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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/悪魔と天使
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54 使い魔の妹?


 「……はい、冒険証(カード)をお返しします。ようこそ〔アロン〕へ」

 「ありがとうございます」


 ヤマトはアロンの町の門兵から冒険証を受け取った。

 ヤマト一行はバルドルを離れ、〔アロン〕の町に到着した。

 今日はこの町の宿で一泊する。

 正直日暮れにはまだ少し早かったが、ヤマトが自転車で魔力の継続消費をしている上で戦闘を行った事や、この町を過ぎると次の町まで少し距離がある事、さらに長旅に慣れていないナデシコも居る為、野営の回数は出来るだけ少ない方が良いとのティアとフィルの判断だ。

 ヤマト自身の事はあまり気にしていなかったが、ナデシコの事は最もな話なのでアロン入りする事にした。


 「そう言えばティア、その身分証はいつ用意したの?」

 「ヤマト君が休んでいる間にフィルが手配してくれたものです。冒険証でも良かったのですが、こっちのほうが色々と便利なので甘えました」


 ティアの身分証にはフィルやナデシコの身分証と同様に、王国関係者用の紋が刻まれていた。

 確かに一般人の身分証と違って出来る事が多いので、便利と言えば便利だろう。


 『私は素通りしちゃってるんだけど、この町の警備は大丈夫なの?』

 「(この町に限らず、何処の町だって流石に精霊までは対処してられないから)」


 身分証を持たないアリアは非実体で黙って入町している。

 一般人には精霊など、最早おとぎ話の存在程度の認識しかない程に交流が激減している。

 しっかりと対策しているのは王城などの重要施設のみで、王都の結界ですら精霊は素通りできる。

 流石に王都の結界なら精霊側に明確な害意があれば結界も反応するだろうが、普通の町の結界程度では本当に無対策だ。


 『まぁ本当に人界で悪さをしようとしている精霊が居れば、実行する前に本体(わたし)がキッチリ制裁を加えるわけだけど』


 精霊側の偉い人がそう言っているので、精霊の侵入対策は無くても一応は問題はないようだ。

 あくまでも一応だが。

 

 「……この町は、スタドぐらいの規模の町なのに人が結構多いなぁ」


 町の中は予想していたよりも人通りが多く賑わっていた。


 「普段はここまでではないようです。王都への復興物資や〔レイダン〕への支援物資を運ぶ商人、他にも諸々の騒動のせいで人材などの移動も多くなってますから、それらが重なった状況みたいです」


 いつの間にやら情報を手に入れてきていたフィルがとても頼もしい。

 王都はヤマトも知るように侵入した魔物の被害もあり、民家などにも多く被害が出ている。

 レイダンは現在ヤマト達も向かっている、ダンジョン都市〔ロドムダーナ〕の隣にある町であり、王都同様に魔王軍による襲撃を受け未だに魔王軍が居座っているというロドムダーナへの対策本部が置かれている。

 そして騎士団の一部隊もレイダンに駐留しているため、そちらにも多くの物資が運ばれているようだ。

 更にバルドルの役人のように、王都復興に際し各地から集められる人材もあり、この町にも移動の中継地点として人が集まっているようだ。 


 「ヤマトさんが便利な移動手段に収納持ちで助かりました。馬車の保管所もいっぱいいっぱいみたいですから」


 通常は馬も荷馬車も然るべき場所に預ける必要があるが、そこも今は満車状態になっているようだ。

 ヤマト達の移動手段は馬も使わないため、全てヤマトの《次元収納》に仕舞っている。

 おかげでこの町での余計な苦労を一つ省くことが出来ている。


 「まぁそこはいいんだけど、一番の問題は……」

 「あっちですよね。空いてますかね?」


 ヤマトとフィルの不安は少し的中した。



 「申し訳ありません。本日は二部屋しかご用意できません」


 外からの来客が多くなれば、必然として宿が埋まっていく。

 安宿は当然ながら満。

 予算度外視で高くとも部屋を確保しようとしていたヤマト達であったが、希望は二人部屋三つに対して開き部屋は二つのみだった。

 男のヤマトと精霊のアリア、ティア・フィル・ナデシコ・レイシャの女性陣で二人一組に部屋を想定していた。

 アリアは一応は女性ではあるが、契約精霊として眠る時はヤマトの中なので男女分けも関係なかった。

 そもそも非実体状態なので泊まり人数にカウントされていない。

 少々色々言われそうな気もするが、人間でなく精霊なのでセーフ。

 

