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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
259/276

251 箱の残骸



 「――居ない…?一体どこに」


 スライムの群れを後ろに、港の洞窟へと戻って来たヤマトとアリア。

 精霊の力で氷の世界、土や岩の壁も陽を反射して輝く氷に覆われている。

 そんな空間にはスライムと、例のエルフが閉じ込められていたはず。

 その内のスライムは今は外。

 ではエルフの方はまだ中に…と考えていたが、どこにもその姿がなかった。


 「出口は…どこも開いてない」

 「ここって隠し通路とかあったりするかな?」

 「凍らせた時におおよそ全体を把握したけど、それっぽいのは無かったと思う」

 「なら一体どこに?」


 スライムが開通させた道以外に、物理的に出られる場所はない。

 ならまだここの何処かに…もしくは物理的に寄らない脱出手段を持っていたのか。


 「転移?いやでもここだと結界の阻害が…」


 《短距離転移》のような逃げ道。

 それらを彼が取得していればという可能性もある。

 だが龍界の結界は、その術も阻害する。

 変質した今もその効果は変わっていないように思う。


 「転移結晶に類する道具があれば…とも思いますが、それはあれでかなりの希少品です」


 転移、に絞れば道具に頼る手段もある。

 ヤマトもあと一つ所持する《転移結晶》。

 とてつもなく希少な代物だが、どこにも無い訳ではない代物。

 それを隠し持っていた可能性もある。

 だが…どれもこれも憶測。

 今わかるのは、この場に彼の姿はもう無いという事。


 「手段、行き先。もしかしたらあっち(・・・)が知ってるか?」

 「行ってみましょうか」


 そしてヤマトらは港の中の別の場所へと移動する。

 そこは彼ら(・・)が眠る部屋。


 「氷解くわね」


 この部屋の扉は他よりも入念に氷漬けにされていた。

 何せここには人が居る。

 

 「…ひとまず全員無事そうだな。例の船乗りたち」


 氷を解いて扉を開いて、入室したそこにはベットが並ぶ。

 治癒室、医務室として使われるこの部屋には例のスライムたちの船の乗組員が寝かされていた。

 保護して治療はしたものの、味方ではない為に脱出からは放置された。

 しかし生きた人間である以上は無碍には出来ずに守りだけは施した。

 あの騒ぎの中でしっかりとアリアはそんな調整を施していた。


 「ここを開けようとした痕跡はないわね。彼の眼中にはなかったようね」


 自分を運んだ船の乗組員。

 そんな味方を助けようとした痕跡は全くなかったこの部屋。

 

 「ぐ…はっ」

 「一人起きた?」

 「様子を見て、話が出来そうならいくつか確認してみましょう」


 その中の一人が目を覚ます。

 治療は施したと言っても詳細不明の相手に万全にとは行かない。

 あくまでも最低限の処置ゆえに、まだ体のダメージは抜け切れていない。

 当人にとっては苦しいだろうが、不審者への対応としては致し方ない処置。


 「ここは…」

 「こんにちは。私たちは貴方達の船を保護した者です。もしよければお話を聞かせて貰えませんか?」

 「話…君は人族…に、逃げ切れたのか?!お、俺たちを助けてくれぇえ!?」

 「ん?逃げる?助ける?」


 思考がハッキリしだしたそのおじさん。

 すると必死の形相で騒ぎ出す。


 

 ――そして語られた彼らの経緯。

 まず、そもそもの彼らの立場は"海賊"だった。

 海の無法者、船乗りを襲う犯罪者達。

 だがその海で漂流し…行き着いた先で魔王勢力(・・・・)に捕まった。

 捕虜の人族として奴隷同然にこき使われ続け…しかしやって来た解放のチャンス。


 『彼を目的地まで送ってあげてください。それが出来たなら…そのまま貴方たちは解放しましょう。帰ってこなくて大丈夫ですよ』


 与えられた船の仕事。

 目的地まで任された荷物を運びきればそれでおしまい。

 後はそのまま何処へでもと言われ、久方ぶりに船まで与えられた。

 元海賊の船員たちは大はしゃぎで船を海へと出し、自由になるその時を心待ちにしながら懐かしの海を進んだ。




 「…で、嵐にあってボロボロになって、こっちが保護したあの姿と」


 その先で困難を乗り越えボロボロになった彼らを保護したのが事の始まり。

 龍界に引き込んでしまった爆弾のような存在。


 「ひとまず…呪いみたいなものはなさそうだな」


 そんな彼らに『解放する』と『帰ってこなくて大丈夫』と告げた存在の言葉の裏を推測して一応魔法や《呪い》の類を確かめる。

 解放=死という最悪。

 ある種の定番をヤマトは心配したが、ティアと協力して確認してもそれらしい痕跡は何もなかった。


 「お前たちの運んだ荷物っていうのは樽とエルフか?」

 「そうだ。エルフ一人に謎の樽が複数、中身は開けるなと言われた。あとは食料や衣料品に…」


 聞けば素直に答えてくれる男。

 元海賊とは聞いたが、既にその牙は抜けきっているようだ。




 「――で、元海賊が言ってた荷物、その未発見分がこの箱と。よっと」


 そして彼らに話を聞いて、あの船にはまだ発見されていない積み荷がある事が判明した。

 船の中の隠し金庫のような場所に厳重に隠されたその木箱を、ヤマト達は引っ張り出す。


 「見つけたけど…なにこれ?」


 だがその木箱はかなり軽く、中身を確認しても大したものは入っていなかった。


 「これは…砕けた箱?」

 

