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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
252/276

244 手配犯との再会



 龍界に流れ着いた一隻の船。

 その乗員である男の一人が目を覚ました。

 だがその人物は、エルフにとって裏切り者となった同胞殺し。

 

 「――改めて、名乗ってください」 

 「エルフ族のシラハ。賢者の弟と名乗るべきか。そちらには」


 賢者シフルの実弟である【シラハ】。

 今、彼の体は複数の拘束によって縛られ、目も隠されて何も見えていない。


 「魔法に精霊魔法、魔法道具と入念な警戒だな。理解はするが流石に少し苦しい」


 しっかりと拘束られたシラハ。

 念入り過ぎるその用心は、ヤマトの魔法、アリアの精霊魔法、龍人から借り受けた目隠しの道具でガッチリとシラハの動きを封じていた。

 何せ相手は指名手配犯。

 ここに居る理由も分からぬ不穏な存在を、自由な状態には置いておけない。


 「我慢してください。少なくとも聴取が終わるまでは解くことはありません」

 「聴取…尋問の間違いじゃないか?」

 「素直に答えてくれるのならば、聴取だけで済みますよ」


 そんなシラハに、正面から対峙するのはメルト。

 始まるのは事情聴取。

 拘束を担うヤマトとアリア、そして船長に、目隠し後に入室した龍人。

 医務室から場所を移し、あちらはあちらで別の見張り役がまだ眠る船員たちを見張っている。


 「では単刀直入に。貴方は何故ここにやって来たのですか?」

 「何故ここに…そもそも俺はここが何処だか分かっていない。航海の途中に航路を外れて流れ着いた場所だ。ちなみにここは何処なんだ?」

 「答えられませんね。貴方の目的が分からない以上は」


 そうして始まった聴取。

 だがそもそもの前提として、シラハはここが何処だか分かっていない。

 船で目的地に向かう途中に、嵐に巻き込まれて路を外れた。

 そのまま現在位置も見失って漂流し…食料も尽き欠けてギリギリの状況で、気づけばここのベットの上だったと語る。


 「貴方は何処へ向かう予定だったのですか?」


 ゆえに話を変えて、彼らの本来の目的地を問う。


 「悪いが、目的地は黙秘する。ただ目的は話せる。届け物と探し物だ」

 「届け物…あの樽ですか?」

 「あぁそうだ。まぁもう見てるだろう。アレをとある場所に運ぶのと同時に、そこにあるかもしれない探し物を探してこいって言う、一種のクエストを請け負ってる。まぁ冒険者モドキのような仕事だな。だからこそ守秘義務は大事だ」


 目的地は不明、探し物も語らない。

 唯一届け物の正体だけを口にして、その他の情報は自ら守秘義務だと口にして拒むシラハ。

 冒険者モドキと語るように、これを一種のクエストと称するならば、確かに守秘義務は大事な守り事。

 ある意味で律儀で真面目な答え。

 ただしこの尋問じみた事情聴取の場では悪印象を与えるのは理解しているはずだ。


 「探し物とはなんですか?」

 「黙秘する、が…早々手に入るモノじゃないし、そもそも向かう先に本当にあるかも分からない。あくまでも探し物は次いでだな。依頼人の主題は届け物の方だ」

 「その依頼人は誰ですか?」

 「あの商人(・・・・)。これだけでそっちには心当たりがあるだろう?」


 そしてその依頼を出した者を、シラハは商人と語る。

 ヤマト達にも浮かぶその姿は、エルフの里で動いていたその男。

 良からぬ目論見を持っていたエルフ達と取引をして支援して、目の前のシラハと共に里から出て行った謎の人物。

 それ以外にも、いくつかの事件にその影を見せる不審者。


 「その商人は何者ですか?」

 「それは俺も知らない。関係性だってただの利害関係の一致だけ。別に俺はあの商人の部下ってわけでもない。俺の望みを叶えてくれる代わりに向こうの仕事の手伝いをするって話なだけ。互いに深い話なんてしない。アイツが何を目指す何者かなんてのもどうでもいい話だ」