 「じゃあその二部屋をお願いします。……部屋分けは四人で好きに決めてくれ。俺は多分残ってないだろうけど余所の宿を回って来て、何処も開いてなかったら町の外なり何処か適当な場所で野営してくるわ――(アリアはどうする?)」

 『私はヤマトの中で眠れば場所は関係ないし。確かに実体化してベットで眠る事も出来るけど、わざわざこの状況でやる理由もないし。ヤマトがそれでいいなら私は気にしなくていいわよ』


 とりあえず相方にも了承が得られたので、ヤマトは後を四人に任せて宿を出ようとするとティアに引き留められた。

 そしてティアの演技(・・)が始まった。


 「何してるのお兄ちゃん(・・・・・)兄妹(・・)の私達が一緒の部屋に泊まればいいじゃない。そうすればもう一部屋は二人部屋に三人で、泊まれない事はないじゃない。――大丈夫ですよね?」

 「はい、ご兄妹であれば問題はありません。もう一部屋のほうもベッドは二つですが、お一人様が床の上に眠る事をご了承頂けるのでしたら広さとしては三人でお泊りになられることも可能です。布や寝袋でしたら備えはありますので無料でお貸しする事も出来ます」


 安宿であれば別であるが、そこそこ以上の格を誇る宿では親族や恋人以外での男女同衾をお断りにしている宿が多い。

 スタドや王都の時はヤマト一人であったため何も問題は無かったが、今回は男一人に女四人。

 ゆえにヤマトは余所を探そうとしていたのだが、ティアの〔兄妹〕発言で状況が変わった。

 男女であれど家族なら問題はない。

 一瞬「何を言っているんだ?」とも思ったが、意図を把握してその手があったかと気付かされた。

 条件付きとは言え一夫多妻がアリな世界なのだから、顔の似ていない異母兄妹であっても不思議はない。


 「では私が床で眠りましょう。寝袋は自前がありますし、仕事柄どこであろうと眠れますから床でも椅子でも問題はありません」

 「じゃあ決まりね!お姉さん、それでお願いします!」

 「はい、承りました」


 こうして一行はなんとか本日の宿を確保した。

 ――そして始まるコソコソ話。


 「……ヤマトさん。ティア様に手を出さないでくださいね?」

 「出すわけないから。中身はともかく、容姿的にアウトだから」

 「大丈夫だよフィル。ヤマトさんの好みはティアちゃんと正反対の大人な女性だから」

 「待てナデシコ。その謎情報は何処から?」

 「アリアさん」

 「……アリア?」

 

 アリアからの反応は無い。

 都合が悪くなると俺の中に引っ込むのは辞めて欲しい。 

 あとその情報は何処から引っ張り出した?


 「ならとりあえずは……ですが私の時のような事がもしかしたら起きて……」

 「フィルの時って?」

 「あ、いえ、なんでもないです」


 フィルさんや、さらっと自滅しそうになるのは辞めて欲しい。

 あの失敗を人にバラされて困るのはヤマトだけでなくフィル自身もなのだ。


 「鍵貰ってきたよお兄ちゃん。それと、はいッおつり!……どうしたのお兄ちゃん?疲れたの?」


 恐らくオーク戦を戦った時よりも、そして自転車を漕いでる時よりも、ここでのやり取りが一番精神的に疲れた気がする。

 それとティアのその妹演技は、これからも要所要所で適用していくものなのだろうか?


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