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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
262/276

254 嫉妬の誕生




 (――遠距離攻撃の手段は無いか?ならこのまま援護に徹する)


 龍の墓場の洞窟の中。

 行方知れずのエルフ探しにやって来たヤマト達はいきなり大当たりを引いた。

 遭遇したエルフのシラハ。

 彼に対して先制攻撃を仕掛ける。


 (既にデバフの圏内、だけど杖と指輪の同調状態なら、魔法発動に及ぶ弱体化の影響を及第点ぐらいにまで抑えられる。この状態なら使い物になる)


 後方、遠距離攻撃の手段を見せないシラハからは届き得ない距離に立つヤマトは魔法射撃によって前衛アリアの支援を行う。

 デバフは魔法の発動速度や魔力効率などにも影響し、いつも通りの威力の魔法を発動させようとしてもいつもより遅く燃費が悪くなる。

 逆に速度を重視すれば威力が犠牲にと、何かを取れば別の何かを犠牲にする。

 港での初戦はそのズレに振り回され完敗した。

 だが今回は、そのデバフの影響は前回よりも少ない。

 正確にはデバフのマイナスを、ある程度埋め合わせる手段を用いている。


 セイブンの杖と心意の指輪。

 神域宝具の杖と、唯一の指輪型魔法補助媒体。

 これらを同調させる事により向上する魔法構築力。

 前回はそんな準備の暇も与えて貰えなかったヤマトだが、今回はこちらの先手。

 最初から同調状態での戦闘開始。


 「弱くなってるはずなのに、随分と上等なものを投げてくるなぁ!!」


 そんなヤマトの魔法は的確にシラハに投げつけられ、デバフ影響下にも関わらず想定よりも重いその攻撃に再びシラハは苛立ちを見せる。


 「それに…そうか精霊、お前らはそもそも物真似(・・・)だったな!」

 「あら何が?」

 「その体がだよ!」


 するとシラハは目の前の精霊アリアにも文句をぶつけだす。 

 ヤマトの魔法の援護を受けつつ、前衛としてシラハ相手に格闘戦を行う彼女は…実は誰よりもデバフの影響が少なく済んでいるのだった。


 「真似とは失礼な。でもまぁ私が人でなしなのは事実よね。おかげで皆よりも負担は少なくて済んでるわ。はッ!」

 「く…」


 こぶしで語り合う精霊アリア。

 精霊の体は人の見た目をしているものの当然人ではない。

 二足歩行で歩けるし、ご飯もいっぱい食べられる。

 だがその内側には人間の体を支える骨も筋肉も、神経も血管も…臓器すらも一切存在しない。

 人や龍たちが受けるデバフと同じものを受けるアリアであるが、根本的に物理的な縛りが緩い精霊ゆえに力は同等に下がっていても、体への負担という点では誰よりも軽く、ゆえにシラハにも想定外の厄介さを見せていた。


 (彼のデバフ能力は、恐らく物理生命相手にこそもっとも効果を発揮するもの。精霊の存在は完全に想定外だろうな)


 人間にも龍にも大きなマイナスを与える事が出来るデバフ能力。

 龍界に送り込まれる人材としては勿論正しい選択だったと思う。

 しかしそこに非物理の生命たる精霊が居た事は、相手にとって完全に想定外だっただろう。


 (まぁこっちとしては、相手が困る分にはしてやったりではあるんだけどな!)


 とはいえそれはあくまでも相手側が困るだけのもの。

 むしろこちらはその想定外を全面的に前に押し出す。

 前で戦うアリアと、それを援護するヤマト。

 いつもの構図ではあるものの、いつも以上に慎重に距離感を保つ。


 (でも…これでギリギリ拮抗か)


