32 使い魔の必須技能?
「(あーこのパターンは考えてなかったな。そりゃあるよな……)」
ヤマトは城門前まで辿り着いた。
着いたのだが……進めない。
目の前には人の群れ。
安全な場所を求めて避難してきた人々が城門前に溢れかえっていた。
「(これって順番待ちしないと中に入れないパターン?)」
『どちらにしろ入れないパターンです。受け入れ拒否してるようですから』
つまりはそもそも避難所として開放されていないと言う事か。
それなら普通に待っても、いつまで経っても入れない。
『城も襲撃され、未だに魔物の討伐と避難の最中みたいですからね』
そんな状況で避難民の受け入れなど出来るわけもなし。
兵士や騎士たちは王都の外を目指すように促すが、避難所ではなくとも何処から魔物に襲われるか分からない状況を考えれば兵士や騎士の居るこの場が比較的マシなのは確かだ。
その結果移動せずに集まり積もった人々の群れが現状だ。
『正攻法で入れないなら、強硬突破かバレずに侵入できる場所を探さないといけませんね』
「(さらっと犯罪行為ですけどね。まぁあくまでも人の作った法ではですけど。それに最初にそういう事もあるって聞いてたんでその時が来ちゃったかーって程度の感じではありますが)」
とうとう敷地侵入の時が来てしまった。
基本的に犯罪行為を女神様から強要されることはない。
ただ、目的の場所に入り込むのだけは都合上、どうしても必要になる。
いずれお仕事として行く機会があるかもしれない〔世界樹〕にも、現在は国の法により立ち入りが制限されている。
正体を大っぴらには明かせない以上は、立ち入り禁止は無視するしかない。
日本での、警察の公務ではセーフ扱い、みたいなものなので女神の指示を受けているヤマトもセーフだ。
それにいずれくるその時が意外と早く来ただけだ。
『ヤマト君、上からと下から……どっちが良いですか?』
「(――ちなみに上からコースは?)」
『ばれない様に人気の少ない場所からこっそりと城壁を超えます』
「(下からは?)」
『さっきのミミズが掘った穴の一部が城内に繋がってるようです。一部の魔物はそこから押し込んだみたいですね』
上から行こうか。
ハッキリ言って地中コースは危険しか感じない。
色々予想できるが、特に生き埋めは嫌だ。
「(……はぁ。ひとまず警備の薄そうな場所を探しますか)」
『あ、もう見つけてあります。あっちです』
手際が良い。
女神様は怪盗でも目指していたのだろうか?
「(――ここかぁ。心配だしとっとと行くか)《気配遮断》《隠密》《隠匿》」
物陰で不法侵入三点セットを使用するヤマト。
そしてそこから一気に走り出し、そのまま城壁を駆け上がる。
〔壁走り〕は使い魔の必須技能だ。
「(昇り切って、下は……異常無し。それっ!)」
着地予想地点の安全を確認した後にそのまま飛び降りた。
そして着地。
落下の勢いは風の操作で軽減できる。
「(侵入成功……簡単すぎない?)」
『結界さえ健在なら警戒する必要のない場所ですからね。今は緊急時でその辺りの警備に回す人員が足らないんでしょう。城内にも町中にもまだ魔物が闊歩してますし』
異常事態なのは確かだがそれにしても……
便利な警備システムのせいで油断があったのだろうか。
そういう時こそ本領を発揮するのがアナログな警備の役目なのだがな。
「(まぁいいや。それよりもナデシコの場所は城の何処に―――)」
その時、周囲に爆発音が響いた。
音の発生源は目の前の城。
その上部……穴が開き、土煙が上がっていた。
「(今の音に聞き覚えがあるんですけど)」
『多分イバーンですね。波長は……一致しました』
土煙の上がるあの場所にナデシコが居るらしい。
目視では判別しにくいが、おおよそ五階か六階くらいだろうか?
「(ちょうど良いし、このままショートカットしましょうかな)」
ヤマトは呼吸を整え、集中する。
壁走りは魔力操作によるものなので、そこそこ集中力を使う。
途中で途切れればそのまま落下だ。
着地をミスれば大怪我をする。
「(――良し。そーれッ!)」
勢いよく走り出し、そのまま王城の外壁を昇っていく。
目指すは大体六階ぐらい。
そこに居るであろうナデシコのもとへと、ヤマトは文字通りに駆け上がっていった。




