26 四日前/使い魔のゴーレム作成
「《人形創造》」
詠唱と共に、ヤマトの目の前に置かれた魔石が小さく光り、その側に置いた砂を纏い始める。
そして小さな砂の人形が出来上がった。
砂人形はそのままラジオ体操を始める。
「単純動作なら割と簡単に出来るんだな。イメージも割と大雑把でも……あぁ、けどやっぱり細かい動作は厳しいか」
『その辺りは慣れですかね。あとは最初に決めた動作を行う自動人形でしたら、次の指示が来るまで自動動作で行動できますけど』
「応用がなぁ…一応目標は〔戦闘時の前衛職〕だから自動だとパターンが――あ」
体操をしていたミニゴーレムが崩れた。
核に成っていた魔石が、真っ二つに割れていた。
『まぁゴブリンの魔石ですから仕方ありません。他の魔石を使ったほうがいいですね』
今使っていたゴブリンの魔石は、転生初日に回収してそのまま忘れていたものだ。
初ゴーレム魔法の実験台になって貰ったが、基本的な勝手は分かったので良しとしよう。
ヤマトは砂の中から割れた魔石を回収し、収納から別の魔石を取り出す。
手持ちの魔石はゴブリンを除くと、使い魔報酬の龍脈魔力産・高品質魔石が二個。
そしてゴレムの魔石が数個だ。
――そよ風団と受けたクエストとは別に、昨日は一人で使い魔のお仕事として別の魔力溜まりを解消してきた。
その際の報酬と、回収したゴレムの魔石だ。
クエストでは無いため、そのまま持ち帰った。
ちなみにこちらの魔力溜まりは、正真正銘純粋な魔力溜まりだった。
細工の類は何も無かった。
「持ち腐れも勿体ないから試しにと思って作って見たけど……実戦で使える性能って難しいなぁ」
ヤマトの目の前にはゴレムの魔石を使って出来たミニゴーレムが二体、ラジオ体操をしていた。
二体とも寸分違わず全く同じ動きをしている。
むしろ別々の動きをさせようとするとゴーレムとしての維持が緩んでしまう。
『複数同時でさらに別々の動きとなると、それこそさらに慣れが必要ですからね』
ゴブリンの魔石の時と違い、壊れる様子はない。
やはりゴーレム発想の原点たるゴレムの魔石と、ゴレムから回収した砂は相性が良いようだ。
クエスト報告の際に買い取り金額ゼロを言い渡された砂を、破棄せずに貰って帰ってきたのは正しかったかもしれない。
『見た目はただの砂ですが、言うなれば魔力慣れした素材ですから扱いやすいのは確かですね。ゴーレムでなくとも、この前使っていた《砂の鎧》に使ってもいいかもしれません。同じ魔力量でも二パーセント程度は性能が上がるかもしれませんよ』
どうやらそこそこ使い道もありそうなので、ひとまずゴレムに遭遇した時は構成素材も回収するようにしよう。
遭遇すればの話ではあるが。
「……まずは慣れかな。ミニで慣らして仕様を詰めて、それから本命の魔石でチャレンジかな」
『せっかくですから余所の完成品を見てみますか?この王都には、世界最高性能のゴーレムがありますよ』
世界一のゴーレム。
ヤマトも気にはなったので、実際に見てみる事にした。
そしてやって来たのは、教会本部。
その入り口に、確かにゴーレムらしき姿が二つあった。
見た目は鎧を纏った雪男と言ったところだろうか?
纏ったと言うよりも鎧を組み込んだ体というのが正しいか。
【護隷群 ムックン 分体No.3/神域宝具(六番)】
【護隷群 ムックン 分体No.4/神域宝具(六番)】
これがどうやら教会の所有する神域宝具のようだ。
『本命の核は所有者の手元にあり、それを使い魔力と材料さえあれば複数体生成出来ます。上限はありますが』
目の前に居るのはその内の二体。
基本的にこのゴーレム達は教会の守護に使われているようだ。
……とりあえず名称の一部分が、完全に漢字の当て字なのは製作に日本人でも関わってるんじゃなかろうか?
いくつかの神域宝具は製作の際に、与える相手の意見も取り入れたらしい。
なのでソイツが勇者なり使い魔であれば日本の知識を持っていた可能性もあるだろう。
『ちなみに全力稼働モードになると体が赤くなります』
――赤化と聞いて色々と浮かんだものはあるが、純粋に雪男・赤色・名前で辿り着いたのは……考えない様にしよう。
そういう分かりやすい視覚的な変化も含めて、日本人絡みなのは濃くなってきたかな。
それと同時に遊び半分で作られたものな気もしてきた。
『ちなみにこのゴーレムは、主人の思考を部分的に複製し搭載してますので自己判断による行動が可能です。もちろん限度はありますが』
……それはちょっと物騒な気がする。
だが確かに考える事が出来るのであれば、行動の幅も広がる。
正直SFよろしく問題行動に発展するような気がしてならないが、そこは映画の見過ぎなのだろうか?
「……まぁ物騒なのはともかく、確かに自分で判断してくれるようになればこっちの負担は減るよな」
『何か良い案が出ましたか?』
「全然」
どこぞの物語の主人公達じゃあるまいし、凡人の頭に早々都合良く名案が浮かんでくるはずもなく。
『まぁその辺りは急ぐことでもないので、暇な時にでもゆっくりと考えていきましょうか』
というわけで、当面はミニゴーレム体操で慣れる事に専念する事になった。
ヤマトのゴーレム完成はいつになるやら。




