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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/ひび割れる世界
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43 目覚めのティア


 「あれは……?」


 バルドルの屋敷に戻ろうとしているヤマトは、屋敷から出て来た二人の男と目が合った。

 騎士鎧の男と、身なりの整った男。

 ヤマトと両者は軽く会釈を交わし、二人組はその場を離れて行った。

 

 「(……ん?)」

 「(どうかした?)」

 「(……いや、なんでもない)」


 ヤマトは視界の端、二人組の進んだ道の方向に〔黒い蝶〕のようなものを見た気がするのだが、一瞬だったのでしっかりとは判別出来なかった。

 アリアは見えなかったのか気にしていないのか、特に反応はない。

 既にその道に二人組の姿は無かったので、ヤマトはそのまま屋敷に入っていった。

 

 「あ、お帰りなさいヤマトさん……と、アリアさんも居ますよね?」

 「居るわよ。ただいま」


 ヤマトと、再び実体化したアリアをナデシコが迎え入れた。

 挨拶を済ますと、アリアはそそくさとその場を離れていった。


 「ただいま。今の人達は?」

 「――さっきの二人はこの町の役人と王都の騎士です。用事はお届け物とご挨拶ってところですかね。はいこれヤマトさんのです」


 ナデシコでは無く、奥から出て来たフィルが答えた。

 そして何やら巾着袋を手渡して来た。

 手乗りサイズの割にずっしりとした重さを感じる。

 そして中身を見ると……金貨がギッシリと詰まっていた。


 「王子…というよりも国から、結界の再稼働に協力した時の報酬みたいですね。あとこっちの剣と明細書もです」


 ヤマトは更に荷物を渡される。

 明細書には報酬の詳細が書かれていた。

 確かにどちらも王都守護結界に関する報酬のようだ。

 袋の金貨は現金報酬。

 装飾過多な剣は〔儀礼用宝剣〕のようで、名誉褒章としての証のようだ。


 「……俺は魔法使いなんだけど、何でわざわざ剣?」

 「最初の功績には相手が誰でも宝剣が送られますよ。二回目からは勲章とかになりますね。「今後も国を守る剣と成れ」と言った意味合いだったと思います。あくまで儀礼用なので実戦使用はお勧めしません。持ち家があるなら飾っておくのが一番なんですけど……屋敷の部屋に飾ります?」

 「いや、いいです」


 金貨袋と宝剣は収納にしまっておくことにした。

 一応は所持金にまだ余裕はあるので、この金貨は収納(タンス)貯金としておこう。

 宝剣は本当に使い道がないので死蔵コースだ。

 流石に王家の紋章入りなので売る訳には行かない。

 

 「――そういえばラントス王子の怪我は大丈夫なの?」


 フィル経由で、あの後ラントス王子がどうなったかの話は聞いた。

 何とか魔人は撃退できたようだが、その際にラントス王子は負傷したという。

 命に別状はないらしいのだが……


 「全然問題ないですよ。目覚めた直後から病室で書類仕事を始めてるみたいですし……話によると「王都の復興案件が貯まっているのに寝てられない」だそうです」


 問題ないならそれでいい。

 ただ、一日二日くらいは休んでも良いとは思う。

 いざという時に万全を期するために……何処かで聞いたような言葉だな。

 三日前にヤマト自身が言われた言葉な気がする。

 

 「――それで、騎士と役人さんは何の挨拶に来たの?」

 「役人の方は王都の復興支援で部下と共に一時的にバルトルを離れるそうなので、その挨拶です。騎士の方はその迎えと護衛がてら私達宛の荷物を預かって来たそうです。一応私は巫女として国の中でもそれなりの地位に居るので、役人が挨拶に来るのは上下関係の礼儀みたいなものです。有事なのですから省略しても良いと思うんですけど」

 「お城の中でもたまーにフィルのご機嫌取りのような話をしてくる人が居ましたね」


 フィルが少し面倒そうな表情をしている。

 ナデシコはその表情を何度か見ているようなので、苦笑していた。

 両者ともに内心ではどう思っていようが、下が礼儀を示したのならばきちんと礼儀で返すのは上の身分の者の責務とも言える。

 フィルは元は平民出身らしいので、確かに面倒なのだとは思うが。

 とりあえず内心で頑張れと応援しておこう。


 「そうか。――ちなみに話は変わるんだけど、〔黒い蝶〕に心当たりってある?」

 「黒い蝶ですか?……ごめんなさい分かりませんね」

 「あ、私はさっきチラッと見ました。お客さんが来た時に扉を開けたのが私なんですけど、その時に外に飛んでました」


 ナデシコの目撃情報から計算すると三十分程前には既にこの辺りを飛んでいるようだ。

 この世界にも一応蝶は存在しているはずなので蝶が飛んでいること自体はあり得る事なのだろうが、気にしない様にしててもどうしても〔黒い蝶〕が引っ掛かってしまった。

 黒猫が目の前を過ると不幸が起こるという迷信になぞっているわけでもないのだが、どうしても気になる。

 

 「フィル、一応なんだけど屋敷の《結界》を一つ分格上げしておいて貰えないかな?念のために」

 「……はい、わかりました」


 備えあれば憂いなし。

 この屋敷には結界の発生装置がある。

 当然ながら王都の守護結界よりもだいぶ劣るが、屋敷の守りとしては高性能だ。

 性能段階は三つあり、通常時は一つ目なのだが、たった今フィルが二つ目まで上げた。

 段階を上げる程に装置に負荷が掛かるのだが、だからと言って今のモヤモヤした感覚を放置しておくことが出来なかった。

 念のためだ。

 

 「――ヤマト!女神様が起きたよ」


 そんなヤマトの不安を遮る朗報がアリアからもたらされた。

 ちび女神様の目覚めの報せ。

 その場の三人はすぐさま急ぎで、ちび女神様の眠っている部屋へと向かった。


 〔おはようございます。皆さんご心配をおかけしました〕


 目覚めたちび女神様はベットから上半身を起こしてはいたが、声ではなく紙に書いた文字……筆談で言葉を伝えて来た。


 〔ごめんなさい。まだ本調子ではないので、もう少しだけ寝かせてください。明日の朝には起きれますので、その時には声も出るようになっていると思います〕


 どうやらまだ声が出せず、立ち上がる事も出来ないようだ。

 ヤマトは自分の行った雑な《神降ろし》を悔やみつつ、それでも時間さえかければ良くなっていくという知らせに、少し安堵した。

 何よりも眠っていたちび女神様が目覚めたのだ。

 反省はもしも次があった時に生かして、今は今の事を考えねばならない。


 〔それではもう一度眠らせてもらいます。――それと、出来れば寝ている間に分体(わたし)の名前を考えて頂ければと思います〕


 ちび女神様の名前。

 これからの話をする上で、いちいち女神様の本体だの分体と呼ぶのも些か配慮に欠ける。

 ヤマトが心の中で密かに読んでいる〔ちび女神様〕も、面と向かって言うにはとても失礼だ。


 「名前……本名がユースティリアならリア…ティリア…〔ティア〕とかはどうでしょうか!?」


 即座に提案したのはナデシコ。

 女神ユースティリアの分体〔ティア〕。

 反対意見は誰からも出ない。


 〔良いですね。それでは私の事は今後は〔ティア〕と呼んでください〕


 笑顔を見せるちび女神様改めティア。

 そしてティアは再び眠りについた。

 今度はちゃんと意図のある眠り。

 明日にはまた目を覚ます。

 その認識に一安心したヤマトは、使い魔としての役目を果たすために契約精霊アリアと共に、この部屋を後にした。


 

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