 入ってた謎の残骸を、手に取り確かめると本来の輪郭が見えてくる。

 それは本来〔正方形の箱〕だったようだ。

 半透明、ガラスというよりはプラスチックに近い感触の謎素材で作られた小さめの箱。

 野球ボールを納めて飾るディスプレイのようなサイズ感。

 だがその箱は割れて砕けて破損していた。


 「これは…何かの魔法道具だったようですね。壊れていて内容は分かりませんが」

 「もう機能してない?」

 「はい、完全にただの残骸になっていますね」


 壊れた箱は何かしらの魔法道具。

 ただし壊れているので内容は不明。

 

 「…この外箱、箱一個収めるには大きいよな?」

 「ん?そうね。破片のサイズ感的には…あ、四つ詰めてあったとか?」

 「大体そんな感じの大きさだよな」


 その壊れた小箱に対して若干大きめの木箱。

 だがもし小箱と同じものが四つあったとして、それらを並べて収納したならちょうどピッタリのサイズ感。


 「ほかにも三つあったとか?」

 「かも、でも…持ち出された後か」 


 その推測が正しいのなら、ここにあったかもしれない四つの小箱の内三つが既に持ち出された可能性がある。

 

 「入れ物、探し物、やはり明確な目的があってこの場所にやって来たのか」


 襲撃者の目的。

 最初は漂流者と考えられ、実際海に弄ばれていたのは事実らしい彼ら。

 しかし元々この龍の領域にやって来るのは本来の予定通り。

 ただやはり彼の求める何かのヒントになるものはここにはない。


 「ひとまずこれは回収っと」


 なんにせよ重要な証拠品。

 ヤマトの次元収納に回収する。

 できればすぐに技術屋に渡したいところであるが、今の騒動の中でそれを優先できるかは怪しい。


 「ほかに何もなし、姿もなしと…なら外に出ましょうか」

 「そうだね」


 そしてボロボロ船の散策を終えたヤマト達。

 結局ヒントらしいヒントは何もなく、完全にエルフの姿は見失った。


 「彼らはどうする?」

 「…念のために、もう一回封をしてあそこに軟禁しておこう。まだ安心材料にはなってないし。一応食料品とかは置いておくけど今はまだ出歩けるようにはしたくない」

 「そうね、いろいろ片付いてからね」


 例の海賊たちはひとまず置いていく。

 優先すべきは騒動の終息。

 味方ならばともかく、まだ不審はぬぐえぬ人々に必要以上に構っていられない。


 「――皆さん、すみませんがもうしばらくここで大人しく…え?」

 「グルルルゥ」


 そんな元海賊たちの下へ一度戻ったヤマトら。

 事情を説明してここで大人しくして貰う。 

 その準備を始めようとしたが…そこには悲惨な光景が広がる。


 「ヤマト!」「…わかってる!!」

 

 すぐに意識を切り替えて、戦闘を開始する二人。

 標的は目の前の"人狼"。

 元海賊たちを無残な姿(・・・・)へと変貌させた犯人と思しき存在。


 「…倒しはしたけど…コイツって」

 「おそらく、元海賊の誰かでしょう」


 その戦闘力自体は大したものではなく二人はすぐに倒すことが出来た。

 しかし…この部屋はヤマト達以外に生存者は存在しない。

 すべて無残な死体となっている。

 そして…犠牲者の数が一人足らず、倒した人狼が元海賊のひとりが着用していたズボンをそのまま履いている。


 「人狼は人に化けるって言うけど、とはいえ鑑定には引っかからなかった」

 「変貌、変質、恐らく何かしらの邪道にて疑似的に人狼に替えられたのでしょう。本物の人狼なら眼で見分けられます。ゆえに私たちにも見抜けなかった何か手段があるのでしょう」

 

 呪いや仕込み魔法の類はチェック済み。

 女神の使い魔と、女神の分体ミニの眼を掻い潜って仕込まれた何か。


 「これも含めて、彼には問いたださないとならないか」

 

 このロクでもない光景についても、騒動の中心に居るあのエルフには問いただしたい。

 ゆえにより不審を抱えながら、行方不明のエルフ探しを再開する。


  


 

 

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