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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
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57 テンプレの代償、眠りの影響



 ――昨夜、ヤマトがやらかしたテンプレ騒動第二弾。

 土下座で謝罪するヤマトに対して、既に話し合いを終えてからやって来た三人からは意外にも〔全員分の朝食代金の負担〕という許しの条件が提示された。

 前回のフィル同様、半殺し(九割)も覚悟していたヤマトだったのだが、失態の内容に対しては思いのほか軽い沙汰に「本当にそれでいいの?」と逆に聞き返してしまった。

 ……だが案の定、そこまで甘くは無かった。


 「こっちの五人は〔特別セット〕で」


 フィルのその言葉に「特別セット?」と首を捻ったヤマトであったが、メニューを見直してむしろ納得してしまった。

 〔朝食特別セット〕。

 朝から誰が食うんだ?と疑問に思わざる負えない程、とにかく全ての食材にこだわり抜いた内容だった。

 当然ながらその分、お値段の方も桁が違った。

 勿論ヤマトに拒否権は無かったし、流石に拒否するつもりも無かった。


 「ヤマトさん、御馳走様でした」

 「あ…うん、どういたしまして……」


 食事を終えたヤマトは、若干のデジャヴを感じつつも支払いを終え、随分と軽くなった自身の財布に寂しさを感じていた。

 出発前にギルドでお金を降ろしてくるか、もしくは早くも収納(タンス)貯金の金貨から補充する時が来たかと考えていた。

 何故に宿屋の朝食メニューに、〔少々余裕のある〕食事処の夕食料金よりも高いコースが存在しているのだろうか。

 しかもそれが五人分。

 贖罪の為とはいえ、昨夜に次いでのこの出費は正直……

 

 (いや、考えるのはよそう。全部自業自得なんだ)


 むしろこれで手打ちにして貰えるのならやす……安いものだ。

 安いものなのだ。


 「……ボソッ(半月振りに出たね)」

 「……ボソッ(五ついっぺんにとか初めてだよね)」


 支払いを終え背を向けたヤマトの背後から、そんな小さな声の会話が届いていてきた。

 

 (そんなメニューを何故出している……?)


 とは思いつつも、結果的にその〔特別セット〕の存在がヤマトの失態を拗らせずに済んでいるわけなので、このメニューの考案者には感謝するべきなのだろう。

 当然情状酌量の余地ありとしてくれた三人にも感謝だ。


 (……次また来ることがあれば、今度は俺も頼もう)


 ちなみにヤマトは一人だけ通常メニューだった。

 流石にやらかした立場で同じものを頼むことは出来なかったが、当然ながらヤマトも興味津々ではあった。

 五人の反応を見ていれば尚更だった。


 ――余談ではあるが、この数日後には特別セットの材料が無くなり、今後同じメニューが販売されることは無かったそうだ。 



 (――ん?あの三人は)


 町の外へと向かおうとする一行。

 するとヤマトの視界にはそよ風団の三人が見えた。

 一瞬声を掛けようとしたヤマトであったが、すぐに止めた。


 (……相手は依頼主か護衛対象の人なのかな?)


 そよ風団は誰かと話をしていた。

 流石に判別は出来なかったが、馬車の傍で握手を交わしているのを見ると、恐らくはあの人が護衛依頼の依頼主か護衛対象なのだろう。

 既に仕事中となればちょっかいを出すわけにも行かない。

 彼らの旅の無事を祈りつつ、ヤマト達も自身の道へと出発していった。



 しかしその道行きも、早々に邪魔が入り足を止める。


 「……なんだろうな。何でこう目的地真っ直ぐに進ませてくれないんだろうかな?」

 「日頃の行いじゃない?」

 「特段悪いことはしてないはず……あ、うん、微妙だったな」


 アリアの言葉を否定したいヤマトであったが、昨日の失敗は明らかにマイナス行為だったため反論しにくかった。

 

 「それで……あの〔竜巻〕って本当に自然現象?こういうのにあまり詳しくないけど、正直違和感があるんだけど」


 道中、ヤマト達の進む先に出現している大きな〔竜巻〕。

 自然現象として発生しているのなら仕方のない事ではあるのだが、ヤマトはその竜巻に違和感を感じていた。

 とは言えその違和感も、特段人の手が加わっているのかと思えばそうでもない。

 《鑑定眼》も魔法として認識していない以上は、自然発生したものには違いないのだろう。

 

 「……あれは確かに自然発生したものです。ですがあれは、女神(わたし)が正常であれば発生する事の無かった竜巻とも言えます」


 ティアの説明…どういうことなのだろうか?


 「先日説明したように、〔女神の本体〕は現在眠りに付いています。その際に普段女神(わたし)が行っていた世界の管理を手動からシステムの自動調整に……いわゆるオートに切り替えたのです。ですがやはりオートでは限界がありまして、どうしても取りこぼしが…修正しきれない問題が出てきてしまいます。目の前のあの竜巻は、そういうシステムだけでは対応しきれなかった何かから発生したものなのだと思います」


 システム任せの調整だからこそ取りこぼしてしまったもの。

 そこから起きた竜巻。

 女神が自身で対応できる状況だったらな、発生する事もなかった。

 つまりは現状の女神不在による悪影響の一つが、目の前の竜巻ということだ。


 「……あれは放っておいていいの?」

 「あの様子なら人里へ向かう事も無いでしょうし、流れとしてももう少しで解け、自然消滅すると思います。なので私たちは竜巻を迂回するか、消滅を待ってこの道を進むか選べばいいと思います」


 とりあえず特段〔使い魔〕としての対応が必要な状況ではないらしい。

 あくまでも目の前の竜巻は……ではあるが。


 「あの程度であればまだまだ優しい初期段階です。このままオート管理任せの状況が続けば、取りこぼした小さな歪みは積もり積もってより大きな災害に発展する事もあります。それこそ末期には大災厄……世界そのものを壊しかねない事態も起こりえます」


 下手をすると〔女神の死による世界の死〕よりも先に、世界の方が壊れてしまう可能性もあるとティアは言う。

 女神の死だけが世界の終わりではない。

 仮に女神が復活しても、それまでに世界に修正しきれないほど大きな傷が出来てしまえばそれも手遅れの要因になる。

 勿論女神を救わなければ結局は終わりだが、そこだけがボーダーラインではない。

 目の前の竜巻は、そんな現実の一端であった。

 

 「弱まってきましたね。休憩しながら消滅を待ちましょうか」

 「……はい」


 竜巻自体はその後十分程で消滅した。

 ヤマト達は再び進み出す。

 


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