263 見守る決着
「――ふふ、元気に飛び回っておるのう」
見上げる空を飛び回る龍とその背にまたがる龍人の姿。
龍主と共に外に出たヤマト。
強制的な転移でここへとやって来たヤマトはその外の景色を見ることで、やっと現在位置の目測がついた。
そしてその外で、見上げる空には龍のブルムンドラが元気に飛び回る。
背中にはボロボロのブルガーを乗せて。
「あの高さにはデバフが届いていませんね」
安全距離ゆえに動けるティアは、彼らの空にまでシラハ自身のデバフが届いていないことを理解する。
同じ地に立ち、横の幅も把握するヤマト。
デバフ範囲の輪郭がはっきりとする。
逃げ場の限られる閉所でなく、野外であればいくらでもやりようがあり…シラハにとっては不利なステージとも言えるだろう。
「援護を」
「まぁ待つが良い。少し見守るのじゃ」
そんな二人が向き合うのは、地に立つ魔人エルフのシラハ。
地と空で対峙する両者。
ヤマトはその援護を行おうとするが、龍主に止められる。
「ブルムンドラ!」
「グルゥウウウウ!!!」
すると聞こえる龍の咆哮。
遠くまで響き地を揺らす威嚇。
そして直後、地に立つシラハに放たれる火球。
通常魔法としてのそれよりも大きく熱く燃える球を、ブルムンドラは掃き出し地面に叩きつける。
しかしシラハはしっかりと避ける。
標的を外して地を焼く火は避けたシラハにもその熱さを浴びせる。
ブルガーの魔法を封じた"魔法殺し"じみたデバフ応用。
それは龍の生態から生み出される火には無力。
本来のそれを浴びせられるシラハ。
「ふむ、随分と元気じゃの。やはりブルガーと共に居るブルムンドラは一段も二段も違うの」
龍主はその景色を眺め、活き活きとしたブルムンドラを見つめる。
元より強い龍ではあるが、精神的な未熟もあり龍主の決定戦とも言える戦いにおいては敗北した。
だが今ならば、ブルガーと共にあるブルムンドラならば話が違ったかもしれない。
一対一の戦いの趣旨からは外れるので言っても仕方ないことだが、ブルムンドラの力は今こそが本領なのだろう。
そんな元気な姿を見て、龍主は笑みをこぼす。
「さて、あの相手は二人に任せ、こちらはやるべきことをしよう。ヤマトよ、少々力を借りたい」
「はい分かりました。ですが…何をするんでしょうか?」
「アレを取り戻す」
上を指差しながらそう口にする龍主。
おそらく示したのはこの龍界を守る結界。
今は龍にデバフをばらまく、浸食改変された負の結界、その正常化。
「実は儀式で魔力がクタクタでの。良ければ手を貸してもらえんか?」
「勿論。どうぞ使ってください」
「うむありがとう」
そしてヤマトは龍主と手を繋ぐ。
必要なのはヤマトの魔力。
平然とはしているが儀式で消耗している龍主に燃料扱いされる。
以前にも道具経由で果たしたそれだが、龍主ともなれば自力で扱える。
これから行う結界奪取の策の為に使う魔力を提供する役目がヤマトに与えられた。
「では始める…ほい!」
そのまま早速繋いだ手から魔力が吸われて行くのを感じる。
「ほうこれは…なるほどなるほど、流石の源…では遠慮なくいかせてもらおう」
「ぐ…」
直後、ヤマトから吸い上げる魔力は大きく増えた。
文字通り遠慮なく、必要な分だけ吸い出していく。
「うむ、これだけあれば十分じゃろう。では返してもらうぞ――パンッ!」
そして準備を済ませるとヤマトの手を離した龍主。
その空いた両手を強く叩き合わせた。
「…これは、結界が」
「戻りますね」
すると結界が刷新される。
先ほどまでの龍を苦しめる呪いのような結界は一瞬で、元の温かな守りの結界に戻った。
「――ブルムンドラ!!」
「グルゥウウウウ!!!」
