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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/ひび割れる世界
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45 黒い人型


 ――どうしたの?


 突然頭の中に聞こえて来た声。

 戸惑い、周囲を見渡すが声の主らしき人物は見つからない。

 声の若さから、子供だろうか?


 ――痛いの?苦しいの?怖いの?

 

 「……悔しいんだ」


 今の自分に、全盛期の面影は全くない。

 怪我は完全に治っている。

 だがいくらリハビリしても、あの頃の感覚には遠く及ばない。

 元の腕には戻らないと理解し、そこでやさぐれてからは絵に書いたようにズルズルと堕ちていった。

 自覚はあった。

 だけど自分ではどうしようもなかった。


 ――助けてあげよっか?


 「助ける……どうやって?」


 ――力をあげるよ。


 「力……どんな?」


 ――それはやってからのお楽しみ!要らない?


 「……欲しい」


 失った全盛期の冴え。

 それさえ取り戻せれば、今すぐにでも金は用意できる。 

 借金奴隷さえ回避出来れば、冒険者なり闘技場なり、活躍の場はいくらでもある。

 力さえあればやり直すことは出来る。


 ――じゃああげるね!頑張って耐えて(・・・)ね。


 その言葉と共に、俺の中に何かが流れ込んでくる。

 重くドス黒い何か……だが全身に力が漲る感覚がある。


 「――いいぞ!やってくれ!!」


 俺の言葉と共にその流れは加速した。

 体が熱く、気持ちが悪い。

 だが力がどんどん漲ってくる。

 これなら全盛期なんか比にならない。

 自然と笑顔になる。

 

 「俺は……これで――」


 俺の意識はそこで途絶えた。


 ――あ~あ、耐えられなかったね。ごちそうさまッ! 







 

 

 「黒い……人間?」


 ヤマトとアリアの前に現れたのは、真っ黒で凹凸も顔もない人間。

 人間のような……形だけ人間の何か。

 ヤマトが〔黒い蝶〕に感じていた、不安の正体。

 目の前の黒い〔人型〕からは、女神様とヤマトを侵食した《毒》と同じ嫌悪感と息苦しさを感じる。

 恐らく用途は違うが根源は同じなのだと思う。


 「動きがな――」


 唐突に、静止していた黒い人型の顔のない頭部に、巨大な〔一ツ目〕が現れる。

 その眼は後頭部を回ってぐるりと頭部を一周。

 更に頭頂部を回って一周し、前面に戻ってくると再び静止した。

 そして人型は右手を前へと突き出す。

 その手の先に、魔力が集まっていく。


 「《風弾》!」「(《水の弾》!)」


 ヤマトとアリア、二人の魔法が人型の右腕を直撃する。

 黒い泥のようにぼたぼたと落ちる雫の垂れる黒い腕であったが、問題ないとばかりに右手の先には黒い弾が出現した。


 「――《ヤミダマ》」 


 口が無いはずなのに、掠れたような声が聞こえた。

 そして放たれた《闇弾》は、ヤマトたちに向かってくる。


 「(下がって!《水の盾》!!)」


 ヤマトの前に出て、防御を展開するアリア。

 相手の魔法は盾に阻まれ霧散する。


 「――フウ?」


 人型は不思議そうに首を傾げる。

 今のアリアは非実体で相手には見えていないはずだ。

 ヤマトが魔法を使った反応もないため、防いだ何かに違和感を感じているのかもしれない。

 そして人型は、今度は左腕を突き出す。

 ヤマトとアリアは再び魔法を放とうとするが、それよりも先に左腕が振り下ろされた。


 「……え?」

 「何で」


 その動きと同時に、少し浮いていたアリアが地面へと降ろされた。

 

 「何で実体化したんだ?」

 「私の意志じゃない……干渉?引きずり降ろされた?」


 実体化したアリアも困惑している。

 どうやらアリア本人の意志ではないらしい。 

 精霊を無理矢理実体化させた?


