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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
261/276

253 墓場の侵入者



 「――場違いなエルフ、来客の報せもなし。ここは尊き方々にまつわる者たちの眠る特別な領域じゃ。不法侵入の理由次第では一切容赦はせぬぞ?」

 「理由次第で許容や容赦もしてくれるのか?なんとも寛容なことだ。なら…ただ探しモノを探しに来ただけだよ。ちなみに、あんたがここの墓守か?」

 「如何にも。この静かなる地の守り人である」


 ――龍界に存在する龍種たちの墓場。

 その番人となる墓守の龍人は場違いなエルフと対峙する。


 「…じいさんとは思えないほどに強い覇気を感じるな」

 「ここを守るのが命題ゆえ」


 墓守の老人は少し前にヤマト達と対峙した際には感じさせなかった強さを纏っている。

 報せのある来客と、突然の侵入者。

 対応や向き合い方が変わるのも当然で、本来の役目を前に老いなど微塵も感じさせない圧を侵入者に浴びせ続けていた。


 「あえて再び問おう。エルフの侵入者よ。貴様は何をしにここにやって来た?」

 「さっきいった通り探しモノがあるだけだ。ここにあるはずだから可能なら持って帰って来いと言われた代物がある。なんならそれさえ渡して貰えれば墓場に用なんてない。すぐにでもここから出ていくさ」

 「その探しモノとはなんじゃ?」

 「…ダンジョンの卵だ」

 「ふむ、どうやらしっかりと不審者のようじゃな。はぁ!!」

 「うぉッ!?まぁ怪しさしかないよなそりゃ!?」


 エルフがこの場にやって来た理由。

 その目的は〔ダンジョンの卵〕。

 嘘偽りなく彼はこの龍界にやって来た目的の一つを正直に口にした。

 だが当然その事実に対して理解は得られない。

 どう考えても不審者でしかないエルフに対して墓守の老人が振るった刃が、後ろに飛んだエルフが直前まで立っていたその場を切り裂いた。


 「じいさん、墓守じゃなく冥府の案内人だったのか?そんな大鎌振り回しやがって」


 いつの間にか手にしていた身の丈ほどある大鎌。

 この世界では冥府へのおくりびとを象徴する不吉な武器として巷ではあまり良く見られない上に取り回しも不便で使い手がほとんどいない武具。

 まして彼は龍人であり、容姿的にはお爺ちゃん。

 墓守という立場も加わると一層違和感しかないその持ち物。


 「なぁに、龍人にも向き不向きがある。真っ当な武器が不向きでありながら突飛な道具に向いた者も世の中には存在するというだけじゃ。こんな風にの」

 「え…うぉぉ!?」


 言葉を発しながら、いつ振るわれたのか分からない鎌を寸でのところで躱すエルフ。

 

