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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/ひび割れる世界
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30 その時……ダンジョンの勇者/王城の迷い人


 「珍しく寝起きが悪いわね。大丈夫?」


 目覚めた直後、タケルの様子を気にしたシフルから問われた。

 タケルは、いつもであれば寝起きと共に意識をスパッと切り替えられるのだが、今日はまだ少し寝ぼけた感じだった。

 頭がすっきりしない。

 

 「……少し懐かしい夢を見てました」


 過ぎし日の、日本で暮らしていた頃の自分。

 召喚直後は毎日のように見ていたが、最近は全く見なくなった思い出。


 「大丈夫?仮眠で足りないならもう少し休んだほうがいいんじゃない?」

 「……大丈夫です。感傷的な物なので」


 タケルは強引に気持ちを切り替え、立ち上がり周囲を見渡す。

 今は気を張らねばならない状況だ。


 「それで、どうなりましたか?」

 「この階の帰還用〔転移陣〕も駄目。やっぱり全部停止してるみたい」


 ダンジョンには五階層毎に、地上に帰還するための〔転移陣〕が設置されている。 

 ダンジョンのシステムとして組み込まれているため、人の解析や制御は受け付けず、帰還にしか使えない。

 その分、当然使用不能になる事も無いはずなのだが、今は一切反応がない。

 ただ停止しているだけ。

 破損欠損の様子もないため、尚更原因が分からない。

 分からないが……伝信などの連絡手段も不通になっている上に、タケルの《短距離転移》も使えないため、恐らくは何かしらの妨害工作の可能性が高い。


 「みんなのほうはどうですか?」

 「とりあえず二人はまだ起きてない。時間前だしね。散策組はもうすぐ……戻って来たわね」

 「階段を使い、ここに降りて来てる魔物が居ます」


 ダンジョンモンスターは階層を移動しない。

 階段を使う魔物は、全て外からやってきた個体になる。

 

 「数は?」

 「三体。恐らく〔スケルトン〕の類ですが、申し訳ありませんが見たことのない種類だったため断定が出来ません」


 経験豊富な騎士のレインハルトが見たことの無い個体。

 三体ならユニーク種ではないだろうが、上位種の可能性は高い。

 

 「ピピ!起きてくれ。索敵頼む」

 「……んー。何かこっちに向かって来てるー。三体ー?」


 相手の目的は分からないが、このままなら接敵するのはほぼ確定だろうか。


 「シフルさん。二人を呼び戻して」

 「行って《伝令鳥》」


 シフルさんが生み出した鳥型の簡易ゴーレムが、この場を離れている二人に向かい飛び立った。

 予め登録された魔力紋を追うため、意図的に隠さない限りは見つけられずに迷う事もない。 


 「ブルガーも起きて。戦闘準備。二人が戻ってきたらそのまま階段に向けて進むよ。〔転移陣〕が使えないなら自力で地上まで戻る」


 勇者一行のダンジョン攻略はちょうど五十階まで進んでいたが、今回の異変に進行を中断。

 現在は四十五階。

 迫る存在を退け、徒歩での地上帰還を目指す。








 「――えい!」


 ナデシコの投げた石が〔ダークウルフ〕の一体にヒットすると、爆発を起こした。

 その爆発に一瞬怯んだ隙に、二人の騎士と一人のメイドが他のウルフに切り掛かる。

 

 「ナデシコ殿は魔法は素人ではなかったのか?」

 「素人です。この石がちょっと特殊なんです」

 「魔法具ね。使っても補充…いえ、戻ってくるのかしら?本当に特殊ね…」


 ナデシコの持つ神域宝具に、興味津々のラントス王子とリトラ王女。

 王都の結界が消失し、王城は魔物に侵攻されている。

 にも関わらず、表面上は冷静で平静だった。


 「仕留め終わりました。フィル様も支援ありがとうございました」

 「いえ、それが私の役目ですから」


 この場に居るのは七人。

 ナデシコ、リトラーシャ王女、ラントス王子、フィル、レイシャ、そして護衛騎士の二人。

 侵攻してきた魔物との戦闘には、護衛騎士二人とレイシャが対応。

 フィルが魔法で強化・支援し、場合によってはナデシコが爆破する。

 流石に王族を前に出すわけには行かなかった。 

 武人の第三王子や心得のある第一王子ならまだしも、ここの二人は戦闘に才は無い。

 

 「ご苦労。では進もう。早く部屋に辿り着かねばならない」


 七人の目指すは、いわゆるシェルタールーム。

 有事の際の避難部屋。

 そこまでたどり着けば、相手もそう易々と手出しが出来なくなる。


 「ただし安全第一だ。《治癒》に通常よりも負荷が掛かる以上、怪我をするわけにはいかない」


 先程フィルが《治癒》魔法を使用した際、通常よりも負担が大きかった。

 一定以下の《治癒》が機能せず、一定以上なら発動はするが魔力消費が普段よりも大きい。

 恐らくは連絡妨害と共に治癒回復にも妨害が掛かっているのだろう。

 どんな魔法や結界を用いているかは分からないが、厄介この上ない。


 (……七人。この状況からすぐに脱出出来るはずの結晶は一度で三人)


 ナデシコに預けられた〔転移結晶〕

 この転移妨害の中でも機能する唯一の即時脱出の手段であるが、使い切りな上に一度の上限は三人。

 つまりこの面々に使用する場合、四人を置いて行かなければならない。


 (この結晶は私を守るために渡されたもの。そうなるとあと二人……フィルとレイシャ。けどそうなると王女様と王子は……騎士さんだって戦えるとはいえ……)


 いっそナデシコ自身が残る手も考えはしたが、考えたどの組み合わせも実行に移せない。

 

 (選べない……ごめんなさいヤマトさん)


 結局ナデシコは〔転移結晶〕を使わず、このままシェルタールームを目指す。

 

 

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