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62 グリフォンで行く空の旅


 「うぉっと……流石に高いなぁ」


 空飛ぶグリフォン・レドと、その背に跨るヤマトとフィル。

 彼らは件の町、ダンジョン都市〔ロドムダーナ〕へと空から向かっている。


 「結構な高さに速度だけど、落ちそうな不安定感は全くないなぁ。むしろ毛並みがモフっとしてて、このまま眠れそうな気もする」

 「グェッ!」


 どうやらレドはヤマトの感想に機嫌を良くしたらしく、遊び心からかアクロバット飛行を披露してくれた。


 「おおー、すごいな!なんだかジェットコースターを思い出すなぁ……」

 「グェ!……グェッ?」

 「あの!二人とも遊ぶのは後回しにしてくれませんか!?……というか普通に飛んでレド!酔うから…このままだと私が酔いますから!」

 

 楽しんでいたレドとヤマトであるが、フィルからの待ったが掛かった。

 流石に二人の背中に吐かれるのも困るので、レドは通常飛行へと戻っていった。


 「水いる?」

 「……大丈夫です。酔う前に収まってくれたので。ギリギリだったとは思いますが」


 とりあえず大丈夫そうだった。

 

 「……レド、お願いですから普通に飛んでください。さもないと後でご主人様(シフルさん)に「お仕事中にレドが遊んでました」って報告するから」

 「グェエッ!?」

 「ヤマトさん、レドはグリフォンの中でもまだまだ子供の部類らしいので、調子に乗らせると何処までも遊びだすので調子に乗らせないようにしてください」

 「俺はただ感想言っただけなんだけどなぁ……」


 フィルからの脅しと軽いお説教が二人に飛んできた辺りで場は落ち着きを取り戻した。

 そして本題が語られる事になった。


 「それで、そろそろ話をしても良いですか?」

 「ちょっと待って、えーっと……(説明始まるみたいなので、繋いで(・・・)ください)」

 「(――切り替えました。ちょっと喋ってみてください)」

 「あーあー、聞こえてますかー?」

 「(聞こえてますよー)」 


 フィルの話をティアにも直接共有するために、思考会話の回線を直接ヤマトの聴覚とも繋いだ。

 その操作をしているのはティアの方なので、ヤマトにはその仕組みは、何をどうしているのか全く分からないが、ひとまずこれで問題なさそうなのでそのまま話を続ける。


 「ここからの話は、全部ティアにも直接聞こえてるから」 

 「何というか……でたらめな事をしてますね」


 メールはあれど電話は存在しない世界で、人間電話機と化しているヤマトに、フィルは若干呆れた様子だった。


 「――では話を始めますね。そちらは制限時間もあるみたいなので手短にまとめて話しましょう……簡単に言いますと、『ロドムダーナの《結界》が消失し、その中から三体の〔黒い(・・)フェンリル〕が出現。現在騎士団と勇者パーティーが〔フェンリル〕討伐の為に戦闘中』となっています」

 「(フェンリルですか……)」


 〔フェンリル〕は魔物の中でも特に危険な、最上位種の一角。

 人の活動圏内で目撃された場合、それこそすぐさま騎士団や上級以上の冒険者たちに招集が掛かり、徒党を組んで即日討伐に出向く程の危険視されている。

 形状としては犬や狼の強化版にも思えるが、中身は別格。

 あくまでも個体差にもよるが、今までに確認された個体の中には真種(ほんもの)のドラゴンとも張り合う事が出来る個体が実在した程の存在。

 そんなものが三体。

 しかも黒い(・・)


