47 暴れヤマトと助っ人義賊
ドドメキの張った《結界》により、ドドメキと一対一で向き合う事となったヤマト。
だがこの状況は、ある意味でヤマトにもありがたかったのかもしれない。
「(制御がかなり難しくなるけど、俺と敵以外に誰もいない。しかも堅い結界の中ならちょうど良い)」
別に杖が無くとも魔法は使える。
ただし失敗や暴走の可能性が格段に高くなり、反動も起こるだけだ。
当然度合いによっては自滅もある。
そのため、自身だけでなく周りにも危険が多く、誰もが「やるな」と声を揃えるのが、杖の補助無し魔法の常識なのだが、今は仮に暴走暴発しても結界のおかげで外には漏れない。
巻き込まれる人も居ない。
どうせ何もしなければ殺されるだけなのだ。
危険があろうと可能性があるならそれを選ぶ。
ヤマトはそのまま、杖を使わずに魔法を行使する。
「まずは《雷弾》。次いで《雷の矢》」
試しの二発はきちんと発動している。
ドドメキから侮りが消えた気がした。
「行けそうだな――《雷矢の雨》」
ヤマトは畳みかける。
この状況では流石に攻防両面を行使している余裕はない。
攻撃は最大の防御。
連打で反撃の隙を作らせない。
「足邪魔!《雷斬》!そして…《雷刃一閃》!」
場に響き渡る轟音。
蜘蛛足や漂う闇弾、更にドドメキの足元の影から伸びて来た触手。
本体を守るように布陣するそれらを、手当たり次第に削いでいく。
「(防戦一方みたいだな。このまま押す!)」
余所に被害の出ない状況をこれ幸いとばかりに、あえて威力が高く制御が難しい《雷属性》ばかりを振るっていくヤマト。
《結界》のおかげで周りへの影響など気にせず振るい続ける。
「うッ…《雷鳴》ッ!」
今のところ致命的な失敗や不発、暴走はない。
だが完璧と言う訳でもない。
行使するたびに体に掛かる負荷、そして制御から漏れた魔力が、ヤマト自身の体を傷つけていく。
身内にこんな姿を見せればこっぴどく怒られそうではあるが、悪いが今は気にして手加減している余裕はない。
「――グギギ」
ようやく邪魔者を潜り抜け、本体に一撃与えることが出来た。
ドドメキの復元された蜘蛛足のようなものは全て落とした。
更に出現した角、爪も即座に壊した。
残った数本の触手程度では、ヤマトの力任せを止めきれない。
「(本当に、蝶の要素は何処に行ったんだって感じだが……何にせよ押している今のうちに決着を――)」
ヤマトの攻撃は確かにドドメキを追い詰めていた。
だからこその変化とも言える。
「――ギィヤァアゥ!!」
「(あれは翼……なのか?)」
失った蜘蛛足の代わりに、真っ黒な四枚の翼がドドメキの背に生えた。
その羽ばたきと共に、無数の漆黒の羽がヤマトに向けて放たれる。
しかもご丁寧に、避けようとするヤマトを追尾する。
「それは鳥系魔物の攻撃方法じゃねぇのか!?元が蝶なら蝶らしい成長の仕方をしやがれよ!!《多重・雷弾》!」
攻撃と防御の瞬間的な切り替えが難しい今のヤマトは、一発一発に雷弾をあてがい撃ち落とす。
ハッキリ言って、この攻防が続くとジリ貧になる。
「《雷槍》!」
そのため即座に攻めの主導権を取り戻しに行く。
「《多重・雷光弾》」
更に攻めの威力を上げる。
最早常人からは異常にしか見えない程の光景だ。
ここまで来ると「使い魔だから」などという言い訳は通用しない。
「ヤマトだから」。
使い魔ではなく、ヤマト個人が異常な領域に達しているのだ。
だがそれでも、それは起きる。
「《らい――》ぐぁあッ!?」
焦ったつもりはないが、更に魔法を振るおうとしたヤマトの右腕がズタズタに引き裂かれた。
ヤマトが制御に失敗し、暴発したのだ。
