動するうえで役立つ時が山程あるから文句は言わないが……まぁ言いたいけど」


 何やら貴族としての苦労があるようだった。

 元々日本の一般人なら、勇者以上に貴族の世界など正に別世界なのだろう。


 「これを渡された一番の理由が、王女様との婚約の時に、身分的なバランスを取るためっていうのが正直笑えない」

 「……婚約してるのか?」

 「いや、してない。させられそうにはなってるけど。というか王女様だけでなく、他にも何人かお偉い人達の娘さんが宛がわれそうな状況になってる」


 どうやら目の前の勇者は強制ハーレム目前の状況のようだ。

 ちょっと羨ましいと思うヤマトであったが、相手の女性の身分がアレなだけにむしろ同情の方が強かった。

 当然ヤマトも恋愛や結婚といった話に興味はある。

 ただ、あくまで普通の恋愛が基準だ。

 出来れば政略結婚は遠慮したい。


 「王女様を始め、みんな美人揃いなのは良いんだが……日本の一般的な男子学生には流石に政略婚ハーレムは重い。せめてもっと相手を知る機会があれば変わるかも知れないが、勇者としての仕事が多くてしっかりとしたコミュニケーションが取れないから愛情も何も沸く暇がない。ほんとどうし――」


 コンコン


 タケルと他愛もない話を繰り広げていると、部屋の扉を叩く音が聞こえた。

 ヤマトが返事をすると、扉を開き二人の女性が入って来た。


 「失礼します。こちらにタケル様が……居ましたね。用事は済みましたか?」

 「――成程、黒髪の少年か。急に飛び出した理由は大体察したかな」


 ヤマトは二人の女性を視てみた。


 【フィル (人族/巫女)】

 【シフル=ハウル (エルフ族/賢者)】


 一人はおかっぱ頭で神官服と巫女服を足して二で割ったような服装を纏った小柄な少女。

 もう一人は、ただでさえ目立ちやすいエルフである事を一切隠そうともしない、比較的肌色率の高い服装の、碧眼金髪の女性であった。


 「悪いなヤマト。仲間も合流したんで、そろそろ行くわ」

 「いやこっちこそ手間をかけてスマン。……そうだ、これを持っていってくれ!」


 ヤマトは収納から一つの魔石を取り出し、部屋を出ようとするタケルに投げ渡す。


 「――お前、これ本当に良いのか?国宝級の代物だぞ!?」


 ヤマトが渡したのは、中身を使い切った〔古代龍の魔石〕だった。


 「中身を使い切って、今の俺には宝の持ち腐れだからな。物が物だけに安易に売りに出すわけにもいかないし、せっかくだからそっちで役に立ててくれ」


 普通の魔石と違い、龍の魔石に魔力を込めるには相当の技能が必要になる。

 将来的には分からないが、今のヤマトにはどうしようもない物だ。

 

 「……分かった。ありがたく受け取る。その代わり……これを受け取れ」


 タケルの飛ばしてきた一枚の紙。

 投げ方カッコイイなと思いながら見てみると、そこにはある番号が並んでいた。


 「俺の身分証(カード)の連絡番号だ。費用はこっち持ちでいいから、困ったことがあったら連絡して来い」

 「分かった。こっちもありがたく受け取る」


 そして勇者一行は去っていった。

 勇者との伝手を手に入れるという思わぬ収穫を得ることが出来た。

 

本日は夜にもう一話更新の予定です


11/06

文章を一部修正。

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