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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
272/276

264 龍主の決闘



 「――あぁ、死んでしまったのですねシラハ。また優秀な部下を失ってしまいました…本当に残念です」


 淡々と、感情の籠らぬ声で死を悲しむ素振りを見せる男。

 【マーモン(魔人:七罪の二/"憤怒""謎の商人")】。

 しっかりハッキリと捉えたその鑑定情報。

 疑惑でなく確定情報として、噂の商人の正体が明らかになる。

 そんな魔人の男は、シラハの亡骸の上に突如姿を現した。


 「ふむ、新たな来客かの?来るなら先触れを送るか、せめてドアをノックして入ってきて欲しいものじゃの」

 「これは失礼をしました。商人として恥ずかしい限りで…おやもしや、貴方様はかの名高き龍主ミラジェドラ様ではありませんか?」

 「うむ、確かにワシはミラジェドラであるが、其方は名乗るつもりはないのかの?」

 「重ねて失礼を、私はマーモン。しがない商人であり、同時に魔人、七大罪の五の席を預からせていただいておりま――おっと」

 「グラァァア!!!」


 龍主と商人、その会話。

 まるで殺意も害意も見当たらない、挨拶の言葉を交わすだけの二人。  

 だがそのやり取りに真っ先に割り込んだのはブルムンドラ。

 彼の放つ火球がマーモンに直撃する。

 しかし…直撃したはずの火球はそのまますり抜けた。


 「無駄じゃブルムンドラ。それにはまだ実体はない」

 「ブルムンドラ!こっち来い!」

 

 マーモンは確かに会話が成立している。

 だがその存在はここにはない。

 向こうからこちらに物理接触で干渉する事は出来ず、逆にこちらも触れられない。

 ゆえにこそそれに気づいていた龍主もヤマトもブルガーも、手出しせずに動向を伺っていた。


 「ふふ、元気な龍ですね。それにしてもいきなりの龍主との対面。シラハは良くやってくれたようですね。流石でした」

 「ふむ、其方はワシに用があるのか?」

 「ええ。彼には『龍主のもとを目指せ』とお願いしていました」


 そんなマーモンはシラハの死体を見下ろしながら、彼の行動目的とその命令者である事実を語りだした。

 シラハが龍界の中で目指していたのは龍主の存在。

 その指示を出したのはマーモン。


 「正直、彼の中途半端さを鑑みれば難しいかもと思っていたのですが…いやはや、私の目も曇ったようで。こうして目的通りに龍主様と対面出来るとは嬉しい限りです。シラハには感謝をせねばなりませんね」

 「ふむ、つまり其方は部下を捨て石(・・・)にしたのかの?」

 「捨て石?まさか!私は弱くとも私のもとで働いてくださる部下を大事にしていますので、捨て石など滅相も…」

 「その割には其方の出現は、その男の死をきっかけにしたように見えたが?道具か魔法か、手段は知らぬがシラハというその男が死ぬ事で、其方はこの場に姿を現すこととなっていたのでは?」

 「確かに、そのような設定もしていました。ですが手動で、彼が生きた状態でも同じことができるようにはしていました。あくまでも最後の手段としての備えです」


 シラハの死をきっかけにここに現れたマーモン。

 彼が目的を果たした時、もしくは死んだ時に発動する何か。

 あくまでも彼が生きて龍主のもとへと辿り着くことを願っていたように語るが…やはりその言葉には感情を感じない。

 その言葉を聞く者たちには『どっちもで良かった』と聞こえる声色。


 「して、其方は何故ワシとの対面を求めた?大事な部下を死なせてまで、大事な部下にこの龍界を襲撃させてまで何を求めた?」

 「襲撃など滅相もない。私はあくまでも穏便にと、彼は大使のつもりで送り出しました。しかしどうやらかなりの荒事に発展したようで…残念な限りです」

 「ふむ、上司としては不本意と。何とも無責任な言葉じゃのう」

 「私自身の至らなさに呆れてしまいます。せめて彼の犠牲を無駄にせぬように、商談(・・)はしっかりと纏めましょう」

 「商談とな?」


 そしてマーモンは部下の死とその行動を適当に受け流し、本題となる〔商談〕を口にする。


 「ええ、こちらが本題なので。もしよろしければ龍界の皆様には魔王勢力に加わっていただければと思いまして。勿論相応の対価はお支払いいたします。商談…とは言いましたが、正確には勧誘ですかね?」

 

 その商談、いや勧誘。

 龍界に存在する龍や龍人、それに属する存在や共存するモノたち。

 マーモンはその全てに〔魔王勢力への加入〕を打診してきた。


 「魔王勢力は常に新たな仲間を求め歓迎しております。勿論実力に応じて相応の地位と対価もご用意いたします。希望がありましたら叶えるように努力も致します。どうでしょうか?」