それをすぐさま感じ取った二人は叫ぶ。
龍や龍人に対する嫌がらせ。
シラハ本人のデバフはまだ健在ながらも今は高さの圏外。
結界が戻り全体デバフは消え、二人の力も戻った。
更に本来の結界の持つ恩恵も浴び、生まれたその力の差は相当なズレとなる。
今まで振るった力と、戻って来た力の幅により生み出される一度限りの不意打ち。
「な――ぐぁああ…!!?」
シラハを襲う複数の火球。
今までと違う速度と威力に対応が追い付かず…体の一部を焼かれながら燃える大地に囲まれ逃げ道を塞がれた。
「突っ込むぞ!!」
「グガアアアアア!!!」
その隙を見逃さぬ二人は急降下。
炎の円の中心で腕を焼かれるシラハへと一気に突撃して行った。
向かう先はデバフの圏内
しかし効果が及ぶのは純粋な強さであり、落下加速による自然な速度には影響を及ぼすことはない。
そうして放たれるのは一見すれば雑な体当たり。
だがその真意は鋭き龍の爪の一撃。
「グルゥラウッ!!!」
「ぐ…がぁ…!?」
そして爪が捉えたのはシラハの体。
火円の中心目掛けて落ちてきたブルムンドラの鋭き爪が敵を引き裂く。
「ぐぁ?!」「グゥ!!?」
直後、着地を無視した強引な降下で突っ込んだブルガーたちが…自らの放った火に体を突っ込み突破して、そのまま先の地面に難着する。
この一撃で仕留めると意気込み、後を考えずに放った渾身の切り裂き。
「…からだ…どうな…ぐふぉ」
その結果、魔人シラハの体はほぼ真っ二つ。
かろうじて繋がってはいるものの、臓器に背骨など大事な器官はほとんど断絶。
それは文字通りの致命傷。
「終いじゃな」
「あ、いやでもアイツは一度瀕死から復活して――」
「それももはやない。あれはもう死んでおる」
ヤマトは以前の復活を、魔人への覚醒による全回復を目にしている。
ゆえにまだ警戒を緩めなかったが、もはやその余地もないと断ずる龍主。
七罪の魔人シラハ。
彼は確かに死亡した。
「デバフ、消えましたね」
「…あぁ」
小人ティアの言葉、シラハを中心に纏っていた嫌な気が死と共に消え去っていく。
デバフの影響が失われた。
シラハの死を確かとする状況証拠でもある。
「にしても…なんと不格好なことか。自らボロボロになりおって」
「あぁ…お恥ずかしいところを見せました、龍主様…」
「グゥ…」
そしてヤマトたちは地面に倒れるブルガー達に近づく。
地面とぶつかった時にはデバフの範囲に居た両者は、弱体化された防御性能のせいで結構なダメージを負ってしまっていた。
あの高さから実質落ちたも同然の中で怪我をした程度で済んだ龍の頑丈さには驚くところ。
ちなみに元々ボロボロだったブルガーは…ブルムンドラ自身の体がクッションになったようだ。
「ブルムンドラ、大丈夫か?」
「グル」
「俺はまぁ大丈夫だよ。お前が守ってくれたからな」
「グゥ!」
とにかく、不格好過ぎはしたがしっかりと決めの一撃を押し通し、敵である魔人シラハを仕留めた二人。
最後は地と空のほぼ一方的な狩り。
まさしく手も足も出ない様子で、シラハは完全に敗北し、ブルガーとブルムンドラは勝利した。
「だが…どうやらまだ何かあるようだの」
「え…」
「後ろ!何か光ってます!」
そうして安堵するのも束の間。
確かに死んだはずのシラハのもとで、謎の光が沸き上がる。
「何が光って…まさか…箱か!?」
遠目ではあるがその光は箱から放たれている。
魔法を収めた例の箱。
見た感じでは割れたわけでも、最後に発動させたというようにも見えなかった。
「鍵は…持ち主の死かの」
それは恐らくは所有者の死を鍵として起動する何か。
シラハの死をきっかけに、新たな悪意が龍界に襲い来る。




