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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界事変/ひび割れる世界
31/275

29 王都騒乱


 

 ――なるほど、夢か。


 前世の…大和の部屋。

 実家の自室。

 大学に入り一人暮らしを始めるまで、生まれてからずっと過ごしてきた家。

 もう戻る事のない場所に、ヤマトは居た。


 ――封筒?


 大和の部屋のテーブルの上には、一通の封筒が置かれていた。

 大和宛……しかしよく見ると切手も消印もなく、宛名は名前のみで住所もない。

 郵送では絶対に届きえない。 

 ヤマトはその封筒に手を伸ばす。


 ――触れるのか。


 手に取った封筒を確認する。

 開封した様子もない。

 家に届いた物なら両親が開けてそうなものなのだが……

 送り主は…蓮田――


 





 

 

 『――逃げてください!!』


 目覚めと共に聞こえた女神様の声。

 次の瞬間には、大きな振動と共にヤマトの泊まっている輝き亭が崩壊していく。


 「あぁ……いっつぅ……」

 『左です避けて!』

 「なに――あぐッ!!」

 

 瓦礫の山から起き上がろうとしたヤマトは、巨体の何か(・・)に殴られ、ふっ飛ばされた。

 女神様の言葉で咄嗟に魔力を集中させた左腕を盾とした為に、飛ばされた割には打撲程度の軽傷で済んだ。

 ただ…目覚めの一撃としてはかなり強烈だった。


 「くっそ……《杖よ来い(コール・セイブン)》」


 瓦礫に埋まっていたセイブンの杖がヤマトの手元に飛んでくる。

 神域宝具の杖、セイブンに追加された安全装置を使用した。

 無くしたり奪われても手元に引き戻すための所有者専用魔法。

 比較的早く出番が出てきてしまった。

 ひとまず今度からは、眠いからと面倒がらずにきちんと《次元収納》にしまってから寝ることにしよう。


 「おはよう女神様……それで、アレ(・・)は倒してしまっていいやつ?」

 『はいどうぞ』


 その言葉で、ヤマトはすぐさま一撃を放つ。

 最近何度も倒した相手のため、すでに手慣れた相手だ。

 ただの《水弾》。

 しかし威力は充分で、狙いも正確。

 ヤマトに対峙した〔ゴレム〕は、一撃で魔石を撃ち抜かれ、沈黙した。


 「一応上位や強化個体の可能性も考えて強めにしたけど、この様子なら他と遭遇してもいつもの威力でいいな。魔石は勿体ないけど仕方ない。さて話を――聞く暇ないってくらいに酷い事になってるな」


 辺りを見回すヤマト。

 視界のあちこちから煙や爆発音、叫び声や怒号が聞こえる。 

 恐らくここと同じように、ゴレムのような襲撃者が暴れまわっているのだろう。


 「まずはここの救助だな。埋まっているのは…四人か」


 ヤマトは感覚を強化し、瓦礫に埋まる人々の位置を特定した。

 魔法での物体操作はこういう時に重い瓦礫すら退かせるので便利だ。

 どんどんと掘り起こしていく。

 そしてそのまま救助した人々を一ヵ所に集めていく。 


 「……これで全員か。《範囲治癒(エリアヒール)》」


 救助した人々の傷を癒していく。

 ヤマトの治癒は調整後に性能が上がっている。

 彼ら彼女らの傷も、少なくとも命に別状は無い所まで回復させられる。


 「ん…ここは…」


 一人の男が目を覚ました。

 確か…この宿の店主だ。


 「起き上がれますか?」

 「え、あ…はい。大丈夫です」


 立ち上がる店主の様子を見て、少なくとも彼は問題なく動けることを確認した。


 「ではこの人たちは貴方に任せても良いですか?」

 「あ、はい。えっとこの状況は――」


 ヤマトは店主の返事を受けて、すぐさまその場から走り去った。

 彼らの事も心配ではあるが、最低限の事はした。

 流石にずっとは構う余裕はない。

 後の事は任せて、ヤマトは真っ直ぐ王城へと向かう。

 ――走りながら、収納から取り出した予備のローブを纏う。

 元々のローブはセイブンのような取り寄せ機能は無いため、未だ瓦礫の中。

 上物で惜しいとは思うが、急ぐ必要がある以上は探し出す余裕はない。

 つくづく片づけの大切さを実感する。

 

 「(――それでこの状況は何ですか?《界渡り》が使えないし、伝信(メール)もエラーメッセージが出て使えないし……何が起きてるんですか?」


 駆けだした直後に《界渡り》を試したが、発動しなかった。

 一度精霊界へ移動し、そこから帰りの《界渡り》で王城付近に出ようと思ったのだが、そもそも発動しない。

 取り出した冒険証(カード)の伝信機能も全て不通。

 王都の《結界》によって中には入れないはずの魔物(ゴレム)に襲撃され、余所でも似たような騒動が起きている様子。

 深く考えなくとも異常な事態だ。

 そして……王城からも煙が上がり始めた。


 『王都の《結界》は破壊されました。それにより王都内、並びに王城敷地内に複数の魔物が侵入しています。そしてそれと同時に、転移や連絡手段の妨害が展開されています』


 王都の守護の消失。

 そして妨害。

 事故ではなく、明らかな意図・敵意が合って実行されたようだ。


 『勇者の反応も途絶しています。あちらも似た状況になっているようです』


 女神様と直通で自由な連絡手段を持つのは使い魔のヤマトだけ。

 勇者の場合は会話は出来ても、最初のアクセスは女神様からのみ。

 その辺りの違いが、今連絡が取れているかの差に繋がっているのだろう。

 

 ダンジョン攻略中のタケル。

 王国の中心である王都(ここ)、そして王城。

 こうもあからさまな狙い。 

 

 『どうやら相手は〔魔王軍〕のようです』 


 勇者、そして人類の宿敵たる〔魔王〕。

 今代の魔王率いる〔魔王軍〕と人類の戦争は、今日この日に始まった。


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