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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
258/276

250 デバフ結界と厄介スライム



 「――アリア」

 「港は変わらず、攻撃の気配も無し。ただいきなり空気が変わった」

 「影響は龍人や龍種だけ?」

 「みたいね」


 周囲の異変に警戒を示すヤマトとアリア。

 彼らの視界には地に膝をつく龍人たちの姿があった。

 凍った港を警戒して構えていた集団。

 その龍人ら全てが今この場にて異変の影響を受けていた。


 「大丈夫ですか?」

 「あ、あぁ…だが…体がおかしい」

 「重い…なんだこれは?」

 「力が入らない」


 龍人たちの異変、その影響。

 ヤマト達には心当たりのあるそれら。

 

 「みんな同じ感じね。多分デバフの類ね」


 龍人たちの様子を見てアリアが口にした可能性。

 例のデバフ、龍人たちへの弱体化。

 ただし敵の姿は見えず、何よりヤマト達には何の影響もない。


 「空、いえ結界です」


 すると今回は無事なティアが指摘するのは結界の存在。

 この龍界を覆う、龍や龍人たちの守護。


 「結界の性質が変わった?」

 「はい。龍たちを守る結界が、龍たちを害する…弱らせるものに変化しています」

 

 そんな龍界の結界が改ざんされた。

 守る力が害する力に、龍を弱らせる力に変化させられた。

 

 「龍界の結界には元々、龍系統種族への加護のような力もありました。しかし今はそれも無くなり、代わりにデバフの効果がばら撒かれています」


 ここに居るだけで結界の加護を受けていた龍や龍人。

 しかし今はその力を消され、代わりに弱体化を受ける始末。

 守りの結界が一種の呪いへと転化させられている。


 「しかし…エルフの彼との対峙で受けた均一化のデバフとは質が異なるようです」

 「あらそうなの?」

 「はい、むしろ一般的な弱体化のようです」


 これはあのエルフのデバフと同じ…ように思っていたがどうやら別種。

 根源が同じかどうかは別として、ひとまずこの結界デバフはどちらかと言えば普通の型。

 個人の元の実力によって弱体幅が変わり皆が同じほどの強さに揃えられるアレらとは異なり、受けた全員が決まった同一数値分の弱体を受けるため、個々の強さの上下関係自体は変わらない。

 デバフの質としては劣るものだが、当然これもデバフであることには変わらず龍人たちは確実に弱くなる。


 「でもその分、結界でばら撒かれてるから龍界全域に届いてない?」

 「そうですね。効果範囲は絶大ですね」


 下げ幅で考えればアレよりも低い劣化版。

 しかし結界という形に乗っている為にその範囲はほぼ龍界全域。

 つまり全ての龍や龍人に影響を及ぼす。

 当事者周辺のみへの影響力とは雲泥の差。


 「く…立て!皆立つんだ!我らは龍の血を継ぐ者!この程度の苦痛に屈するな!!」

 

 すると龍人の一人が声を張り上げ立ち上がる。

 それに呼応して他の龍人たちも重い体を無理矢理に起こす。


 「流石にしんどそうね」

 「人族よりもデバフの影響は大きそうだからね」


 元々人族と比べても明確に大きな体を持つ龍人たち。

 身長ニメートルは一般的でそれ以上もざらに居る。

 筋肉の質も人以上、その上で翼や角や尻尾を持つ。

 その分体重はかなり重くなるが、平常時ならそれを平然と支えて力に変える事も余裕で出来ていた。

 しかし…今はその重さが純粋な重荷となり、立ち上がるだけでも体に負担を掛ける。


 「ヤマト!港の氷が」

 「このタイミングで!」

 「このタイミングだからでしょうね」


 そうして崩された龍人たちの包囲。

 その立て直しを強いられる中で、港の方に予兆が現れる。

 例のスライムたちが氷を突破する予兆が。


 「アリア、前に行こう!」

 「分かったわ!」


 今すぐに戦闘と言われても、難しい状態の龍人たち。

 ならば無事なヤマトらが前に出る。

 


 「もう出てくる!」

 「なら先手で一発!《大岩弾》」」

 

 そしてヤマトはスライムに先手必勝として大岩を叩き込む。

 全部のスライムを潰せるものではないが、先陣を削ることは出来たはず。


 「て思ったけど…元気だな!?避けられた?いや手ごたえは…」

 「《大氷壁》!」


 しかし直撃したはずのスライムも仕留めることはできず。

 だが飛び出た先陣の勢いは鈍った為、今の内に出口周辺を氷の壁で囲みその場に柵を作る。

 そしてヤマトとアリアはその壁の上に乗ってスライムたちを見下ろす。 


 「《多重・雷弾》!」「《氷矢の雨》」


 そのまま見下ろすスライムの集団に今度は丁寧に魔法をぶつけていく。

 順次洞窟から出てくるスライムたちに、先手で攻撃を浴びせ続ける。


 「…これでも仕留めきれない?どれだけ頑丈なスライムなのよ!」


 だが魔法の直撃を受けても、怯みはしても倒せないスライムたち。

 あれがまともなスライムでないのは分かり切っていたのだが、それにしても頑丈過ぎる。


 「どんどん氷に、壁にくっつかれていく」

 「《氷剣山》!」


 次々と氷の壁にたどり着き、そのまま壁をかじりだすスライムたち。

 するとアリアは氷の壁から次々角のような棘を生やして、くっつくスライムたちを貫こうとする。

 だがこれも刺さらない。

 スライムを吹き飛ばす手にはなるが、その棘はスライムを貫通せずただの打撃攻撃にしかならない。

 

