4 使い魔の初仕事は緊急案件
ヤマトはすぐさま身支度を整え、受付に宿の鍵を預けてから騒動の起きている地点へと向かうことにした。
『そこの裏道から行くと近道かつ人の気配もありません』
女神様ナビであえて裏路地を進む。
どうやら目的地周辺の住民には、〔住民証〕を通して避難指示が出ているらしい。
そのため騒動からは逆向きの人の流れが出来ており、騒動の地点へと向かうには邪魔だった。
移動の最中、ヤマトの持つ冒険証が光り出した。
裏面の通信欄に、あらたな情報が表示された。
〔〔冒険者ギルド 緊急クエスト/スタド内全域・全ランク対象〕〕
〔〔内容:犯罪者 ザコトロ=ウォルスの制圧、避難誘導、兵士への支援協力〕〕
〔〔状況詳細はこちらから → □〕〕
〔〔受注しますか? はい/いいえ〕〕
冒険者ギルドからのお仕事依頼。
個人で使う分には高額で扱いづらい身分証の通信連絡機能であるが、こういう緊急の事態には確かに有用だ。
ヤマトは表示された状況情報に目を通す。
「……犯罪を犯した貴族の捕り物、その際の抵抗でこの事態って詰め甘くないか?」
詰めの甘さか相手の準備の良さかは分からないが、ここまでの騒ぎになる前に抑え込んで欲しかったものだ。
『そこを右に曲がれば目的地です。奇襲・不意打ちには注意してください』
ヤマトは騒動の中心地へとたどり着いた。
その場所は元々貴族の屋敷だったが、今回の騒動で周囲の建物と共に瓦礫と化し、広場のように拓けた場所となっていた。
そこにあるのは瓦礫・炎・倒れた兵士・戦う兵士。
そして…元凶と目的の品。
――《身体強化》《物理障壁》《魔法障壁》《隠匿》
ヤマトはローブに付いたフードを深くかぶり、その上から自身に魔法をかけていく。
これから使い魔としてお仕事をする。
少し無茶もすると思うので、顔がばれると後々面倒な事になりそうなので正体も隠す。
そのため先程の緊急クエストも断った。
受けてしまうと、全てでは無いとはいえある程度の行動履歴が残ってしまう。
ヤマトが現場に居たという記録は残したくなかった。
「――それじゃあ、初仕事を始めますか!」
ヤマトに与えられた使い魔としての初仕事は、事態の解決でも救助活動でも支援活動でもない。
目の前の男の持つ〔宝具〕の奪還。
ただそれのみだ。
そしてヤマトは、杖を掲げる。
「《岩弾》」
魔法で生み出した岩の塊が目標に向かい飛び出していく。
先手必勝。
殺す気は毛頭ないが、これでダウンしてくれれば儲けものなのだが…案の定《魔法盾》に阻まれる。
「今のは杖の性能?本人の実力?」
『本人ですね。現状のセイブンの杖は一般的な杖の性能と大差はありません。今の魔法は純粋に使い手の技量によるものです』
つまりあのくらいの防御は簡単に出来るということだ。
そして今、ヤマトに対して反撃で放たれた《炎弾》も本人の技量。
ヤマトはあらかじめ展開してある《魔法障壁》で防ぎきる。
「ひとまず威力は増しでいったほうがいいか。それにしても相手は割と的確に狙ってきたな……本当に理性飛んでるのか?真後ろに建物がある状況だと炎系は避けにくいな。もっと近づかないとダメかな」
ヤマトは移動速度も強化された足で駆け出し、距離を詰める。
そこにさらに三発の《炎弾》による追撃が来る。
三発の《炎弾》は見えにくい魔法の障壁に阻まれる。
(燃費の良い《盾》で防ぎたいけど、反撃優先で防御は《障壁》頼みだ!)
――《風弾》!
そして反撃に放たれた魔法。
相手の攻撃に対する、ヤマトの反撃は速度重視で放った。
しかもギリギリまで悟られない様に無詠唱。
威力は落ちるが不意打ちには良い。
そのまま魔法はザコトロに直撃して、一瞬ではあるが怯ませた。
「今のうちに負傷者は下がらせろ!」
こっそり《拡声》と《変声》を使用した上で、呼びかける。
この場の責任者と思しき男は、すぐさま部下たちに指示を出す。
どうやら乗ってくれたようだ。
『ヤマト君!』
ヤマトが常時展開している障壁に、魔法が一つぶつかった。
(《風弾》!?アイツ炎属性だけじゃないのか!)
先程のヤマトの行った速度重視の一撃を真似してそのまま返された。
威力そのものはヤマトより弱かったため、展開済みの障壁でも簡単に防ぐことは出来た。
だが慢心か油断か、意図しなかった一撃を受ける事になってしまった。
そのための防御とはいえ、防いだ分だけ防御の修復に魔力が食われる。
【ザコトロ=ウォルス (人族/犯罪者)〔暴走状態〕】
そして確認してみると、状況が変わっていた。
「ぐぁああああああああああああああああああ」
人とは思えない叫びが上がる。
するとザコトロの周囲に、先程までと比較して倍程の大きさの《火炎弾》が六つ出現した。
「チッ…ヤバイ!《大地の盾》!」
地面の土が集まり、ヤマトを守る盾となる。
その場にない属性で発動するよりも、その場にある属性を用いたほうが発動は早くなる。
障壁では相殺しきれない威力を見て、《魔法の盾》で身を守る。
「全員守れぇえええええええ!!!」
ヤマトの叫び声を聞き、すぐさま防御態勢をとる兵士たち。
ヤマトの盾は兵士たちまでは届かない。
自分達で自分の身を守って貰う必要があった。
直後、六つの炎が放たれる。
初日投稿五本目
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11/06
文章を一部修正。