 「何を積まれようと其方らに加担するつもりはないの。ましてこの龍界に牙を剥いた者となればなおさら無理じゃな」

 「そうですか、残念です」


 本題、と言いながら簡単に引き下がる。

 ダメで元々、無理を承知で打診して本当にダメなら仕方ない。

 商談という言葉そのものに力があったマーモンだったが、それ以降の言葉はまた全て軽い。


 「では代わりに《決闘》を挑みましょう」


 するとすぐに次へと切り替えるマーモン。

 彼が告げたのは決闘宣言。

 龍主に向けた無謀な要望。


 「ふむ…それを受ける義理は無いのだが?」

 「えぇそうでしょう。なので手土産(・・・)をお持ちしております。どうぞお納めください」

 「む?」


 すると彼の言葉と共にシラハの荷物から飛び出してくる何か。

 意志があるかのように龍主のもとへと舞い込むその固まり。

 それはよく見れば魔石、それも〔龍の魔石〕であった。

 

 「同胞の魔石、それもこれは…」

 「ええ、かの試しの龍のものですよ」

 「…良かろう、その決闘、受けよう」

 

 その魔石と引き換えに、龍主はマーモンの決闘の申し出を受け入れた。


 「試しのって…もしかしてあの物語の?」

 「龍殺しに倒された龍の魔石、加工もされずに残ってたのか」


 それを見守るしかないヤマトとブルガーも二人の会話でその正体に気付く。

 あの魔石は物語の、龍殺しのお話に出てきた、人間に倒された龍の魔石。

 龍討伐の功績と共に龍殺しの人間が持ち帰った龍の亡骸の核となる部分。

 かの龍の素材はその殆どが最高品質の武具道具に加工されて原型を留めていないだろう。

 しかしマーモンの差し出した魔石はまさにそのままの姿。


 「同胞の亡骸の返還。その功に対する礼。龍主様はこの決闘を断れない…」


 そしてマーモンはその龍の魔石と引き換えに決闘を求めた。

 同胞の龍界帰還、そのお礼として決闘の受諾を望む。

 なればこそ龍主様はその言葉を拒めない。

 どういう経緯であれ、どういう意図があれ、マーモンの手によって同胞の魔石が故郷に戻ったのならその礼は返さなければならない。


 「して、決闘の報酬には何を求める?」

 「貴方様のお体を」

 「ふむ、まぁ道理かの」


 そうして決まった決闘。

 その結果もしマーモンが勝ったなら、お話のように龍主の亡骸は勝者の報酬として差し出される。

 

 「そして私が負けた時には…」

 「よい。これは同胞帰還の礼で受けた決闘。ワシはその勝利に何も求めるつもりはない」

 「…理解しました。そもそも負けるつもりはないので何でもよかったのですがね…では!」


 するとマーモンの非実体の体が、途端に存在感を帯びて行った。


 「転移とは違う、むしろ召喚に近いが、安全装置はないようだな」

 「えぇ召喚とは違うので。少ない時間限定ですが、本物の生身としての具現化し、勿論この私を殺せばそのまま私は死にますよ」 


 そしてこの場に出現する実体としてのマーモン。

 おそらくオリジナルではないが、オリジナルと変わらぬ同位体。

 この場の彼を殺せばマーモンという存在は確かに死を迎える。

 これで決闘の前提は満たされる。

 

 「ではワシも」

 「おぉ、これが本来の…素晴らしいお姿」


 対する龍主も元の姿に、龍の姿を現した。


 「…と、見惚れてしまいました。あぁそれと、そちらの彼らに立ち会い人をお願いしたいのですが」

 「頼んだの」 

 「え、あ、はい!」


 そんな決闘の場に居合わせるブルガーとヤマトたちが立会人と見届け人を任される。

 勿論ブルガーもヤマトも、龍主の勝利を疑いたくない。


 (…なんだ?この嫌な感覚は…)


 しかし感じ取るのは言い知れぬ不安。

 どう見ても実力は龍主の圧倒。

 なのに…龍主の勝つ未来を信じられないヤマト。


 「では早速、合図をお願いします。この姿もあまり長くは維持できないので、不戦敗にならぬうちにお願いします」

 「あ、あぁ…」


 どうやらそれはブルガーも同じ様子。

 しかし、龍の決闘は彼らの血誓。

 その血に賭けても破らない。

 仮にその命が奪われるとしても、決して拒むことはないし邪魔を許さない。

 

 「それじゃあ…これを合図に、それ!」


 そうして放たれるその合図。 

 地に落ちた瞬間が決闘の始まり。

 既に引き返せぬ龍の決闘、その賽は投げられた。




 「――ふふ、私の勝ちですね」


 そして始まる決闘は、一瞬で決着。


 「龍主様…?」


 ブルガーは信じられぬその光景に呆然とする。

 倒れたのは龍主ミラジェドラ。

 僅か一瞬、たった一撃で、最弱を自称する魔人マーモンは最強格の龍の魔石を奪い取り勝利したのだった。



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