「(……やっぱり、そこまで上手くは行かないか)」
基礎魔法くらいであれば、ヤマトなら杖無しでも全く問題なく行使を出来るだろう。
だがその程度ではそれではドドメキには届かない。
きちんと効く事を優先にした無茶を続けていれば、遠かれ近かれこうなるのも当然だ。
むしろこれまでが出来過ぎだったのだ。
「(流石に《治癒》は発動すら出来ないか。ならこのまま続けるしかない)」
止血も痛み止めも無い中、それでも攻撃の意志は消えない。
右手に代わり、左手を掲げる。
「本気でキツくなってきた。だからいい加減終わってくれ!」
「――ギギギッ!!」
そしてお互いに更なる魔法を行使しようとしたその時、結界の空に穴が開いた。
ドドメキとヤマトの攻防が、予想外の出来事に警戒し一瞬止まる。
何かがその穴を通ると、穴はすぐさま塞がった。
その僅かな隙に舞い降りたのは、一人の〔不審者〕。
「――おおっと!ようやく入れたな。だがすぐに塞がってしまったか。えっと状況は……お、お前が閉じ込められてたヤツか!かなりボロボロだが、まだ生きてるか?」
ドドメキの張った半球状の《結界》の頭頂部。
そこから文字通り割って入って来た、異様な鎧をピッシリと全身に纏った男(?)
この某特撮ヒーローの○イダー(量産型)のような姿。
面識はないが、ヤマトはこの不審者の存在をつい先ほど知った。
「……ギルドに貼ってあった手配書の〔義賊〕?」
「その覚えられ方はちょっと不満があるけど、まぁ事実であり、正解だな!なので当然正体は明かせない!」
「あー、ソウデスカ」
【ロンダート(人族:上級冒険者/大剣士"チャンピオン")】
【醒鎧 ファイズ/神域宝具(五番)】
これがヤマトの《鑑定眼》で視えたものだ。
申し訳ないが、既に正体はばれている。
この場で揉め事も嫌なので話を合わせるが。
「(チャンピオン、何やってるんだろうなぁ……)」
突然の出会い。
本音では色々問い詰めたい事が出来てしまったが、そんなことをしている場合ではない。
「助けに来てくれたんですよね?」
「あぁそうだ!他にもパーティーが来て居たようだが何処もこの結界に阻まれてな。申し訳ないが突破出来たのは私だけだ」
「……いえ、一人でもありがたいです。ちなみにその鎧ってかなり丈夫ですよね?」
「お、分かるのかい!?確かに見た目は残念ではあるが、性能は超一流さ!」
纏っている本人に見た目のダメ出しをされてはその鎧も報われない。
「なら気を付けてくださいね!」
義賊に構わず、再び魔法を振るうヤマト。
「ちょッまッ!……もう少し抑えるか、きちんと制御してくれ!私に当たる!!」
「すいません杖無いんで無理です。気合と根性で無理矢理制御してる状態なんで、そっちはそっちで頑張って避けるか耐えるかしてください!」
ヤマトは更に魔法を振るう。
その言葉と様子に、兜の中の見えない表情が自然と驚きに変化していが、見えないヤマトは当然ながら気付く事はない。
「杖……杖無しで?そうかその傷は……分かった。君は休んでくれ。後は私が引き継ごう」
「それはありがたいですけど、一人でアレを倒しきれます?」
「出来るかどうかじゃない。やるんだ!それッ!」
話に割り込んでくる攻撃を切り払っていく。
少なくとも自分の身は自分で守れるだけの実力はある。
倒せる確証がないのは、相手が特異なため仕方ない事ではあるが、神域宝具の鎧と闘技場チャンピオンの組み合わせは確かに大きい。
「ならメインは任せます。俺は出来そうな機会にちょいちょい合わせて噛みついて行きますんで」
「共闘か……あまり無理はし過ぎるなよ?あと私には当てるなよ?」
「善処します」
こうして義賊と使い魔の共闘が成立した。