 「ち…デバフなければもう死んでるな俺!?」


 墓守も龍人である以上、結界の変質による弱体化は受けているはず。

 実際その挙動自体は決して視認できないものではない。

 だが…腕のフリに気付いた瞬間、大鎌の矛先が自らのすぐそばにまでやって来ている。

 もしもデバフが無ければ、一振り目で何も気づけずに終わっていただろう。


 「龍に関わる奴らはどいつも非常識な…はぁッ!!!」

 「剣…慣れた太刀筋は、確かに剣士のようだが剣が合っていないのではないかの?」

 「拾い物なんだから当然だ!!」


 既に戦いは始まっている。

 エルフは剣を抜きそのまま斬りかかる。

 だがその剣は本来の彼のモノとは異なる拾い物。

 自身にそぐわぬ剣の太刀筋はすぐさまその事実を見抜かれる。


 「とはいえ、筋は良い。相当に研鑽を積んだのだろうが…しかし使い道を間違えておろうに」

 「ぐぅ!?あぶ…うぉぉ?!」


 そして剣は弾かれ、そのまま鎌の軌道を紙一重で躱し続けるギリギリの防戦が続く。

 たまらずエルフは比較的狭い道へと逃げこむのだが…


 「なんでここでも振れてるんだよ!?」


 大鎌は狭い場所では不向き。

 そんな認識を完全に無視するように逃げ込んだ道の中で変わらず命を刈り取る攻めが続く。

 墓守にとってこの場所はホームグランド。

 そこで持ち武器が全力を振るえない…などありえない。


 「む…体が重く」

 「今だ!!!」

 「むぐ!!?」


 だが次の瞬間、墓守を襲うのは突然の脱力。

 突然鈍る自らの体の力。

 すると狙いすましたかのように、逃げから反転して剣を振るうエルフ。

 それは結界の弱体化とは異なる、均一化のデバフの影響。

 今まで以上に弱くされたその体に出来た隙をエルフの剣は突く。


 「…今の絶好機でこれかよ」

 「伊達に長生きしてはおらぬよ」

 「年齢とか関係ないだろうが」


 しかしその剣は墓守に届かず。

 いや、確かにその剣先は首に届こうとしていた。

 だが…同時に墓守の大鎌はエルフの首にも掛けられていた。

 実質的な相打ち、引き分けの手。

 一瞬の静止の後、墓守が後ろに飛び退いて距離を取り仕切り直し。


 「…相討ちにしなくてよかったのか?」

 「他の龍人であれば、龍に害成す存在は身を犠牲にしても仕留めていただろう。だが私の墓守としての役目は生き続ける事でなすべきもの。例えその選択を責められることがあろうとも生き続けるのも責務じゃて」

 「そうか。なら生きながら後悔するといいさ。今仕留めなかったことをずっとな」

 「む…この気配は…」


 すると墓守が感じ取った異変。 

 自らの護るこの墓場に、とてつもなく気持ちの悪い空気が流れ出す気配。


 「下手すれば援軍が来る前に終わってたな。危ない危ない」

 「これは…まさか死霊の!?」

 「ここは墓場。発動するにはうってつけの場所さ」

 「エルフの身でネクロマンサーとは、随分と堕ちたものよ」

 「残念ながらこれも借りモノだ。一回限りの使い捨てで預かった道具の力に過ぎないさ」


 すると早速その魔法に充てられた存在が二人の下にやって来る。

 肉は無く骨だけで動き回るアンデット。

 龍種たちの亡骸、幾分まだ供養される前の者たちが悲しき姿で現れた。

 墓守と対峙するよりも前に発動していた《死霊魔法》。

 その効果が墓場に広がるのに時間がかかり、危うく先に決着がつくところだったがギリギリ間に合い、不審者の援軍としてこの場に集ってしまった龍種の屍たち。


 「よっと。じゃあ後はコイツらの相手をしといてくれ。俺は探し物が優先なんでね。じゃなあ」


 そんな集まったアンデット達をひょいっと通り過ぎて堂々とその奥へと消えていったエルフ。

 死霊魔法の発動者である彼は標的の対象外。

 アンデット化した龍種たちが見据えるのはただ一人、墓守の龍人だけだった。


 「確かにこれは後悔ものじゃな。とはいえ今やるべきは解放。謝罪は後程必ず。今はどうか痛みに耐え眠りに付いてくださりませ…はああ!!!」


 そうして姿を消してエルフに代わり、アンデット達と戦い始めた墓守。

 その大鎌で文字通り刈り取るように、自らが悼むべき亡骸たちを狩ってゆく。

 当然その裏では、元凶のエルフが好き勝手に目的の代物を探すのであるが…



 「…どこにもないない。本当にここで合ってるのか?間違った情報だったとかは無いよな?」


 目的の卵は見つからず。

 そもそもの指示の信憑性を疑いだす。


 「…違うな、あの上司がそんな大事な事で的を外すはずがない。ならここにあった事は確かなはず。だとしたら既に消滅したか持ち出されたか…何にせよもっと面倒なことになって来たな。何一つ上手くいかない」


 持たされた奥の手を二つ使ってまでこの場所にやって来たというのに、結果得られるものがない現状。

 全く予定通りにいかないこの状況に呆れ始める。


 「やっぱ天運に見放されてるか。このままだと何の成果も――何か近づいてくるな」


 そんな中で感じ取るのは、自らを起点に広がるデバフの範囲内に新たに誰かが踏み込んで来た感触。

 数は三。

 流石に詳細までは把握できないが、まっすぐにこちらに近づいてくる。

 するとその直後、見えない誰かが放った魔法が、真正面からエルフにまっすぐに向かってきた。


 「チッ…はぁ!!この感じは、そうかアイツら――」

 「さっき振りね、てりゃあ!!」

 「く、精霊の…やっぱりお前らか!!」


 そんな見え見えの魔法は簡単に避けれる。

 だが避けた先に突っ込んで来たのは精霊。

 互いに二度目の邂逅、意外と早かった再戦の始まりとある。


 


 

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