36 寝ぼけた目覚め
『おはようございますヤマト君……寝ぼけてます?』
「(んー……はい……)」
元々前世の大和は朝が弱かった。
転生してからは使い魔としての回復力と、比較的安定した生活サイクルのおかげで目覚めの良い日々が続いていたが、流石に今回はそうも行かなかった。
『もう少し寝ててもいいと思いますよ?昨日の今日ですし』
「(んー……いえ、起きま……す?)」
体を起こし、ベットから立ち上がろうとするヤマト。
若干ぼやけた感じではあるが、かと言って眠気は感じない。
むしろ寝すぎた感覚か?
「(……今って何時ですか?……というかここは何処?)」
病室のような配置でベットが複数並び、医療器具の類も見受けられるが、本棚や隅に追いやられた装飾品・雑貨の数々を見ると病院とは思えない。
『ここはお城の中の臨時の病室ですね。多くの怪我人は外の臨時診療所で対応しているみたいですが、優先順位や身分などが上の方々をこちらに運んでいたようです。今はヤマト君だけですが』
王城本来の治療施設が満員か損壊したか。
いずれにせよ、騒動を考えれば医者や治癒師は大忙しであろう。
『ちなみにヤマト君が気を失ってから目覚めるまで二十時間ほど経ってます』
昨日の出来事の考えると目覚めは早い方だと思う。
戦って戦って、体力・魔力・精神力をガッツリ消費した上での命の危機。
怪我の具合や流れた血の量を考えても、使い魔としての回復力を考慮した上であと二~三日ほど眠りっぱなしでもおかしくは無かっただろう。
まだ少し身体が堅いと言うか動きはぎこちないが、目に視える傷痕や感じる痛みがない事も鑑みればしっかりとした治療が施されたのだろう。
「(こっちに運ぶように指示したのは王女様?ラントス王子?騎士団長?)」
『王女ですね。ちなみにヤマト君たちが結界に閉じ込められた後、救援を要請したのも王女です』
あの騎士団長も王女様の指示と。
次に会う機会があったならお礼を言おう。
救助が無ければ今頃ヤマトは死んでいる。
「――《浄化》っと。(少しスッキリしたな。魔法もちゃんと発動したけど……まだ若干反応は鈍いか?)」
『昨日の今日ですから仕方ないでしょうね』
女神様はあまり重く見ていない様子なので問題はないだろう。
あくまでも芯に残ったダメージの影響であるならば、大人しくしていればそのうち戻るだろう。
ずっと残るようならその時は女神様に相談しよう。
「……ん?」
ベットの横に置いてある紙を発見した。
「起きましたらベルを鳴らしてください」と書かれている。
横に置いてあったベルを、早速鳴らしてみる事にした。
「―――お待たせしました!」
転移でも使ったのかと思うほど早く、数秒後には人が来た。
もしやずっと外で待機していたわけではないよな?
「申し訳ありません。少し席を外していました。――おはようございますヤマト様。お体の方は……芯に疲れは残ってますが、ひとまず問題は無さそうですね」
今、何か視られた気がした。
白衣の男……城の医師か。
視ただけでは能力や技能までは知ることは出来ないが、健康状態を一目で確認出来たと言う事はヤマトの《鑑定眼》とは違う、医療・診療系の魔眼だろうか。
魔眼自体は希少な力ではあるが、王都・王城であればそう言った人材が居てもおかしくはない。
それとも凄腕ゆえの「見るだけで分かる」人だったりするのだろうか?
「それでしたら――起きて早々に申し訳ありませんが、ラントス王子がお話を聞きたいとの事でお呼びです。身動きできるようなので王子の執務室まで出向いて頂けませんか?」
「あ、はい。多分大丈夫です」
王子からの呼び出し。
お話……結界の中での出来事だろうか?
三人の事も……あ。
「(メールって……)」
『妨害はすでに解除されてますよ』
「――あの、先に知り合いに連絡させてもらってもいいですか?」
特に問題もなく許可が貰えたので、先にナデシコとフィルに伝信をする。
結局転移後の連絡を一切しないまま死にかけていたので、早めに連絡を取ったほうがいいだろう。
「(さてこれで良――早い早い、返信早い)」
両者揃って速攻返信。
とりあえず避難組の無事は確認出来た。
何やら文句や愚痴っぽい事も書かれている気がするが急ぎの用件は無さそうなのでひとまず放置させて貰おう。
「あ、終わりました。こっちは大丈夫です」
「分かりました。では――《鳥よ》」
白衣の医師の立てた右手人差し指の先に光が灯り、丸い光は形を変え〔鳥〕の姿へ変化した。
「それは何ですか?」
「城の中でのみ使える、連絡用の簡易ゴーレムと言ったところでしょうか。本当は誰かしらが案内するべきなのですが、現状は色々と人手不足な状況ですので、今回は執務室までの案内役として出しました。申し訳ありませんがこの鳥が案内しますので付いて行ってください」
便利な物があるものだ。
そして状況が状況なので気にする必要もないと思う。
特に医師ともなればこの状況で忙しいのは当然だ。
「お気になさらず。付いて行くだけでいいんですね?」
「はい。何かあった時は指示を出せば止まってくれますし、速度も合わせてくれます。一応一定以上の距離が離れないように設定しましたので迷う事もないと思います」
「分かりました、ありがとうございます。お世話になりました――それでは行ってきます」
ヤマトはラントス王子の執務室に向かった。




