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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
平穏な幕間/嵐の前の五日間
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25 五日前/迷い人の悩み

章が変わりました。

章としては短めになると思います。


 「やぁ、おはようナデシコ。今日も奇遇だね」

 「おはようございます。ラントス王子」


 ナデシコは毎朝、食堂で朝食をとっている。

 客人であるナデシコは自室に用意させることも出来るのだが、広すぎる個室での一人の食事と、あまりにも無駄に豪華すぎるその内容と量に慣れず、客人の扱いとしては異例であり余計な手間と気遣いを掛けさせている事を自覚しつつも、食堂で使用人たちと同じ食事を取る事を許可して貰った。

 使用人たちの食事と言っても、外で出される者とは比にならないようで、日本での食事と比べても悪くはない内容だ。

 そして毎朝、側仕えの〔レイシャ〕と共に食堂に向かおうとすると……ここで必ずラントス王子と遭遇する。

 毎朝(・・)である。

 そしてこの道はナデシコの部屋から食堂に向かう際に必ず通らなければならない道でもある。

 果たして「奇遇」とは何なのだろうか。


 「――ふむ。今日も有意義な朝であった。ではまた」


 幸いなのは、数分たわいもない会話をするだけで去ってくれる点だろうか。

 流石に失礼を働くわけにも行かないので笑顔で対応しているが、正直内心ではヒヤヒヤしている。

 王族貴族に粗相を働けば物理的に首が飛ぶと言う助言が効いている。

 好意そのものに不快な思いは無いのだが、好きでもなんでもない相手に失言失態も許されない緊張感のある会話は、朝から存分に気をすり減らす。


 「……行きましょうお嬢様。フィル様がお待ちです」


 レイシャに促され、再び食堂に向けて歩みだす。

 ここまでが毎朝恒例になっていた。


 「おはようナデシコさん。またいつものですか?」


 食堂ではフィルが既に待っている。

 ナデシコの食堂通いに合わせて、フィルも朝はここで取るようになった。

 この事もだいぶ気を遣わせてしまっていると自覚しつつも、こちらでの数少ない友人との会話は王子とのソレの反動もあり、とても安らぐ。

 フィルの向かいの席に座るナデシコ。


 「おはようフィル。うんまぁいつもの」

 「……王女様に相談しましょうか?」


 第二王子ラントスの妹である王女リトラーシャ。

 最近ナデシコは王女様のティータイムのお茶に誘われるようになり、プライベートな場においては「リトラ」と呼ぶことを許されたくらいには気に入られた。

 確かに相談すれば力になってくれると思うが……。


 「ううん、必要ないよ。確かに緊張するけど数分で引き上げてくれるからそれくらいならね。これ以上踏み込んでくる気はないみたいだし」

 「あまり無理はしないでくださいね。何かされたらちゃんと相談してくださいね?」


 特段、第二王子は女癖が悪いなどといった話はない。

 しかし何故か女性陣からの信用が薄い。

 見た目はイケメンで王族と来ればモテそうなものなのだが……。


 「うん分かってる。――それよりも食べよう。レイシャも一緒にね」

 「はい、失礼します」


 レイシャが持ってきてくれた朝食を受け取り、隣の席に座るように促すナデシコ。

 今でこそ素直に座ってくれるようになったが、最初は一緒の食事どころか隣に座る事だけでも拒否されていた。

 使用人としては仕方ない対応なのだろうが、ナデシコの説得もあり何とか受け入れてもらい、距離が縮まって来た。

 今は三人での朝食が定番となった。

 ちなみに「お嬢様」呼びに関してはナデシコが折れた。

 

 「そういえば、昨日も出たみたいですね。例の〔義賊〕」


 国の中枢たるこの城には、良くも悪くも多くの情報が舞い込んでくる。

 その中で聞かせても問題ないと思われる話は、こうしてナデシコの耳にも届く。

 義賊の話もその一つだ。

 悪党から金品を盗み、余所の町の孤児院に密かに寄付する義賊。

 

 「シューン、レイダン、バルトル…今日は何処ですか?」

 「ラーパスらしいです」


 義賊の目撃された町。

 毎日別の町で目撃されているのだが……。


 「やっぱりおかしくないですか?教えて貰った地図と一般的な移動手段じゃ、一日で移動できる距離ではないですよね?」


 これらの町は特段近くや隣り合っている訳でもない。

 真っ当な手段で在れば移動に数日掛かる場合もある。


 「特殊な移動手段を持っているか、それぞれ別人の組織的行動なのか……何にせよ全身鎧のせいもあって情報が少なすぎるんですよね」


 その義賊は、全身を不思議なデザインの鎧で覆っているという。

 何度か追手との戦いにもなっているそうなのだが、強固な鎧に不可思議な程の機動力。

 そして圧倒的な武力で振り払う。

 ただし命まで取ることはしない。

 きちんと手加減出来るだけの実力者。

 それが地力によるものなのか、はたまた鎧が特殊なのか。

 何にせよ神出鬼没の凄腕義賊として警戒され、話はどんどん広まりつつあるようだ。


 「――ああ!時間が…すいません用があるので先に失礼します!」


 フィルが食堂の時計を見て慌てだす。

 そして残っていた二口分のパンを口に押し込み、きちんと飲みこんでから席を立つ。


 「あ、ナデシコさん。今日のお勉強は基礎魔法についてですから、お部屋じゃなくて修練場でお願いします!」

 

 そのまま返事を待たずに食堂を出ていった。

 ナデシコはこの城に来た翌日から、この世界の基本知識・常識など色々な事を勉強している。

 元々の物覚えの良さからあっという間に内容は進み、基礎魔法関連にまで到達した。


 (魔法かぁ……お守りの爆発みたいな物騒なのは怖いけど、防御魔法?みたいなのはちゃんと覚えたいなぁ)


 魔法具越しとはいえ、ナデシコは何度か魔法を使っている。

 攻撃系の爆破魔法。

 ゴブリンが爆発する姿を思い出すと攻撃系の魔法という物には抵抗がある。

 しかし現状の守って貰う「だけ」というのも、表には出さないが内心肩身は狭い。

 だからこそ、少しだけでも自分自身の身を守れる術を増やしたいと思う。

 護身術がそれなりには有効であることは理解したが、流石に訓練を積んだ相手に通用するとは思えない。

 だからこそ、何か一つでも多く学べる機会があるのなら学んでおきたい。


 「……お嬢様、こちらもそろそろお時間が」

 「え、あ!そうだった!」


 ナデシコは食後に王女様に呼ばれている事を忘れていた。

 いつものティータイムと違い、午前中の呼び出し。

 話があるとのことだが……何にせよ既に時間が近い。

 ナデシコは残っていた最後の一口を飲みこむ。


 「…ごちそうさまでした!レイシャは――」

 「済んでおります」


 ナデシコが話をしている間に済ませていたようだ。

 いつでも命に従えるように食事は迅速にとの教えがあるらしく、いつもナデシコよりも早い。

 

 「それじゃあ行こう」


 二人は小走りで食堂を後にした。

 果たして話とは何なのだろうか?




 「――ナデシコはラントスの事をどう想ってるのかしら?」

 「その人の話は勘弁して貰えないでしょうか……」

 


本日は夜にもう一話更新する予定です。

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