34 王城からの脱出と、二人目の魔人
「それでは……頼んだぞヤマト」
「了解しました。ラントス王子」
ナデシコら七人と合流したヤマト。
その場からラントス王子と騎士二名は去っていく。
王子らには、まだやるべきことがある。
女性陣を下へと送り届けた後に向かう予定だった場所に、王子達は向かった。
女性陣の避難はヤマトに任せられた。
本来ならば初対面の相手に身内を預けるような事はしないだろうが、勇者・フィル・ナデシコのお墨付きで尚且つ急ぐ場所があるためにそのような判断としたのだろう。
そんなわけでヤマトは、女性陣四人を纏めて下まで避難させる役目を王子直々に与えられた。
「それじゃあ皆さん、行きましょうか」
そう言ってヤマトは来た道に案内しようとする。
「――ヤマトさん、もしかしてここから降りろって言ってます?」
「うん。大丈夫だよ、ちゃんと魔法で安全対策は取るから」
ヤマトの来た道……外壁を駆け上がり、開いた穴からの侵入。
その逆、しかも壁走りが出来ない以上は暗に「落ちろ」と言っているようなものだ。
「落下速度を軽減させたり、ちょっと離れてるけど地面に池を作ったり防御特盛で万が一の事故には備えますんで、まぁ怖いだろうけど頑張ってください!このルートが最短なので!」
現在は六階。
一階まで城の中を移動するとなると、残っている敵とのエンカウントも予想される。
この外から降下していくルートが、一番早くて結果的に安全だ。
「……全員一緒には行けますか?」
「私は上で万が一に備えたいので、女性陣四人一緒なら大丈夫ですよ。みんなで手を繋いで円を作ってください」
四人はすぐさま近い相手の手を握り円を作った。
確かに一人で落ちるよりは安心できるだろう。
「えっと下に穴を作って水貯めて……ちゃんとしたクッションとかトランポリンあれば楽なんだけどこればっかりはな。後は防御掛けて風纏わせて……はい準備完了っと。いつでもいいですよ」
安全対策の準備は出来た。
「えっと…皆さん、大丈夫ですか?」
「はい王女様」
「せーので行きましょう。タイミング合わせないと転びそうです」
「私が声を掛けます。皆さん合わせてください」
女性陣の打ち合わせを、ヤマトは眺めていた。
「それじゃあいいですか?――せー…のッ!」
掛け声と共に揃って動き出し、四人は外へと飛び出した。
ヤマトはそれに合わせて魔法を操作する。
四人はゆっくりゆっくりと下へと降りていく。
「ゆっくり降ろすのであまり身動きしないでくださいねー」
暴れられると制御がずれるので静かにお願いします。
「ゆっくりまったり……」
「ゆっくり過ぎて逆に長いですかね?」
「危険よりも安全の方がいいです」
さっきまでの緊張感がどこかに行った気がするが、これはこれで良し。
「後はこのまま―――あれ、この気配って……マズイ!」
ヤマトは途端にその場を駆けだした。
そして四人の跡を追い、空中へと飛び出した。
「ヤマトさ……きゃあ!」
四人の落下速度が速くなる。
制御しているヤマトがあえて速めた。
近づく存在。
それを相手にするのに、四人が宙に居たままでは厳しい。
安全は確保しつつ、出来るだけ早めに降ろす。
ちなみにヤマトは減速無しで追う。
「ぶつか……らない?」
水面ギリギリで急停止。
自分で設置した池であるが、今落としてしまうと引き上げるのに時間を取られてしまう。
反動はキッチリ受け流した。
そのまま横にスライドさせ、ゆっくりと地面に下ろした。
「全員立って!急がないと――」
四人の着地直後に、自然落下からの急減速で地に着いたヤマト。
その言葉が《結界》の出現によって遮られた。
「……王女様は?」
結界に閉じ込められたのは四人。
ヤマト・ナデシコ・フィル・レイシャ。
結界内に王女の姿は無かった。
「安心してください。彼女は殺してはならないと言われているため、この場から退場させただけです。この結界の外に無傷で居ますよ」
結界の中に居る五人目
先程感じた気配。
そしてその容姿。
「……また魔人か」
「またという事は、弟をヤッたのは貴方達でしたか。これはちょうどいいですね。――私の名は〔レニィ〕。"二罪様の左腕"。お察しの通り魔人です」
現れたのは【レニィ(魔人/"二罪の左腕")】。
二人目の魔人だった。




