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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
253/276

245 動き出す来訪者




 ――船ごと氷に閉じ込めたスライムたち。

 それが動き出した事自体は想定の範囲内。

 問題なのはそのスライムが、氷の檻を食べ始めた事。

 

 「なんだ、あいつらが動いてるってことは、ここが目的地なんじゃないか。着いてたなら話は早い」


 そして、その合図に気づいたエルフのシラハが動き出した。

 

 「止まりなさ――」

 「悪いが、遅い」

 「え…きゃ!?」「ぐお!?」


 拘束されていたシラハが立ち上がる。

 いつの間にか解けていたその拘束。

 その異変に気付いた瞬間、即座に反応して短刀を抜いて構えるメルト。

 同時に隣で槍先をシラハに向けた龍人。

 そして彼らの後方で魔法を発動しようとしていたヤマト。

 だがメルトと龍人は、その武器を構えている間に拳による打撃を受けてその場に膝を付いてしまう。


 「ぐ…早い…それに重い…」

 

 たった一撃ずつ受けただけダウンする二人。

 それも反応できない速度での攻撃。

 シラハが以前の強さではない事は、目に見えるこの結果。

 相手は圧倒的な格上だと、メルトたちは認識する。


 (…いやおかしい。準備した魔法が弱すぎる(・・・・)?)


 しかしそんな二人の格付けの認識と、違う違和感を感じていたヤマト。

 後衛としてシラハとの距離があったヤマトは攻撃を喰らわずに済んでいた。

 そして、膝を付いた二人と違い、ヤマトだけは物理的でなく魔法による牽制を準備していた。

 物理と魔法の差。

 だからこそ気付いた自分の弱さ(・・・・・)

 いつも通りに発動したはずの魔法の低すぎる質。

 

 「相手が強いんじゃなくて…こっちが弱くなってる?」

 「お、流石魔法使い。武人よりも気付くのが早いな。よっと」


 ヤマトはその答えを口にし、シラハは目隠しを外しながら正解だと声を出す。


 「別に俺が強すぎるわけじゃない。いやまぁ、故郷を離れてから少しぐらいは強くはなってるけどな。それでもたかが知れてる成長程度だ。それでもあんたらが俺を強すぎると感じたのは、ただ単にお前らが弱くなってる(・・・・・・)だけだよ。こんな風に!」

 「ぐ!!?」

 「お、防いだか。でも…」

 「くぅ!?」


 直後、再び拳を振るうシラハ。

 その矛先はヤマトに向けて。

 そんな行動予測が出来たヤマトは先んじて守りの構えを見せた。

 おかげで一撃目は杖が盾になった。

 が…鈍い反応の体は二撃目には対応しきれずに、避け損ねた左肩に拳を喰らう。


 「《風弾》!」

 「うぉ!?一撃貰う覚悟で反撃優先、速度重視の風の弾。まぁ劣化してるから大した威力ではないが…いきなり当てられるか。つくづく自分の弱さが泣けてくるな。相手が弱くなってるのにこの有様か」


 代わりに魔法を一発当てたが、元々速度重視の風の魔法を、威力劣化状態で放った為に結局当たっただけの攻撃となった。


 (これも弱い。まさか無差別で自動的なデバフ(・・・)か?)


 だがその一撃で得た情報。

 敵の不可思議の正体。

 それは一種の弱体化、《デバフ》とも呼ばれる〔相手を弱くする魔法〕。

 メルトも龍人も普段通りに動いたつもりであったが、その実は弱くなった自分の動き、反応速度が普段よりも遅く、防御力も普段より低く柔らかい。

 その自覚が得られないまま動いても、相手の方が圧倒的に早く強いと誤解するのみ。


 「自分が弱く…だからか」


 そしてヤマトの言葉に、龍人も自身に起きた異変を認識する。

 相手が強いのではなく、自分が弱くなっている。


 「誤解してくれてた方が警戒の質が変わるから良かったんだけどな。正解引くのが早すぎる。全く」


 自分がいつも通りに動けている。

 ここを誤解したまま戦ってもデメリットしか存在しない。 

 敵にとってはつけ込みやすい隙。

 そこを一つ潰されて不満そうな表情を隠さないシラハ。


 「まぁだけど、今は俺の方が強いって事実は変わらないけどな。はぁ!」

 「く…せいや!!」

 「残念、それ!!」

 「く?!」


 とは言え、認識が正されても開いた力の差は戻らない。

 いつも通りに戦うシラハと、鈍い体を動かす龍人。

 二人の戦いは龍人側の劣勢。

 放つ槍は一度も相手に当たらず、カウンターで放たれる拳を弱くなった体で受け続ける。


 「《火炎弾》!!《風弾》!!」

 「おっと、威力はさっきよりあるが遅い。そんなのじゃ当たらな――ぶあ!?二つをぶつけた!?目が…あぶな!?」

 「チッ。やっぱり遅いですね」


 その龍人との戦いに割り込むヤマトの魔法。

 先ほどよりも速度は遅いが威力の高い火の魔法攻撃。

 これもデバフの影響を受けて弱くなった威力だが、当たれば痛いくらいの威力はある。

 だからこそシラハも避けようとした魔法だったが、後追いの小さな風の魔法が前を行く火炎弾に追いつきぶつかる。

 するとシラハの視界の中で破裂した火炎弾が光を放って目くらまし(・・・・・)となりその視界を塞ぎ…その小さな隙に短刀で斬りかかったメルトの暗殺者ムーブ。

 しかし本職では無い器用貧乏で、更にはデバフの影響もあって寸でのところで躱されてしまう。


 「これだから弱体化させても油断ならない。せめて剣があればどうとでもなるんだが…俺の剣は何処にある?」

 「さぁ何処でしょう?」

 「まぁ言わないよな。なら代わりにそれ借りておこう」

 「な――ぐふぁ!?」

 「メルトさん!?」


 そんな三人の即席連携が、シラハの警戒を引き上げた。

 素手で戦っていた彼は元々剣士。

 自らの武器である剣を求め、しかし場所が分からぬとなればメルトを躊躇なく殴り飛ばして彼女の持っていた短刀を奪った。


 「せいや!!」

 「遅い」

 「な…槍が…ぐふ!?」


 そしてその短刀で、突き出された龍人の槍の穂先切り落とし、そのまま龍人の体も斬った。


 「《暴風槍の雨(ストームランスレイン)》!!」


 だがそのやり取りが生み出した時間で、ヤマトは新たなる魔法を放つ。

 これもまた劣化版だが、今までの攻撃よりも十分な威力を確保した魔法攻撃。

 ここが閉所である事も、部屋の備品への被害もお構いなしの一撃。


 「ち、本当に妬ましい(・・・・)

 「え…がはぁッ…」


 しかしその魔法は着弾前に霧散(・・)した。

 同時に一瞬感じたのは強烈な倦怠感。

 体が動かなくなるヤマトに出来た大きな隙。

 そこに歩み寄るシラハは、手にした短刀をヤマトの胸に突き刺したのだった。

 

 

 

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