 「――にぃ」


 人型の顔に口が現れた。

 その口が、人型の笑顔を表現していた。

 とても気味の悪い笑顔。

 そして人型がさらに変化した。

 背中からは六本の、蜘蛛の足のようなものが生えて来た。

 その一本一本の先に、魔力が集中していく。


 「避けろ!」「避けて!」


 二人はその場を飛び退いた。

 二人が先程まで居た場所に六発の《闇弾》が直撃した。


 「さっきはちゃんと詠唱してたのに、今度は無詠唱でしかも六発同時…だんだんと強くなってるのか?」

 「それでもまだ魔力の反応をちゃんと見てれば、無詠唱で…も…」


 二人の目の前には、無数の《闇弾》が展開された。

 十、二十……流石に五十は行かないが、数が多すぎる。


 「――ヒヒヒヒ」

 「もしかして、今は試運転の状態なのか?」

 「これより更にってなると、町全体がマズイ事になるかも……ヤマト、ついてこれる?」

 「とりあえずやれるところまでやるから、そっちは気にせず自由にやってくれ」

 「りょーかい!」


 アリアは人型目掛けて駆け出す。


 「――ガガ!」


 空中で待機していた《闇弾》が、迎撃の為にアリア目掛けて次々降り注ぐが、アリアは余裕で避けていく。


 「数は多いけど、まだまだ遅いわね!」


 避けて避けて避けて、そして人型に迫っていく。

 そしてそのまま青白く光る右拳で殴りかかった。


 「……随分と堅いわね!!」

 

 拳は《障壁》に防がれた。

 再び笑みを見せる人型だが、アリアの後ろ(・・)には気付いていない。


 「じゃあね!」


 人型の一ツ目の死角に入り、人型の視界からアリアの姿が消えた。

 標的を見失った人型の目の前には、巨大な《炎弾》が迫っていた。

 人型はそれを《障壁》で受け止める。


 「それッ!!」


 《炎弾》が消えると、再びアリアが視界に入る。

 そして先程よりも強い光を放つ左拳が振るわれた。

 そのままの人型の《障壁》は砕かれ、その大きな一ツ目にアリアの左拳が直撃した。


 「――グギィ!?」


 その場から一歩も動いていなかった人型が後方に吹っ飛ぶ。


 「《風矢の雨(アロー・レイン)》!」

 「そぉれ!!」

 

 ヤマトの追撃の魔法の矢が降り注ぎ、人型を貫いていく。

 そして再び、アリアの拳が叩き込まれる。

 当然狙いは一ツ目だ。

  

 「――グゥギィ!!?」

 「そこを狙うなって方が無理な話よね?」

 「……えぇまあ」


 弱点にも見える一ツ目に、ひたすら拳。

 執拗な目玉攻め……あれだけ目立つ部位なら誰だって狙うだろうが。

 それでもアリアの躊躇の無さが若干怖い。


 「初合わせの割りにタイミングは悪くなかったわね」


 精霊女王の分体であるアリアは、魔法使いである契約者のヤマトに合わせて、前衛で戦える格闘主体に調整がされている。

 もちろんそれなりに魔法もこなすが、本職は肉弾戦。

 今こそアリアの本領なのだ。

 

 「――ピ…ギ…」

 「「《氷結》!!」」


 二重の氷に閉じ込められる人型。


 「……俺にはもう感じられないんだけど、さっきの男の反応ってまだある?」

 「だいぶ前、といよりも戦い始めた時にはもう無かったわね。《同化》なんていうから共存する形になるのかと思ってたけど、実際やってることは乗っ取り・取り込み・吸収よ」

 「……そうか、分かった」


 出来るなら引き剥がして、救い出したかったヤマトであるが既に手遅れ。

 頭では仕方ないと考えつつも、何処か心に引っ掛かりを覚える。

 それでも人型が手に負えなくなる前に、更に悪い状況になる前に倒さなければならない。

 引き剥がす方法が見つかっていない以上は諸共……。

 壊すために氷に触れようとしたヤマトの手が、躊躇で一瞬止まる。


 「――はぁあッ!!」


 その隙にアリアがその渾身の拳で、氷結された人型を粉々に砕いた。


 「まぁ手遅れだろうと、躊躇するのは仕方ないからそういう時はこっちに任せなさい。誰かが側に居るならドンドン頼りなさい。一人の時に困るとか、成長がどうとかはもっと余裕のある状況で考える事よ」

 「……あぁ、ありがとう」 


 こうして、謎の黒い蝶……そして人型は粉々に砕け消え去った。

 ――ように思えた。


 「――アリア下がれ!」

 「なッ!?」


 二人はとっさにその場から距離を取った。

 粉々に砕いたはずの人型の破片が、黒い泥として次々と集まりだした。

 そして再び人型となった。

 

 「――キエテ」


 その言葉と共に特徴的だった一ツ目が消えた。

 そして人型の全身に、無数の小さな目がビッシリと現れる。


 「ヤマト、もう一度行き――」「《風の盾》!!」


 アリアの言葉を遮り、ヤマトは魔法でアリアを守ろうとする。

 だがアリアの足元に忍び寄っていた人型の欠片(・・)から伸びてきた黒い手は、ヤマトの《盾》を貫き、アリアの左腕に突き刺さった。

 そして左腕は引きちぎられ、そのまま人型の欠片と共に霧散していった。


 

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