 そんな一対二の戦いの中は、どちらにも天秤は傾かずに続く。

 なまくら剣で戦う剣士のシラハと、デバフを受けた状態のアリアとヤマトのコンビはどっちが優勢を取れることもなく斬り合い殴り合いが続く。

 だが、そんな場に…頼もしい援軍がやって来る。


 「この数…援軍!?」

 「逃がさない!!」


 近づく気配に気づいてシラハは後方へと跳ぼうとしたが、当然アリアが逃がさない。

 そうこうしている内にヤマトの背後から見知った姿が現れる。


 「待たせたな!」

 「ほほ、手間を掛けさせてすまないの」


 現れたのは同行者の龍人バリトーと、この場の管理者の墓守。

 到着早々に別行動をして、墓守の救援を目指したバリトーがそれを果たしたこちらに合流した。


 「地味にアンデットがめんどくさくて時間掛かっちまったが、しっかりと潰させて貰った。で…アレが噂のエルフか?」


 そしてこの場では初めて、シラハと対面するバリトー。

 彼の品定めするような眼は…すぐに怒りの火を灯す。


 「精霊アリアぁ!!加勢する!!そのクソ野郎は絶対に叩き潰す!!」

 「こちらも遠慮なくやらせてもらおう。随分と墓を荒らしてくれた、そのお礼をせねばな」


 するとその言葉と共に、すぐさま駆け出した二人の龍人のサポートも始めるヤマト。

 出来上がる四体一の構図。

 均衡を崩すのはあっという間。


 「はぁあああ!!!」

 「ぐぅう!?はぁ!!」

 「やるな…だが」

 「こちらも忘れるでないぞ?」

 「チッ!?くっそ…あぁ!?」


 拳に大剣。

 それらを必死に使い慣れぬ剣で受け流していくシラハ。

 その受け流しは成功した。

 しかし…シラハの背後にはいつの間にか回りこんでいた墓守の姿。

 その恐ろしい大鎌が、逃れられぬ距離でシラハを捉えた。

 それは必殺とも言える致命的な一撃になり得た。

 普通ならばこれで御終い。


 「はぁ…はぁ…はぁ…」

 「これを逃れるか。大した回避能力じゃ」

 「だが…そいつは剣士としちゃ致命的だろう」


 だが強引ながらも成し遂げたシラハの逃げ手。

 犠牲前提の回避によってバットエンドは回避したシラハ。

 同時に後方に下がって、三者から距離を取る事に成功もした。  

 だがその手にはもはや剣はなし。

 大剣の受け流しに耐えきれず折れた剣。

 そして…その直後に大鎌によって肘辺りから切り離された右腕。

 命は繋いだが剣も利き腕も無くした剣士シラハ。

 傷口からは大量の出血。


 「あぁ…まじでグダグダだな。探し物は見つからない。せっかく放った龍のアンデットも簡単に潰され、俺自身もこの有様。やっぱこれが俺の限界か…はぁ」


 出血と共に顔色の悪くなるシラハは嘆き溜息をつく。

 そんな満身創痍の相手に、三者は囲むように展開し、ヤマトもいつでも魔法を放てるように決して気を緩めない。


 「真面目だなぁ。こんな怪我人を相手に…でも殺さないのは、あの結界のせいか?」


 もはや相手は抗う術すら持たない。

 そんな敵を殺すことは簡単。

 しかし誰もシラハを殺さないのは、やはり懸念が残るからこそ。

 デバフに変質した龍界の結界。

 あれについて知らないばかりな状況で、元凶とされるシラハを容易には殺せない。

 

 「取引だ。応じる意志はあるか?」

 「命を救う代わりに色々教えろってやつか?はは、いいね。救えるものなら(・・・・・・・)ぜひ救って欲しい。そしたら全部を語ることも厭わないけど…残念、時間ぎれみたいだ」

 「何を…な、これは!?」


 そしてバリトーは龍人を代表してシラハに生存と引き換えの取引を持ち掛けた。

 助けてやるから全部話せ。

 死に掛けの彼自身にも、それに応じる意志はあった。

 だが別の要因がそれを拒む。

 彼の傷口、腕の切断面から血の代わりに溢れ出す黒い霧(・・・)


 「チ…なんだあれは!?」


 反撃の一種と反応し、仕留める為の一撃を放とうとしたバリトーの龍人としての本能が『触れるべからず』と判断し、攻撃ではなく退避を選んだ。

 前衛三者は黒い霧に飲まれるシラハから距離を離す。

 すると代わりに後衛のヤマトが、手加減無しの魔法をの連打を叩き込み始めた。


 「だめだ…霧に弾かれる!!」


 だがその魔法は全て渦巻く黒い霧に弾かれシラハには届かない。

 完全に黒に取り囲まれた彼の姿は何も見えない。


 「《光連弾》!!」 


 しかし手は止めずに、属性を光に代えて更に攻撃を続ける。

 それでもやはり肝心の本体にその攻撃は届かず。


 「《氷柱雨》」


 アリアも魔法攻撃に切り替え参加する。

 だがどんな魔法も霧に…いや黒い繭(・・・)に阻まれて届かない。

 龍人組も鎌に剣を振るうが、やはり阻まれて肝心の本体に届かない。

 

 「…来るぞ」

 

 その直後、異変は一気に集束する。

 黒の霧は晴れて…失くしたはずの腕を取り戻した、肌の黒いシラハ(・・・・・・・)が姿を現す。


 「…七大罪…嫉妬の!!」


 するとその姿をその眼で目にしたヤマトは状況の悪化を理解する。

 先ほどまでは代り映えのしなかったシラハの鑑定情報。 

 だが今見えるのは、少し前の推測を裏付ける物証。


 【シラハ(魔人:七罪の三/"嫉妬")】


 ヤマトの眼に見えるその真実。

 たった今、彼はエルフとしての自分を失い、人ならざる人に成り代わったのだった。



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