 「凍らない、潰れない、感電しない、貫けない。これ本当に生き物か?」

 「でも時間稼ぎは出来てる」

 「時間稼ぎしか出来てないとも言えるけど」


 何をしても足止めにしかならない現状。

 その間にも洞窟から次々とスライムが溢れてくる。

 

 「なんか多すぎないか?」

 「最初の個体数と合って無くない?」

 「増殖したのかもしれません。普通はここまでにはなりませんが」


 スライムには増殖の力がある。

 ただしこれは一つの群れの中の個体数が一定割合を下回った時に、群れの全滅を防ぐ為に増殖して数を取り戻す生態。

 しかもタダで増えるはずもなく、増殖したスライムはかなりのエネルギーを失う。


 「エネルギー…増殖…こいつら何かを食えば食うほどに増殖していくスライムじゃないよな?」

 「え?もしかして私の氷食べて増えたの?氷ってそんな栄養ないわよ!?」

 「魔法…魔力ですかね。魔法に残る魔力の残りカス(・・・・・・・)みたいなものを乗り込んでいるのかもしれません」

 「あのスライム、魔力が餌?」


 ティアの、あくまでも推測となる話。

 スライムがアリアの氷から微かな魔力を取り込んでエネルギーにして、それを消費して数を増やした。


 「氷は食べるのに船や自然の土を食べないのはそのせい?魔力を帯びているかが基準?というか…魔力が餌ってことは」

 「死骸だけでなく、生きた存在も、人間も龍人も平気で食べるかもしれません」


 魔法に残る魔力カスのような微々たる餌すら食べに来るスライムたち。

 ならば魔力を多く宿す生き物、人族、龍人、龍もあれらの餌になり得る。

 死骸よりも生者を主食とする危険な可能性。


 「ぐだぐだになってる龍人たちのところには行かせられないな。なんとかここで…アリア!壁固めといて!《獄炎弾(小)》!」

 「もう急に…え?」

 「…は?何が…」

 「魔法を…飲み込みましたね。あのスライム」

 

 ゆえに今ここを突破されるわけには行かない。 

 足止めは最低条件、出来るなら殲滅。

 その中でヤマトは小規模な《獄炎弾》を放つ。

 抑えたとはいえ、それは氷の壁も破壊しかねない威力ゆえにアリアは合わせて壁をより硬くしようとした。

 しかし…そこで起きた異変。

 放った魔法が飛び上がった一匹のスライムに丸飲み(・・・)された。

 ヤマトの獄炎は着弾前に、お腹の中に収められてしまった。


 「あ、でもそのスライムが破裂して…」


 だが飲み込んだスライムは、その魔法を消化しきれずに爆発四散する。

 ここに来てようやく一匹目の討伐。

 なのだが…放った魔法のコストと完全に見合っていない討伐数。


 「もしかして…死なないぐらいの魔法は無視して受けられて、ヤバイ魔法は一つが犠牲になって他を守る…感じになってるのかしら?」


 生半可な魔法では討伐出来ないスライム。

 だが殺せるほどの魔法は、少数が盾となり身代わりとなって他の個体を守る為に飲み干される。

 そもそも魔法を丸飲みという事自体があり得ないことなのだが。


 「やっと一匹、ざっと見まだ百は軽く居るし、まだちょくちょく港から出てくる。まずいな、魔法そのものが相性悪いかも」


 魔法の檻は食べられ糧に。

 通常魔法はちょっとした妨害程度の効果。

 高威力魔法は犠牲の盾のせいで出費からあからさまに劣る効果しか発揮できない。

 

 「魔法が有効ではないのなら、我らの力で相手しよう」

 「龍人の…もう立て直したのか」


 すると氷の壁の外に、集っていたのは再編成された龍人の集団。

 少しばかり数は減っているが、それでもやる気漲る人々。


 「我々を内側へ」

 「その人数が戦うには狭いわね。氷壁解いて新たに広めに作り直すわ。その隙にスライムが漏れ出ないように注意して」

 「分かった!」


 龍人たちの参戦に合わせて、今の氷の壁を張り直すアリア。

 より広いフィールドで龍人メインにスライムの相手をする戦場の再構築。


 「…それじゃあ、ここは任せるわ。だから私たちは中を(・・)

 「中…あぁ、あっちも探さないと」


 そうして氷のコロシアムが作られ、相性の悪いスライムの相手は龍人たちに任せる。

 とはいえ弱った彼らで、未知のスライムにどこまで通用するのかは完全に不明。

 だがヤマト達にはほかにも気にしなければならない存在が居る。


 「あのエルフを探さないと。あれも自由にさせると相当に厄介だもの!」




 


  


 

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