 シラハがその商人からの仕事の依頼を引き受けたのは望みの対価。

 彼が望んだのが里からの脱出なのか、はたまた別の何かなのは知らない。

 しかしシラハのその望みを商人は叶え、ゆえにシラハその対価に今回のお使いクエストを引き受ける。

 そして船に乗ってお使いに出た結果…遭難・漂流して辿り着いたこの場所。

 

 「……」


 そんな商人、予期せぬところで話題に上がった存在にメルトは表情を険しくする。

 エルフの里で散々な目にあった彼女。

 その原因となるのが例の商人。

 実際のやり取りについては記憶が朧気らしいのだが、メルトは商人によって自失にされて、味方に牙を剥くことになった。

 今の弓使いとしての不調も、もとを正せばその商人が根源。

 思うところがあるのは当然。 


 「(ところで…ハッキリと嘘が混じってるけど、ヤマト気付いてる?)」

 「(嘘なのか、認識のズレなのか、その辺は分からないけど聞いてた話と違う点はあったね)」


 そんな聴取を見守る拘束役のヤマトとアリア。

 だが二人には事前情報との食い違いが見えていた。


 「(里でピピが遭遇した時は『新しい上司』とハッキリ言っていたらしいけど)」

 

 里での騒動の際に、謎の商人と共に並ぶシラハに直接遭遇した勇者パーティーのピピ。

 彼女が言葉を交わした際に、シラハは商人を『新しい上司』と口にしていた。

 それは明確な上下関係の認識。

 だが今は部下ではないと口にする。

 時間が経って状況が変わったのか、もしくは適当な話をされているのか。


 「(それに商人は魔人って推測だ。その魔人のお使いクエスト。ただのお届け物や探し物では済まないかも)」


 しかも、そもそもヤマト達の間では謎の商人は"魔人"もしくはそれに類する存在だと推測されている。

 その商人、魔人のクエストとなれば怪しいことこの上ない。


 「(…いやそうなると、マズイな)メルトさん!」

 「――なるほど、行ってください」

 

 そして、商人の話が浮かんだことでヤマトには一つの懸念が生まれた。

 慌ててヤマトはメルトに耳打ちして、聴取の為の部屋を急ぎアリアと共に出て行く。

 向かった先は港の、ボロボロの船の傍。


 「この船、中にはもう誰も居ませんか!?スライムの樽はまだ中!?」

 「え?あぁ、調査も終わってるから全員引き上げて、樽も中に積んだままだ。一樽も降ろしてない」

 「アリア!今すぐ船を隔離する!」

 「りょーかい!てりゃ!」


 すると目の前の船をヤマトとアリアは水で丸々覆い包み込み…そのまま氷に固めて封印した。

 

 「ヤマトさん、これは一体…」

 「凍った船を見張らせてください。アリアもこっちお願い」

 「任せて」


 そして凍らせた船の見張りを船員とアリアに任せて、ヤマトは今一度聴取室に戻る。


 「――戻りました」

 「お帰りなさい。どうですか?」

 「ひとまずは何も…彼に質問させてもらってもいいですか?」

 「どうぞ」


 戻ってすぐに、聴取中のメルトに変わって今度はヤマトが問いかける。

 聞きたい事はひとまず一つ。


 「シラハ、あの樽の中のスライムは、本当にただのスライム(・・・・・・・)なんですか?」


 鑑定眼にはただのスライムの表記しか視えなかった。

 だが…スライムと謎の商人、エルフの里のキーワードで結びつく面倒な出来事がヤマトの脳裏には浮かぶ。

 例の〔人型スライム〕。

 ヤマト達と戦った、ニックを名乗る人外。

 あれもスライムと言えばスライム。

 シラハが、商人が関わったスライムがただのスライムだと鵜呑みに出来るほど軽い経験はしていない。


 「さぁどうだろう?アレの詳細は聞いていない。だがあの商人が運べという荷物が、それも中身がスライムなら疑うのは当然の事だろう」


 シラハも詳細は知らないというあのスライム達。

 だがこれまでの情報から、疑うのは当然だとヤマトの行動を肯定する。


 「(ヤマト!)」


 だだその直後、アリアからの簡潔な異常宣言。

 氷に封じたあの船に何かの異変が起きたお知らせ。


 「(スライムが動き出した!まだ氷で封じれてはいるけど…その氷を食べてる(・・・・)みたい!!)」


   

 

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