 「黒いってのは、どういう風に黒いわけ?」

 「毛の色が完全に真っ黒だそうです。通常のフェンリルの毛色は灰色なので、変異種や特殊個体の可能性が高いという事です」

 「真っ黒なフェンリル……黒い……」

 「(黒って聞くと、どうしてもアレを思い出しちゃうわね)」


 ヤマトもアリアも、思い出していたのは同じ〔黒い蝶〕〔黒い人型〕。

 黒と聞くと、どうしてもあの印象が強い。

 アレと関わりのある存在なのかは、実際に相対して見ないと分からないが。


 「そのフェンリルってのは、何処から入り込んだんだ?」

 「入り込んだと言うより、魔王軍が従えていた魔物で《結界》が張られる前に…ロドムダーナ占領にも用いられていたようです」


 魔王軍の従魔となっていたらしい三体のフェンリル。

 そんな存在が敵戦力として攻めてきたのなら、それはもう町の常駐戦力程度ではどうしようもないだろう。

 勇者が地上にいるタイミングであればまだ手はあっただろうが、ダンジョン探索で潜っている間の襲撃となれば、町一つを占領するには十分過ぎる。

 

 「厄介だな。魔王軍、そしてそれに従う三体のフェンリル。騎士団は勿論、勇者でも苦労するんじゃないのか?」

 「……いえ、こちら側の戦力が相手にしているのは三体のフェンリルのみです。それ以外、魔王軍は既に居ません」


 ――どういう事だろうか。

 《結界》が消えたと言う事は、もしや魔王軍の本隊は既に逃げ、殿としてフェンリルを置いて行ったのだろうか。 


 「シフルさんの手紙には、勇者パーティーがダンジョンから地上へと帰還した時点で町中…地上に生存していたのは三体のフェンリルを除き、先程レドが連れて来た三人のみ(・・)だったそうです。これは敵味方問わず(・・・・・・)、魔王軍も含めてです。他は全て死亡……とのことです」

 「……は?」


 ヤマトが聞いていた話だと、魔王軍が《結界》を展開する前に町の外へと避難する事が出来たのは町の人口の二割程。

 つまり結界内には残りの八割の住民が閉じ込められていたはずだ。

 そしてロドムダーナは、当然ながら王都ほどではないがその他の町の中でも上位に入る規模の町だったはずだ。

 ……そんな町に済む八割の人間がたった三人を残して死んだという。

 それも攻めて来た、フェンリルを従えていたはずの魔王軍諸共に。


 「――実はシフルさんが保護した女性に持たせていた手紙、あれは特殊な紙を使用してまして、読み手によって表示される内容が変わるんですよ」


 レドが運んできた三人。

 そこからフィルに渡され、今は兵士の下にある手紙。

 話によるとあの手紙に使われていた紙は一種の魔法具であり、二層に書き込まれた内容を手紙を手にした者の〔魔力紋〕を判別して切り替えて表示するらしい。


 「兵士さんが見た内容にはあの三人を保護する指示だけが書かれていましたが、私の見た内容にはあの三人……厳密には二人から聞き出した、ロドムダーナに起きた出来事についても書かれていました」

 

 母子は魔王軍の捕虜として他の子連れと共に軟禁状態で隔離されていたが、突然襲撃してきたフェンリルにより監視諸共周囲が食われていく中でたまたま運良く逃げ延び、ひたすらに隠れ、絶食により衰弱していたところを勇者一行に救われた。

 奴隷の方は労働力として魔王軍に使われていたが、フェンリルの暴走(・・)により主が喰われ解放。

 そのままこちらも運良く逃げ延び、民家に潜んでいたところを保護された。

 どちらも運良く地獄を生き延びた人々であった。


 「……両者の証言とシフルさん達が調べた町の様子を示し合わせた結果、シルフさん達は「その〔暴走した三体のフェンリル〕が敵味方一切問わずにほぼ全て喰らい殺した」という結論に至ったそうです」


 暴走したフェンリルが、飼い主すら喰らい尽し、そのまま町を一つ滅ぼした。

 それは「魔王軍による住民虐殺」という想定していた中でも最悪の想像にすら届き……状況は更にその先へと進もうとしている。 

 



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