46 不屈
「アリア!!!」
「だい……じょうぶ。一度実体化を解いて休めば再構築はできる」
不意打ちを防ぎきれずに左腕を失ったアリア。
実体化した精霊の体はあくまでも仮の体なので、片腕を削られたくらいでは致命傷にはならない。
だが力を削られ、消耗したのは確かだ。
それにこのまま削られ続け、精霊の〔核〕にまで傷が付けば、精霊とはいえども致命的だ。
「なら一度戻って休め!再構築までは何とか保たせてみせるから」
「それが……強制的に実体化させられてから、非実体に戻れないのよ」
珍しく困惑の表情を見せるアリア。
強制実体化の影響か、人型の狙い通りの細工なのか、アリアの意志で非実体に戻れない。
アリアの本体は精霊界に居る精霊女王だ。
精霊としての〔本核〕も精霊女王のもとにある。
仮にアリアに分配された〔分核〕が傷つき消滅したとしても、本体にはちょっとしたダメージ程度の影響であろう。
だが当然ながら、この〔アリア〕という分体の人格は消滅する。
精霊女王ならさらに分核を生み出し、新たな分体を送ってくれるかもしれない。
だがそれはアリアではない、似ていたとしても別の人格を持った精霊だ。
ヤマト個人の感情として、それは納得できない。
これ以上ダメージを受けさせるわけにはいかない。
「ならここからは距離を取って魔法戦だな」
「りょーかい!――」
「「《大地と水の盾》!!」」
再び放たれる《闇弾》の雨を、ヤマトの《地》とアリアの《水》の二属性複合の盾で防いでいく。
攻撃は先程よりも確実に威力が上がっている。
だが二人の力は合わさり、きちんと耐えきれている。
「――キヒッ」
その様子を見た人型の動きが一瞬止まった。
……かと思いきや、次に展開された《闇弾》は全方位にばら撒かれた。
当然こちらにも飛んでは来ているが、単純に弾数が少ないため難なく防ぎ切れた。
ただし周囲は別だ。
ヤマト達の背後の屋敷は、ヤマトたちの《盾》に屋敷備え付けの《結界》があるため、負荷はあれど無傷だ。
だが他の、守りの無い建物や地面がかなりの被害を受けている。
気配から無人である事は分かっていたが、建物の崩れる光景は何度見ても慣れることはない。
「……これもそろそろ限界か」
無理に酷使したせいで、ヤマトの仮の杖も修復の余地が無いほどに損耗してしまった。
既に杖全体がボロボロと崩れ始めていた。
質の割りによく耐えていたとは思うが、あと一回使い物になるかどうかすら厳しい。
「百々目鬼相手にはどんどん状況が厳しくなってくるな」
「ドドメキ?」
「あぁそうか、えっと前世の世界の妖怪……まぁアイツみたいに腕やら体に無数の目がある、伝承上の怪異、モンスターみたなもの。語弊がありそうだけど」
「ドドメキ……なら私もそう呼ぼうかしら」
ひとまず目の前の人型第二形態を〔ドドメキ〕と呼ぶことにした。
「……この気配は、もしかして救援か?」
「《水の矢》《水の盾》!――そうみたい。四人組が二組って所かしら?」
この場へと近づいてくる集団の気配を捕えた。
「でも正直言って下手な増援じゃ足手まといになるだけよ?」
このドドメキ相手の増援ならば、せめて上級が居て欲しい。
中級上位くらいならば出来る事はあるだろうが、中位以下は出来れば関わらせたくない。
一応はヤマトも中級なので、こんなことは思いたくはないが。
「まぁそんな事言ってる余裕はないんだけど……今だ走れ!」
アリアが削られ、ヤマトの杖も限界。
決め手を欠いた二人は、まずは近づく救援と合流しようとするが……
「――ニガサナイ」
ドドメキから放たれた魔力が、空間を遮断する。
「《結界》か!突破できない!」
二人はドドメキの《結界》に閉じ込められた。
「アリア、突破できるか!?」
「ごめん、全力出すにはちょっと消耗し過ぎてる。力が足りない」
「なら俺の魔力をわた……え?」
「ヤマ――」
アリアの姿が消えた。
「まさか消滅……いや違う!!」
「――キヒッ」
ドドメキの歪んだ笑顔。
分断、というよりもアリアだけがこの結界から締め出されたようだ。
突破しようと結界に触れていたのが不味かったのだろうか。
ドドメキは触れていた一部分だけを解除して、そこからアリアを外に押し出したようだ。
結界は再び閉じているが、契約者としての繋がりは生きている。
焦りの感情や失敗に後悔する意志などは伝わるが、言葉を伝えることは出来ない。
「……にしてもまた一人で閉じ込められたのか」
王都の時は厳密には女神様が見ていたので、本当の一人で対峙するのは初めてだ。
「お前、俺が目当てなのか?」
「――ニィッ」
その歪んだ笑顔から、ヤマトは肯定なのだろうと思った。
確実な方から潰すため?
借金男のように人間を取り込むため?
それとも他に……?
「(こっちの嫌がる事ばかり……敵の成長って本当にありがたくないなぁ……)」
ヤマトは塞がれた空を見上げる。
「(内側からは無理か。なら外は任せて、折角のお膳立てなのだから好きに暴れさせて貰おうか)」
ヤマトは今にも崩れそうな杖を仕舞った。
そして手に何も持たないまま、ドドメキに向けて右腕を掲げた。
「(女神様も精霊も居ない、初めての一人での戦い。――だからって諦める訳には行かない!悪いが、最後の最後まで足掻かせて貰う!!)」
長くなり分割したため、今日はもう一話上がります。




